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第12話 誘拐された理由


―萌恵視点―


 あれはこのアパートに住み始めて1か月が経とうとした頃だった。

 カリーヌが動いているということ以外、あれから不思議なことはパタリとなくなった。

 カリーヌはあれからずっと動いていて、活動時間は朝も夜も関係がないようだった。


 本当ならば不気味なことなのかもしれないけど、一人暮らしが不安であった私にとっては大切な同居人となっていた。


「ふぅ。今日も大変だったな」


 仕事終わりで、職場からの帰宅中。私はついそんなセリフを口に出してしまった。

 慌てて周囲を見て誰もいないかを確認すると、後ろからスーツ姿をした男性2人組がいること気付き、少し恥ずかしくなってしまった。


「(よし。帰ってからカリーヌと沢山お話をしよう)」


 ここ最近の楽しみといえばカリーヌとの会話であった。

 カリーヌは昔から心が宿っていたらしく、いろいろと見聞きしていたことを覚えているらしい。

 テレビがある部屋に置いていたこともあるので、そのテレビから世の中の事を知ったらしい。

 だから、今も知識を吸収する目的でカリーヌは一人で家にいる際テレビを見ているようだ。


「(あれ?)」


 ここで私はふと気づいた。


「(私の後ろに居た男の人達って私が下りた駅の近くに居た人たちだよね)」


 それほど大きくも無く人が居なかった駅。そこでいつもは見ない男の人達が駅の様子を窺うようにしていたのを思い出す。

 はっきりとは見ていないが、もし後ろから私の後を着いてきているのだとしたら……。


「(なんだか怪しくて怖い)」


 勘違いだったら申し訳ないけど、私は速足で家に帰ろうとした。その時、


「ちょっとよろしいですか?」


 私がそんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。

 思っていた通り怪しい人だったのか。それとも何か落とし物をしてしまったのだろうか。と、警戒しながら私は振り向く。


「何か?」


 振り向くとすぐ後ろに立っていたのは私の後に歩いていたスーツ姿の男性二人であった。

 やはり見覚えがある。さっき駅で見た男達だ。


「少しお話をよろしいですか?」


「えっ」


 突然の事過ぎて何事かと思った。

 ナンパ? いやいや、だとしても不自然すぎる。それに男性二人もナンパをするような雰囲気には見えない。


「なんでしょう……」


 私はいつでも逃げ出せるように身構えながらそう聞いた。


「いえ、少し変なことを確認するんですが、最近あなたの周りで何か妙なことが起きませんでしたか?」


「はぁ?」


 突然何を言い出すのだろうかと思った。

 妙な事ってなんのことだろう。この人達はやっぱり危ない人なのではないだろうか。


「なんでもいいんです心当たりありませんか?

 具体的にいれば、幽霊を見たとか、襲われたとか」


「あっ」


 そう言われたら嫌でも思い出すのは黒い靄に襲われたあの日の夜の事だ。

 だけど、この人達は適当にいろんな人に同じことを聞いている可能性もある。

 インチキ宗教団体の団員という可能性もまだ捨てきれない。


「心当たり――――あるんですね?」


「!」


 だけど私が反応してしまったからか、彼らはグイっと距離を縮めてきた。


「い、いえありま――――」


「こう言っては失礼かもしれませんが、あなたからとても危険な気配がするんですよ」


「私から……」


 確かにあの家に住んでから怖いことが何度も起きた。それは否定できない。

 でも今この人達は何と言った? 私から危険な気配がする? どういう事だろうか


「私の体から変なものが出ているって言いたいんですか?」


 私は少しずつ下がりながら質問をする。隙があれば直ぐに逃げるべきだろう。


「そう考えて頂いても構いません。怖がらせてしまったようで申し訳ないですが、私たちはあなたが駅から出てくるところを偶々見かけて声を掛けさせていただいただけなのです」


「駅から。ですか?」


「えぇ、駅です」


 すると、今まで私と話していた男性とは別の男性が語り始める。


「信じて頂けない事を承知でお話し致します。我々は心霊現象の専門家です。危険な霊的存在を退治する者と言えば理解されやすいでしょうか?

 実はこの地域に巨大な霊道があるのではないかという仮説が浮上しました。その根拠というのは、この地域で頻発する霊的障害です。

 他の地域では見ることができない程多くの心霊現象が起きているのです」


「霊道ですか?」


 私が住む地域はよくわからない名称のものができたと認定されたようだ。


「一般人には馴染みがない言葉でしょうが、言うなれば文字通り霊の通り道となっている地点です。

 普通であれば霊道というのは頻繁に場所を変えるものなのですが、稀に大きな力が重なり合い、固定されてしまうということがあるのです。

 どうやらそれがあなたが住むこの地域は危険な場所に変異しているようなのですよ」


 そんな説明をされてもチンプンカンプンだ。

 なんとなくはわかるが、だからどうしたという話になる。


「それを私に言ってどうしようと? 私もその霊道とやらを探せばいいんですか?」


「いえ、そうではありません。霊能者でもない限り個人で霊道を探すのは困難でしょう。

 我々は心霊現象を体験又は被害に遭われている方の情報を集め、その情報収集結果から原因となっている霊道を探しているのです。

 受け答えからすると、どうやらあなたは心霊現象を体験しているようだ。どんな情報でもいいんです。教えて頂けますか?」


「いえ、それは……」


 答えたくない質問だ。

 もし正直にカリーヌの事を答えたらカリーヌはどうなってしまうのだろうかと考えると怖すぎる。


「おそらく直ぐに信じてはくれないでしょうね。あなたは実際に体験したことがあるので我々の話に耳を傾けてくださりますが、他の方々ではそうはいかない」


「それは……そうでしょうけど」


 だからと言って私の家の事を話してもいいのだろうか。


「単刀直入に言います。すぐにこの街から引っ越してください。

 この土地は貴方にとって一分一秒でも長くいれば危険です」


「そんなことを言っても……」


 引っ越してきたばかりでそんな資金どこにもない。


「もしかしたらあなたは既にお気付きかもしれません。

 我々はこの地域の調査をしてきた中で、あなたのその身に纏う気配は明らかに危険です。

 あなたに関わったと思われる心霊現象。そうとうな力をもった悪霊かもしれません」


 え? うそ……。

 いや、そんなはずはない! カリーヌが悪霊だなんて絶対にありえない。


「あなたには先ほど引っ越しを提案いたしましたが、そのご様子ですと一度我々の施設にて悪霊とのつながりを消す必要があるかもしれません」


「そ、それは……」


 完全にカリーヌの存在を悪だと決めつけている。


「あなたと繋がっているその気配は、完全に悪しきモノの気配です。長年この世界に身を置いていた私達ならわかります。

 虎視眈々とあなたの命を狙い、日夜そのことを考えて笑っているのです!」


 自信たっぷりの様子でその男性は断言した。

 だけどそれはとてもじゃないが認められる話ではない。


「カ……」


「「か?」」


 私が怒りで震えながら言葉を放つと、二人は聞き返す。


「カリーヌは悪い幽霊なんかじゃないです!! 適当なことを言わないでください!!

 今度私に近づいてきたら警察に言いますから!」


 そう言って私は逃げた。

 逃げた先は当然私が住むアパートだ。




「あ、萌恵ぇ~。お帰りー」



 いつものようにカリーヌが出迎えてくれる。

 テレビは見ていたのだろう。つけっぱなしになっていた。


「うぅぅ。カリーヌぅぅぅ」


 私は靴を乱雑に脱ぎ捨て、カリーヌへと抱き着く。


「うわぁ。どうしたの萌恵!? もしかして職場で嫌なことがあった?」


「うぅぅ。実は……」


 そして私はカリーヌに今日帰り道で会った男二人組の話をした。

 話し終えると、


「なんですってぇええ!! 怪しい連中がこの家から引っ越せって言っているぅぅ!?」


 と、カリーヌは怒り出した。


「きっと反社会的勢力よ! テレビで見たわ。きっと土地を狙っていて交渉がうまくいかないとダンプカーとかを使って家に突っ込ませてくる悪い連中よ!」


 一体カリーヌはどんなテレビ番組を見たのだろうか。

 もしかしたら見る番組に制限をした方がいいのかもしれない。


「どんな人なのかははっきりとしない。だけど、この家を狙っていることは確かなの。

 だから私は早くこの家から出ていくことを考えている」


「えっ! 社会のゴミに屈するの!?」


 と、カリーヌは驚いているがすぐに、


「私がそんな連中とっちめてやるから大丈夫よ!」


 そんなことを言ってきた。


「ダメよ。このままだと何をされるかわからない。私も明るいうちに帰るように心がけるから、危ないことをしないで?

 本当にダンプカーが突っ込んできたら対応なんかできないでしょ?」


「うぅん……それはそうだけど……」


 と、しょぼんとするカリーヌ。


「うぐぐぐぐ。とっちめてやりたいけど、萌恵が外にいる間は私も目が届かないし……。あっ、そうだ。私も萌恵に常についていけば」


「ダメよ! それはそれで大騒ぎになるから!」


 慌てて私が止めると、「そ、それもそうよね……」とカリーヌは納得してくれた。

 カリーヌは自分が人形ということを理解しており、世の中の人形は動かないものという常識もあった。


「わかった。じゃぁ、すぐにここを出ていくの?」


「いえ、まだそんなに貯金がないから……」


「まだ時間がかかるってことね。わかったわ。夜は私が変な奴が侵入してくれば退治してあげるから萌恵は安心して寝て大丈夫よ!」


「うん。ありがとう」


 こうして私達は今後の方針を決めて、不安な日々を過ごすことになった。









 そして2週間後。

 あんな事があってから気を付けていたけど、特に変わりのない日々だった。

 例の怪しい人たちが何かをしてきたり、付け回してくるなんてこともなかったから完全に油断をしていた。


「行ってきま~す」


「いってらっしゃーい」


 その日も仕事の為に家を出た。

 カリーヌに手を振った私は、扉を閉めてカギを掛け会社までの道を歩く。

 いつもと変わらない。

 そう思っていた。



 しばらく歩き、茂みが多くある公園に差し掛かった。

 朝であるため、人気は無い。


「――――っ!?」


 そこで私はふいに口をふさがれズルズルと後ろへと運ばれる。

 何が起きたかわからなかった。

 カバンは落としてしまい、スマホで助けを呼ぶこともできない。



「よし、いいか?」


「あぁ、こっちは大丈夫だ」


 後ろで男二人の声が聞こえた。

 その声は2週間前私に声を掛けてきた怪しい二人組だった。


「車を回せ」


「わかった」


 私の考えが甘かった。

 まさか夜でもなく朝早くにこんな大胆な行動をするとは思わなかった。


「何をしている!」


 そこに別の人物が声を上げた。


「「「!!」」」


 私は声がする方向に必死に眼球を向けてその人物を見ようとする。

 すると声を掛けてきた人物は自転車に乗った警察官だったことが分かった。


「ん~~~!!! んんんっ」


 私は助けを求めようと必死になって声を出す。

 だけど、


「あぁ、なんだ。お前たちか」


 と、警察官は呆れた顔をして、


「公園に不審な車が朝早くから停まっていてじゃまだと通報があって来てみれば……。

 さっさと済ませてくれよ」


「あぁ、すまないな」


 などとまるでこの犯罪を見逃すような話をしているではないか。

 どういうこと!? なんで警察官が犯罪を見て見ぬふりをするの?

 理解できないことが立て続けに起こり、私は今度は何とか自分の力だけで助かろうと暴れる。


「くそっ。大人しくしろ! 早く車を!」


「よし来た! 乗せろっ」


 だけど抵抗虚しく私は彼らが用意した車へと乗せられてしまった。

 その間警察官はただ見ているだけだったし、私が車の中へ押し込められた後、まるで何事もなかったかのように自転車に乗って走って行ってしまった。












「ようこそ。禊の館へ」


 誘拐された私が連れてこられた場所は、山の中の妙な施設だった。

 木々に囲まれたこの施設の中の地下空間。私は大勢の白い服を着た人たちに見られながら膝をつかされた。

 その部屋にあった壇上で、歳を取った老人の男が両手を大げさに広げながら演技をしているかのようにこの施設の名前を言った。



「これは誘拐ですよ!! 何を考えているんですか!」



 この時の私はまだこれだけ文句を言えた。

 だけど、その老人は臆することもなく、


「いいえ、それは勘違いです。我々はあなたを救ったのです」


 と言い放った。


「救った? ふざけないでください。人を誘拐しておいて何から救ったというんです!」


 すると老人はようやく表情を笑顔から真顔へと変え、


「おや? その後ろの二人からなんの説明も受けていないのですか?」


 と、後ろにいた私を誘拐した男たちを見る。すると後ろの男たちは、


「いえ、我々はきちんと説明をしました」


「霊道の件も含めて説明しました」


 などと堂々と言った。


「ふざけないで! 私が住む地域が変な状態だったから引っ越せという話だったでしょ? そんなに引っ越してほしいならすぐにお金でも用意すれば引っ越したのに!

 なんでこんな乱暴なやり方をするの」


 私はそういうと、


「それもそうなのですが、今のあなたには悪霊がとりついています。

 まずはそれを取り除かなくてはいけませんねぇ」


 などと再び老人が言い始めた。


「あ、悪霊が? 何を言って……」


 私は訳が分からず、後ろへと下がろうとした。だけど後ろの男たちに止められる。


「ふざけないで! 私を帰して! 家に帰して!!」


 そう訴えたけど、


「まずいな。帰ろうとしている!」


「あんな魔窟に? これは重症だ」


「あぁ、完全に悪霊に取りつかれている。そうじゃなければあんなところに帰ろうとする人間なんていない!」


 と、好き放題言い、私を勝手に悪霊が悪霊が憑りついているという認定までしてきた。



「ふむ。では早速除霊に移るとしようか……」


 そう言った老人の合図で私は地獄の三か月を味わうことになる。


「まずは滝にて煩悩を落とし、電気ショックによる除霊術。火に近づけての除霊術、水に沈める除霊術。神殿の掃除による心の除霊術。畑作業にて命の大切さを学ばせる除霊術。ペットの餌やりで愛を意識させる除霊術。お札を額に張り付け、マラソンをさせいい汗を流させる除霊術。

 これを完全に除霊が出来たことを確認されるまで毎日行わせろ!!」


「「「「「かしこまりました!!」」」」」


 幸い女性として男性に性的暴行をされるという拷問はなかったけど、私は毎日なぜこんなことをしなくちゃいけないのかということを3か月もさせられた。

 最初は私とカリーヌが出会った場所について拷問を受けていた。


「さぁ、吐け! お前は一体どこで悪霊と戯れたのだ!

 報告ではカリーヌとかいう西洋の悪霊と仲良くしていた可能性があるという報告がされているぞ!」


 もし、本当の事を言えば、カリーヌが今も居るであろうアパートにこの人達は行ってしまう。

 そうなるとカリーヌは捕まり、カリーヌも酷い目に……。


「公園です……。公園で子供の幽霊に……」


 時間稼ぎになるか分からなかったけど、私は足つぼマッサージの拷問を受けている際に嘘を吐くことにした。

 隙を見て逃げ出して、カリーヌと一緒に逃げる為に。






 だけど、逃げ出せる隙はなかなかと見つからなかった。

 そんなある日の事、


「萌恵。お前と遊んでいた悪霊共は昨日浄化させた」


「!?」


 とんでもない話を聞かされてしまう。

 カリーヌが!? そ、そんな……。私の行動が遅かったばかりに……。カリーヌが……。


「いやぁ、あの公園には数えきれないほどの悪霊が居たからな。どれがお前に憑りつこうとしていたかは分からんが、片っ端から浄化したから問題はないだろう」


「……」


 ホッとした。

 どうやら彼等は私の嘘を信じたらしい。

 これで家に居るであろうカトリーヌは無事だと安心できた。


「これで悪霊との縁が切れただろう。……いや、まだ求めているようだな。

 だが無駄だ。お前が求めている存在はもうこの世にいない!」


 だけど、私への浄化という名の苦行は止められることは無かった。

 それでも、私と繋がりを持とうとした悪霊が浄化できた確信していた彼等は、私への警戒が薄まっていた。


 だから隙を見て、浄化のマラソン中逃げ出す事に成功して今に至るのです。






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―聖人視点―



「以上が私が体験してきたことです……」


 そう語った萌恵さんの体験は想像以上に過酷なものだった。

 もはや警察が動いてもおかしくない事案であるが、その警察内部に誘拐犯の一味がいたことも驚きだ。これでは確かに警察に通報する気は失せてしまうというもの。頼るところが分からない状態だ。


「そうなると俺もここに住んでいる限り危ないって事か……。

 貴重な情報ありがとうと言いたいところだが、連中はなんで空いた部屋をすぐに確保しなかったんだ?

 萌恵さんを誘拐してからかなり期間があったと思うんだが、なんでこのアパートが怪しいと思わなかったのだろうか」


 もしくはもう調べたのかもしれない。

 心霊現象はこの地域全体であるらしいので、このアパートが霊道とやらのある場所ではなかったのだろうか。


「それはわかりません……。ですが、彼らもこの部屋を手に入れるにしても財政状況があまりにもひどかったからという可能性があるんじゃないでしょうか?」


「懐事情が寂しかったから? いや、それで確保できないとかおかしいだろ。この部屋というか、このアパートは欲してやまない物件だったんじゃないのか?」


「欲していたのかはよくわかりません。もしかしたら封印しようとしていたのかもしれませんし……。

 ですけど、彼らは着ている服はそれなりでしたけど、使っている車や生活の所々がとても……貧乏なようでした」


 なんじゃそりゃ。

 聞いている限り萌恵さんを誘拐したのはカルト宗教団体ってイメージだが、連中は信者から金を巻き上げて金を持っているイメージがあるんだが……。


「具体的には?」


 俺がそう聞いてみると、


「えっと、具体的にというと細かいところでは電球が切れかかっているけど変える予算が無い。とか、食事がとても質素でした」



「電球はともかく食事は萌恵さんを逃がさないように体力をつけさせない為だったのでは?」



 と、俺が指摘すると、


「いえ、食事は全員一緒に食べてました。

 全員やせ細ってパンの耳と水だけの食事をありがたそうに食べていましたから」


「マジか」


 萌恵さんだけかと思ったら信者共もか。

 全員教祖か誰かに騙されているんじゃ?


「そもそも私の証言でこのアパートから公園に居た霊へ目標を誘導しましたから……」


「あぁ、そうか。萌恵さんに憑りついている悪霊ってのが公園に居たであろう悪霊だとその誘拐犯の連中は思っていたからこの家は捜査対象から外れたのか」


 そう納得をしていると、



「くきーーーー!! 許せないわ! そいつら今から行ってぶっ飛ばしたい!!」


 と、カリーヌが怒りをあらわにしジタバタとし始めた。


「やめろ! 話がややこしくなるだろう。今はとにかく萌恵さんを逃がすための準備をしよう! あと、できれば俺も逃げたい!」


「そ、そうね! まずは萌恵の安全第一だもんね! 重要な戦力である私が萌恵から離れるわけにはいかないわ」


 このままどこかに飛んで行ってしまいそうなカリーヌを止め、俺は話の方向を元に戻す。


「とにかくこのままじゃまずい。萌恵さんには俺のスマホを貸すからご両親に連絡を」


「わかりました! ありがとうございます!」


「グイム達は家の警備を今以上に厳重に行ってくれ。必要とあれば外に出ることも許可する。なるべく一般の人に見られないようにな」


「はっ。了解いたしました議長閣下!」


 そう言って俺は萌恵さんにスマホを貸して一息つく。

 はぁ……。疲れた。

 なんで俺がこんな目に……。




「もしもし。お母さん? 私、萌恵だよ――――」



 萌恵さんは早速電話を始めた。

 よかった萌恵さんの両親は無事なようだ。


 さて、少し整理しよう。

 萌恵さんは本当かどうかわからないが、この家を狙うと言っている不審な連中に誘拐されて行方不明になった。

 カリーヌはもともと萌恵さんの持ち物であり、カリーヌの暴力的衝動はこの家を狙う連中=この家に住もうとした奴という認識の下、俺の命を狙っていた。

 つまり、俺が萌恵さんの敵ではないことが分かった今、再び俺の命を狙うことはないだろうと予想される。


 それにしても誘拐犯が本当にこのアパートを狙っているのだとしたら、いくら金がないからって普通そのままにしておくだろうか。

 3か月もの間、何もしなかったというのは不自然すぎる。

 ……ん? 3か月? なんか引っかかるな……。



「あっ」


「どうしたの聖人」


 俺は違和感の正体に気付き、ゆっくりと萌恵さんの方を見る。

 すると、萌恵さんは焦った様子で電話の向こうの両親と話しているようだ。



「なんで!? 私だよ、萌恵だよ! お母さん、お父さんに代わって!!

 お父さんだよ! お母さんの旦那さん!!

 ――――もしもし、あぁ、お父さん! 私、萌恵だよ。しばらく連絡してなくてごめんなさい。ちょっと事情があって。あ、それよりもお母さんがなんか変なの!!

 ――――え? お父さん? 嘘でしょ? お父さんもなんでそんな酷いこと言うの!」



 俺はその切迫した様子から俺の立てた仮説が合っている事を確信し、萌恵さんからスマホを奪い取る。

 そして、通話を強制的に終了させた。



「あっ、聖人さん。何を!」


「おかしいと思わないか?」


「えっ?」


 興奮している萌恵にゆっくりと語りかける俺。

 間違っていてほしいと願いつつも、萌恵さんの様子から間違いはないだろう。


「どういうことよ聖人!」


 と、カリーヌが聞いてくる。

 だがその前に、


「その前に萌恵さんから話を聞きたい。すまないがさっき両親との会話でおかしい点はなかったかい?」


 俺がそう質問をすると、


「は、はい。おかしいというか、なぜか私の両親はうちには萌恵なんて子供いないって……」


「あぁぁ……」


 俺は手を額に当て天を仰ぐ。

 くそっ。予想は当たったか!


「ちょっとちょっと。どういうことよ!」


 と、急かすカリーヌに、俺は自分の考えを話すことにした。


「おかしいと思ったのは、萌恵さんが行方不明になって3か月で、どうしてこうも早くに家が引き払われたかということだ」


「「えっ?」」


 萌恵さんとカリーヌは互いの顔を見合わせどういうことだという雰囲気を出す。



「よく考えてみてくれ。おかしいだろ?

 普通、行方不明になって3か月で、また帰ってくるかもしれないのに、萌恵さんの両親はそんな短期間で部屋を解約するほど非情なのかい? いや、そこは俺も知らんが、後は行方不明になった時の部屋の解約の手続きってそんなに早いものなのか?

 あと、もし両親が解約したなら、萌恵さんの荷物ぐらい実家に持って帰るだろ」


「「あっ」」


 萌恵さんとカリーヌはそのことに気付き、萌恵さんは顔を青くしてた。



「萌恵さんの両親は子供の事は無関心で育児放棄とかする人なの?」


「いえ……違います! 違います! 私と両親の仲は良好です!」


 だったらなぜこんなことに? という気持ちはこの場にいる全員に共通していた。


「だったら私の両親も……」


「あぁ、何かしら誘拐犯の手で操られている可能性が高い。

 萌恵さんの嘘で誘拐犯の連中からこのアパートへの認識を外す事は成功させたが、誘拐をしたことを世間に披露目させないために、萌恵さんの関係者全員に何かしら行動したんじゃないだろうか」


「そんなっ!」


 萌恵さんの目に再び涙が溢れてしまう。

 泣かせるつもりなんかなかったが、これは言わなければならないことだ。


「どうしよう。どうしよう聖人! 何とかできない!?」


 カリーヌも縋るように俺に助けを求めてくる。

 昨日の敵は今日の友。という言葉が俺の頭をよぎったが不謹慎すぎると自分の頭を殴りたくなった。


「人質に取られている可能性が高い。

 すぐに偵察できるグイムを作って送ろう。

 萌恵さんが直接行くのは危ないからな」


「そ、そうね! この子たちなら強いから悪い奴らなんて簡単に倒せちゃうもんね!!」


 カリーヌもグイム達を認めているらしいが、グイム達はそわそわとしている。


「失礼ながら議長閣下。我々の行動限界範囲も不明であり、対人戦の経験もありません。

 ですが、緊急事態ということも理解しています。

 我々の知識を使い、適切な人員配置をお願いしたいのです」


「適切な人員配置?」


 俺がどういうことかと聞くと、


「はい。正確には作っていただきたいグイムタイプをこちらで選定しますので、議長閣下にはグイムをできるだけ多く生産していただきたいのです」


「なるほど、そういうことか。わかった。選定は頼む」


 よし、後は買ってきたグイムを作って戦力強化をするか。


「と、その前に風呂にしよう。萌恵さんが先に入ってくれ」


「え、え!? い、いいんですか!?」


「もちろんだ。とりあえず今日から戦いを共にする戦友って事で」


「戦友ですか……。ふふ、ありがとうございます」


「いいよ。風呂から出たら食事にしよう。って言っても今日はうどんを作ろうと思っていたからそれぐらいしかないが、2人分はあるだろう」


「夕飯もいただけるなんて……ありがとうございます!」



 こうして俺たちの作戦は開始された。


 そして、これが俺の人生の中でも強烈に残る戦いの記憶の始まりとなった。



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