邂逅、特攻、妥協より棚ぼた 6
「まず一番後ろにいらっしゃる清廉な黒髪の方がヴァン・ヴォーダイド様!」
そこに居たのは緑ががかった黒髪の細身の少年だった。
「緑の魔法の名家ヴォーダイド家の御子息。今年の春から入学にも関わらず他の生徒会役員、教員の推薦により生徒会入りが確定している優秀な方よ。4月からの役職は書記のようよ」
他の4人とは一歩引いた場所に立っていてどこか冷めた雰囲気を感じる。
この人だかりのことなんかまったく気にしてない風でぼんやりと空を見ていた。
「あちらの絹のような金髪の優美な方がシトリン・クォーツ様」
柔らかそうな肩より少し長い金髪を緩く後ろでくくっている男の人だ。
「黄色の魔法の名家、クォーツ家の本家の四男よ。どんな方にもお優しくって博愛精神を持った素敵な方よ。去年から引き続き会計をされる予定よ」
去年からってことは少なくとも私達より1個は先輩の人なのか。
確かに、博愛主義と言われるだけあって、周りを取り囲むギャラリーたちにも何やらにこやかに話しかけたりと愛想がよさそうだ。
サインにも応じている。サイン?アイドルか何かみたいな扱いだ。
この人の手首にいろいろなブレスレットが付けているのがなんとなく、目についた。
なんかチャラそう、というのは関わったこともないのに失礼かもしれない。
「シトリン様の後ろにいらっしゃる桃色の髪の可愛らしい方はロゼ・クォーツ様」
少し癖のあるふわふわとした桃色の髪は、ショートボブに片側だけ編み込んでいるスタイルでかわいい。
小柄な身体。ついでに着ている服は萌え袖。
この2階から見るだけでもわかる、確かに可愛い。
「クォーツ家の分家のご嫡男。控えめで本当に可憐な方よ。この4月から生徒会入りされる予定の方で役職は庶務」
嫡男、という単語でようやくその桃色の髪の人の性別が分かった。
『控えめ』という表現の通り、さっき言ってたシトリンさんの後ろにちょこん、とくっついている。
「あちらの知的で品のある長身の方が副会長のセドニー・ルーカル様」
眼鏡をかけたすらりと身長の高い男の人だ。
「あの魔法の名家にして多くの魔法研究の権威を輩出してきた名門ルーカル家の御子息でご本人もとーっても優秀な方なのよ!去年は書記をされていらしたけど今回からは副会長をされるわ」
深い青髪が涼し気で、ただ色のせいか冷たそうな印象を受ける。
でも確かに頭よさそうだ。眼鏡かけてるし。髪の毛7:3で分けてるし。
神経質そうに何度も眼鏡を直すのが気になった。
なんだか難しそうで分厚い感じの本を小脇に抱えている。
頭いいです!って全身で訴えてる感じ。
この人も少なくとも私よりも1つは先輩らしい。
っていうか。
私は地味に限界が来ていた。
紹介してもらっておいて申し訳ないけど、もう無理。
無理無理。
人多い。
限界。
急にいっぱい名前言われても覚えられん。
私人の名前覚えるの苦手なんだよ。
卒業式の日でもクラスメイトの顔の名前まだ一致しない人いたもん。
もう紹介終わっとこうよ。お願い先輩。
私の脳みその『他人の情報覚えておく』部分が暴発します。
そんな私の心の中の弱音はガン無視して彼女の説明は続いた。
「そして!あちらの精悍で端正で流麗で妖艶で優雅かつ猛々しさもお持ちの!あの方こそが5大貴族の中でも最も強大な魔力であり、ご自身も入学した時から成績トップを守り続けていらっしゃる次期国王との呼び声も高い――」
さっきまでも興奮気味に話していたけど、この人の紹介はさらに熱が入っている。
なんだ、なんだ。やけに盛るじゃん。
ちょっと連ねてる単語が矛盾してそうだけどいいの?
どんだけすごい人なんだ、その人。
「生徒会長のアルディン・ガネット様よっ!!」
先輩は半ば叫ぶようにそう言って、一番先頭に立つ、燃えるような真っ赤な髪の男を示した。
名前を言われて気付いたのか、その男は2階を見上げ、私たちの方に視線を投げた。
あの人を見た瞬間、あの男と目があった瞬間。
私は心が酷くざわめくのを感じた。
何かを思い出しそうで、“何かを忘れていること”を思い出したようで。
心の奥底から不安が広がって。
同時にどこか安心をしている自分が居た。
懐かしいようで、初めて会ったようで、会いたかったようで、会ってはいけなかったようで。
私の感情はごちゃ混ぜになって、訳が分からなくなっていた。
――気付いちゃだめだ
――知りたい
――いやだ、考えていたくない
――思い出さなきゃ
――怖い
――私が、動かなきゃ
自分の頭の中でいろいろな思いがぐるぐると渦になっていく感覚。
どうしようもなくなって、私は思わず自分の着けているピアスに手を伸ばしていた。
それが、一番冷静になれる方法だと、私は知っていた。
私の指先が、赤い石のピアスに触れる、その瞬間だった。
「アルディン様!お会いできて光栄ですわっ」
上擦った、興奮を隠しきれないような高い声。
聞いたことのないトーン。
聞き覚えのある声。
まるで知らない人みたいな声をした、よく知っている人の声。
そんな、エンジェの声が食堂中に響いた。
生徒会長とはフラグ立たないです




