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魔法石喜譚〜悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻〜  作者: 抹茶
第1章 悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻
2/21

わからないなら手をつなごう 2

ちちち、なんて長閑な鳥の鳴き声で目を開けた。

飛び込んできたのは一面の青空だった。


どうやら気絶していたようで私は地面に仰向けに倒れていた。

雲一つない真っ青な空が視界いっぱいに広がっている。

あれ、出かけたとき、空って晴れてたっけ。

もっとどんより曇ってて、傘持ってこうかな、どうしよっかな、なんて考えていた記憶がある。

急に晴れた?そんな考えは直ぐに打ち消した。

世界がどう見てもおかしい。家の近くでも横断歩道でも公園でも、さっきまでいた謎の白い空間でもない。

私は上半身を起こしてあたりを見渡した。


どうやら私が今居るのは森の中らしかった。

でも木は知らないものばかりだ。別に木の種類に詳しいわけじゃないけど、桜や紅葉くらいなら何となく判別出来る。

だけど、私の浅い知識の中のどれにも当てはまらないものだ。

上を見上げると、やっぱり空は青い。あたりには見知った建物もない。

――やっぱこれマジで異世界ってやつかなぁ。

私はぼんやりそう思った。

一番の根拠は石だ。森のあちこちに石が落ちている。

それくらいは普通だろう、と思われるかもしれないがその石がおかしい。

普通、私たちが現代日本で気軽に目にできる石は鼠色だったり、灰色だったり、白だったり。

それくらいのカラーバリエーションだろう。

でも、ここにある石は違った。きらきらと光っている。

私のすぐ近くに転がるちょっと大きめの石は水色に、少し離れたところにある石は緑色に、その他あちこちできらきらと色とりどりに輝いていた。

宝石とか天然石とか、お店で売っているそういった石が、ごつごつした形のまま落ちているみたいだった。



ちちち、とまた鳥が鳴いた。

今度は私の足元で。

その声のほうを見ると小さな小さなふわふわとした鳥が居た。

水色の羽根を持っていて、でも腹のあたりは白色のもこもこした羽根で覆われている。

目を覚ました時に聞いた鳴き声もきっとこの鳥のものだろう。

その小鳥を観察していてようやく、私はそのまま直に地面に横たわっているのではないと気付いた。

え、なんか高そうなの敷いてあんじゃん。

私は慌てて起き上がってそれを拾った。

その正体はストールだ。

薄い水色の、肌触りのよさが私には縁のないレベルの値段だと理解させてくるような高級品。

おそらく私が倒れたときに服が汚れないように、と誰かが敷いてくれていたのだろう。

正直な話、今私が着ている赤色のマウンテンパーカー、白のTシャツ、スキニーデニム、すべての値段を合算しても到底敵いそうにないようなこのストールを汚すくらいなら私の服が汚れたほうがマシだったような気がする、と思ったけれど。


流石に申し訳ないな、とストールについた汚れを払い、きちんと折りたたむ。

何処まで折りたためばいいのか分からなくてA4のノートくらいの大きさに畳んだあたりで、小鳥がちちち、と鳴いた。

その時だった。


『-------------?』

「うわ、びっくりした」


性格上激しいリアクションをとるタイプではないのでわかりにくいが、とてもビックリした。

心臓吐くかと思った。

背後から声がした。聞き覚えのある、というより先ほど聞いたばかりの声だとすぐに分かった。

先ほどの白い空間で聞こえた声だった。

私は声のするほうに振り返った。その先に居たのは――


ものすごい美少女だった。


くるくるとした柔らかそうな金髪に、薄い水色の瞳の、西洋のお人形さんのような美少女だ。

右端にリボン飾りのあるカチューシャと胸元にとめたブローチには瞳と同じ色のブローチがつけられている

のが妙に目についた。

ただ、キッと吊り上がった目つきが、性格キツそうで、クラスにいると話しかけにくそうだな、みたいな印象を受けた。

『-----、-----?』

女の子はしきりに私に声をかけていた。何を言っているのかはさっぱり分からないけれど、敵意は無いみたいだった。

「ごめん、何言われてるのか分かんない。日本語しかできないんだよ」

そういったが相手も私の言葉が通じていないみたいだった。

私は言葉がわからない、と伝えるためにぶんぶんと大きく首を振った。

女の子はそれを見てまた一言二言言ったみたいだけど、私にはそれも何を言っているのか分からない。

ふむ、と白く細長い指を桃色の唇に当て、女の子は少しの間考えこんだ。

そして、少しして。

じっと私の目を見つめた。ちょっと困ったような顔で、なんとなく『ごめんね』なんて言葉が聞こえてきそうだなと思えるような表情だった。

そして。


「おっなにこれ、百合?」

思わず気が早いことを言ってしまって私は少し反省した。

LINEにハートマークが付いていれば私のこと好きなのかな?なんて勘違いしてしまう人みたいな言動をとってしまった。

女の子は私の両手を、女の子の両手で包み込むみたいにやさしく、握っていた。

私が驚いていると、手を握った上に、ぽふん、と何か温かい感触が乗っかる。

これが先ほどからちちちち煩い小鳥だった。焼き鳥希望か?手の上でフンしないでね。


なんだこれ、と思って女の子を見ると、目が合った。

水色の宝石みたいな目が私をまっすぐ見つめた、その時。

ふ、と目元を緩ませ女の子は笑った。

まるで、大丈夫だよって言うみたいに。

その目を見て私は全身の力が抜けリラックスするのを感じた。

キツそうって言ってごめんね。今は天使みたいに優しそうで可愛く見えるよ、いや実際本当にかわいい顔してるんだけど。

なんて謝ってるのかなんなのかわからない言葉をかけようとしたけど、伝わらないことを思い出して口を噤んだ。


女の子は何か、言葉を話し始めた。

それは私に話しかけているというより、唱えているような喋り方だった。


『---------、------------』

女の子の言葉は、徐々に変化していっていた。

ちょっとずつ、ちょっとずつ。

女の子の言葉の中から、聞き取れる部分が出てきた。

びっくりしてあ、と声を上げそうになったけど、女の子の集中を切らしたらダメかもしれないと思い我慢した。


『-------、てを以て、--------白の魔法の-------------』

ゆっくり、ゆっくり、欠片ずつ言葉が通じてきた。

これ魔法詠唱ってやつ?マジ異世界じゃん。

いや、多分異世界だったわここ。

私が雑念にとらわれている間にもう彼女の言葉はもうほとんど聞こえるようになっていた。


そして、この言葉がはっきり聞こえた。


『エンジェ・ハイドライトの名に於いて、施行せよ』

その言葉を言った瞬間、彼女の胸元のブローチがぴかぴかと光を放った。


「うお、まぶしっ」

思わず声をあげてしまう。

手を繋いでいるので光を手で遮ることが出来ず、ぎゅっと目をつぶった。

暫くして「もう大丈夫ですわよ、ゆっくり目を開けて」と鈴の鳴るような声が聞こえた。

その声に応えて私はゆっくりゆっくり目を開けた。

それから、ぱちぱちと先ほどの光のまぶしさに瞬きをしてようやく女の子の顔を見た。

それとほぼ同時に繋いだ手から小鳥が降りた。あっ軽くなった。アイツ結構重いな。

女の子は私と握っていた手を離すと、ほんの少し微笑んで言った。

「良かったですわ、お怪我はありませんこと?」



私は思わず唇をきゅっ、と噛み締めた。

そうしないと思わずどうでもいいような感想を溢してしまいそうだったからだ。

言葉が理解できるとしみじみと思う。

私は心の底からこの感想を抱いた。


――めっちゃお嬢様じゃんこの人。ですわって言ってる。

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