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魔法石喜譚〜悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻〜  作者: 抹茶
第1章 悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻
17/21

邂逅、特攻、妥協より棚ぼた  12

「いらっしゃーい、そろそろ来る頃だと思っていたよ」

コクヨウ先生の部屋に入ると、先生は足を組んでソファに座り、爽やかに胡散臭い笑顔を私達を出迎えてくれた。

すぐそばのローテーブルには、カップが3つ置かれている。淹れたばかりなのかそのカップからは湯気がたっていた。

清涼感のあるハーブの匂いが私の鼻まで届いた。



「そういえば、これソーダフラワーが入ってますわね?」

ソファに座るなり、エンジェはハーブティを指差した。

「ああ、やっぱり分かったかい?」

とコクヨウ先生は笑った。

え、こんなに美味しいのに?あのヤバい聖水の主成分が入ってるの?飲んで大丈夫なやつ?

「ソーダフラワーはアレンジの仕方によっては美味しくなりますわ。そもそも私の作った聖水は対魔力の物質を混ぜすぎた結果、謎の超反応を起こしてあの味になっただけですからソーダフラワーのせいではありませんわ」

私が警戒心を剥き出してティーカップを見つめていたのに気付いてエンジェが説明をしてくれた。

「ヤバいじゃん、聖水。あ、そういえば正気に戻った理由はそのハーブティーだって言ってたね」

「そうですわ、誰かから貰った……?あれ?」

突然エンジェは不思議そうな顔を浮かべた。

それからティーカップを抱え込んだまま、じっと黙り込んでしまった。

え、急に何?

声をかけてもいいのか悩んでいたら、ばっとエンジェが顔を上げた。

「コクヨウ様……いえ、あれ?コクヨウ兄様がハーブティをくださったの?あれっ?」

兄様?

エンジェは不思議そうな表情で何度も目を瞬かせている。

「あはは、思い出した」

エンジェが黙り込んでからその様子をじっと見守っていたコクヨウ先生は、その言葉に楽しそうに微笑む。

えっ何?どういうこと?っていうか兄様?エンジェ、ここに来て急な妹キャラ属性を付与。

「なぜ私は今まで忘れてたのでしょう……コクヨウ兄様は父の知り合いで、私が小さい頃はよく遊んで貰っていたのですわ。あの屋敷で1人になってからも時折お手紙やご自身で作られたハーブティなども送ってくれて……」

「めちゃくちゃ仲良くないそれ?」

でも公的な場以外じゃ会ってない、記憶にないって今日言ってた気がするけど……。

「そう!コクヨウ兄様は仲良くしてくれていたのです、私もまるで実の兄みたいに思って懐いて引っ付いていて……何故、こんなに大切な事を忘れていたのでしょう……?」


「……ボクの考えでは、かけられている魔法は大きく2種類に分けられる」

エンジェの疑問には答えないまま、コクヨウ先生は指を2本立てて私達の前に示した。

「1つ目は見てきただろう?その人間の言動を操作する魔法。というより何か決められた役割の為に都合よく人間を操作する魔法だ、とボクは認識している」

私がさっき見てきたばかりの魔法だ。

高飛車な、彼女らしくない態度をとっていたエンジェの事を思い出して私は頷いた。

これが1つ目、と言いながらコクヨウ先生は立てていた指を1本下ろした。


「2つ目は、記憶を操作する魔法だ」

「記憶操作、ですか?では、私がコクヨウ先生のことを忘れていたのは……」

コクヨウ先生は頷いた。

「恐らく、この魔法のせいだろう。どうもこの2つ目の魔法が厄介でね。1つ目は抗魔力性のハーブーー代表的かつ手に入りやすいのがソーダフラワーだねーーや防御魔法である黄の系譜魔法を使って対抗したりとなんとか消し去る事が出来る。だが、こっちの魔法はそうもいかない。恐らく1つ目よりもっと強力な魔法がかけられているんだ」

確かに聖水を飲んだ途端、コクヨウ先生のことを思い出してもいいようなものだけどエンジェにその様子は見られなかった。

ここに来て、じわじわと染み込むみたいに思い出していってた、気がする。

「どうしてそんな魔法を……?」


「推測だが1つ目の魔法を強化する為じゃないかな。もし人を操っていたとしても『この人はこんな人じゃない』と怪しまれれば何かしら対策は取られてしまうからね。それと……エンジェ、君は今まで“君”だった時の記憶と“君じゃない時”“魔法がかかっていた時”の記憶、どちらをよく覚えている?アイ、君はどっちだと思う?」

コクヨウ先生が優しく問いかけてくる。

まるで授業で分からない問題の解説でもされているみたいだった。

「普通、自分だった時の方、じゃないんですか?」

私は授業中に発言するみたいに、手を上げてから答えた。

こういう洗脳みたいなやつって漫画とかだと『操られてたけどその時のことは私よく覚えてないわ』みたいなのがセオリーって感じだもん。

「ああ、その通り。こういった相手を操る魔法は黒の魔法系譜で存在するが、種類としては2つに分けられる。1つは相手の意識を奪った状態で操るもの。これは操る相手よりも魔力が弱くても条件さえ揃えばかける事が可能だ。特徴としては相手は操られていた時の記憶が殆ど残らない。意識が無い時のことだからね。寝てる時の寝相や寝言なんて自分じゃ覚えていないだろう?それと同じことさ」

コクヨウ先生はここで区切り、ハーブティに口をつけた。

「ーーもう1つは、意識がある相手の身体を無理やり操る場合だ。これは相手より強い魔力持った人間しか使えない。単純に相手にやり返られるからね。この場合、操られている相手の意識はどうなる?」

「残りますわ。意識がある状態ですからね」

「ああ、その通りだエンジェ。で、君の記憶はどうかな?」

「……“私じゃない”時の方が記憶は鮮明ですわ。“私”であった時の記憶はむしろ朧気なことの方が多いです」

「やはり、そうだろうね。ボクの場合もそうだったからねーー“自分”ではない行動をし、“自分”じゃない記憶のみが存在する存在。それは果たして“自分”と言えるのかな?」

私もエンジェも何も言葉を発する事が出来なかった。

エンジェは自分じゃない時にしてしまった無礼をアルヴィンに謝ろうとした。

でもそれは“自分”がしてしまった事を、というよりも“自分ではない存在”であっても“自分の身体”がしてしまったから責任をとる、といったふうだった。

だから、少なくともエンジェはこの人格の事を“自分”とは思っていないんだろう。

もしエンジェがずっと“自分”として過ごした記憶ーー例えばコクヨウ先生との思い出ーーを思い出せないままで。

ずっとあの性格のままだったら。

それは、その状態はーー“エンジェ”だと言えるのかな。


「魔法をかけた人間が誰で、何が目的なのかわからない。でも、ボクは思うんだ。ソイツは、僕らの“人格”を追い出して僕らの身体だけ使って劇でもしたいみたいだ、ってね」


コクヨウ先生の静かな言葉が部屋に響いた。

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