第1話 わからないなら手をつなごう
気が付けば、私は道を歩いていた。
アレ、なんだろうココ。私なんでここにいるんだっけ。
私、天音アイは首を傾げた。
気付いてしまえば、なんだかこの場にいるのが奇妙に思えて、落ち着かなくなって、私はソワソワと片手で耳朶を触った。
耳につけている赤い石のピアスに当たり、指先がひんやりと冷える。これは私が慌てた時や混乱した時にする癖だ。
そうすると、全体にその冷たさが駆け巡るような気がして、私は冷静さを取り戻した。
歩きながら、私はここに来るまでの事を思い出していた。
そうだ、私は散歩しようと思っていたんだった。
明日から高校生になるんだと思うと、ありとあらゆる人に「何考えてんのか分かんない」と言われる私であってもソワソワと心が浮き足立ってくる。
何かしていなくちゃならない気がするんだけど、もう準備は終わってしまったし。
「明日の髪型どんなので行く?」とか「入学式終わったら一緒に教科書買いに行こ」とか相談し合える友達は居ないのでとりあえず散歩でも行くかな、なんて思って。家の直ぐ近くの横断歩道を渡って、その先にある公園に行こうとして。
ココアでも飲みながら公園の桜並木を歩こうかな、だなんて風流なこと思ったりして。
でも、今いる場所は横断歩道でも、公園でもなかった。
何処かと言われると困る。本当に困る。
何故なら。
「ここホントなんも無いな」
そう、思わず口にしてしまったが、ここには何もない。
田舎の人の言う『何も無い』じゃない。ただただ真っ白だった。
一面真っ白で、見渡しても真っ白。後ろ向いても真っ白。
霧が深い、とかじゃないただただ白い。
前に進もうが、後ろに戻ろうが白ばかりで出口は見えそうにない。
そもそも戻ろうって言ったって歩いてこんな場所に来たわけじゃな……と思う。
よく覚えていないけど。
気付いた時には、ぱっと白い世界に立っていた。
そういえば、昨日ネットで見てた小説の召喚シーンこんなのあったなぁ。
歩いていた時に突然白い光に包まれて、その直ぐ後に何だか異世界らしい神殿に召喚された女の子が「救世主」だなんて言われて――
ぼんやりそんなことを考えていたら何か、声が聞こえてきた。
『----------、-------!----!!』
何か、日本語じゃない別の国の言葉だということは分かる。
英語だったら意味は分からなくたって英語ってことくらいは分かる。
でも、この言葉は本当にどこの言葉かわからない。
ただ分かるのはその声の主が、女の子だということくらいだった。
『-----!』
その言葉が一層大きく聞こえた瞬間、まるで霧が一気に晴れたように、目隠しがとられたみたいに、私の視界は切り開かれた。
え、これマジの異世界召喚だったりする?