第008話 交流会
続きです。
この館の執務室で輔とシルヴィアさんが話をしている。ボクはこう云ったのは苦手なので殆どが輔にお任せ。今も半分聞きに徹している。
途中、二人が怪しい雰囲気になったけれど、それは絶対断固阻止。その所為か知らないけれど輔はなんか武器らしきものを貰えていた。
ボクも欲しいってゴネたら日本刀っぽい何かを貰えた。ラッキー。ジャージのままだったのでついでに着替えも要求したら、それも通った。よしっ。
でも途中の勉強って単語が聞こえた辺りで意識がスリープモードに移行し、半覚醒の状態で今日の出来事を思い起こし始める。
……なんなのだろう、もう。長期休みにふじの湯で開催される爺さん主宰の特訓から開放されると喜んだら、何故か知らないけど、異世界ですよ。如何なってんのよ?
最初はふじの湯の裏山を貫通している洞窟を抜けた場所だと思っていたのに。嫌な予感がして「早く戻ろうよ」って言ったのにいきなり気味の悪い石のオブジェが出現。
輔が襲われそうになったのを見て、小さい頃に身を挺して交通事故から守ってくれた輔の姿が重なって今度はボクが守る番だって。
でも、持っていたのが竹箒だったから大した威嚇にもならず、ひたすらに無我夢中でそれを振り回すだけになった。
何度か攻撃を避ける事が出来たけれど力の差は歴然で、「輔だけでも逃げてくれれば」って意識が横に逸れた瞬間、石のオブジェからお腹に一発、いいのを貰った。
インパクトの瞬間に身をひねって受けた力を逃そうとしたけれど、貰ったダメージは思ったよりも重く、身体に圧し掛かってきた。直ぐに起き上がれない。
肺から全部空気が吐き出されてしまったかの様な感覚。「逃げてっ!」と声を出そうとするが、たったそれだけの言葉すら口から出せなかった。
そして動かなくなった獲物、ボクにトドメを刺そうと石のオブジェが近づいてくる。
「……あぁ、もうダメだ」なんて思ったら、輔の投げつけた石礫で石のオブジェの注意がそっちに向いた。
助かったと安堵したが、同時に、また輔に助けてもらったのだと思うのだった。あの時の記憶が蘇る。
交通事故の時。ボクを助けた所為で大怪我を負って、病院で母さんからダメかもしれないって聞かされ泣きじゃくり、
待合室の椅子で父さんが一所懸命慰めてくれ、そんなボクは泣き疲れ寝て、目を覚ましたら「峠は越えた」って聞かされ大喜びし、
「命懸けで助けてくれた輔を今度はボクが助けるんだ」って心に刻み、爺さんの主宰したリハビリを一緒に受け、古武術も教えて貰い、
学園小等部、中等部で輔が何か困った時に助け様と思ったけれど、それは殆どなかった。ボクが介入できるのは力でだけだから、まぁ、ある意味よかったのか。
その分、部活で頑張ってそこそこの成績を収められたけれど。兎に角、向こうの生活は爺さんのトレーニング以外は本当に平々凡々な毎日だった。
あんな思いをするのはもう嫌だ、二度とご免だ。けれど状況は変わっていない。ピンチのままだ。悔しさにギリリと歯軋りをする。
……何度かの破砕音で石のオブジェがダメージを負った事を知った。
輔に攻撃を加え様と空に浮かび上がったそれに、二本の指を向け何かをつぶやいていた。見えない何かが石のオブジェを覆っていく感覚と同時に大きな威力の爆発。
魔法っぽい謎パワーで石のオブジェを撃破していた。二人共、助かったのだと安堵したが輔の使った何かにボクは唖然とした。
「……何それ、中二病パワー?」
疲労からか辛うじて立っていた輔が膝を付く。ボクは覚束無い足取りでなんとか駆け寄り、上からそっと頭を優しく抱きしめ、輔に感謝の言葉を言う。
「結局また助けてくれた。ありがとう。……それと、中二病パワー発症おめでとう?」
ボク達が無事にピンチを乗り越えた事に安心したのか、意識を手放した輔を胸に抱え助けを呼ぶ。来なかったら来なかったで、取り敢えず横にして意識が回復するまで待とう。
こんな山奥っぽい森に囲まれた場所に誰も来ないだろうなって、不謹慎かとも思ったけれど「メディーック、メディーック!!」って叫んでみたら直ぐさま人がやって来たのには、とても吃驚した。
この時は名前を聞きそびれていたけれど、来てくれたのはシルヴィアさんとカエデさんだった。
担架を用意してもらい、建物のお客様用の部屋に運び寝かせ、外傷もなく気を失っているだけだったから起きるまで交代で様子見する事になり、ボクも順番が来るまで隣の部屋で横で休む事になった。
けれどボク自身も疲れが溜まっていたのもあったし、気を利かせてくれたからなのか、交代の時間に起こしては貰えず、有り難い事に輔が目を覚ました夕方まで寝かせてくれた。
今は記憶にすら残っていないけれど漠然といい夢を見た気がする。
そして、シルヴィアさんを筆頭に従業員3人娘、ボクと輔の6人で晩御飯を食べ世間話等をし、その後、執務室に案内され今に至る。
……振り返ると、たった一日で、本当に色々有ったと思う。
コンコンコン。夢現な思考が途切れたタイミングで部屋の扉がノックされる。声からすると、如何やらツヅラさんがやって来た様だ。
2人は幾つか会話を交わし、お願いした着替えの件を快諾してもらい、ボク達女性陣は別室に移動する事になった。
久しぶりに輔の着せ替えもしてみたかったが、今回は流石に人前なので蚊帳の外に放り投げた。一応、男の子だしねぇ。
そしたら、ふじの湯別館ならお風呂が在るだろうって、「……えっ、ここって別館?!」なんて思ったのは内緒の話だ。
それを隠す様に勢いで「ボクも入りたいっ」って叫んでしまったけれど「着替えを用意してからみんなで入りましょう」と、シルヴィアさんに優しく言われ大きい声を上げた事に思わず赤面してしまったのは余談だ。
で、輔は最初「場所さえ聞けば一人で行けます。姉さんを宜しくお願いします」なんて言っていたけれど、結局シルヴィアさんに案内され別館離れに在る浴場へ向かっていった。
凄くいい笑顔のツヅラさんが「こっちですよ、こっち」とボクの手を引っ張り、彼女達の休憩室へと連れられていった。連行された、とも言う。
「ねぇ、ねぇ、これなんて如何かな?」
「アキラちゃんの背丈を考えるとこっちの方が……」
『ふふふ、断然フリフリのゴシゴシなお人形さんにして部屋に飾る』
「いやいや、こっちの方が断然似合っているよ」
「折角だから髪型も替えてみない?」
「お、それいいねぇ。あたしが、『合法的に触りたいからその役目貰った』……綺麗な髪だしね」
連行された部屋で待機していたのは残りの従業員のお姉さん方、アオイさんとモミジさんで待ってましたとばかりはしゃぎ始め、
ボクは着せ替え人形状態で右からお古を出されては身体に当てられ、或いは着せられ、脱がされ、そして左へ消えていく衣類をただ眺めているだけだった。
「……おかしい、如何してこうなった?」
兎に角、アオイさんが的確にボクに似合いそうな服を進めてくる。のだけれど、その局地的にサイズの大きいダボダボな服から、なんとなく肉体的な敵認定する。
それならば、とボクの容姿に合わせコーディネートしてくる三つ編みお下げのツヅラさん。何故、そのセンスで自分は地味目な格好をしているのか?……意外とあざといのかもしれない。
そして、所々に異世界語が混じるモミジさん。直感で凄く不穏な発言をしているのだと想像が付く。言葉が判らないから何を言っているか知らないけれど。
身の危険を感じるので早急に異世界の言葉を覚えなければいけないと背中に冷や汗が流がす。
そんな一癖二癖ありそうな従業員達が「あーだ、こーだ」やっていると突然その人はやって来た。
「話は聞かせてもらいました。皆さん落ち着いて下さいっ。本人の希望も聞かないとっ!」
なんとなく、昔に見たオカルト系漫画の予言とか人類の滅亡を扉越しで話を聞いていた人が突然登場する様な感じで、勢いよく扉を「ばばーんっ」て開けて入ってきたシルヴィアさんだ。
そのセリフ、そして突然の登場に固まる一同。輔をお風呂場まで案内して戻ってきたのか、休憩室へとやってきた彼女はひと目で現状を確認したのか、すかさず助け舟を出してくれた。
なんと言うか、とても有り難いのだけれど、こっちの世界に無いネタだと思うので、多分にして偶然なのだと思いたいのだけれど。きっと真実は彼女しか知らないのだろう。
「こっちの世界って思ったよりも素敵な服が在るんですね、種類が豊富で驚きました!」
「お館様の情報もさる事ながら、ウチの村に在る何でも屋さんが中々のやり手でこの国でも指折りの商会なんですよ」
「あそこの商会、店頭に在庫が無くても後日きちんと用意するからね」
「商会のモットーは<ポーションから法船まで、お金さえ頂ければ全て用意します>、<我々に案内出来ない商品は無い。必ず探し出すので、少々お時間を下さい>だったかな?」
「モットーからして徹底しているよね」
ボクの言葉にシルヴィアさんが答え、ツヅラさん、モミジさん、アオイさんの順で村の商店に付いて教えてくれる。
「とは言え、こっちの世界の情報には限界が有るので、私達は更にお館様が暇潰しに持ち込んでくた書物で知識の嵩上げしているんです」
苦笑いしながらシルヴィアさんが休憩室の隅に有るブックラックに指差すと、そこには色々なタイトルのゴシップな雑誌の表紙が見える。
よくよく観察すると日本の若者向けの物やイタリアのファッション雑誌が刺さっている。……あ、週間ダンソウや週間ステップまで置いてある。
こっちの世界でもこう云った本は需要が在るのだろうか?結構擦り切れている感じがするので繰り返し読まれているのだろう。……と言うか、真実は直ぐそこに突き刺さっていた!
「ちなみにそれらは門外不出扱いで、この館から持ち出した者と一緒に自動的に消滅する様に細工されています」
「カエデさん、それ怖いっ!」
「凄いですよね。このカラフルな印刷技術。以前、街に買い物に出たけれど、ここまではの物は有りませんでした」
「街の図書館ですら有料で且つ、破損させた場合は弁償。それも多大な金額を請求されます」
「ここの書籍はこちらの世界では在り得ない情報なので、そこら辺の管理はしっかりしている様です」
カエデさんの何やら不穏な発言に反応したボクにアオイさんとツヅラさんがフォローらしき言葉を話しているのけど消滅に付いて語っていない。
そこで更に肯定とも否定とも取れない発言をしてくるシルヴィアさん。本当に消滅しちゃうのかボクとても気になります。誰も答えてくれなさそうだけれど。
「もっとも、お館様自身がたまにポロリする知識、事柄は如何しようも無い様ですが」
「……って、ダメじゃん」
「ところで、アキラさん姉弟はこっちの世界は初めて、なんですよね?」
「ボクも輔も初めてだよ。そもそも、ふじの湯の中庭からこっち来たの初めてだし、別館なんて濁されて教えてさえ貰えなかったから」
「……そう、ですか。初めて、ですか」
「急いで向こうに戻ろうとして開けた扉は岩で塞がってて如何しようかと途方に暮れたし……」
本当に帰れるのだろうか?思わず不安になり最後の方は声が小さくなってしまった。
「大丈夫ですよ。お館様が戻れば何とかしてくれますよ」
「ツヅラさんの言う通りです。アキラちゃんがしっかりと希望を持っていれば願いは叶いますって」
「なので落ち込んだ気分を盛り上げる為に、アキラの着せ替え再開っ!」
「えっ、そこに戻っちゃうの?!」
「だってねぇ、可愛い娘さんの落ち込んだ顔なんて似合わないから」
「折角、目の前にいい素材が有るのに勿体無いじゃない」
「これであたしに対するアキラの好感度アップは確実だ、滾ぎる!」
「はい、はい、さっきも言ったけれど本人の希望が優先ですよ」
……結局この後、ボクの意思とは関係なく滅茶苦茶着せ替えさせられた。本人の希望とはいったいなんだったのだろう?
そして今、ボクは別館離れに在る露天風呂に案内され来ている。別に身体を汚された訳ではないのだけど、お風呂に入って全部洗い流したい気分だった。
それなのに、広い湯船なのに、ボクを中心に何故3人が固まって座っているのか?唯一の良心、シルヴィアさんは少し離れた所に座りこちらを観察する様に見ているだけなので、まだ有り難いのだけど。
ボクは健康な女子だけれど、ハーレムなんて望んでいない。これは輔の役割な筈だ、なのにアヤツは何故ここに居ない。替わって貰いたい。
「いやぁ、若い子の肌ってスベスベでいいわねぇ。羨ましいわぁ」
「アオイさんだって充分若いじゃないですか。それにとても素晴らしいモノをお持ちで」
ニコリと愛想笑いを見せながら「やっぱりボクの敵です」って心のつぶやき。「お湯に浮かぶ脂肪の塊。こっちが羨ましいわ」って心の叫び。
その隙間を狙ってなのか、腰の周りに手を滑り込ませてくるツヅラさん。
「アキラさんの身体って凄く引き締まってますよね。腰のくびれだってこんなだし、肌触りも最高だし」
「鍛えていれば身体は自然に引き締まりますよ、それ言ったらツヅラさんだって艶々(ゆやつや)な身体しているじゃないですか」
「私、寸胴で色黒だからでアキラさんの様な腰のくびれと色白な肌がうらやましいのですよ」
「そんな事は無いですよ、ツヅラさんも充分に可愛いし、世の男共はほっとかないでしょう」
さりげなく自然にスキンシップをしてきて、悪くない自分の容姿を貶め褒めて欲しいアピール。やはりあざとい感じがします。でもそれって女のボクにじゃなく男子にお願いします。
「ふむ、髪の毛を下ろしたアキラもまた別の魅力が……おっと、興奮したから鼻血が……」
「おまわりさんこの人変態です」
「いやうや、変態淑女と呼んでください」
キリリと顔を引き締め顎に指を当て凄く格好良く話しているぜ風のモミジさん。決め台詞のつもりでしょうが鼻血と言葉の全てで台無しです。好感度なんて既に底値を突き抜けてます。
えっ、あれ?横を見るとシルヴィアさんがニヤニヤしながらお酒の瓶らしきモノから赤い液体をグラスに注いで飲んでいた。
そのお酒、何処から出したんですか?さっきまで在りませんでしたよね。って言うかボクを酒の肴に飲んでいる?!おいっ、唯一の良心、何処に行った!!
まずい、なんとなくカオスになりつつある。この流れだと全員が寝室まで突入してきそうな勢いだ。
ボクの、乙女の、今日一番のピンチかもしれない。誰か、助けてっ!
読んで頂き有難うございます。
投稿に慣れていないので試行錯誤しています。
自己満足しながら楽しんで書いているので他の人が面白く読めるかは判りません。
なので多々読み辛い部分も有ると思いますが、そこは平にご容赦を。
仕事が昼夜交代勤務の関係で更新は不定期です。




