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第30話 矢川の行方


 仕事終わりに模型店に行くのが日課になった今日この頃。


 個人ではとても数日で消化できないほど購入している為、店長代理は俺の事をどう思っているのか。もしかしたら、今はやりの転売屋と勘違いしているのではないだろうか。

 そんな心配をしながら今日も目的の模型店へと足を運び入れた。

 相変わらず店の名前は経年劣化のためか読みづらくなってしまっており、この時間帯というのもあり子供たちの活気もないため寂れているように見える。

 きっと休日は多くの子供たちでにぎわっているのだろう。などと、想像しつつ目的の棚まで移動をした。



「あら? いらっしゃい……」


「どうも」



 一目見て俺を常連の客だと認識したであろう店長代理は、今日はなんだかいつもの妖艶な雰囲気は消えて疲れ切った顔をしていた。

 どうしたのだろうか。


 気にはなったが、あまりジロジロと女性の顔を見るわけにもいかないので、俺は棚に置かれているプラモデルを確認する。

 仕入れはしっかりとされているようだ。



「さて……。グイム砲撃型、グイムシールド発生装置装備仕様、グイム狙撃型ヨーロッパ戦線仕様。これは買いだな。

 量産型グイムがまた入荷されているな。飛行用バックパックやゾッウリーと一緒に買い足しておこう」


 俺は大小合計7箱のプラモデルを持ってレジへと向かう。


「すみません。会計お願いします」


 そうレジに居る店長代理に声を掛けた。


「え、えぇ」


 俺の姿にハッとしたような仕草をした店長代理は慌ててレジで会計処理をし始めた。

 おかしい。なんだか雰囲気が今までの店長代理らしくないぞ。


「あのぉ。差し出がましいかもしれませんが、何か困ったことでも?」


 俺がそう言うと、申し訳なさそうにほほ笑んだ店長代理が、


「ふふっ、気付かれてしまったようね。私もまだまだだわ……。

 今日の昼間にちょっとね。お客さんとトラブルが起きちゃって」


 と、恥ずかしそうに言った店長代理。

 それこそ今までの店長代理らしくない出来事だ。

 彼女は仕事を完璧にこなすイメージだ。今までだって俺の要望を言わなくても感じ取り、必要な量を提供してくれている人なのだ。

 そんな彼女が失敗? おいおい、そんな事が有り得るのか?


「トラブルとはまた珍しい。勝手なイメージだが、この店はトラブルとは無縁な店だと思っていたよ」


 だから俺は通い出して間もないというのにそんな言葉が口から出てしまった。


「あら? 愚痴を聞いてくれるのかしら?」


 少しずつ元の調子を取り戻した店長代理が、そんな事を冗談交じりっぽく言ってきた。


「聞かせてもらえるものなら聞いてみたいものだ。店長代理殿の失敗談なんてこの先聞くことが無いかもしれないし」


 俺はそう返すと、


「言ってくれるじゃない」


 と、笑う店長代理。

 この時点で店長代理はようやくいつもの調子に戻ってきたようであった。


「ホント、ここだけの話にしてね」


 そう前置きを入れた後、店長代理は語りだした。


「今日の午後2時頃だったかしら……。以前来店したことがあるお客さんがここに来たの。

 そのお客さんは特徴があったから、よく覚えていたわ――――」




-------------------------------------------------


―店長代理視点―



「あら? いらっしゃい」


 昼食後、一人の男が店に来た。

 とてもこの店の雰囲気には合いそうもない客であったが、商品を見たり購入するのであれば、どんな人物が来店しようとも構わない。

 それに、その客は以前にも見たことがあったので強盗などではないと安心して対応する事が出来た。



「な、なぁ。聞きたいことがあるんだ」



「何かしら?」



 その客は震える声で店長代理に質問をしてきた。

 店長代理はその男の目をしっかりと見据えた。

 大抵の客であればどのような商品を購入しようとしているのか目を見てわかる。

 そして、その客は店長代理が得意としているジャンルの商品を以前購入していった者だ。男性客は落ち着かない様子だったため、目を見て彼が求めている物を当てようかと考えたのだが、


「(見えない? この人、買い物をしに来ていない)」


 店長代理は焦る。

 以前は丁寧な物腰で商品を購入していった客だったので、強盗などを全く疑わなかったのだ。

 恐怖を感じた店長代理が身構えようとすると、


「俺がこの前買っていったゾームが勝手に動き出したんだが……。この店で売られているゾームはみんなこうなのか?」


「え?」


 店長代理は男性客が何を言っているのか理解するまでしばらくかかった。


「あの……えっと、あなたが買って行ったのって、ゾームの火星連合総統仕様……だったかしら?」


 何日か前の事を必死に思い出し、男性客が何を買っていたかを言い当てる店長代理。


「あぁ、そうだ。そのゾームだ」


 店長代理の記憶は正しかったようで、男性客はそうだと肯定する。

 しかし、店長代理はゾームのプラモデルを売った覚えはあるが、電動で動くタイプの商品を売った記憶は無い。


「もしかして、棚を間違えてしまったのかしら……」


 確かに電池を入れてリモコンで動かすタイプのガゾギアの玩具も店に置いてある。

 しかし、棚は別であったためお客がプラモデルと間違えて購入してしまったのであれば店側の過失も僅かにあると考えた店長代理は、男性客が購入したのは電動タイプだったのだろうと考え始めた。

 だが、


「いいや違う。そうじゃない。

 俺は確かにプラモデルを買ったんだ。ランナーから外して組み立てた。

 だけど、電池を入れるようなボックスなんかなかったし、勝手に動くような仕組みでもない」


「??」


 男性客の説明がいまいち理解できない店長代理。


「えぇと、それじゃぁなにかしら? 動くはずがないプラモデルが動いたと?」


 ありえないことであるが、男性客が言っているのはつまりそういう事だ。


「そう言っているんだ。ここの店のプラモデルは、完成すれば動いたり話し出したりするのかと聞いているんだよ!」


 どんどんと語気を荒げるその男性客に対し、店長代理は冷めた目になり、


「そんなわけないでしょう」


 と答えた。

 当然である。プラモデルが勝手に動くなどという事は有り得ない。

 駆動系や電池ボックスを組み込むタイプのプラモデルは確かに存在している。いかし、彼購入したと言っているプラモデルはそんなものではなかったし、店長代理も彼に販売した記憶もない。

 では、残りの可能性はどのようなものが考えられるのか。それは『頭が残念な人』か『詐欺に近いクレーマー』位だ。


「そんな事あったから来ているんだ! いや、確かにこの店で買ったやつ以外も動いた。だけど、きっかけはこの店でかった総統仕様が動き出したからだ。何かの因果関係があると考えてもおかしくないだろう!?」


 おかしいのはあなたの頭だ。と言うのを何とかこらえながら店長代理は、


「当店でご購入の商品以外も動き出したというならば、メーカー側に問い合わせてみるというのも可能だけど?」


 と、提案してみる。当然こんなことを本当にメーカー側に確認などしたくはない。

 しかし、男性客は、


「ガゾプラのメーカーに? ハッ、頭がおかしい奴だと思われるだけだぞ」


 などと、今店長代理にどういう風に思われているのか判断できないのかそんな風に鼻で笑った。


「くそっ、今もゾーム達に俺の家は占拠されているから、帰れないんだぞ!?

 おかげでこっちはネカフェ生活だ」


「そう言われてもねぇ……」


 どうすることもできない。

 この茶番に付き合うのも嫌になってきたため、救急車を呼ぶか警察を呼ぼうか迷っていると、


「くそっ。もういい! ここに長居したら棚にあるガゾプラが動き出しそうだ!」


 まだ組み立てられていないガゾプラが百以上棚にある。

 そのことに気付いた男性客は恐怖で怯えた目をガゾプラに向けた後、足早に店を去っていった。



「なんだったの……?」



 静寂を取り戻した店の中で残された店長代理は、そんな言葉をポツリと零したのであった。

 唯一の救いは他の客が居なかったことだろう。居れば営業妨害になりかねないからだ。



-------------------------------------------------


―聖人視点―


「(矢川かぁぁぁあ。あいつ何やってんだよ!)」


 俺は店長代理の話を聞き終え、真っ先に該当人物の顔と名前を思い浮かべることができた。


「まったく。この店であれ程精神的に疲れたことはこの件が初めてだったわ」


 と、店長代理はため息を吐きながら語った。


「それは……災難でしたね」


 そう慰めの言葉を口に出したはいいが、この件に限って言えば、この店に襲来した矢川も災難だった人物の一人である。

 とはいえ、この店に文句を言いに来るのもちょっと違う気がする。だからと言って訴えられても「ざまぁみろ」とも思えるほど俺は彼に恨みは……あまりない。


「プラモデルが勝手に動き出すなんて、ファンタジー思考もいいとこだわ。

 お客さんもそう思うわよねぇ?」


「え? あ、はい」


 店長代理が鋭い視線で俺を真っすぐ見据えながら質問をしてきた。その眼光に俺は若干タジタジとなり、慌てて返答をした。


「……私の勘違いだったら申し訳ないけど、お客さん……プラモデルが動く件で何かご存じじゃないかしら?」


「えっ」


 人はこうも態度だけで隠し事がバレてしまうのだろうか?

 俺が分かりやすいだけか、それとも店長代理が鋭い目を持っているのだろうか?


「ふふっ」


 店長代理は笑ったような声を出しているが、目は笑っていない。


「そう怖がらなくてもいいわ。もし、知っている情報があって話せる時が来れば話してほしいだけだから」


「……」


 彼女も彼女なりに何か気になることでもあったのだろうか。

 もし、俺の態度だけで俺がガゾギアのプラモデルが動いていることを知っているという事がバレたのであれば、矢川が話していた内容も彼の態度を見て真実だと感じ取ったのかもしれない。

 ならば、同じくそのことを知っていそうな俺に聞こうとするのはあながち間違いではないのだろうが……。


「あの……」


「なにかしら?」


「このお店って何時までやっていますか?」


「それはどういう意味?」


「一度外に出て、この店に来た男を探してみます。その後、買ったものを取りに戻りますので」


「あぁ、そういう事」


 期待した内容じゃなかったのだろう。少しがっかりした様子を店長代理は見せた。


「彼と一度話し合ってきます。その後、もし決心が固まればいつか今回の件を話したいかと」


「そう。気長に待っておくわ。お店は夜7時までやっているけど、お客さんなら特別にいつでも来てもらって構わないから」


 そう言った店長代理は、くすくすと笑っており、雰囲気も以前のような状態に戻っていた。


「じゃぁ、行ってきます」


「えぇ、気を付けて」


 店を飛び出した俺が向かった先。

 それは店長代理が矢川と話していた内容で出てきた『ネカフェ』つまりネットカフェであった。









 場所の特定はそこまで難しいことではなかった。

 俺が住むアパートから逃げ出し、再びあの店に訪れるだけの距離のネットカフェを探せばよいのだ。

 ここは俺の地元よりも大きい街ではあるが、田舎町であることは変わりはない。そんな場所にネットカフェが密集することも無かったため、スマフォで検索を掛ければ一発であった。

 検索すれば近場のネカフェは1軒。

 今はその1軒のネカフェに入っている。



「とはいっても……」



 基本、ネカフェに入っている人間というのはトイレやシャワーなどの用事が無ければ出てくることは無い。

 いくら模型店がいつでも来てくれて構わないと言っていたとしても、さすがに限度はあるだろう。

 長期戦を覚悟しながら、俺は遅くなりそうだったら模型店に連絡を入れられるようにスマホで店の連絡先を調べようとした。


「(そういえば、あの店の名前ちゃんと見てなかったな)」


 自分で常連になりつつあると自負していたが、店の名前すら知らなかったことに恥ずかしくなる。


「(さて……ん?)」


 視界に映ったのは赤色の頭髪。


「あっ」


「あっ」


 特徴的なドクロのTシャツ。金色のネックレスを身に着けた赤い髪の男。

 向こうもこちらに気付いたらしく声を出す。

 見つけたい人物をこうもあっさり見つけ出すとは、どうやら今日の俺は運が良いらしい。


「ひゃわわわわわわ」


 そして、何の用事かわからないが、目の前を歩いていた男――矢川は顔面蒼白となって俺を指差し声を震わしていた。


「ひっひぃぃ」


 逃げ出しそうな雰囲気。

 俺は急いで矢川の腕を掴んだ。


「ちょっ!?」


 矢川は抵抗しようとして振り返り、文句を言おうとしたのだろう。

 だが、俺は逃がすつもりは無い。


「落ち着け。少し話そう」


「はぁ!? 話すことなんて何も――――」


「矢川君、このままじゃあの模型店の営業妨害で訴えられるかもしれないぞ」


「えっ!」


 これは当然嘘である。

 そもそもあの程度のクレーム1回で逮捕されるならば、俺の勤めている会社に来るクレーム電話の先のお客様は何度も逮捕されているのだろう。


「場所を変えよう。ここじゃ話づらいだろ?」


「あ。あぁ……」


 周囲には数人こちらを見ていた。

 矢川も弱気になっている所で逮捕されるかもしれないなど言われたものだからガタガタと震えて俺の意見に従うそぶりを見せる。


「すぐそこのファミレスに行こう」


「わかった……」


 こうして俺達はネカフェを出て近くにあったファミレスへと入る。

 なるべく人がいない場所を選んで入ったが、時間帯が夕食時であったため、店の奥の暗い場所へと自然と選ぶことになる。




「さて、どこから話したものか……」


「……」


 俺達は席に着くと、とりあえずコーヒーを2つ注文して話を始めた。


「俺が訴えられるって事だろ?」


 矢川はそれを気にしているらしく、俺の方をちらちらと見ながら落ち着きなさそうに髪を弄っていた。


「それは……俺の方でごまかしておいた。だが、そっちから話を聞いて対処の方法を変える」


「それってどういう……」


「この先、あのプラモデルたちが動いたことを他人に言わないことを約束してもらいたい」


 俺がその条件を出すと、矢川はハッとして、


「やっぱりあれは夢じゃなかったのか。ゾームどころかあんたの家のグイムも」


「夢じゃないさ。プラモデルだけじゃない。あのアパートがある土地は、それなりの意志を持って接した人形ならば何でも動き出す場所なんだと思う」


 それから俺は最初にお菊とカリーヌが襲ってきた日から今日までにあったことを伝えた。

 当然、萌恵さんが謎の宗教団体に誘拐された話もして、祖母が違う組織だとは思うが過去襲撃を受けたことも伝える。



「以上が俺があのアパートに引っ越してきてから体験したことだ」


「そんな……信じられねぇ……と、言いたいところだが俺もゾーム達が動くところを見ちまったからなぁ」


 信じたくないけど信じられるだけの存在を見てしまった矢川は、どう判断していいか悩んでいるようだった。


「まぁ、動くプラモの事は実際矢川君も見ているだろうからそこは信じられるだろう。だから忠告だ。

 さっき話した通り今警察に相談するのは危険だ。

 俺の家で暮らしている同居人の女性の話では警官ですらあの土地を狙う連中の味方らしいからな。それに、下手に話を広めて目立つのもやめてほしい」


 そう俺が言うと、


「そりゃそうだ。こんな話、周囲にできねぇよ。バイト先にだって話してないんだ」


 と、矢川は言った。


「すでに模型店に苦情を言ったようだが……?」


 俺が冷静にそうツッコむと、


「いや、それは一時の気の迷いと言うか……なぁ、城野さん、だったよな? 俺はどうしたらいいんだ」


 と、縋るように聞いてきた。

 その様子は以前金属ヤスリをレロレロしていた挑発的な態度をとる男性と同一人物とはとても思えない変わりっぷりだった。


「最初に言った通りこっちでごまかしておく。だが、周囲にこの事を触れ込めば、痛い目を見る可能性の方が高くなるんだ」


「言うつもりねぇ、そんな気はねぇよ……。ただでさえ俺は一人なんだ。

 俺はもう何も失いたくなんかねぇんだ……」


「……どういうことだ?」


 そこからは矢川の身の上話を聞くことになる。

 彼も大変だったようで、彼女に大切にしていたガゾプラを大量に捨てられてしまい、彼女を追い出したそうだ。しかし、それを知った両親は怒り狂い、矢川の彼女――いや、元カノへ謝罪をしなくては勘当するとまで言い渡されたそうだ。

 矢川は大切にしていたコレクションを捨てられた悲しみは非常に大きく、元カノと復縁するつもりもなかったので両親との縁を切ったとのことだった。


 だから引っ越しの挨拶の時あんな事を言っていたのか……。

 ちょっぴり矢川の気持ちも理解できるが、初対面の人間にあれだけ言うのであれば相当な恨みを募らせていたのだろうと想像できる。


「悲しみは理解できるが、それに対して周りに当たるのはどうだろうか」


「それは……反省しています」


 俺が指摘すると、矢川は本気で反省しているらしく項垂れていた。


「まぁ、あのアパートも危険かもしれないからネカフェに避難することは悪いことじゃないと思う。

 だが、本格的にあのアパートから逃げたければ引っ越しをした方がいいんじゃないか?」


 次にそう俺が言うと、


「引っ越したばかりで金が……」


 と、力なく言う矢川。


「それは俺も同じだ。なら、ネカフェ生活を続けるか、危険かもしれないがあのアパートに戻るか。だ」


「ゾーム達がいるよな? あいつらとどう接すればいいんだ?」


 矢川はガゾプラ達との生活に不安を感じているようだ。


「ん? ゾームか……。

 これは俺の想像でしかないが、製作者や持ち主の意志を感じ取って奴等は動いているんじゃないかと思っている。 誰かを守ろうとする意志で作ったのであれば、きっとゾーム達は矢川君の力になるんじゃないか?

 少なくとも、俺の家に居るグイムや他の人形達は俺を助けてくれようとしているぞ」


 そんなアドバイスになるかわからない助言を伝える。

 しかし矢川の顔色は優れない。

 しばらく黙って聞いていた矢川であったが、


「俺、総統を作っている最中俺を馬鹿にした連中の事を恨みながら作ってた……」


 などと爆弾発言をしてきた。

 おいおい。大丈夫かそれ。


「マジか。なら、連中が暴走するのを止められるのも矢川君だけなのかもしれないな。

 あいつら、一応君を慕っていたようだったから」


「俺を? あいつらが?」


「さっき話した通りゾーム達は矢川君の事を創造主だとか言ってたよ。

 ちなみにグイム達は俺の事を議長だとか言っているがな」


 わが家のグイム達にとって一番の存在が議長というものなのだろう。

 少し恥ずかしいが、彼らにとって俺はそんな重要な人物らしい。


「話は分かった……。だけど、まだ帰る決心がつかない」


 と、下を向いて言う矢川。

 俺としてもその気持ちがわからんでもない。俺だってお菊やカリーヌと敵対していた頃、家に帰るのが嫌でたまらなかった。


「気持ちはわかる。ただ、ゾーム達が矢川君を捜索したいなどで家から飛び出さないとも限らない。

 何かゾーム達に言っておくことは無いか?」


「……大人しくしていてくれたらそれ以外は別にいい」


「わかった。伝えておく」


 俺はそう言って伝票を抜き取り、レジで会計を済ませて外へと出た。

 後ろから追ってきた矢川が「すみません」と、一言頭を下げていたので、手を振って別れたのであった。









「すみません。遅くなりました!」


 模型店に着いたのは夜の7時15分であり、閉店時間を15分オーバーしてしまっていた。


「ふふふ、いいのよ。それよりどうだった?」


「えぇ、彼とは話し合いをしましたので、もう変なことを言ってくることは無いでしょう」


「そう。悪いわねお客さんにこんな後始末させてしまって」


 そう礼を店長代理は言ってくるのだが、俺は首を振って、


「いいんですよ」


 と伝える。

 すると店長代理は、


「これ、サービス。次来た時に使って」


 一枚の紙を渡してきた。


「10%割引券……。いや、悪いですよ」


「いいのよ。手間を掛けちゃったお礼。受け取ってくれた方が私としても気持ち的にありがたいわ」


 グイっと俺の手を握りながら押し付けてくるので、少しだけドキッとしながら、


「わ、わかりました……。ではありがたくいただきます」


 こうして俺は10%割引券を入手し、預けたプラモデルを受け取って店を出たのであった。



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