01 終わりと始まり
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大学四年生の俺、内原冥治はスカした人間とのことらしい。
これはあくまで数少ない限られた旧友の話ではあるが、目尻の下がった覇気のない眼力と滅多に自分から話をしない気高さが俺という人物像を確立しているとのことらしい。
だが、当の本人から言わせてもらえば全くその気はない。
覇気のない眼力はそもそも生まれつきのものだし、滅多に自分から話をしないのなんてただ話のネタが思いつかないだけだ。
話のネタさえあれば自分から進んで話をするのに、どうしてこんなイメージが定着してしまったのだろうか。
そのせいでこの一六年間の学校生活、人並以下と言っても差し支えなかった。
そして大学三年生から始まった就職活動も無事に終わり、残すは卒業論文を提出して発表すれば一六年にも渡る学校生活がついに終わりを告げる。
貴重な学校生活を棒に振って、俺は一体何をしていたのだろうか?
「まあ、今更後悔しても遅いんだが」
ボソッと呟いた独り言が鮮明に聞こえてくる。
家には誰もいない。
ただ一人、俺だけを残して……。
「さて、バイトに行くか」
アルバイト先である地元の漫画喫茶までの距離は、自転車を使えば大体三十分程度だ。
最初は運動がてらには適した距離にあるアルバイト先だと思っていたが、一年も経つと精神的に面倒くさくなってくる。
だが、シフトに穴を空けるわけにもいかないので、面倒でも自転車を漕がなければならない。
「俺の青春、まさしく灰色だな」
靴紐を結びながらボソッと呟いた、まさにその時だった。
『——————君の人生、まだ死んでないよ』
突然、頭の中に若い女性の声が流れ込んできた。
自分の耳からではない、耳以外から取り入れた情報だとはっきり分かる。
つまり、鼓膜を通じて脳に情報を伝達する人間の構成上、空耳以外考えられない。
「てか、灰色の青春を送ってる時点で人生「負け組」。どう考えても、俺の人生死んでるだろ」
誰かも分からない架空の声に無表情のまま応じる。
空耳が聞こえてきたってことは、そろそろ精神的に参ってきているのかもしれない。
社会人になったら、人生「勝ち組」になれるように精一杯頑張ろう。
そんなことを考えながら靴紐を結び終えると、またしてもあの声が聞こえてきた。
『大丈夫、今すぐ君を助けてあげるから……。大丈夫、私が君を救ってみせるから……』
「何をワケの分からないことを。こんな幻聴が聞こえるなんて末期だな」
それから重い腰をゆっくりと上げ、次に目に映ったのは玄関先の扉——————ではなく、なぜか不自然な方向からこちらを覗き込んでいる少女の姿だった。
あまりの唐突な状況の変化に、思わず目を見張る。
それだけじゃない、目の前にいる少女があまりにも人間離れした容姿をしているのも原因の一つだ。
透き通る銀色の長髪に青い花飾りを付けており、虚ろな銀色の瞳からはどうしても目が離せない。
「随分と、変わった生き物ね。目が死んでるわ」
少女は俺のことをまじまじと見つめながら小馬鹿にするようなことを口にするが、それほど彼女の発言は気にならなかった。
それよりも彼女が上から覗き込んでいるこの状況……。それに仄かに匂う甘い香りは一体……。
その答えに辿り着くまで、そう長い時間は掛からなかった。
「……君はどこの誰?」
ゆっくりと起き上がる俺に対して、彼女は淡々と言葉を紡ぐ。
「目醒めたのね、おはよう」
「おはよう……って、そうじゃなくてだな、どうして俺は見知らぬ女の子に膝枕されてたんだ?」
「さっそく、私と遊んでくれるかしら?」
「ちょっとは俺の話に耳を傾けてくれると助かるんだが」
「聞いてるわ、膝枕したお礼に私と遊んでくれるのよね?」
「聞いてないだろ。大体、人ん家の玄関で一体何を……」
そう言いかけて、自然と言葉を失った。
目の前にいる銀髪美少女の服装——————煌めく純白のドレスに青色の不思議な光彩を放つ腰丈ぐらいのベルスリーブボレロ。
どこからどう見ても、俺の住んでいた世界の住人とは思えなかった。
固唾を呑み込み、俺は辺りをゆっくりと見渡し始める。
彼女の背後に佇む大木、それを取り囲うようにして伸びる木々、大空を飛び交う見慣れない鳥たち、そして蒼々と茂る野草。
現実離れしているのは、どうやら彼女だけではないようだ。
「変わった生き物ね」
俺の挙動を見兼ねた彼女が、ボソッと一言だけ呟いた。
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