第14話 取引
もはや毎日通っている模型店は、10時丁度に開店をした。
女性店員……もはやこの人しか店の中で見ていないので店長かもしれないが、その人は外で開店のための作業をしており、俺の顔を見て意外な人物が来たな。という顔をしていた。
「あら、おはよう。
今日は朝から早いわねぇ。お仕事は?」
「おはよう。今日は休みだ。有給だよ」
「なるほどねぇ」
そんな会話をすると、開店準備が終わったからか俺の後に店の中に入ってくる店員。
「さて、今日はどんなものをお求めかしら?」
ニヤリと笑みを浮かべてそんな質問をしてくる店員さんは、今日も俺がグイムを買うと思っているのだろう。まったくもってその通りなんだがな。
「あぁ、この店にあればまとめて購入したいものがある」
「へぇ」
一瞬目を丸くした店員は、今度は挑発するような表情へと変わり、
「言ってくれるわねぇ。一応ここには一通りお客さんが望みそうな品は仕入れてあるわよ。ネットやイベント限定品はさすがに無いけれど、これでも品揃えは充実していると思ってもらっていいわ。
それに、ここ最近はお客さんの為にグイムを沢山仕入れておいたのよ」
「ほぉ」
今度は俺の方が目を丸くする。しかしそれは感心してだ。商売魂が逞しい。
「なら期待しようか」
「くくっ。なんならお客さんが言った品、レジまで持ってきてあげるわよ。
まとめて購入ってことは、それなりに多く必要なんでしょ?」
わかっているじゃないか。この店員。
何も話していないというのに今日来た趣旨まで理解した上、レジまで持ってきてくれるとはサービス精神満載過ぎて思わず常連になってしまいたいという欲に駆られてしまうではないか。
「では、ご注文をお伺いしましょうか? お・きゃ・く・さ・ま」
その余裕たっぷりの挑発的な態度は、まるでこの店にはお前が望むものをすべて取り扱っている。在庫が無いなどありえない。と、言っているかのようだった。
だが、その余裕はいつまで保てるだろうか?
俺はグイム達から指定されたグイムのプラモデルの一覧が書かれたメモを取り出す。
「まずは……。
グイム偵察型×1
グイム飛行偵察型×1
グイム強襲隠密型隊長機×1
グイム強襲隠密型×2
グイム隠密型×3
グイム特務部隊仕様×5
グイム補給型×2
グイム作業整備型×5
グイム通信強化型×2
地球同盟軍ガゾギア背部飛行ユニット×10
地球同盟軍ガゾギア輸送機×5
」
「ちょ、ちょっと待って。お客さん、本当にそれだけの数を買おうとしているの!?」
予想通り取り乱した店員が聞いてきた。
もちろん俺の答えは、
「そのつもりだよ」
である。
「はは……。お兄さんは一体どこと戦争をするつもり?」
「――っ!」
なかなかと鋭いこの店員は、俺が何をしようとしているのか気付いたのか?
「うふふ。冗談はさておき……」
なんだ、やっぱり冗談か。
そうだよな。普通プラモを買いに来ておきながら戦争を想定している客なんかいるわけがない。
「コンセプトは拠点攻略かしら? それに……編成から見て潜入をメインとしているようだし、拠点破壊を目的としていないようね。
もしかして人質奪還とかを考えている?」
「鋭いな。その通りだ」
ただ、店員さんの常識範囲内での想像は鋭く、俺が何を考え指定した商品を購入しようとしているのか理解しているようだ。
「ふふっ。何年この業界に関わってきていると思っているの? お客さんが求めている商品を見れば何をしたいのか位把握できるものなの。父の店を引き継いでから、それなりに目も鍛えられているのよ」
「父の店? まさか店長さんだったのか……」
ただの店員にしては迫力があるかと思っていたら、やはり店長クラスの人物だったか。
「いえ、引き継ぎは言い過ぎたわ。正確にはカッコ仮がつくけどねぇ。今は父が入院しているから、代理でやっているだけなの」
「代理にしては利き目があるかと……。少なくとも取引は信頼できそうだ」
「あらぁ。うれしいことを言ってくれるわねぇ」
クスクスとまんざらでもなさそうに笑う店長代理。
「それよりも、俺がさっき言った品は揃いそうか?」
話を元に戻し、俺がそう尋ねると、
「待ってて。その程度ならばうちで十分揃えられるわよ」
そう言うと、店長代理はガゾギアコーナーへと消えていった。
しばらくすると、ガラガラと台車に乗せた大量のグイムのプラモデルが運ばれてきた。
箱の総数は37個。
まさかここで全てそろうとは思わなかった俺は、どうやって持って帰ろうかと考え始める。
「どう? ちゃんとあるでしょ」
「確かに。間違いないようだ」
俺は書かれたメモと比較をしながら台車に乗せられた商品を見比べ大丈夫だと断定した。
恐れ入った。間違いや欠品などは無い。
「ふふっ。それはよかった。
じゃぁ、ものは相談なんだけど、これもどうかしら?」
「ん?」
出されたのは一体のグイムだった。
ただ、普通の量産型グイムではなく『対人制圧用グイム』と商品名が書かれている。
「拠点には人間がいるわけだから、人質奪還を想定しているならこういった細かい仕様の機体がいた方がいいんじゃない?」
「いいねぇ」
俺はパッケージに書かれた武器の説明を見て納得した。
やはりこの人は鋭いな。
「GR-11Fショットガン。催涙ガス弾と睡眠ガス弾が発射できる優れもの。
各種生体反応センサーも強化され隠密性も高いようね。
腕部には他の機体と互換性を持つ装備SFR-191フラッシュバンを装備。
後ろのコンテナには兵員を最大20名まで乗せることが可能。
登場作品はガゾギアの外伝『システムインテグレーション』よ」
「ふむ。俺がガゾギアの履修から離れていた期間の作品か? だが気に入った。1ついただこう」
「ふふ。毎度あり」
こうして俺は大量のグイムや支援パーツ、そして制作用の道具を手に入れタクシーを呼んで、途中コンビニで食料を買って家まで帰った。
「大量に買ってきたわね……」
家に帰り出迎えたカリーヌはそんな感想を口にしてきた。
「これでも足りるか不安なんだよ。というか、そもそもこんな作戦うまくいくのか提案した俺ですらわからん」
もしかしたら無駄な買い物になるかもしれないという恐怖はあるのだ。
「でも、作戦は近いうちに決行しなきゃいけないんでしょ? 全部作れるの?」
そうカリーヌが質問をしてきたので、
「萌恵さんの両親の安否を早く確認しなきゃいけないから、買ってきたすべてのグイムを作ってからというわけにもいかないかもしれないな……。そこのところはどうなんだ? 総司令官」
「長距離飛行可能なグイム飛行偵察型があれば状況確認だけはできるかと。
しかし、急がねばお話に聞く宗教団体の行動に後手に回る可能性が高くなります」
「だよなぁ」
グイム総司令官仕様から、俺と同じ考えを披露される。
できれば昼間でも偵察機が完成すればビュンビュン飛ばしていきたいのだが、人目に付けば面倒なのでそれはしない。
「とにかくせっかく今日は休んだんだから、可能な限り作るだけだ」
これはできるできないの話ではなくやらなきゃいけないことなのだ。
「こんなに沢山……」
萌恵さんも驚いているようだ。
そして、興味津々な様子で真新しいグイムの箱を見ている。
「確かに一人じゃ厳しい。だから一応考えはある」
俺はそう言うと、大量のグイムの箱の中から、『グイム作業整備型』を取り出した。
「これは工兵や整備兵が使うグイムですな。なるほどこいつで……いや、しかし本当にそんなことが可能なのか……?」
グイム総司令官仕様は俺の考えに気付いたようだが、難しいのではないかという態度をする。
「うん。彼が思っている通り、俺はこいつに作業を手伝ってもらおうと思っている。
パーツの切り取りやバリ取り。組み立ては俺がやるにしてもどの程度作業ができるかで作業範囲はその都度考えることにする」
プラモデルがプラモデルを作る。
本当にそれが可能かは誰もわからないが、俺はやってみようかと思っている。
「これからが正念場だ。少しでも多くのグイムを作ってみせる」
俺はニッパーを持ち、気合を入れていると、
「わ、私も何かできませんか?」
と、萌恵さんが言ってきた。
「やってくれるかい? パーツの切り離しやバリ取りだけでもありがたい」
「私もやるわ!!」
「我々もお手伝いします!」
「指令のおっしゃる通りです! 我々もただ見ているわけにはいきません。なぁ、みんな?」
「「「その通りです!」」」
カリーヌ、総司令、そして量産型達もみんな手伝ってくれると言ってくれた。
これなら予想以上に早く生産可能な気がする。
俺は作業用グイム達が扱えるかわからなかったが追加で買ってきたニッパーやヤスリを渡す。
「みんなありがとう。それじゃぁ――――」
「ワシもやるぞ!!」
と、ここで部屋の隅で落ち込んでいたお菊が声を上げた。
その申し出に対し、俺は断るなんてことはせず、
「頼んだ。お菊」
「任せておくのじゃ!」
俺達の間にあった隔たりはようやく消えた気がした。
なぜ封印されていたかなど聞かなくてはいけないと思うので、いつかは互いに話す場を設ける必要があると思う。
だけど今はこうしてともに作業をすることで、連帯感を作ろうと俺は思うのであった。
―作業開始5時間後―
結果、俺の目論見は成功した。
「「「「「議長閣下に敬礼!!」」」」」
萌恵さんや呪いの人形達、そしてグイム達に生産を手伝ってもらった機体は、見事に動き出し俺に従ってくれた。
グイム達にはやっぱりニッパーは扱いにくかったようで、彼らが持っていたナイフやエナジーサーベルというようはビームサーベルを最小出力にして切り出してもらいながら、組み立てを行っていった。もちろん火事を起こしたり焼き切った時に出る煙を俺や萌恵さんが吸わないよう、水を溜めた皿や換気などの対策をしている。
1体グイムが完成すれば、そのグイムも作業を手伝う。こうすることで作業をするグイムが時間と共に増えていった。
最終的な組み立ては俺の方で行う。
理由とすれば組み立てまでグイムに任せた場合、グイムが動き出すかわからなかったからだ。
何を起点としてグイムが動くのかわからなかったため、最初に動き出したグイム総司令官仕様となるべく状況を近くする必要があったのだ。
そして、この制作作業は思った以上に早く終わることになり、終わった時間を萌恵さんのご家族を救出する作戦を詰める内容へと割り当てることができたのであった。
新たに命が吹き込まれたグイム達へは総司令のグイムから作戦の説明が行われる。
その間俺は彼等の追加装備を組み立てていた。
彼等がここの土地から離れた場合、どのくらいの稼働時間があるか分からない。
設定では【ガゾリアクター】と呼ばれる独自の永久機関を保有しているが、設定と同様の働きをするか分からない。念のため大規模なエネルギー兵器を使用する目的で作られた補給型が装備するエネルギータンクも分離させて持たせる予定だ。
考えられるだけの必要装備を整え、萌恵さんの家族を救うため俺達は動くのであった。
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