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魔法石喜譚〜悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻〜  作者: 抹茶
第1章 悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻
13/21

邂逅、特攻、妥協より棚ぼた 8

とりあえず走りだしてみたはいいものの、どこに行けばいいのか分からない。

とにかく、一旦落ち着いて話が出来るところを、と思って廊下を走っていると、扉の無い入口が隣り合って二つ。

何か分からないけど、変に扉を開けて知らない教室に行ったり其処の人たちにかち合うより、ここを一回覗き込んでみた方がいいだろう。

とりあえず私は手近な左側の入口に入ろうとして「そこっ男子トイレですわよっ!?」エンジェが叫んだ。

なるほど、ここトイレか。

というわけで、私たちは右側の入口、女子トイレに入った。



女子トイレの手洗い場に辿り着き、握っていたエンジェの手をぱっと離した。

途端、エンジェに食って掛かられる。

「なんですの、貴方!庶民の分際で、ハイドライト家のエンジェ様に刃向かうって言うの?身の程を弁えなさい!」

どうどう。

何とか落ち着いてくれないかと思って手で諫めてみても興奮は鎮まらないみたいだった。

というか。

「きーっ!このワタクシに家畜をなだめるみたいな仕草を!!」

ちょっとヒートアップしてしまった。

基本的に落ち着いているエンジェがこんなにきーきー叫んでるのって不思議な感じだ。


私はこのエンジェだけどエンジェじゃないみたいなエンジェに聖水のようなものを飲まさなきゃいけないんだよね。

出来るかな……。

「まぁまぁとりあえず、これで一服」

とりあえず物は試しだ。

私はエンジェの目の前にとてもさりげなく、スマートに小瓶を差し出した。

「なんなんですの急に!?こんなところまで無理やり引っ張って来た女の出したものなんて飲むわけないですわっ!」

駄目だった。

危うく小瓶を叩き落とされそうになったので慌てて、差し出した手もひっこめた。


うーん、エンジェは警戒して飲んでくれそうにない。

無理やり飲ますにしたって今のまま正面からしても抵抗されて小瓶も割られそうだし……。

ルリが小瓶を抱えて口の中に突っ込んでくれたら行けるかな、と考えたけど、エンジェ口小さいし。

ルリも何か察したのか私達の傍を飛ぶのを止めて、トイレの天井スレスレを飛び回っているからこの手は使えそうにない。


とりあえず、警戒を解くのが先かなぁ。でもどうやって解けばいいのかな。

15年間生きて来てめちゃくちゃキレてるご令嬢の警戒心を解く経験なんてしたことがない。

というか人の警戒心を解く機会が無い。平和な現代日本で普通に生きてればあんまりないような気がする。

少なくとも私は無かった。

私は悩んだ。そして思い出した。

私がこの世界、この国、ラピスに来た時のこと。知らない場所で平気なふりをしててもやっぱり心の奥底で不安だった時。

その時のことを思い出した。


「エンジェ」

「な、なんですの――!?」

私はエンジェの手を優しく包み込んだ。

暴れて拒絶されるかと思ったけど、急なことで驚いたのかエンジェからの抵抗は無かった。

私が、この世界に来た時、何もわからなくて言葉も通じなかった私の手をエンジェが優しく包んでくれたから。エンジェが優しく微笑んでくれたから。

私はすっごく安心したし、その瞬間からエンジェのことが大好きになったから。

これでほんの少しでも今のエンジェが安心して警戒を解いてくれたらいいのにな、なんてあまり深く考えていない行動だった。

でもちょっとだけ効果があったのか、単純に狼狽えているのか、エンジェは黙り込んで大人しくなった。

ただ、じっと下というか私が包んでいるエンジェの手を見つめているので、聖水を勧められないし無理やり飲ますのも難しい。うつむいてるから零れる。


どうしようかな、どうしたらいいかな。と私は考えた。

そういえば、私がエンジェと最初に会った“あの時”はエンジェが魔法を使ってくれたんだよね。

おかげで言葉が通じるようになった。

今回も魔法でなんとかならないかな――なんて、事をほんのちょっぴり思った。

エンジェを正気に戻す魔法!みたいな。


そんなことを考えた瞬間。


天井からちかっ、と眩い光が差し込んだ。一瞬だったけど。

もしかして蛍光灯の電池が切れかかってるのかな。

あれ?この世界って蛍光灯だっけ?なんて疑問も出てきたけど、構っている暇は無かった。

「あれ、さっきの……え、私――」

エンジェがさっきの光に反応して顔を上げた。


今だ。


「それっ」

「えっ、ちょっ、待って、アイ、ちょっと――あああっ」

私は何やら叫ぶエンジェの口に思いきり聖水をぶちこんだ。

よし、成功。

「うえっごほっげほっ、は、鼻に入りましたわっ!」

勢いあまりすぎたせいか、エンジェはすっごく噎せ込んでいる。

でもこれじゃ元に戻ったのか分からないな。


「味どんな感じ?」

とりあえず試しに声をかけてみる。

「クソ不味いですわよっ!おえっうっげほっ」

エンジェは叫んだ。

そう叫ぶなり手洗い場の蛇口をひねり、水で口を濯ぎだした。

聖水の味のせいか必死になりすぎててエンジェが元に戻ったのかよく分からない。

聖水よく分からないものばっか入れたって言ってたしね。

やっぱいろんな色のもの混ぜたのに打ち消しあって透明になるなんて絶対ヤバいやつだよね。

でもこんだけ苦しんでるのを見ると味にちょっとだけ興味がわいてくる。

怖いもの見たさっていうか。

私、たまに企業が出してくるヤバい味のアイスとかカップ焼きそばとか試したくなるタイプなんだよね。


というわけで、一口。

小瓶に残っていた雫をひと舐め。

「うわっ!クソ不味っ!!」

辛いスープに生クリーム混ぜてドブにぶん投げたみたいな味する。つまりはドブ味。


私はエンジェと同じように慌てて蛇口をひねり口を濯いだ。


ここ、トイレでよかった……。







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