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翌朝、コウモリは私が入れた木の実を少し食べた形跡があって少し安心した。何を食べるのか、今日図書館で調べてこないと。
いつも同じ寮の友達と集まってから校舎に向かっていた待ち合わせ場所には当然のように誰もいなかった。頭では分かっていたし、多分こうなると思っていたのに実際に自分の目で見るとやっぱりショックだ。
朝食を食べるときも私の周りの席だけぽっかり空いていて、「ほら、あの子よ昨日のコウモリの」って声も聞こえて、ああ噂になってるんだなって感じだけど……私が考えていたより、ずっと異常な行動だったみたいだ。
気付かなければ良かった。あの子が誰かのペットだって気付いてなければ、今日も「昨日は玄関にコウモリがいてびっくりしたね」なんて友達と話していたのに。
教室に入ってもそれは同じ。成績順で振り分けられて上から二番目のこのクラスには、幼い頃から優秀な教師をつけられていた高位貴族の方達がやっぱり多い。
いつもは教室内の特待生同士で固まって失礼がないように息を潜めていることが多いけど、教室に入ってきた私を見て関わりたくなさそうに目を逸らされてやはりと思った。ネズミ達の汚さ、恐ろしさをよく知っているのだ。不潔だと高位貴族に目を付けられる恐ろしさも。飼われていたコウモリだから大丈夫だと分かってもらえるよう話をするのも難しそうだ。
無視をして申し訳なさそうな顔をしてくれているだけ良かった、……彼女達を巻き込むのはやめておこう。
どうやらしばらく孤立してしまいそうだなと私は諦めて、予習のために本を開いた。救いとしては、聞こえるところで私に何か言ったりあからさまな無視をしたりする人がいないことだろうか。
寮の自室よりは気が楽でほっと息をつくも、また放課後あの部屋に戻る事を考えると気が重かった。
あれから、3日。私が無視され遠巻きにされる生活も続いて、飼い主も見つからない。一応ヘレンさんの許可を得て寮の掲示板を使って呼びかけてみたけど音沙汰なし。
授業で指された時とヘレンさんに報告する時、それ以外で喋っていないから声の出し方を忘れそうになってしまいそう。一人の時間が増えたから勉強が捗っている、と強がってもみる。
図書館で調べたあのコウモリは種族的に虫を食べると書いてあって、さすがにそれは無理だと寮の食堂から鶏肉の切れ端をもらってそれを与えているが正しいお世話では無いだろう。
はやく飼い主の元に戻してあげたいが、方法は無く手詰まりになっていた。ヘレンさんはおそらくうちの寮の生徒が飼い主ではないのではと言っていて、一番近い寮にも昨日から保護したペットの種族には触れない内容の張り紙をしてくれた。そちらは自宅から侍女やメイドを連れてきているような高位貴族の女生徒が主に入っていて、私には面識のある方はいない。
一応父がノーザン伯爵に仕える騎士爵を持っていて、完全な平民からしたら貴族の端っこにいるように見えるがまったく裕福では無い。どこの騎士爵家も、活躍して王家直下に召し上げられた騎士爵でない限りこんなものだろう。当主の父の武具や制服の整備、跡取りの弟の騎士としての必要な教育や鍛錬でかつかつなのだ。
家族は愛しているし飢えずに育ててもらって感謝しているが、特待生でなかったら田舎から出てこの学園に通う余裕なんてなかった。
失礼なく過ごすため貴族名鑑でお名前などを拝見した貴族の方達は多いが、向こうは学園生活の背景としか……いや、私の存在すら認識されていないだろう。
噂というのはあっという間に広がるらしく、今朝からは同じ寮の下位貴族や特待生の女生徒だけではなく、その交友関係を通じて中位以上の貴族令嬢にも私の話が広まってしまっているようで、私は「コウモリの」と呼ばれてより一層避けられるようになっていた。
友人だと思ってた子には先週貸したノートを返して欲しいと言いに行った時に「もう関わらないで欲しい」と言われてしまったし、寮の同室の子達には「エミリーもコウモリと一緒に物置で寝て欲しい、ああほんと最悪」と話しているのを聞いてしまった。聞いてしまったと言うより、聞かせるように私も部屋にいる時にそう言われたのだが。
漏れ聞こえた話では私が飼っている事になっていて、思わず苦笑してしまう。
ヘレンさんは「飼い主は自分が非難される事を恐れて『優しい人が見つけてくれてよかった』と名乗り出ないかもしれませんよ」とアドバイスしてくれたけど、昨日思いついた通り落とし物として届けを出す事にした。
生き物だったから思い至らなかったけど、もし飼い主が思いつく限りの事をして探していたらすぐに見つかるだろう。
でもたった3日でこんなに周りに避けられるようになってしまって……はたして飼い主が見つかったところで、私に元通りの生活が送れるのだろうか。そう不安に思うくらいに私の心はすさんでしまった。
あの時気付かなければ良かったと、何度も後悔してしまう私はなんて薄情なんだろう。
「あの……すみません、失礼します」
学園の事務に行って遺失物として届け出ようとしたところ、その落とし物は生き物で、それもコウモリである事や、おそらく貴族の誰かのペットだろうと事情を話したところ「こちらでは判断がつかないから」と生徒会に相談するように言われてしまった。
規則に違反してペットを飼っていた生徒がいる、拾得物として届けて飼い主を探したい、しかし生き物なのだが事務で生き物を預かるわけにはいかない、そしてピアスが宝石なら高位貴族の生徒の誰かのペットなんじゃないかとここで学園の職員に連れてこられたのだ。
職員さんは面倒ごとに関わりたくないと思ってる態度で、話を大事にしてしまってとても申し訳なくなる。
初めて足を踏み入れた生徒会室はとても煌びやかで普段なら目を輝かせて調度品を見ていただろうが。事務室の受け付けで「こちらで預かって死なせて、飼い主に責任を追及されても困るし……」と職員が話していたのが聞こえて、そっちが心配でそれどころではなかった。
たしかにそうだ……ヘレンさんの言う通り知らんぷりされるだけならまだいいけど、これで私が預かってる最中に何かあったらどうしよう。
責任を問われて罰を……いや100年前の絶対君主制の時代ではあるまいし、さすがにそれは……ともんもん考えていたところに「クレザーさん」とここまで連れてきてくれた職員さんが用事を言うよう促す。
「じ……実は私、生き物を拾いまして……!」
生徒会室の手前の方には何やら黙々と書類仕事や計算などを大きなテーブルで行っている数人がいて、対応してくれたのはそのうちの一人だった。
ウォーレンハイト先輩達のようなキラキラ眩しい人達は今はやはりいないようでホッとした。用事で留守にしていると、そう聞いたから来る決心がついたのだけど、でなければ後日また不在を狙って来ようと思ったほどだ。
部屋に残っていた4名は全員役員補佐の方……だったと思う。生徒会は立候補と推薦だが、運営する生徒会長や副会長などは先代からの使命という名の推薦で決まる。
その役員達の補佐は立候補した者の中から選ばれるが、成績優秀者に限られる狭き門で、しかし様々な学園内での特典もあり官僚などを目指す野心溢れる方達が殺到するためとても競争率が高い。
さらにウォーレンハイト先輩がいる代からはその競争率が3倍になったのだからあの方の影響力はとてつもない。タイの色で先輩だと分かるこの方は、立候補で生徒会入りした……ああ、私と同じ特待生だった、と私は去年の生徒総会の時の事を思い出した。
ただでさえお腹が痛いのに、これ以上緊張する人相手に話をしなくて済んだ事にホッとしていた。
「あはは、君、変わってるね? 今ホッとしたでしょ」
「え?」
「普通は生徒会になんとか用事を持ち込もうとするのはウォーレンハイト会長目当ての女生徒ばかりなんだけどね」
「私はできたら学園の事務で手続きを終わらせたかったんですけどね……あはは……」
変わっていると言われて喜んでいいのか、私は苦笑いしかできない。
遺失物として一応書いたまま持ってきた届け出を手に、私は目の前の生徒会補佐の方にいきさつを説明した。
「……たしかにペットは規則違反だけど、こちらがどうこうするわけにはいかないからなぁ。高そうなアクセサリーを着けてるなら飼い主は貴族だろうし、生徒会を挟むのも納得だ。飼われてたなら変な病気も持ってないだろうし、僕たちが預かるのも難しいし飼い主が見つかるまで申し出の通りにクレザーさんに世話を任せたいと思う」
「あ、ありがとうございます」
「うん、寮母さんの許可ももらって物置に置いてるなら問題は無いと思うよ。それでその保護したペットって何? 猫か……それともこっそり飼ってたならハムスターかミニウサギとかかな?」
「えっと、」
わざとそこを避けて報告していた私は目が泳いでしまった。でも、ここを隠したままでは飼い主を探せない。意を決してボソボソと口にした私だけど、やはり私が見通していたよりもコウモリという存在は異質に見えているようだった。
「えっ、コウモリ?!」
さっきまでにこやかに、保護した生き物について聴取してくれていた先輩は突然身を引いた。その仕草に勝手に傷付いてショックを受けている、傷つく資格なんてないのに自分が甘ったれすぎて嫌になってしまう。
「コウモリって、何が?」
なんて悪いタイミングなのだろう、私の背後で扉を開けた人はそう口にした。「コウモリ」と驚きを含んだ声はどうやら廊下にまでとても響いたらしい。
ああ、またことが大きくなってしまいそうだ……
しくしくと痛み始めたお腹を、制服の上から手の平をあてて強く抑える。夕飯前の空腹も重なって、みぞおちから突き上げるような苦しさを感じた。
何が、と声をかけながら室内に入ってきたのは生徒会役員のジャスティン侯爵家の御子息だった。
いや、ここは学園内だからジャスティン先輩と呼ばなければだろう。
地位が上の方に無礼な真似をしてはいけないと同調圧力はあるが、規則でそう定められている以上表立って爵位を持ち出して下に出すぎてもいけない。下の私達は色々気にしなければならないことが多くて大変なのだ。
「まぁ、コウモリって……あなたが例の、コウモリを飼ってるって方?」
「え、コウモリを? 女子なのに変わった趣味だな」
「変わってるどころじゃないですよぉ、アイザック先輩。コウモリってネズミの仲間で、疫病を媒介したりするすごい怖い生き物なんです。そんな動物を飼ってる方が身近にいるなんて、恐ろしくて……!」
その後ろからパッと現れた小柄な女性がジャスティン先輩の腕に抱きついた。ふんわりと艶やかな桃色の髪の毛が広がり、同性の私でも守って差し上げたくなるような庇護欲を感じる可愛らしい瞳が怯えたように私を見た。聖女ミヤ様……こんなに近くでお会いしたのは初めてだけど、とても可愛らしい方……。
感想として呑気な事を言うジャスティン先輩はともかく、聖女ミヤ様が私に向けるその視線は、自分がまるで犯罪者になってしまったかのような錯覚を感じるほど厳しいもので、つい目を逸らしてしまう。
廊下に残っていた数人の方も、その言葉を聞いて眉をひそめてヒソヒソと話し始めた。
「あれ、学生寮ってペット禁止だったよな? ああ、特例の許可取りに来たのか?」
「やだぁ! そんな、気持ち悪い。絶対に許可なんて出さないでください!」
「あら、今代の聖女様は外見で生き物を差別するの?」
「ほんとねぇ、動物は私たちと同じ大切な命だっておっしゃってたけど、見た目でこんなに態度が変わるのね。驚いたわ」
ジャスティン先輩が腕にギュッと抱きついていた聖女ミヤ様の体をやんわりと外していると、さらにその後ろから煌びやかな美女が2人やってくる。普段関わりのない世界の方がさらに増えて、私はいよいよ逃げ出したくなっていた。
赤毛の美女がクォトルク公爵令嬢、金髪の美女がダフェスタ侯爵令嬢。
基本は私の着てるものと同じデザインの制服のはずなのに、生地もそうだがアレンジしたデザイナーの腕が格別なのだろう、茶会用のドレスのような華やかな仕上がりになっている。
「違います……! 私はただ、その……そう、疫病のきっかけになったら怖いって、そう思って……私の、お友達の……平民の子がとても怖がってたんですぅ……。寮で汚い動物飼ってる子がいるって! 平民とお付き合いのないお2人は騒ぎになってるのを知らなかったみたいですけど……」
「え? 野生のリスを餌付けしていたあなたが?」
「感染症の心配もあるからと校外学習の時に持ち帰ろうとするのを注意したわたくしを人でなしのように罵っていたのに、ねぇ」
その話はほんの少しだけ耳に挟んだ事がある。せっかく校外学習で出来た友達だったのに、クォトルク様が……と中庭で聖女ミヤ様が泣いていたって……野生のリスを持ち帰ろうとしたのか。それは止めるはずだ。
でも私が保護している子を駆除するように言われては困る、とキリキリ痛むお腹をなんとか押さえつけて私は声を振り絞った。
「あ、あの、相談に来たのは……人に飼われてたらしいアクセサリーを着けてたからなんです……! だっ、だから心配されるような疫病の媒介にはおそらく、ならないし……私のペットではないのですけど、飼い主に返すまで、その……」
ああ、恥ずかしい。今すぐ逃げたい。緊張しすぎて震えてたし、声が裏返ってしまった。
それでも私を笑う事なく、なるほど、と美女2人は納得したように軽く頷いてくれた。先程入り口近くで私が補佐の方に渡した書面も確認して、「そう言う事なら」と納得していただけたようだ。
「クレザーさんは、動物の見た目では差別しないのね」
「こういう方こそ慈愛の持ち主と言うんだわ。ねぇ?」
「聖女ミヤ様も優しいのではなくて? 見た目が可愛い動物には」
「そうね……ふふ」
「くっ……!」
私が持ち込んだ案件で何やら諍いが起こってしまい、いよいよ私は苦笑いも出来ずに胃を押さえて前屈みになっていた。
口頭とはいえ預かって世話をしていいと……一時的な飼育の許可は出たし、後ずさって逃げてしまおうか。
「コウモリがどうしたって?」
そこに表れてしまったのは、なんとウォーレンハイト会長だった。でも当然か、他の方がいるってことは用事が終わって戻ってきたのだろう。
これ以上身分の違う方達のやり取りに関わりたくない……! 私は一気に顔が青ざめる。いっそ倒れてしまいたかった。今すぐ倒れて、そしたらこの場の胃の痛い空気をこれ以上認識しなくて済む。
私を連れてきてくれた事務の方は、いつの間にかいない。なんて薄情な、私も一緒に逃げたかった、と恨めしく思ってしまう。
「なぁマックス、この子も今コウモリ飼ってるんだってさ」
「え?」
「え?」
声を上げたのは、私もウォーレンハイト会長も同時だった。その言い方ではまるで、ウォーレンハイト会長もコウモリを飼ってるような……いや、もしかして……?
「ち、ちがうんです、あの……私が飼ってるんじゃなくて、3日前、保護した子なんです。誰かが飼ってるように見えたから、それで……」
「3日前……! 俺のキキがいなくなったのと一緒だ……何か判別できるようなものは着けてなかったか?!」
「あの、ピアスをつけてました……小さな赤い宝石の……」
「キキだ!」
自分の事を俺って言うんだ、とパニックになりかけている頭で場違いにそんな事を考えた。
その詰め寄られた顔が良すぎて至近距離にせまったあまりの迫力に、思わず悲鳴をあげそうなった私はそれは何とか堪えたが体が硬直してしまう。ひ、ひぃい。遠目でも美しかったけど、こんな近くから真正面で見るなんて、私の心臓が耐えられない。
小さく「えっ、ウォーレンハイト様のペットなの?」と呟く女性の声は、理解する前に素通りしていった。
「ああ、良かった無事だったのか……! 保護してもらってたんだね……! 君の名前は……?」
「……エミリー・クレザーと申します。あの、ウォーレンハイト会長……手を……」
「ああ、すまない。キキの無事が嬉しすぎて。女性に無礼だったね」
多分無意識に握っていたのだろう、詰め寄った拍子に両手で握られていた私の手が解放された。
男の人なのに、とても手が柔らかくてすべすべだった……なんて考えてしまって慌てて頭の中からそんな破廉恥な考えを追い出す。ウォーレンハイト会長も、初対面の私に握った手の感想を思い浮かべられてたなんていい気はしないだろう。
騎士の父と騎士見習いの弟の、傷だらけで頼もしい手しか知らない私は知らない感触にビックリしてしまっただけ。それだけ。
「あなたコウモリなんて飼ってたの?」
「2人はそっか、マックスの部屋に行ったことないから知らなかったのか」
「その分ならアイザックは知ってたのね」
「タウンハウスに昔から大きな犬がいるのは知ってましたけど……それよりも、ちょっとカミーユ、クレザーさんが怯えてますわ。紳士と淑女の距離になさって」
「ああ、ごめんね」
握っていた手を離した後も距離が近かったウォーレンハイト会長は、ダフェスタ侯爵令嬢の言葉に従ってやっと一歩下がった。とんでもない美形の圧がほんの少し遠くなって、私はちょっとだけ安心する。
「キキは元気にしている? ああ、違うな。急にで悪いけど、このまま迎えに行ってもいいかな?」
「ええ?!」
しかしすぐさま次の爆弾が投げつけられて、私はあわあわとするしか出来なかった。返事なんてする余裕はなく、ひたすら「どうしよう」しか頭に浮かばない。
えっ、あの古びた女子寮まで連れて行くの? この煌びやかで美しい人を……? 物置に? むり、むりむり……!
「へ、へぇ、ウォーレンハイト様は珍しいペットを飼ってたんですねぇ。生徒会の仕事があるなら仕方ないかなって思ったんですけどぉ、その子を迎えに行くなら私も一緒に行っていいですか?」
私がキキちゃんを連れてくるから、ウォーレンハイト会長はここでお待ちください……! と、そう言おうとしたところで聖女ミヤ様がそう話に入ってきた。
どうしよう、あの物置に連れていかなければならない人数が増えてしまった。
なんて伝えたら2人にここでお待ちいただけるのか、筆記試験の成績は良いけど咄嗟に対応する力のない私は依然頭が真っ白なまま、良い考えが浮かばない。
「いや、聖女様はコウモリは気持ち悪くて怖いんだろう? でも俺の大切な友達だから自分で迎えに行きたいと思う」
「2人きりにするわけにいかないから、アイザックも一緒に行ってくれる?」
「ええ、俺?」
「そうよ、婚約者たっての願いなのですから、聞いてくださるでしょう?」
「イザベラのお願いならしょうがないな~」
ダフェスタ侯爵令嬢の言葉に、軽くそう答えて頬に顔を寄せるジャスティン侯爵子息。手慣れた音だけの口付けやそのやり取りがすごく大人っぽくて、見ている私はドキドキしてしまう。
「カミーユ、彼女の寮の寮母さん含めて誤解をしっかり解いてこないと。聖女ミヤ様のお言葉の通りなら寮の方達に勘違いされて遠巻きにされてるようですから」
「あぁ、そうだね……悪い事をしてしまった。俺のペットが迷惑かけたって分かるように説明してくるよ」
ああ、そんな……大ごとにしないで……きっとウォーレンハイト会長のペットだったなんて知ったら、コウモリについて話題にして私を避けた人達がそれだけ気まずい思いをしてしまうだろうから。
そう、きっとそこの聖女ミヤ様達のように。
「じゃあ、クレザー嬢、早速いいかな?」
「はい……」
しかし私に強く拒否する勇気はなく、頷いてしまう。キキちゃんを迎えにきた後また生徒会室に戻るというお2人を前に、せめて出来るだけ早くこの用事を終わらせて差し上げなければ……と決意した私は脚の長い2人を先導するほど早く、ほとんど小走りで寮に向かうのだった。