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8 二度あることは三度ある

「おい、どうして来なかったんだよ! ずっと待ってたんだぞ!」


 なんかデジャヴを感じる光景だな……今回は男だけど。

 しかもあろうことかあまり目の保養にならないゴールデンモンキーさん。


 クラス内がざわつきだし、「茨城って男もいけるのかよ」「ちょっと不良グループ修羅場すぎない?」と根も葉もない噂の種が飛び回り出す。


 ホモ扱いは百歩譲って許すが、しれっと俺がこのゴキブリどものグループの一員であるかのような言い回しをするのはやめてくれ。

 たまたま席がこいつらの溜まり場に近いだけだ。


「いや、行くわけないだろ。俺、別にお前のこと友達だなんて思ってないぞ」

「は? 当たり前だろ。俺は喧嘩するためにお前を呼んだんだよ!」

「尚更、行くわけないだろ……。なんでわざわざ痛い目に合うために行かなきゃならないんだよ?」

「お前、そんな適当な気持ちで辻岡と……許せねぇー!!! 男としての誇りはねーのかよ!」


 辻岡? 俺がお前の誘いに応じないことと辻岡に一体どういう関係があるんだ?


「よくわからんが……お前も生理でイライラなのか?」

「お前バカか?」

「俺がバカだったらお前はなんなんだよ? アメーバ並みの知性になるぞ」

「おっま……。いや、ここじゃダメだ。教室でやるべきことじゃねえ」


 拳を振るおうと腕を上げたが、ゴールデンモンキーは瞬時にそれを思いとどまる。

 不良のくせに最低限の常識は持ち合わせているらしい。


 アメーバは言い過ぎたな。

 細胞二つぐらいありそう。


「とにかく今日は絶対に来てもらうぞ。覚悟しろ」


 いや、行かねーよ。

 河原で寂しく独り相撲でもやってろ。

 俺は図書室で勉強する。



***



 絶対に行かないつもりだったのだが、ゴールデンモンキー、丸刈り、女王ギャルに三人がかりで拉致されて強制的に河原まで連れてこられてしまった。

 貴重な放課後がががががが……。

 俺の勉強時間がががががが……。


「……本当に喧嘩するのか?」

「当たり前だろ。どっちの方が辻岡にふさわしいか決めるんだよ」


 いや、喧嘩して雌にふさわしい雄が決まるとかお前は野生動物かよ。

 やっぱりこいつの先祖はどこかで進化し損ねたっぽい。


 ちなみに当の本人、辻岡は女王ギャルに厄介払いされ、レア物のジュースを買いに隣町の自動販売機まで……って、いつの間にか戻ってきてるな。

 ゼーハーゼーハーと荒い息をしているし、汗だくで服も顔もぐっしょぐしょだし、かなり急いで走ってきたらしい。


「はい、明美」

「あ、あんがと……」


 ぎっとぎとのジュース缶にちょっと引き気味な女王ギャル。

 辻岡はくるりと深刻な表情でこちらへ向き直ると、片手を前へ突き出しながら砂利の上を走りだし、俺とゴールデンモンキーに――


「待って二人とも、あたしのために争わないで!」


 なんだ、そんなしょうもないことを言うために急いでジュース買ってきたのかよ。


 その心配は杞憂だ。

 俺が争うわけないだろ。

 勝っても負けてもメリット何一つないし。



「どっちがふさわしいかなんて、そんなの別にお前でいいだろ。どうせお前の中での話だし。どうでもいいことのために俺の時間を削るな。じゃ、俺は帰るんで」



 そう告げて帰路につこうとするが、何故かさっきまでは喧嘩を止めようとしていた辻岡が急に豹変し――


「真二! そいつめっためたに殴っといて!」

「了解!」


 おい、辻岡!

 お前、貴重な勉強シート配給元を病院送りにする気かよ!


「いっくぜー! ヒャッハー!」


 舌をだらりと出したまま、薬物でハイになった狂人のような形相で襲いかかってくるゴールデンモンキー。

 彼は腕をブンブンと扇風機のように振り回し、品性も知性も全く感じられない奇声で俺を威嚇してくる。

 どのような武術にも囚われない不良の名に恥じないワイルドな戦闘スタイルだ。

 少しは気張らないと怪我をしてしまうかもしれない。

 俺は両腕を前に構えた。


 まあ、まともにやりあう必要はないし、ここは隙を作ってさっさと逃走するべきだな。

 何発か受け流してから、不意打ちで足を引っ掛けて転ばせてそのままトンズラと行こう。


 よっしゃ、かかって来いや!!!




 ズッコン、ばっこん、ボコボコ、どこん。




 うん、あの……。

 ちょっと言いづらいんだが……。

 かなり自信満々で襲ってきたからかなりあれなんだが……。

 まだ喧嘩が始まってから三十秒も経ってないんだが……。

 俺、逃げるつもりだったんだが……。




 こいつ、よっえぇー……。




 振りかぶってきたので身を翻して躱したら勢い余って地面にフェイスダイブしやがるし、蹴りを入れてくるから前足でブロックしたら親指でもぶつけて痛かったのか一人でピーギャー喚き出すし、しまいにはバランスを崩して川に落ちてしまったのだ。


「わ、悪い。ちょっとやりすぎたかもしれん。大丈夫か?」


 泣きべそをかきながら川の浅瀬でうずくまっているゴールデンモンキーに手を差し出す。

 すると彼は怯えている猫のようにシャーと声を上げた。


 ……本当に不良なのか、こいつ?


 確かにゲームもテレビもパソコンもない俺は、お金がかからない趣味として多少の筋トレを嗜んでいるが、日々しっかりと栄養を摂っていないので体つきはかなり残念だ。

 そんな俺にすら手も足も出ないとか喧嘩素人すぎるだろ……。


「真二、ボンビーに負けちゃったし。だっせw」

「それな、マジそれな」

「うるせーよ! どうせお前らだって勝てねーだろうが」


 まあ、そうだろうな。

 余暇をネイルと化粧につぎ込んでいる奴と、同調しかできない意識低い系の丸刈りに俺が負けるわけがない。


 だがゴールデンモンキーよ、お前は人の心配よりはまず自分の心配をしたまえ。

 この程度で不良グループのリーダーを名乗るとか恥ずかしくないのか?




「あの……なんかごめん。変なことになっちゃって……」

「気にするなよ。悪いのはお前じゃなくて、勝手に勘違いしてたこいつだろ?」


 申し訳なさそうにしている辻岡にフォローをしておく。


 だが、それはそれ。

 これはこれ。


 さっき「めっためたに殴っといて!」とゴールデンモンキーを煽ったのを許したわけじゃないからな。

 次の勉強シートにしれっと嘘を紛れ込ませて、「楽々誰でもギリギリ赤点! 茨城のスペシャル勉強シート」にしてやるからな。

 覚悟してろよ。


「勘違い? お前ら付き合ってないのか?」


 ゴールデンモンキーさん、今更気づいた模様。


「当たり前だろ」

「うん」

「お、俺はなんのために恥をかいたんだ……」


 さあな、俺に聞くな。



***



 その後、俺とゴールデンモンキーが喧嘩して俺が勝ったことは校内で瞬く間にホットな噂となり、いつの間にか俺が不良グループの新番長として認識されるようになってしまった。

 勘弁してくれよ……。

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