#7:魔獣の正体
[2019-12-15]矛盾点の修正を行いました。
あれ以来ギルドのほうでは謎の魔獣に関して、調べを進めていったらしい。
僕たちはというと、時々ギルドの職員にアルフレイドが呼ばれるくらいで、大きくかかわることはなく、いくつか依頼をこなしていった。
因みに僕のギルドの登録ランクはアルフレイドの推薦などのおかげもあって、最初期のEからDまで上がっていた。
そして、僕たちが最初にあれに遭遇してから、大体一月ほどが経過したある日。
「すいません。ギルドマスターからアルフレイドさんに話があるみたいなので、ご一緒していただいてもいいでしょうか?」
その日の依頼の達成報告をしたときにリアナさんがアルフレイドにそう言った。
「ギルドマスターが私に、か?」
「はい、今回の魔獣関係についてだと思うのですが」
「なるほどな。そうか、では、おい待てレキシア。どこに行く」
アルフレイドが呼び出しをされるのはこれまでもいくらかあったので、いつも通り終わるまで掲示板でも見ていようかと思ってその場を離れようとすると、アルフレイドから服の襟をつかまれた。
「え?いやだって、アルフレイドに話があるんでしょ?僕いなくてもいいよね?」
「今まではそうだったかもしれないが、今回は別だ。ギルドマスターが直々に話をしようというのだ、内容など大方予想はつくだろう」
「その話し合い、僕必要?」
「本来は必要ないが、今回は特殊な事情があるから必要だ。お前も来い」
毎回思うのだが、この人はこういう時ですら語らなすぎる。
もう少し詳しい状況説明をお願いしたい気持ちを飲み下して、僕はリアナさんとアルフレイドの背中を追ってカウンターの奥に向かった。
「トロイさん、アルフレイドさんをお連れしました」
「入ってください」
リアナさんが開けた扉の向こうにいい年をしていそうな男性が書類の山を脇へ押しやりながらこちらを見ていた。
「どうぞ」
「あ、どうも」
リアナさんが扉を手で開けたまま横へどいてくれたので、一礼してからズカズカと中に踏み入ったアルフレイドに続いて、中に入る。
部屋の中はほとんど装飾がなく、確かに仕事をしている部屋という感じだ。
「どうも、わざわざご足労いただいてありがとうございます」
トロイと呼ばれた人は礼儀正しそうな男性だった。それこそ執務室の机に座って仕事をしていなければ街中にいる男性と大して変わりなさそうに見える。
「どうぞ座ってください」
「・・・ああ」
どうぞと差されたソファにアルフレイドと並んで腰かける。
トロイさんが反対側のソファに座るのが早いか、アルフレイドが口を開いた。
「申し訳ないが、私は回りくどいのが嫌いだ。それから腹の読みあいも嫌いだ。だから単刀直入に頼む」
確かにアルフレイドが腹の読み合いやら、迂遠な言い回しが嫌いなのは前々から自分で言っていたことだが、まさかギルドマスターなんてのにもここまで言うとは思わなかった。
おかげで、アルフレイドのほうを見て少し固まってしまった。
「・・・なるほど、分かりました。実はいろいろ言葉を用意していたのですが、単刀直入に言います。今回の赫龍ソルアド討伐戦に参加していただけないでしょうか」
「赫龍ソルアド、か。そういうことだろうとは思った」
ここでいう赫龍ソルアドというのは、おそらく最初の依頼のとき遭遇した魔獣の事だろう。
そして今回の僕の修行における討伐目標でもある。
「それに関しては私には断る理由はない。しかし、条件が一つだけある」
そういうとアルフレイドは僕の頭をグイっと引っ張り寄せた。
「こいつの参加を認めてくれ。それが条件だ。参加するつもりではあったし報酬も普通で構わん。元より金には困っていない」
アルフレイドがそういうとトロイさんは不思議そうな顔をして少し首を傾げた。
「前から気になっていたのですが、彼とはどのような関係で?」
「親子みたいなものだ。今はこいつのたっての希望でな、修行の旅をしているんだ」
「親子、ですか。なるほど、それで参加させてくれというわけですね」
「ああ、邪魔はさせない。いろいろと難点はあるが、こいつの能力は私が保証しよう。ランクは足りないが、どうだ?」
「どうもなにも、あなたに参加してもらうためにはその条件を呑むしかないじゃないですか」
トロイさんはそういうと、少し困った顔で笑った。
「そうか、なら話は早いな。赫龍ソルアド討伐依頼、承った」
「結構攻めたね」
「何がだ?」
「まさかギルドマスター相手にあそこまで言うなんてね」
「お前は知っているだろう、私は腹の読みあいも迂遠な言葉づかいもできん。腕っぷしだけの女だからな。ああいう戦い方しかできんのさ」
アルフレイドはそういいながら少し苦い顔をした。
この時の僕はもしかしたら僕の役目はこういうところなのかもしれないと漠然と思ってはそんなことはないとその考えを手放した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ほら、起きてよ。今日は丸一日準備するんでしょ」
かなり大胆な格好で寝ているアルフレイドの額をペシペシ叩きながら、僕はそう言った。
「うう~ん・・・」
実をいうとアルフレイドはそこそこ寝起きが悪い。正確には宿屋などの危険がない場所での通常時の寝起きが悪い。
ついでに額をたたくためにそこそこ近付く必要があるわけだが、引き際を誤ると・・・
「わぶっ!」
猛烈な勢いで伸びてきた手が僕の頭をひっつかんで抱き寄せた。
このように抱き着き癖があるので、大変なことになる。
なんせ最強クラスの魔族による無意識下での抱きつきだ。手加減なんてあるわけもなく。
それは正直、抱きしめというよりも締め落としに近い。要するに死にかけるのだ。
昔からそれは変わらないので、慣れたものではあるが・・・
「痛い痛い痛い」
痛いものに変わりはないのだ。
(っていうか痛い痛い本当に潰れる!)
もっきゅもっきゅ
「アルフ?」
「んぁ・・・?」
僕の目の前では完全に寝起き状態のアルフレイドがもっきゅもっきゅと朝ご飯を頬張っている。
日中はピンとまっすぐ伸びている白髪もハネ放題、うねり放題という様だ。まぁそれもなかなか絵になるのだが。
この様子からはいつもの凛とした雰囲気は想像できないだろう。当然逆も然りだ。
何年も一緒に過ごした僕ですら、今でも実は別人なんじゃないかと思うことが結構ある。
「大丈夫?起きてる?」
「・・・んん・・・ああ・・・」
「食べ終わったら顔洗ってきなよ」
「・・・ん・・・」
アルフレイドが少し呻いてから立ち上がる。まだ朝食は残っているがいつものことなので特に何も言わない。
そのまま・・・
ゴンッ
「あうっ」
壁にぶつかった。
「ちょっとアルフ、ここ家じゃないから。そこじゃないよ」
そういうとアルフレイドは額を両手で押さえながら、恨めしそうな視線をこちらに向けてきた。
こういう時判断を誤ると僕が吹き飛ぶので、笑いをこらえながら立ち上がる。
「はいはい、行きますよ。中庭だから」
そのままアルフレイドの手を引いて中庭に向かう。
井戸で水を汲んでそのまま・・・
ザバッ
「わぶっ」
アルフレイドの頭にひっくり返した。
桶を井戸の中に戻し、少し待つと、
「毎度すまんな。ありがとう」
顔に貼りついた前髪をかき上げながらそういった。
本当にこの身替わりの速さは何なのだろう。本当に中身別なんじゃなかろうか。
どもども、にやにやしながら書いた#FF9900です。
絶対一回は書きたかったんですよねニヤニヤ回。
というわけで実はかなりポンコツなアルフさんをご堪能ください。
もしかしたらここ直すかもしれないなぁ。