第013話 晩御飯1
続きです。
ああ、夢物語に脱線した話を本題に戻したい。
「済みませんシルヴィアさん。姉さんの妄言は何時もの病気です。気にしないで下さい」
「病気とは酷い言い草ね。私の視る夢は何処か知らない世界の王国のヒストリーから大宇宙戦争まで、果てしなく広がるロマンで溢れているのよ」
「壮大すぎるだろう。大体、ロマン溢れるのはいいけれど、現実を見てから話して欲しいんだってば、ねえ、シルヴィアさん」
突拍子のない話が続いているので横で多少困惑気味に興味津々で俺達姉弟の会話を聞いているシルヴィアさんに話を振ってみる。
「現実って何よぅ、ブツブツ……」って姉さんはほっとく。
「あ、い、いえ。正確ではないのですが、先程の内容が現在のこの大陸の世情を表していたので驚きました。こっちの世界は初めて、なんですよね」
「……こっちの世界?」
「はっ? いやいやっ、姉さんの夢がこの世情を表しているってそれこそ何かの冗談ですよねぇ?」
「えっ、これって夢だよね。だって輔が魔法使いって現実じゃありえないもん。現実のボクは爺さんの呪いに解放されて暖かい布団でヌクヌク寝ているんだ」
うん、俺もそう思うし、そう思いたい。しかし、夢の中で寝て見た夢の話をするっていったい何重に見てんだよ、この夢見る乙女は。しかも俺の呪いは爺さんのじゃなく婆さんの方だったけれども。
「あのさ、姉さん。俺達ね、異世界に来ちゃったっぽいよ」
「ふーん」
ふーん。って、淡白な反応ですね、お姉サマ。
なんとなく察してくれていた様だけれど、改めて俺とシルヴィアさんの二人で現状の説明を試みる。
何時の間にか用意された椅子に座る俺とシルヴィアさん。ベットに胡坐を組んだ状態で話を聞く姉さん。実際、無駄に時間が取られたので椅子は助かった。
幾つかの脱線を絡みながら姉さんと話した所為で、俺のそれまでの丁寧な言葉遣いは何処かに行ってしまい素の状態に戻っていた。
そして説明後、直ぐに出た言葉が以下。
「ラノベとかでありがちな異世界転移。しかも、ふじの湯の中庭から。これはボク達の戦闘インフル待ったナシで摩訶不思議な冒険アドベンチャーの幕開けね」
あー、ボク「達」って俺を巻き込まないで頂きたい。あとインフルエンザも。「ふふふっ、ふははっ、はははっ!」とか両の拳を握り締め不敵な笑みを浮かべ、誤字も気にせず妄想に耽る姉さんも中二病真っ盛りでなかなか痛々しい。
……ガッツリ発症してしまった俺が言うのもなんなのだけれど。一歩引くとこんな感じに見えるのか。しかし、説明後、直ぐに出た言葉がそれですか。どれだけ異世界に幻想を抱いているんですか。と、小1時間程問い詰めたいですな。ははは。
「ラノベ? 異世界転移? 戦闘インフ、ル、れ? 摩訶不思議冒険アドベンチャー?」
「ああ、気にしないで下さい。向こうのサブカルチャーな類の話です。娯楽ですよ。姉さんが勝手に盛り上がっているだけです」
当然ながら姉さんの口にした単語の意味がよく判らのであろう頭を傾けるシルヴィアさん。
サブカルチャー、ですか。娯楽が溢れている世界って羨ましいですね。何処か遠くを見るような感じでそんな言葉を口にしていた。
冒険の幕開けもいいけれど「ふじの湯」へ帰る事も考えないといけないと思うんだ。俺としては。
なんとなくここがふじの湯の別館なんだろうなって気はするのだけれど。
取り敢えず。保護責任者出て来いっ!って思う。
そんな思いとは裏腹に、窓の外は陽が沈んでしまったのか薄暗くなり、何時の間にか焚かれたのか淡い光を放つランタンが部屋の中を照らし、夜の訪れを告げていた。
―――――保護責任者。
ふじの湯の事務所で忙しそうに書類整理をしている温泉宿の女将である婆さんとウチの母さんの姿。
黙々と作業をしている二人を知らない他人が見れば姉妹と勘違いしてしまうぐらい似た容姿をしている。話を聞かなければ親子とは思わないだろう。
そんな事務所にお盆を片手にやってきたのは山咲周さん。お盆に載ったお茶を二人に差し出しながら話し掛ける。
「マスター、そろそろ夕御飯の時間ですが」
「ありがとう。もうそんな時間かい……んん?」
貰ったお茶で口を湿らせ一息付くと何かに気が付く婆さん。
「はい、亮ちゃんと輔君なんですが、祠の洞窟に入ったみたいです」
「確認はー、付近に気配が感じられないから、そうなんだろうねぇ」
「はい、お供え物の片付けをしに行ったら祠の裏に二人の足跡が、掃除をしようとした形跡は有ったのですが外に出た気配もなく、館内にも見あたらいので恐らく、ですが」
「恐らく、ね。まぁ、遅かれ早かれ向こうに行く事になると思っていたけれど、しかし、そうか、行ったのか」
「父さんは今回の春休みで連れて行く予定だったらしいけれど、問題発生したから無しだって話だったのに……」
「慌てて出ていったから、扉がしっかり閉まっていなかったのかねぇ。戸締り忘れるなんて相変わらず無用心な人だわさ」
「案内役の父さん抜きで大丈夫かしら」
「大丈夫なんじゃない?向こうにはシルヴィアも居るんだし、春休み中に戻って来れば御の字よ」
「それも、そうね。可愛い子には旅をさせろって言うし何とかなる、わね」
想定外だではあったのだけれど、いずれは通って貰う道なので乗り越えて欲しい。
扉を抜けた先の別館周りもふじの湯の合宿を乗り越えた二人にはイージーモード全開で別館スタッフもいて安全なので特別心配はない。
ただ親心としては初めて手元から離れて自分達で何とかしなければいけない状況に多少の不安はある。
「一応、それまでに戻って来られない時の対応は周さん、お願いね」
「はい、かしこまりました。マスター」
「晩御飯の準備が整ったら呼びに参ります」と言って周さんはその場から離れる。
「て、言うか、何で向こうの書類をこっちで片付けなきゃいけないのよっ」
「こっちの方が断然、楽なのよ。魔法はあってもパソコンはないからねぇ。計算が面倒臭いのよ。電気もないし。全部人力さ」
「これで楽って向こうでどんだけ手広くやってんのよ」
「……さぁ、ね」
中々に惚けた返事である。それを聞いて頬を膨らませ「私、現状に不満を持っています」アピールをしながらパソコンのキーボードに指を走らせ書類を片付けていく母さん。
これは春休み最終日に聞いた話。
読んで頂き有難うございます。
投稿に慣れていないので試行錯誤しています。
自己満足しながら楽しんで書いているので他の人が面白く読めるかは判りません。
なので多々読み辛い部分も有ると思いますが、そこは平にご容赦を。




