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魔法石喜譚〜悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻〜  作者: 抹茶
第1章 悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻
15/21

邂逅、特攻、妥協より棚ぼた 10

そこからの話は早かった。私たちの心はすぐに決まった。


――もう二人だけで考えてても行き詰まるし、コクヨウ先生のところに行こう――


「だってあの先生絶対なんか知ってるもんね」

「すっごく思わせぶりな態度でしたものね」



「それにしても飲んだのが1本だけで済んで良かったですわ。本当はあと1本聖水を飲む必要があったのですわ」

「まだ飲む気だったの!?」

あのクソまずいものを?

びっくりして思わず大声をあげてしまう。

「追い聖水をしないと完全には自分を取り戻せないのですわ……本来ならの話ですが」

ほら、とポケットから取り出して、私に手渡した。

確かにあの聖水そのものだ。

初めて見たときは透明のなんの変哲もない液体に見えたけど味を知った今じゃ禍々しさすら感じてしまう。

そういえば。

「今まではどうやってたの?聖水をエンジェに飲ます人が居ないんじゃずっとこのままじゃない?」

今回は私がエンジェに飲ませたけど、あの時のエンジェは聖水のことを忘れていた。

忘れてるのにどうやって飲んでるんだろう?

「ああ、それは家のありとあらゆるところにあの聖水を仕掛けてあるんですわ。いつものお茶かと思ったら聖水。作っておいたシチューの中に聖水。という風にあらゆる自分口にしそうな食べ物に聖水を紛れ込ませてあるのですわ。そうすれば何時かは“私”に戻る。そうしたらもう1本追い聖水で止め。だからアイが台所で何か食べる時は注意なさってね、この聖水が混じってたりしますわよ」

マジで。

台所行くときは絶対に本当絶対にエンジェに確認しよう……。

「でも、もしかしたら、アイが居てくれたら聖水は必要なくなるかもしれませんわ」

「えっなんで?」

不思議に思って問い返すとエンジェの方も不思議そうな顔をした。

「あれ?気づきませんでしたの?私、聖水を飲む前に正気に返っていたいたんですわ、アイが手を握ってくれた時ですわ。それでも飲んじゃいましたが……一応制止しましたのに……まぁアイが居なければいずれ飲む必要があったので別にいいのですが……」

エンジェがげっそりとした顔をする。

え、そうだったの?ごめん全然気付かなくて勢いよくエンジェに聖水ぶち込んじゃってた。

「ともかく、アイが居たから正気に戻れた。本当に助かりましたわ。でもなんでただ手に触れただけで正気に……」

エンジェはうんうんと唸りながら考え込み始めた――のを私がストップをかけた。

とりあえずコクヨウ先生のところ行こうよ。

ずっとトイレで悩んでてもどうにもならないしね。


トイレから出て、コクヨウ先生のところへ向かうための廊下を歩いていくと、数メートル先の曲がり角の向こうから音が聞こえてきた。

かつん、かつん、という足音。それと、でっかい独り言。

思わず私たちは立ち止まった。

「さっきのアイツ、どこだ……?」「俺様がせっかく探しに……」

耳を澄ますとそんな声が聞こえてきた。

声になんとなく聞き覚えあるような声のようなそうでないような……。でも一人称俺様の知り合いは居ないし。

「おそらくアルヴィン様ですわ」

ああ、あの人。

悩んでいたらエンジェが言った。曲がり角の向こうに居るアルヴィンに聞こえないように小声だ。

……別に本人の勝手だけど自分のこと俺様って言う人あんまり居ないよね。少なくとも日本の現実世界には。

この世界では割と多いのかな。

「俺様という呼び方はアルヴィン様しか使っているところを聞いたことがありませんわ。だから恐らくアルヴィン様ですわ」

あ、そう。こっちでも珍しいのか。

って話がズレた。そのアルヴィンは誰か探してるっぽいけど……。

「もしかしてエンジェを探してる?」

あの状況で無理やりエンジェを引っ張って行っちゃったし。

「いえ、アルヴィン様は私に興味は無いでしょうしそんなはずは……でも、これはアルヴィン様に謝罪するいい機会ですわ」

「謝罪?なんの?」

「私が今まで働いてきた無礼の数々への謝罪ですわ。ずっと謝りたいと思っていましたの。今日だってアルヴィン様や他の方はお昼を食べに来ていたのにあんな長話で足止めをしてしまいましたわ。きっと一刻も早くおいしいご飯を食べたかったでしょうに……お腹を空かせた状態であんな立ち話を……」

エンジェはしょんぼりと言った。

なんかちょっと申し訳なく思うポイントがズレてる気がする。

「今までは謝れなかったの?」

「ええ、さっきも言いましたが自分で聖水を飲むためには、自分の家のありとあらゆる場所に聖水を配置して偶然飲むように仕向けないといけなかったのです。つまりお茶会や会合であの態度を取ってしまっても、正気に返るのは絶対に家の中ですわ。手紙で謝ったとしても会えばあんな態度なのですから……“悪役”と言われてしまうのも仕方ないですわね」

エンジェは最後の方はさらに小さな声でしんみりと言った。

そういえばちらほら“悪役”ってこそこそ言われてたけど、エンジェのあの時の態度が小物の悪役っぽいってことなのかな……?

「でも今回は学校ですぐに正気に返ったから謝ることが出来ますわっ」

エンジェは握りこぶしを作り、力強く私の目を見て言った。

まぁ、エンジェが謝りたいっていうなら止める理由は私には無いよね。


「ですが問題が一つ」

「え、何?」

「私はアルヴィン様や他の方に会うとあんな風におかしくなるのですわ。聖水を何回飲んでも顔を合わせてしまえばまたふりだし」

ということは……。

「会ったら、また?」

じゃあ、反対方向に逃げちゃう?いいじゃん、謝罪なんて。

でも私の提案にエンジェは首を振った。

「それも考えられます。ですが、何とかなる可能性がありますわ……言ったでしょう?アイに手を握ってもらったら意識が戻ったって」

確かに言ってた。つまり。


「私とこうしてたら、ずっとエンジェのままで居られるかも?」

そう言いながら私はエンジェの白くて小さな手をそっと握った。

「なんだか、あの、これ照れますわね?な、仲良しみたい」

エンジェはほほを赤らめ、視線をあちこちに彷徨わせていた。

狼狽えるエンジェは面白い。

私が「仲良しじゃないの?」と聞くと「そ、そうですわね……」と呟いた後エンジェは何かごにょごにょとさらに小さな声で言っていた。

相当照れてるみたいだ。かわいい。



「で、では行きますわよ!」

にやにやしている私に気付いたのかエンジェが声を上げた。


ぎゅっ、と私の手を握り返しながら。

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