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魔法石喜譚〜悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻〜  作者: 抹茶
第1章 悪役令嬢役の隣でメイド服着て特攻
12/21

邂逅、特攻、妥協より棚ぼた 7

私がエンジェと居た時間は短い。

今日を入れてたったの2日だ。


でも私は、エンジェのことを思慮深くて優しい人だと思っている。

大声を出したりべったりと誰かにくっつくのは苦手な方なんだと思っている。

それでも触れ合おうとするとすぐに頬が赤くなってしまう、可愛い部分があると思ってる。

違う。思ってる、じゃないな。


私の知っているエンジェはそうなんだ。


だから、私は。

今、1階にいるエンジェが本物のエンジェだと信じられなかった。


「アルディン様、お会いできて光栄ですわっ」

「だって私のお屋敷に全然来てくださらないんですもの」

「ね、よろしければ一緒にテラスでお茶しませんこと」

甘えた、食堂中に響く声で、他の視線をけん制するかのように言う女の子は、本当にエンジェなんだろうか。

エンジェが話しかけている人――生徒会長、アルディン・ガネット――はエンジェのことを目に見えて『興味がない』というふうに扱っている。

2階から見下ろしているとそんな光景がはっきり見えた。

エンジェが一歩近寄れば一歩離れて。

エンジェがその手をアルディンの腕に絡めようとすると、さりげなく避ける。


これが、エンジェの言っていた“魔法”なんだろうか。

私は混乱していた。

これは本当にエンジェなのだろうか。

ぞんざいに扱われてもなお近寄ろうとしているエンジェを目にしているのが辛かった。

思わず1階から目を逸らすと、隣に居た先輩と目が合った。

先輩はそれを説明の要求だと捉えたみたいだった。



「ああ、あれが今年入学のエンジェ・ハイドライトさんね。アルディン様の婚約者」

さっきまで熱がこもった説明をしていた先輩が突き放すような冷たい声色で言った。

「婚約者……?」

それってつまり将来結婚をする人のことだ。

エンジェ、結婚するの?いつ?

せめてそれくらい言っておいてくれても、なんて場違いな寂しい気持ちが湧いてくる。

「でも、あの様子じゃ、噂通りハイドライト家が無理を言って結んだ縁談みたいね」

なんて、今まで楽し気に生徒会の人たちを見てはしゃいでいた、小動物みたいな可愛い先輩に似合わないような、冷酷な目で1階を見下ろしながら言った。



「離れていただけますか、ハイドライト嬢」

そんな声が1階から聞こえた。

アルディンの低く堅い声が食堂に響いた。

しん、と食堂中が水をうったように静まり返る。

アルディンはただそれだけ冷たく言って、エンジェから距離をとった。


それだけならよかった。

だが、その男は。

まるで汚いものに触られていた、とでもいうようにエンジェの触れていた箇所を手で払った。

周りも、それを見てくすくすと笑い声をあげる。


――やっぱり

――婚約者と言っても形だけなのね

――偉そうに、あの女


1階の人だかりから。2階から。

あちこちでそんな、ひそひそとした声が聞こえた。

全てがエンジェを見て、嗤っていた。


そんなことなど気付いていないようにエンジェは笑顔を浮かべて、アルディンに追い縋るように近寄って行った。


私はその光景に頭を思いきり殴られたかのように打ちのめされた。

――こんなの、見たくない

自分が好きだと思った人が、優しいと思った人が、嗤われるのが嫌だった。

思わずこの場から逃げ出そうとした。


その時だ。


私のすぐ傍でルリが鳴いた。

そこで夢から覚めたみたいに我に返った。


何をしているんだ私は。なんで一人で逃げようとしたんだ。

これは、魔法かもしれない、って思ったなら。

エンジェがおかしい、と思ったなら。


――自分がすべきことを、やらなくちゃ。

顔を上げた私を見て、ルリはまたひと鳴きした。

まるで『その通りだ、行け』なんて後押しされている気分だった。


そこからはもう、やることは決まっている。


私は急いで階段を駆け下りた。

2階から突如走って降りてきた私に人だかりは驚き、2、3歩退く。

そのおかげでこの中心まで難なく辿り着いた。

私はエンジェの腕をひっぱった


「おじゃまします!全員バーカ!!性格クソ野郎共!!」

むかむかとしていた気持ちを思いきり大声で吐き出すと、全員呆気にとられたようにぽかん、とした顔をしていた。

アルディンも、エンジェも、だ。

なんだか、スッキリ。


「エンジェ持って帰ります!さよならっ!」

そう言って私はまだ事態が呑み込めてなくてぱちくりした顔をしたエンジェを引っ張ってその場を走り抜けた。

急に叫んでエンジェを引っ張って出て行ったからだろう。

背後で私を呼び止めようとする声が聞こえたけど、無視した。



「あ、貴方なんですのっ!?」

「無礼ですわよっ」

「庶民がワタクシに触らないでっ!ちょっとっ」

「聞いてますのっ何処に行くんですのっちょっとぉっ」

「ねぇっちょっこの鳥つつくっ痛いってばっ」

我に返ったらしいエンジェがらしくなくぴーちくぱーちく喚いていたけど無視をした。

ルリは何故かつんつくとエンジェを突いていた。


私は走りながら思い出していた。

いつもどおりだった頃のエンジェのお願いの事を。

『頑張って、このお肉一切れ上げますわよ』

違う。もうちょっと前だ。

『私の様子がおかしくなったら適当に此処から連れ出して私に飲ませてください』

そうこっちだ。

私はこの言葉を思い出しながら、パーカーのポケットにしまっていた小瓶を取り出し片手で強く握った。


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