第15話 偵察と脅迫
―梅岸家偵察部隊視点―
夜の12時。
多くの人々が眠りにつくこの時間、地方の田舎町の上空にて配達用ドローンほどの物体がいくつも飛んでいた。
しかし、現代のドローンのような独特な音はせず、ほぼ無音でそれらは飛行している。
「こちら空中偵察隊アルファ1。上空より梅岸邸を確認した」
「了解、こちら司令部。降下部隊のA小隊、B小隊は準備を開始せよ」
「「了解」」
謎のドローン――――3機の輸送機からは、2機ずつグイムが出撃する。
本来この『地球同盟軍ガゾギア輸送機』は3機のガゾギア――つまり、グイムが搭載可能だ。しかし、パイロットフィギュアが搭載されていないからなのか、そもそも人型以外は自分の意志で動くことができないからなのか1機のグイムが輸送機を操作しなくては飛びもしなかった。
そもそもグイム自体、ビームが撃てる、装甲がプラスチックとは違う何かになっている、謎の燃料を燃やしてスラスターを発動させているといった不思議な仕組みで動いているのだ。
もっとも、今更航空機模型が動いていることに聖人は疑問を持たなかった。
銃ならば実弾やビームが放たれ、ミサイルも起動し、ナイフであれば鋭くなっている。これらの不思議満載なグイムという人型の人形と関わっているであれば、非人型の輸送機であっても何かしらの動きはあることは想像できるものだったのだ。
お菊やカリーヌのように"呪いの人形のようなもの"というカテゴリーと同じ存在にに当てはめてもいい物か分からない謎の存在になりつつあるグイム達ではあったが、今の彼らにその疑問に向き合う時間は存在しない。
「A小隊降下完了」
「B小隊同じく降下完了」
萌恵によって衛星カメラを交えて教えられた家の敷地には、グイムが6体降下した。
A小隊、
・グイム偵察型×1:コードネームA1
・グイム隠密型×1:コードネームA2
・グイム特務部隊仕様×1:コードネームA3
B小隊
・グイム強襲隠密型×1:コードネームB1
・グイム隠密型×1:コードネームB2
・グイム対人制圧仕様×1:コードネームB3
という編成だ。
A小隊の偵察型のグイムが梅岸家の中へと潜入するため、家の周囲を探る。
遠目で見ればまるで小人が人間の家の周囲をウロチョロしている可愛らしい光景のようではあるが、彼らは皆人を殺せるほどの重武装をしている為可愛らしいとはかけ離れている。
「こちらB1からA1へ。浴室の窓から侵入可能」
「こちらA1。直ちにそちらに向かう」
人では侵入できない小窓から入り込むグイム達。
彼らは素早く住民たちに気付かれることもなく、屋敷の中へと侵入していく。
幸い、ペットを飼っていなかった梅岸家ではイレギュラーな存在もなく、住民である萌恵の両親の近くまで行くことに成功した。
二人とも1階のリビングにいるらしく、テレビを見ていた。
「こちらA1。対象を発見」
「こちらリーダー。彼らの監視を続けよ」
「了解」
上空にて飛行を続けるグイム達から指示を受けた偵察部隊は、萌恵の両親を観察する。
すると、意外と早く彼らは気になる会話を始めた。
「それにしても昨日の電話は何だったんだ? 俺達に娘がいるとかいう」
「えぇ、本当に変な電話よね。特殊詐欺にしてももう少し下調べをしてから電話をしてほしいわ」
「ははっ、まだ引っかかる歳でもないしな。それに連中も調べることなんかしていないだろ? ああいうのは適当にかけた電話にたまたま出たやつを相手にするんだ」
「そういうものかしら?」
「中にはちゃんと調べる連中もいるだろうが、ほとんどが行き当たりばったりってもんだろ」
と、まるで本当に自分に娘がいないかのように会話をする二人。
「こちらB2。萌恵殿の部屋を発見、侵入してみたところ萌恵殿がこの家の娘であることは確実なようです」
「こちらリーダー。把握した。本部にこの情報を送れ」
念のためにと家の中を探っていたB小隊は萌恵の部屋を発見し、そこで萌恵が写った写真のアルバムなどを発見する。
これにより萌恵は確かにこの家の住民となり、おかしいのは今の会話をしていた萌恵の両親ということになる。
ピリリリリリ!
「ん?」
すると、萌恵の家の固定電話が鳴り始めた。
父親はそれに反応し、ソファーから立ち上がって電話の方へと向かう。
「はい、もしもし」
この時、グイム偵察型は電話の音声を拾うことはできなかった。
電話線に細工が間に合わなかったのだ。
「え? なんですって……はい、はい。わかりました」
電話の相手に丁寧に対応した後、無表情になった萌恵の父は自分の妻に顔を向ける。
「どうしたの?」
と、萌恵の母が尋ねると、
「あの方々から連絡だ。我々は名誉ある交渉相手に選ばれた。迎えに来る方々の車に乗り、彼らの指示に従う」
萌恵の父は抑揚の無い声でそう言うと、
「わかりました」
と、萌恵の母も無表情になりながら答えた。
「こちらA1。梅岸家にて不穏な動きあり! 敵と思われる者が人質目的で梅岸家の2人を誘拐しようとしている模様!」
緊迫した様子でグイム偵察型は上空のグイム強襲隠密型隊長機へと伝えた。
「くっ。やはり萌恵殿を誘拐した連中はご両親を狙ってきたか。だがタイミング的にも丁度良かった。我々が到着する前であったら一大事だったぞ」
「隊長、司令部への報告は?」
「もちろん行え。だが、現場の細かな判断はこちらで行わなくてはならない。
拠点防衛の許可をもらえるか確認してくれ」
「了解」
こうして彼らは一番恐れていた事態を目の当たりにすることになる。
戦闘だ。
それも対人。
いつ萌恵を誘拐した連中が来るかはわからないが、増援は期待できないので彼らのみでこの事態を対処しなくてはならない。
「だが、それだけの準備はある」
対人相手にどれほど通用するかはわからなない。相手の規模も不明だが、全く無力ではないグイム達は、輸送機から飛行用ユニットを装備したグイム達を待機させ、戦いに備える。
「隊長。司令部より戦闘の許可を得ました。細かな作戦も此方で判断して良いとの事です」
「よし。司令部には感謝すると伝えておいてくれ」
「12時の方向より、車両1台接近!」
「来たか」
すると、怪しい車が一台萌恵の実家を目指し、向かってきたことを確認した。
これがただの家の前を通過するだけの車であれば問題はないのだが、この時間帯は萌恵の実家の前の道路は車の通りも少なくなるため、どうしても警戒をしてしまう。
「例の車が萌恵殿のご両親を連れて行こうとするのであれば、何としても阻止する。
その際、萌恵殿のご両親は催眠術のようなもので操られている可能性が高いため、保護対象からの激しい抵抗も予想される。みんな気を引き締めて対応してくれ」
到着早々に実戦となるかもしれないということをこの領域にいる味方全員に伝え、グイム達は警戒した様子で向かってくるワンボックスカーを見ていた。
すると、向かってきた車は萌恵の実家の前へと停車し、中から2人の男が下りた。
「警戒レベルを5に上げろ! いつでも戦闘ができるようにするのだ」
萌恵の実家の敷地へ男二人が入っていく。これはもう確定だ。
一方そのころ、萌恵の実家についた二人組の男は、家の玄関前に立つとインターフォンのチャイムを鳴らす。
彼らはまさにグイム達が睨んだ通り、萌恵の両親を連れ去る目的で来た者たちであった。
萌恵が逃げたことはすぐに判明し、懸命に捜索をしたのだが見つかることはなかった。
ちなみに本来であれば聖人が住んでいる元の住居も捜索範囲内ではあるとは思うが、事前に萌恵が住んでいたアパートは既に別の住人が住んでいるという情報を得ていた為あのアパートへの捜索が行われなかった。
萌恵を探しても見つけられない彼等であったが、無策ではない。事前にこういう事があった時の為、萌恵の周辺を誘拐した際調べ上げ、彼女の両親を特定し洗脳をしていた。
だが、彼等もまさか逃げられるとは思っていなかったようで、洗脳の仕方も甘かった。
本来であれば萌恵を誘い込み実家に逃げ込ませたところでこっそりと彼等に連絡を取らせて確保するという手段が取れたであろうに、あろうことか萌恵という娘を拒否するような洗脳をしてしまっていたのだ。こういう過ちから分かるように、どこか彼等のわきの甘さが見て取れる。
「はい。どちら様でしょうか」
インターフォンのスピーカーからは、萌恵の父の声が聞こえてきた。
「我らのご当主様からの命令だ。我々と共に来い」
そう男の一人が伝えると、
「わかりました」
と、萌恵の父が答えたのだが、
「うわっ!? なんだこいつら!」
「きゃーー、あ、あなたぁあ」
そんな悲鳴が家の中から聞こえてきた。
「え? なんだ??」
「大丈夫ですか!?」
これには誘拐に来た男たちも思わず心配してしまい、扉を開けようとするがカギがかかって開かない。
「やめろ! このっ、なんなんだ!?」
今度はスピーカーからではなく、家の中から悲鳴が聞こえてきた。
「くそっ、裏から回るぞ!」
何が起きたかわからず焦った男たちは窓ガラスを破壊し家の中に侵入することを思いつき裏手へと回る。
だが、
バシュゥゥウウウウン。
一筋の赤い閃光が男の一人の腕を掠めた。
「えっ、なに――――あっっづぅぅうううい!?」
突然何かが通り過ぎたかと思えば、腕を焼かれたような痛みを感じ、痛覚で顔をゆがませる。
「なんだ!? 何が――――はっ!?」
腕を負傷した男を心配した仲間が、彼の方へと振り向くと、巨大な何かが上空から降りてきたのを見てしまう。
「えっ、UFO? いや、ドローン!?」
科学的な何か。それも航空機であるとは思われるが、ドローンのようにプロペラを回しているようには見えない。
まるでVTOL機のように、ジェットエンジンの推力を下方向へと吹き付けているのかと思うが、そんな爆音もしない。不気味なほど静かに浮遊していた。
「なにがっ……ひっ!」
今度は逃げ場を探して侵入しようとしていた前方の家の窓ガラスへと振り向くと、そこには空中浮遊するグイム特務部隊仕様や地球同盟軍ガゾギア輸送機が銃口を向け浮かんでいた。
ちなみに『地球同盟軍ガゾギア輸送機』という機体。かなりでかい。設定上もそうなのだが、1/144にしてもグイムが3機も入ることから、大きさもそれに伴い大きくなる。プラモデルメーカーもなんで発売しようと思ったのかと思うほど狂った模型だ。
奥行30cm、幅40cm、縦25cmの簡単には手を出せないキットを5つも保有していた模型店も相当なものであるが、躊躇わずに購入した城野も相当な人物として印象に残ったに違いない。
ファンの中には輸送部隊を再現しました! と、20機もの地球同盟軍ガゾギア輸送機と、小型輸送機30機を作りSNSに載せる猛者も存在するが、そういった人たちは一体家のどこにしまっているの? というレベルで不思議がられている。
「動くな!」
すると、男たちから見れば謎の飛行物体から声を掛けられた。
これだけでも彼らは戦々恐々といった状態であり、ブルブルと震え始める。
「貴様ら、ここの家の住人を連れ去ろうとしていた連中だな?」
そして今度はそんな声が聞こえてきた。
流暢に日本語を話すことから、謎の飛行物体群は異星人が放った端末という線は薄くなるが、だとしても何者かという疑問は残る。
「い、いやぁ。なんのことかわからないなぁ。俺達は……道に迷って……。そう、道に迷ったんだよ! それで近くに家が見当たらないから、この家の人に道を聞こうかと思って」
無事だった男は何も答えないという選択を取るのは危険だと感じ、とっさに作った言い訳を述べる。
確かに萌恵の家の周辺は田舎町の外れであり田んぼや畑の密集地帯だ。
300mほどに隣の家がある状態で、この騒動も近所には伝わらないだろう。
ビュバンッ!
ドッ!
すると、今度は別の何かが人型のロボットのような飛行物体から発射された。
発射された何かは地面に当たり、地面を掘り返す。
「今のは警告だ。もう一度嘘をつけば確実に当てる。
レールガンという兵器はご存じかな? 先ほどそこの汗を流している男に向けたビーム兵器とは別種であるが、それなりに貴様らにも通用するだろう」
「れ、レールガン!? ビーム兵器ぃ!?」
突然突き付けられた未来兵器の単語に驚く誘拐をしようとしていた男達。
なぜこんなにも小さい人かロボットかわからない存在が実用化しているか。などということはどうでもいい。どうしてそんなとんでもない兵器を持った連中がこの家の周りにいたのかの方が問題である。
「先ほど玄関先で一緒に来いと家の住民に命令をしていたではないか。
そのような稚拙な嘘でごまかせると思うなよ」
「くっ」
嘘が通じない。これが分かっただけでも下手に逆らわない方がいいと判断した男達は、どの程度大人しく従えばいいのかと考え始まる。
そして考えた結果。
「交渉をしたい……」
と、誘拐をしようとしていた男達の無事であった方の一人が言った。
「お、おい。そんな勝手なこと!」
負傷した男の方が咎めるように言うのであったが、
「そのケガの状態はどの程度なんだ? そんなものを何回も食らいたいのか」
と提案をした男が言うと、咎めた男はぐっとそれ以上何も言わずに堪えた。
「ほう? 提案か……。その提案とは?」
すると、意外にも謎の兵器達は男の提案を聞こうとしていた。
「我々はお前たちが言う通り、確かにここに住む夫妻を連れ去ろうとしていた。
だが、これは正義のためなのだ! 決して身代金を要求しようとしていたり、傷つけようとしていたわけでは――――」
「それはお前たちだけの正義だろう? 実際にお前たちに誘拐されたこの家の娘は、毎日苦痛を与えられていたそうではないか」
「そこまで知って……」
男の話を遮り、グイム達が語った内容によりやはり自分たちの襲撃を察知し、この家を守ろうとしていたのは自分たちが誘拐をした萌恵であることが判明する。そして男達は悔しそうに顔をゆがめた。
「た、確かにその通りだ。だが、あの地域に住む人間は邪悪な存在に憑り付かれている!
一般人にはわからないかもしれないが、これは本当の事なんだ!
だからアレは必要なことだったんだ!」
そう侵入者の男は必死に自分たちがいかに正当化を伝えようとしてくる。
そこで隊長は、城野家から通信で送られてくる質問をしてみようと考えた。
「ちなみに聞くが、心霊現象がある土地は全て調べているのか?
誘拐した娘の家や職場などだ」
そう聞くと、
「我々も必死で各地で除霊をしまくり、なんとか原因となる土地を特定しようとローラー作戦を展開している!
だけど、除霊をしつつ調べるとなると地域が大きすぎて我々だけでは手が足りないんだ。
あの娘はどうやら近所の公園に蔓延っていた悪霊共に魅入られていたようだから、すぐに対処したが、あの娘は今も既にこの世に居ない悪霊を追っている。危険だ。あのままにしておけるわけがないだろう!」
どうやら萌恵の嘘を信じているらしい。。
だから調査対象として聖人が住むアパートが後回しにされていたのだろう。
「(普通家を真っ先に調べるだろう……)」
と、隊長が呆れる。
「萌恵殿に憑りつこうとしていた悪霊は既にいないのだろう? ならもう、そっとしておいてもいいのではないか」
そう隊長が説得するように言うと、
「あぁ、本当はそうだろうさ。だが、他にもあの程度の悪霊があの地域にどれほどいると思う!?
また憑りつかれたら再び除霊の作業をしなくてはならない。それに、記憶操作など細かな作業もしなくてはいけない。
我々が万単位の構成員が居るならば毎日同じ人物の除霊をしても問題ないだろうが、生憎我々はそんなに余裕がある人数は居ない!
だったら、除霊後に再び悪霊に憑りつかれないよう術を施す。これが最良のアフターケアだろう!」
やはり萌恵の言う通り彼等の規模や財政はか細いのかもしれない。
「だから、少しでも早く除霊作業がスムーズに行われるように、連絡をしてこない親族に対し不審に思われないようにする目的。逃げ出した対象者対策として親族へ協力を――――」
侵入者たちそう続けるが、
「黙れ! 仮に憑りつかれていたとしても、貴様らが今やろうとしていることはなんなんだ? 若い女性の両親を誘拐し、娘に戻って来いと要求しようとする。
これが正義だとは笑わせてくれる」
この交渉をしていたグイム強襲隠密型隊長機は彼らの独善的に語る内容に怒りを覚え、つい口調を荒げてしまう。
「で、要求はなんだ?」
だが、当初の話し合いについたという事を忘れずに、男達が提案してきた交渉内容に耳を傾けようとしていた。
「う……ぐ。こうなれば仕方がないか……。
我々は無事にこの場から立ち去れるようにしてもらう要求をしたい」
「ほう? 都合がいいな。この状況で無傷で見逃せと?」
あまりにも身勝手な言いように呆れを見せる隊長機。
「いや、今後この夫婦は見逃す。仲間たちにも手を出させないよう説得する。だから俺達の事……俺達が所属している所についても情報も勘弁してくれ」
本当に都合がいいと隊長は考えた。
自分たちが組織立って行動しているとこちらから何も言わなくても白状してくれたのだが、それ以上情報は渡したくないという。
「ふむ……足りんな。夫婦は洗脳状態にあると我々は分析している。洗脳状態を解くことも条件に追加してもらおうか?」
隊長は男が言った条件では足りないとさらなる要求をするのだが、
「それは……すぐには難しい」
と、男は拒否をする。しかし、機嫌を損ねてしまえばまずいことになると判断した男は、咄嗟に、
「理由はあるんだ! すぐに洗脳を解くことは可能だが、今まで起きたことを違和感を覚えて接触をした我々の事も不振に感じる。通報されてしまえばいろいろと問題だ。
それはそちらも同じことではないのか?」
「むぅ」
男が思いついたのはグイム達もとんでもない存在であるため、存在を秘匿したのではないかと考えたからだ。
世に出回っていない謎の小型兵器達。そんなものたちが犯罪を未然に防ごうとしようとていたとしても、そんなものがあるという事実だけで世の中を騒がせる原因にもなる。
すでにグイム達も萌恵の両親の前に姿を晒してしまっているため、自分たちの事を騒がれてしまうと面倒だと隊長は判断した。
「なるほど? では、時間を掛ければ問題ないのだな?」
「それには俺ではなく、ちゃんとした術者が必要だ。残念ながら今はここにいないし、呼ぶにしても時間がかかる」
「そうか……。時間を掛ければ表に止めた車を不審に思う連中がいるかもしれない。騒ぎが大きくなるかもしれないという事か」
「あぁ、そう思ってくれていい。ここで争うのも不毛だとは思わんか?」
交渉が成功する可能性が高くなり、男達は少しだけ安心をし始めた。
「……わかった。いいだろう。だが、こちらにもまだ条件はある。
ご夫婦の洗脳は難しいかもしれないが、指示を出すことは可能だろう?」
「……あぁ」
何を要求するつもりだと訝しげに返事をする男。
「なぁに。簡単なお願いだ。
ご夫婦に我々の存在を受け入れろと伝えろ。
我々が家の中で何をしようとしていても妨害はせず、平穏に暮らすように伝えるのだ」
「えっ……」
今度は男の方がこいつらはとんでもない悪い奴ではないかと怪しむ。
だた、すぐにグイム達が継続して夫婦を守ろうとしているとわかり、今後約束を破って夫婦を狙うのも難しいかと思い始める。
「できるか?」
「……そのぐらいなら」
こうしてグイム達と萌恵の両親を誘拐しようとしていた男達との間で交渉が成立した。
萌恵の実家の玄関を開けられた際に飛び込んできたのは、ぐったりと意識がもうろうとしていた萌恵の両親であった。
これは、作戦発動時、後発隊としてこの家に乗り込んだ対人制圧用グイムの睡眠ガスを少しだけ吸った影響である。
男達は家の中に居た多くのグイム達に恐怖を覚えつつも、術を掛け隊長機に言われた通りの追加命令を出す。
「心拍変更なし」
「脳内スキャン完了。異常なし」
「暴走の傾向なし」
「……」
グイム達が萌恵の両親の脳をスキャンし、状態を調べるのを見て男達は冷や汗をかいていた。
もっとも彼らはグイム達の意に反するような指示をこっそり掛けていたわけではない。ただ、もしグイム達にわからないように術を掛けていたとして脳内スキャンなどよくわからない技術で調べられてしまうとバレる可能性があったため、やらなくてよかったと安堵していたのだ。
「それじゃぁ俺達は帰るが……」
「あぁ、今はもう用はない。ただ、術を本格的に解除する件については後日しっかり協議したい」
「それは……そうだな。だが、連絡方法は?」
「こちらの家に電話をかけてくればいい。我々も電話の内容を聞いているから、余計なことを考えない方がいいぞ。もしこのまま逃げようとしても無駄だ。すでに貴様らの携帯電話から個人情報を抜き取っている。
『国島 涼雅』。そして、『束原 公介』。
連絡が無ければ我々から連絡しよう」
「わかっているさ。そのぐらい……」
名前もバレてしまったため、このまま逃げることは難しいと判断した彼らは大人しく変えることにするのであった。
-------------------------------------------------
次話は2日後を予定しております。
よろしければ、ブックマークと評価をお願い致します。<(_ _)>