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魔法石喜譚〜悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻〜  作者: 抹茶
第1章 悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻
6/21

第2話 邂逅、特攻、妥協より棚ぼた

「おお、金持ってそ~」

次の日、異邦人対応担当者の“コクヨウ”という人物に会うためエンジェと私で魔法学院アルカディアを訪れた。

ルリがエンジェにくっついて離れなかったので、正確には2人と1匹だ。1羽か。

ちなみに、昨日あの時計台を見たとき結構距離があったから学院まではどうやって移動するのかなって思ってたけれど、その疑問はすぐに解消された。

移動式の魔法陣というのがあって、まずその中央に専用の石を置く。そしてその石にエンジェが魔力を込めると、瞬きをしているうちに目的地まで移動完了していた。

便利だな~遅刻とかしなさそう。

そうして学院まで気軽にやって来て立派な門を潜り抜けた先に現れたその建物に、私は思わず先ほどの声を漏らしてしまった。


でも本当にすごい。学院と聞いて、私がもうすぐ通う予定だった高校や、今まで通っていた中学、漫画やドラマで見る学校……いろんな建物を思い浮かべたけど、どれもかなわない。

私の通っていた中学や、もうすぐ通う予定だった高校の何十倍も何百倍も広い。しかも豪華だ。

そもそも日本人が“学校”とか“学院”と言われて想像できる物じゃない。

城だ。洋風の。なんちゃらベルン城とかどうたらシュタイン城的な。

白くてでっかい豪華で大きな城が立ちはだかって他を見えなくさせるようにして目の前に立っている。それが学院アルカディアだった。

城、ではなく学院内に入ってからずっと、柱が何本も立っている、石のタイルが床に張り巡らされた廊下ばかりを歩いていた。

柱の一つ一つに植物だったり動物だったりの模様が彫られていて歩いて鑑賞する分には退屈しないけど、ここに来た目的は美術品鑑賞じゃない。

そういえばさっきからずっとエンジェに先導されて廊下を歩いてきてるけど、その“コクヨウ”って人、どこに行けば会えるのかな。



「本当にそれで良かったんですの?」

ぼんやり考えていたら、隣に居たエンジェからそう声をかけられた。

眉を顰めて難しい顔をしている。音で例えるなら“じと~っ”と私の方を見ている。

視線の先には私が今着ている服――メイド服があった。

これはエンジェから貰ったものだった。


そもそもの話、それは昨日に遡る。

2日連続で同じ服を着ているのも忍びないと、エンジェは私に服を譲ってくれると言った。

それは本当に助かる。凄くありがたいんだけど――でもあれだよね。人って好みそれぞれで、似合う似わないもそれぞれで。

ブルべ冬にブルべ夏の似合う服は合わないっていうか。

エンジェの持っている服が尽く似合わなかったんだよね、私。

あとエンジェの持っている服はコルセットが必要なものばかりでキツい。

買い物に行く手もありますわよ、とは言われたけど私はここの通貨とか持ってないわけで、エンジェに払ってもらうしか無いわけで……流石に申し訳なさすぎる。


というわけで他に無いかと探したところ、出てきたのがこのメイド服だ。

黒いワンピースに白のエプロン。

メイド喫茶やコスプレで見かけるメイド服と形は同じだけど、触りごごちが柔らかくて金持ちの家はメイドの服まで金がかかっているということを知った。

スカートの丈も膝よりちょっと長いくらいだし、使用人の衣装なので動きやすさ重視でコルセットも必要なくって、丁度いい。

胸元には赤いリボンと、水色の石でできた小さな花の形をしたブローチ。

着る時は何も着いてない普通のリボンだったんだけど、私が着終わったときにはもう付いてたんだよねこのブローチ。


どうやらこの石は、エンジェの家、ハイドライド家の象徴である石、らしい。

『私が10の頃まで……昔は、父と母もこの屋敷で暮らしていて使用人もいましたから、その時の制服がそのまま残っているのですわ。その石もその時に魔法をかけられたのでしょう。毎日自分で付けるより魔法で付くようにしておいたほうが楽ですから』ともエンジェが言ってた。

その話から読み取るとエンジェは10歳くらいからずっと1人なのかなと……こういうのって事情とか詳しく聞いてもいいなのかな~でもあんまり言いたくなさそうなんだよな~…。

ということで無理に言わせることじゃないから深くは聞いてない。

ただ、ついでに年齢をちゃんと聞いた。私と同じ15だって。

つまり5年間は1人……?ルリは置いとくとしてだ。その間、その使用人とかは居てくれなかったのかな……なんてしんみりしてたら察しがいいのかあの鳥、私の手を突いてくる。何アイツ。

ともかく、同い年ってわかったのは何か嬉しい。

親近感というかお揃いというか……うん、ともかく嬉しい。

という私の諸々の思考と感想は置いといて、ブローチは魔法がかかっていて取り外せないらしい。

エンジェが魔法を使って取り外そうとしたけど強い魔法がかけられていてまだ学院で正式な魔法を習ったり魔力を高めていない状態のエンジェでは取り外せないらしい。結局『このままでいいじゃん、結構かわいいし』という私の意見が通り、付けたままになっている。

「学院に行って魔力が高まったら一番に解除呪文を使いますわよ」というのがエンジェの主張だ。

別に可愛いからいいんだけどな~まぁ、いっか。


そんな事情で私は今、黒のクラシックなメイド服と、その上に最初から着ていたマウンテンパーカーを羽織っている状態だ。季節は日本と一致しているらしく春先でまだ肌寒いからこの服装で丁度いいくらいだ。着ていてよかった、パーカー。

ついでにメイドと同じく置かれたままになっていた革靴も貰った。編み上げのブーツになっていてなかなか可愛い。

いえー。やったぜ。

――というわけで私はこの恰好をわりと気に入ってるんだけど……


エンジェはずっと不満気だ。


「不満気、じゃなくて不満ですのよ」

口に出していたみたいで、じろりと私を睨んでくる。

ここにきて私も、もしや……と察した。私はわりと鋭い。

「もしかしてそんなに似合ってない?この服。隣歩きたくないレベル?」

服って自分がわりと似合ってる!と思っても実はそんなに……みたいな状況は往々にして起こりうることだ。

そう思って客観的視点を聞いてみたけど、エンジェはため息を吐きながら首を振った。もしかしてちょっと呆れてない?

「そういう話じゃありませんわよ。見られ方の問題ですわ。使用人用の服を着て、その胸元にはハイドライド家の象徴である水色の石――どう見たってうちで……いえ、私と“主従契約”を交わした使用人と思われますわよ」

「いいじゃん、雇っても――むぐぅ」

というか私はまだどうやって生きていくか決まっていない。雇ってもらうと助かるけどな~みたいな軽い気持ちの私の言葉は最後まで言わせてもらえなかった。

エンジェの白い指が私の唇をそっと抑えた。喋れない。

「あまり考えなし言うものでもありませんわ……まぁ主従契約のことも説明しないまま私1人で勝手に怒ってるのはおかしいですわね」

そう言ってエンジェは足を止め、私に向き直った。

広く長い廊下は行き止まりに差し掛かり、右側と左側で廊下が分かれている場所だった。そのどちら側を見ても同じような廊下が続いていた。

どこにも人が歩いていないのを確認してエンジェは続けた。

「ほんの少しだけ、お話ししますわ。主従契約というものを」

「主従契約……って普通に使える人と仕えられる人のお仕事の契約ってことだよね」

それなら私が住んでた世界でも普通にあることだ。

「いいえ、おそらくアイが考えているのは通常の雇用契約ですわ。雇用契約は通常書面の交付で完了しますが、主従契約はある儀式を行います。契約が完了するとそれを行うと――」

「行うと?」

「従者は主人の所有物になります。使い魔と同じ扱いですわよ、つまり、物として扱われる。要らなくなったら捨てられる。全て主人の匙加減。石は契約の証であり具現化――首輪みたいなものですわ。その石が契約そのもの。主従契約なんて人間同士で結ぶ使い魔の契約。軽く了承していいものではありませんわ」

「あ、もしかして心配してくれてるの?」

つらつらと説明していくエンジェの強張った表情を見て、ようやくそれに思い至った。

エンジェはバツが悪そうに視線を逸らせながら小さく頷いた。頬がほんのりと赤い。

「決まってるでしょう、友人を支配下に置く趣味はありませんわ。同じように主従契約を結んでいない使用人にするのも嫌。友人に食事の用意や明日着る服を用意してもうらう気もそのことにお金を支払う気もありませんから」

そう聞いて心がほんわかと温かい気分になる。そっか私が“利用”って言葉を嫌がった理由と同じなんだろうな。

じゃあ、そのエンジェの意思を汲んで、このブローチ(石)はエンジェがとれる用になったら取ってもらおう。

意志と石をかけたスーパーおもしろギャグだよ。

ただ、ちょっとその説明で気になることがあった。せんせー質問です。

「でもさぁそれって仕える側のメリットあるの?」

契約結んで主人の言うこと聞いて……って損ばっかりじゃん。お給料がめちゃくちゃいいとか?

「メリットは確かにありますが……貴方には無いも同然なんです」

エンジェは顔を歪めて言った。

「どゆこと?」

「仕えたものは魔力契約を結びます。魔力が相乗効果を起こして、主人の属性の魔力が混じる。その結果、自分の持っている以上の魔力が出せる上に主人の属性次第では自分が今まで相性の問題で使えてなかった種類の魔法も使えます。ただ掛け合わせる魔力が0では意味がありませんわ」

なるほど。

「じゃあ魔法を使えない私は――」

「デメリットしかありませんわ」

エンジェはスッパリと言ってのけた。



「――じゃあ、とりあえずコクヨウ様の方へ向かいましょうか」

話し終わると、こほん、と誤魔化すような小さな咳をしてからエンジェは言った。

「ここらへんなの?どこ?」

「ああ、すみません。言わないまま来てしまっていましたわ。ここは先生方個別の準備室、研究室とも言いますわね」

「そっか。コクヨウって人、先生って言ってたもんね」

「ええ、確か昨日やりとりした手紙に細かく場所も書いてありましたので……」

そう言ってエンジェは手紙を開けた。

私もそれを横からのぞき込んだ。


その瞬間。

私たちの上にふ、と影がさした。そして。

「その必要はないよ」

飄々とした、温度を感じさせない声が上から降ってきた。

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