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散文の後/東風  作者: 新辺守久/小珠久武
第一章 15歳 春休み<帰らずの森グランゼ>-工事中-
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第029話 眠れない夜2

続きです。

 夜の闇の中、第二外壁の南門から壁伝いに東門へ疾走する影が二つ。背筋を伸ばし綺麗なフォームで疾走するカエデと離されない様に全力で追い駆ける亮。


「(……早い。それに身体の中心線が全くぶれていない。付いていくのがやっとだ)」


 そんな思いを胸に抱きながら、腰にいていた鍵刀<更綱さらづな>が走ってる反動でブラ付くのを嫌い、陸上競技のリレーで使うバトンの様に左手に持ち換え、鞘の部分を腕に添える様に固定して必死にその後ろ姿を追い駆ける。


 南門と東門の中間を過ぎた頃、不意に東門から一筋の火炎槍フレイムランスが上空に打ち上げられた。そして闇の中へ消える。次の瞬間、前方と後方から同時に辺りを照らす程のまばゆい光が発生して、続いて大きな爆発音が聞こえてきた。


 東門で巻き起こった爆発は轟音と共に巨大で激しい爆炎を撒き散らしながら、壁の向こう側を全てを焼き尽くすが如く、そこで集団を形成して第二外壁東門へ攻め込んでいた魔物群に降り注ぎながら飲み込んでいくのが遠目に見えた。


 二人は走るのを一旦止め、咄嗟の判断で腕を使い顔を守る様に覆い隠し、身体の重心を下げ地面に足を固定して踏ん張る。爆心地で発生した衝撃波が獣が焼けた生臭い匂いと土埃を伴いながら勢いよく後方へ抜けていく。通り過ぎていった爆風に因って髪の毛は激しく揺れ、亮の黒いコートの裾を棚引かせバタつかせた。


「……な、なぁ、アキラ。あれも君の弟の仕業かな」

「ええ、多分。ボク、前に一度、あの魔法を見た事があります。でも、前回のよりも大きい……」

「ふーん、あの時のは、極大圧縮火炎爆発(エクスプロージョン)だったのか。なら、シルヴィアも内心穏やかじゃなかったんだろうな」

「なにがです?シルヴィアさんが如何かしたんですか?」

「ああ、こっちの話。いて言えば、大魔導師への憧憬。ってヤツかな?」

「……?」


 亮は気付いていなかったが、別館従業員達の目にはシルヴィアの輔に対する当たりが亮に比べ若干強い様に感じられたが、その原因は判らないままだった。


 今の話を聞いて、その原因が彼女シルヴィアの心情にる物だったと、カエデはようやくにして納得に至ったと同時に、嫉妬と羨望といった負の感情を普段余り表に出さないシルヴィアにしては珍しいな。とも思った。


「赤目の連中、大人しく諦めて退いてくれればいいのだけれど」

「……ボクの背中にまだ嫌な感じが残ってるんですが」

「うん。その女の勘、直感は大事にした方がいいね」

「カエデさん、急ごう」

「そだね」


 そんな会話を交わした二人は改めて東門へ向け走り出す。


 東門と南門。魔法の規模から壁の外の魔物はほぼ殲滅されたか、残っていても散発的な攻撃ぐらいだろう。それでも亮は嫌な感じがしていた。何かの気配を察しているのか、それに賛同する様にカエデも急ぐ事をとし、走る速度を更に上げ東門へ急ぐ事にした。


 カエデの後姿が少しづつ離れていく。「ええっ、まだ早くなるの?!」かと、亮は内心悲鳴を上げた。




 ―――二人が走ること数分。東門の篝火が近づいてくる。壁の向こう側では魔法の残滓を纏った炎が揺らめき、魔物や地表を関係なく至る所でくすぶり燃えている。篝火と魔物の燃える明かりは、第二外壁の上から眼前に広がる光景を見て、呆然と立ちすくむダイフク夫婦を始め、守備に当たっていた村の者達の姿を照らし出していた。


 その前を幾つかの影が赤い光を走らせ横切った。仲間の死骸を踏み台に第二外壁を越えてきた赤目の魔物、レッドウルフ。


「っ?!サクラッ、後ろ!!!!」

「へっ?」


 ダイフクの声が響き渡る。慌てて腰から両刃の剣を抜こうとし、その所為で剣と鞘が噛んで引っ掛かっり、もたついてしまう人影。そして、今まで亮の前を走っていたカエデの姿が更に速度を上げ亮を一歩進む毎にどんどん突き放していく。「げっ、消えた?!まだ本気じゃなかったの?!」なんて思う亮。


 次の瞬間、後ろからサクラの首筋に噛み付こうとしていたレッドウルフの首と胴体が切り裂かれ宙に舞う。黒の一閃。


 続けて、太刀筋が見えない二刀の剣を振るい、二閃、三閃と、近くで隙を伺っていたレッドウルフを容赦なく一撃で切り刻んでいく。数秒ほどで全てが物言わぬむくろとなった時、事を終えて、息を吐きながら残心するカエデの姿がそこに在った。


 その両手には、刃が黒く焼き入れされた二つの剣。その身に纏う黒い装束と相俟あいまって夜の闇に馴染んでいた。


 突然、目の前で起きた出来事に何が起きたのか判らず、抜剣途中のもたついた状態で固まり思考も停止してしまったサクラ。


「き、来てくれたのかカエデ!助かった、有り難うっ!!」

「ふぅ、危うく可憐な花が散る所だったね。間に合って良かったよ」

「カエデさん、お陰様で助かったわ、有り難う」

「やぁ、フィオナさんも相変わらず美しい。そのまま、あたしの部屋に硝子のケースに入れて飾って置きたい位だ」

「うふふ、カエデさんこそ相変わらずカエデさんですね」

「お、お前ってヤツは本当にぶれないなっ!」


 間一髪の所で娘が助かり、涙目でカエデにお礼を言い頭を下げる父であるダイフク。母のフィオナもお礼を言ったのだが、カエデから嘘とも本当とも付かない口説き文句を言われ、何時もの事と軽く流していた。ただ、目の前で何時もの冗談と判っていても最愛の妻を口説かれ、泣き笑いながら思わずツッコミを入れるダイフクだった。


「おおっ、カエデ様の降臨だ、戦女神の降臨だ!」

「流石、我等がカエデ様だ!!」

「カエデ様っ!カエデ様っ!」


 颯爽と登場したカエデの姿に、先程の戦術級魔法の威力を目の当たりにして、無言になり意気消沈していた村の男衆が、それまでの気分を晴らすかの様に、両手を挙げカエデコールを連呼する。そこには一時的にカエデ教が誕生していた。


 その騒ぎの横で思考停止して固まっていたサクラが我に返り、己の無事を確認する様に自分の首筋や身体をまさぐり五体満足な状態に安堵する。そして近づいてくるカエデの姿に目を向ける。


「……あ、あれ?ウチ助かったん?それに、う、うえぇ、カエデさん……え、カエデ、様?何事??」

「うん、可憐な少女からの様付けは、やっぱりいいものだね、。その調子で頼むよ、サクラ嬢。デュフフ……」

「カエデ、さん。ウチを助けてくれて有り難う御座います」

「ちぇ、さん付けを選んじゃったか、……まぁ、いいか」

「さ、最後の気持ち悪い笑いをしながら袖でよだれを拭くのを見たら、そのほーがいいかな、思ったん。それよか、如何してここに?」

「まだ五分咲きにもなっていない儚いつぼみを摘み取る悪いヤツへお仕置きをしに来たんだが、な、アキラ」


 息を切らせ遅れてやってきたアキラを向いてそう話し掛けるカエデ。


「……はぁ、……はぁ。……カ、カエデさん、さっきまで、本気出して、走ってなかった、んですね」

「あたしは何時だって本気さ。けれど女性の危機を目にすると限定解除の天元突破で普段よりも力が出るのだよ」


 愛想よくウィンクしながらそう語りかけてくるカエデとは対照的に、永遠の好敵手ライバルなヤツが来たと言わんばかりのしかめっつらをするサクラ。


「むっ、どの顔下げてここに来たんか、アキラ!」

「魔物の氾濫がサクラの手に負えないんじゃないかと思ってね。そっちこそ、ちゃんと最前線張れたの?」

「なんやと!」

「なによ!」


 そう言いながら二人で目と目の光通信を始め、亮のツーサイドアップとサクラのポニーテールがふらふら揺らし、互いが互いの顔を嘗め回す様に、上から下から入れ替わり立ち代りにらみ合いを続ける。


ある程度睨め合いっこして気が済んだのか、おもむろに何かを思い出したかの様にサクラが亮に訊ねる。


「そういえばアンタの弟……タスクって言ったっけ?結構、強いんだって?今度戦わせろよ」

「輔は、多分、言っても無駄よ。基本的にやる気がない平和主義者の臆病者だからサクラとは戦わない、それに……」


「今のサクラの剣じゃ、絶対に届かない」と続け様として言葉を飲み込んだ。あれは何時の頃だっただろうか?


 長期休みを利用して輔の交通事故後のリハビリと言う名のサバイバル合宿。最後は必ず締めで二人が爺さんと模擬戦をする事になっていた。それは何時もの様に模擬戦の手合わせをした時の事。手を抜かれていたからなのか、はたまた偶然だったのか、その時の輔は爺さんに一太刀浴びせる事が出来た。普段から隙すら見せない、あの化け物染みた爺さんに対してだ。


 輔は目がいい。そして行動予測と合わせて身体の動かし方が上手い。その頃から、互いの打ち込みの練習でも、輔に対し一撃もてる事が出来なくなっていた。そして、この前の別館正面玄関前の庭の一戦、後半、亮は本気でやったのに輔に届かなかった。


「それに、何よ?」

「……なんでもない」


 サクラが腕組みをして不機嫌そうな顔しながら亮の言い淀んだ答え訊ねたが、亮は顔を逸らしてそう答えた。


「あっはっはっ、仲がいいねぇ。ただ、そこ等辺で止めておこうか、二人共」


 カエデが腰に手を置いて二人を窘める。周りを見るとダイフク夫婦や村の男衆、魔法使い弓使いのお姉さん方と東門の守りに当たっていた全員が微笑ましいものでも見る様に亮とサクラを眺めていた。


「はっ、ちげーよ。こいつはサクラの好敵手だから、敵だよ、敵、天敵!仲なんていくねーよっ!」

「なによ、勝手に好敵手にしないで。そっちがボクに対して突っかかってくるだけじゃないの!」

「フフフ、お館様から聞いてるよ、好敵手と書いて友と言う。いい言葉じゃないか」

「カエデさん、なにいってんだよ!」

「やめてっ!」

「……それは、さておき、アキラ、君の女の勘が告げた本命の登場だ」


 カエデはそう言って、第二外壁東門の壁際へ歩み寄り、東の森の外縁部へ目を向ける。この場に駆けつけたカエデと亮を除く、その場の全員が弛緩した空気を纏いながら、何が見えるのかと同じ様に壁際へ近づき目を凝らす。


 戦闘開始時に雲が掛かり殆ど真っ暗だったが、偶然か、或いは輔の極大圧縮火炎爆発(エクスプロージョン)の熱が大気に多少の影響を与えたのか、村の上空にはぽっかりと穴が開き、そこから月が顔を出していた。


 満月に近い月明かりで、ダイフク達の必死の守備と輔の魔法に因って作り出された凄惨な光景を照らし出している。それを目の当たりにしながら、カエデの視線を更に追い、その先、今だ暗い闇に覆われた森を望む。


「……あ、あれは、巨鬼オーガ……いえ、違うわ。大きなロック、ゴーレム」

「な、なんだってあんな物が」

「……ば、怪物、か」


 フィオナの言葉に半信半疑のダイフク。しかし目の前に現れたのは生命を感じさせない、自然では在り得ない無機質な岩石を身に纏う人の形をした大きな物。それが身体の重さで歩く毎に地面を抉りながら、ぎこちない動きをしながら、一歩、また一歩、と東門へ近づいてくる。サクラが辛うじて口から出した言葉、まさに怪物を表していた。


「南門外側にも幾つか居そうだったけれど、向こうはシルヴィアが何とかするだろうからね」

「ええっ、南門にも居たの?!」

「えっ、アキラ、気付いていなかった?……あれ?もしかして一番危険な場所を察知したのかな、ははは」

「……漠然とした感覚だったから。ただ東に何かが居る、或いは何かが起きる。そんな予感がして……」

「まぁ、何とかなるでしょう」


 その横では相変わらず緊張感の欠片かけらもない、呑気な会話をしているカエデと亮。周りに居た者からすれば、それも信じられない事だった。


 4メートル級の厳つい体をしたロックゴーレムが3体の出現。逃げ惑う赤目の魔物を蹴散らし、森の木々を薙ぎ払い、押し倒しながら、こちらに向かってくるのが見えた。再び第二外壁東門に緊張が走った。

読んで頂き有り難うございます。

構成を考えず直感で自己満足しながら楽しんで書いているので他の人が面白く読めるかは判りません。

読み手に対する時間泥棒な作文です。あと読み辛い部分が多々有ると思いますが、そこは平にご容赦を。

更新は気分的に、です。

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