ツイてない日
頑張る女子はカッコイイ
「C-31!そっち行ったぞ!」
「分かってる!こっちで捕らえる!」
回線を切り、すぐ迎撃体制に入る。
ツイてない。今日は隊のメンバーに不調者が多い。ローヴェはこの間脚をやったし、ヤクは腹痛か。この時期に貝を生で食べるなよ馬鹿。
隊のメンバーに短く伝達を入れる。
「キャッチャーには私が行く!ロイド、補助について。宜しく!」
伝達と同時に駆け出す。
足音は…1、2、3…7人。
思ったより多いな。でもまぁ何とかするしかない。
ガサガサ
「なんだ、小娘1人か。向こうを抜けるよりも正解だったな。」
「警備もザルだなぁ!俺達も舐められたもんだぜ。さぁそこをどいてもらおうか!」
下卑た笑みを浮かべ、明らかにこちらを見くびっている。
もう慣れたことだ。それに油断してくれる方がありがたい。その点だけがこの見た目の利点。
「ごめんね、オニーサンたち。ここを通してあげられないの。…私が許すのは年下の素直な子だけ!」
「「「な!!!」」」
言い終わると同時に仕掛けておいた固有魔法を発動。足元が草花で固定され、近くの木々に縛り付ける。
「仕上げ頼むよ!」
私の後方からターゲットに対して氷魔法が放たれた。狙いは良いけど術の発動が遅い。
身動きが取れないターゲットは為す術なく氷漬けにされた。
「やけに簡単過ぎるな…三下しか居なかったの?」
辺りを伺い、人の気配が無いことを確認する。…撤収の頃合かな。
そう思い合図を出そうとしたとき。
「爪が甘いぜお嬢ちゃん!」
なるほど上か!風魔法でその身を浮かしていただろう手合いが3人降りてくる。
すぐに反撃の姿勢を取ろうとしたのに
「なんでオレを補助に入れないんすか。」
声と共に爆風が手合いを包み、更に土魔法を忍ばせていたのだろう、爆風が消えた後には手足を捕縛されたターゲットが転がっていた。
攻撃の無力化と同時に不動化か…。
相変わらず鮮やかなお手並みで。だけど
「今回のメンバーには入れてなかったはずだけど?アイン。」
「非番で暇だったんで。来てたのアンタ知ってたでしょ。気付いてたなら使えばいいのに。」
「非番の意味分かってんのか、この馬鹿。休める時には休むんだよ。休息も満足に取れないようなら縛ってやろうか。」
「それがアンタの趣味なら付き合わないこともないけど。まぁ縛られるより縛る方が好きだけどね。」
聞いてないわそんなこと!あぁ言えばこう言う!生意気なクソガキを燃やしてやろうとしたとき
「ハイハイ、そこまで。今日の任務は完了でしょ。オレたちは本部に帰って今回の報告しなきゃ。遅くなったらまた本部長にどやされるよ?」
発火直前でエリスが止めに入ってくれたお陰で何とか冷静さを取り戻す。いかんいかん、私はクールな上司のはず。
「もういいから、アインあんたは帰りなさい。報告は私がする。休むのも仕事、いいね!」
アインをエリスに任せて強制帰宅させる。
そして残ったメンバーを連れて本部に帰還した。
今日の任務報告を手短にしたあと、
隊のメンバーとミーティングを開く。
「ロイド、今日の補助ありがとう。お陰で助かった。…ただ魔法発動まで少しタイムラグがある。発動動作の見直しをした方がいい。」
「はい…すみません。以後注意します。」
こう素直に謝られると戸惑ってしまう。
女が上司と言うだけでも舐められやすい上に、
筋骨隆々というわけでもない。
人より豊富な魔力量だけを頼りにして緻密な魔力操作を磨き上げてここまで来た。
…この見た目で散々馬鹿にされてきたからな。
素直な年下は本当に可愛い!
つい可愛くてフォローを入れてしまう。
「…魔力操作は悪くなかったよ。狙いは的確だった。あとは瞬発力だけだから。」
「ロイドに甘いぞ隊長ー!年下だからって!」
「体調管理も満足に出来ない年上は尚更可愛くありません。外周3周追加。」
「ちくしょーー!」
今日も外周をヤクは元気に走っている。
腹痛は薬草を調合してとりあえず治めたらしい。そういう器用さはあるのに。
「オレも年下なんだけど。もっと可愛がってくれても良くない?」
「上司の頭を肘置きにするんじゃないこの馬鹿者が!」
「ごめんな、コイツタダ働きするって言うもんだから。」
いい笑顔でエリスが帰ってきた。
だから休日は働かせないための日だってのに!
「あと今日は来て良かったよね。隊長の『オニーサン』とかレア過ぎて。もっかい言って。」
「確かに可愛かったな。あれくらいの緩さでいつも居ていいんだよ?」
「うるさい。エリスは早く報告書纏めて。アインは何にもすることないなら寝てろ。以上!解散。」
追撃が来る前に強制終了させる。ぶーぶーと
聞こえてくる声は無視して隊室を出た。
今日は早く終わったし、鍛錬でもしてから書類作業を片付けるか。
…可愛くなくていいんだっての。舐められたらどうする。
邪念を振り払おうと修練場に向かおうとしたら、廊下の隅でうずくまっている子どもを見つけた。
こんな所にあんな小さな子が?
どうしたのだろうか。小さい子好きの血が騒ぎ、放っておく訳にもいかないので声を掛ける。
「どうしたの?こんなところで。誰かと一緒に来たの?」
「にぃにをよびにきたの。きょうはおやすみのひであそぶやくそくしてたから。でもやっぱりあそべないっておしごとにいっちゃったの。」
「にぃに…お兄ちゃんがここに居るのかな?お兄ちゃんの名前言えるかな?」
「あっくん。あっくんはここでおしごとしてるのよってママがおしえてくれたの。」
あっくん…アから始まる名前の隊士。情報が少なすぎるぞ参った。
それにしてもこの歳で1人でここまで来たのはなかなか凄い行動力じゃない?私は年下のみ褒めて伸ばすタイプだ。
「そっか。あっくんは立派なお兄さんなんだね。でもどうやってここまで来たの?門に居た人にお話してみた?」
「もんのひと、にぃにのおともだちだったの。だからよんできてくれるって。でもかえってこなかったからはいってみたの。
そうしたら、にぃにとにてるひとをみかけたの。だからついてきたんだけど、みうしなっちゃった…。」
門番のセキュリティザルか!!
これは見直す必要があるな…こんな幼子1人で行かすなよ。
セキュリティの穴については後で報告するとして、問題はこの子の兄だ。
この辺の部門だとしたらうちが1番近い。
とりあえず連れて行ってみるか、お菓子もあるし。
「そしたらお姉ちゃんとあっくんを探しに行こっか。1人は危ないし、早くあっくんと遊びたいもんね。」
「いいの…?おねーちゃんありがとう!」
ギュッと抱きしめられる。おおう、ぷにぷにほっぺ…至福が詰まってるこれ。
はぐれないように手を繋ぎ、道中でお兄さんもとい、あっくんの話を沢山聞いた。
大好きなんだな、お兄さんのこと。いい子だわ。
あいつにもこれくらいの可愛げがあればなと
小生意気な部下を思いながら、先程出た部隊室のドアを開ける。
「ごめん。誰か居る?適当に茶菓子の用意してくれないかな。」
「あれ、隊長じゃないですか。どうしたんですか、お早いお戻りで。」
私が片付ける予定だった書類片手にコーヒーを啜っていたのは、先程思い浮かべていた部下だった。
「なんで居るの。なんで仕事してるの!休めっての!」
「不調者多いから、アンタが全部仕事引き受けてそうだなって。あーあ、帰ってくる前に終わらせる予定だったのに。」
この部下と来たら…!年下は余計な気を回さんで宜しい!
ここまで来たら本当に縛ってやると実力行使に出ようとしたとき
「にぃにーーーー!」
「おぇ?!ローザ!なんで1人でこんなところに居んだよ?!」
「あのおねーちゃんがつれてきてくれたの!早くにぃにと遊びたいねって。」
…ということは
「うそ、あっくん?!?」
気付いた時には遅かった。
つい、先程まで話していた愛称で呼んでしまった。
後悔時すでに遅し。
呼ばれた目の前のあっくんは可愛くない笑みを浮かべ
「はい、あっくんですよ♡やっぱ可愛いとこあるじゃないっすか隊長?」
全く可愛くない部下だよ本当に。
あぁ本当に今日はツイてない!




