#6:修行内容、魔獣討伐
昨日のアルフレイドの調査通り洞窟は途中で左右に分かれていて、その両方にタイニーラゴンがいるようだった。
僕たちは挟み撃ちされないように事前に決めた通り、二手に分かれてタイニーラゴンを殲滅することにした。
相変わらずアルフ作ってくれた魔封結晶は威力が非常に高いので、自分の足から膝くらいまである小さな竜を大剣で片っ端から斬っていく羽目になった。
それでもアルフレイドの鍛錬のおかげか、多少攻撃がかすったりしたが、問題なく討伐することもできた。
「ッ!」
剣を上から振り下ろして前方のタイニーラゴンを縦に叩き切ると、そのままの勢いで軸足を回し地面ごと後ろから来ていたやつを切り上げた。
斬られた奴は、左右に分かれながら天井近くまで飛んでいき、そのまま湿った音とともに着地した。
「今ので最後かな」
誰に聞かせるでもなくそうつぶやきながら周りを見回すと、大体50匹くらいのタイニーラゴンの死体が転がっていた。
大剣で切り裂いてしまったやつもいるので、全てではないのだが・・・
「こいつらから魔核とるのめんどくさいなぁ・・・」
「しかも小さいからな。とっても大した得にならん。とらなくてもいいだろう」
その声に顔を上げると、いつからそこにいたのかアルフレイドが腕を組んで洞窟の壁に寄りかかっていた。
さっきまで戦闘をしていたとは思えないほどきれいな姿だが─というか本当に戦闘していたのだろうか─どうせ、もう一つの道の先は大惨事になっているのだろう。
そんな僕の思考など気にも留めないかのように、僕がさっき地面につけた傷のふちを指でなぞると、少し不満そうに言った
「まったく、雑な使い方をする。剣が痛むぞ」
「アルフだって斬鉄とかやってるくせによく言うよ。それだけ細い刃の武器でやるんだから、そっちの方が痛むでしょ」
「何を言う。カタナは硬いものを滑らかに切ってなんぼなんだ。お前も使ってみればわかる」
「何千年も修練し続けた達人に迫る技を初見でやれってこと?無理だよ」
そんな話をしながら、タイニーラゴンの死体を洞窟の中央に集めていく。
死体をそのまま放っておくと腐敗やらなんやらで病気を呼ぶし、臭気も出るから衛生上よくないので、基本的には戦闘がひと段落して余裕があれば死体を焼くことになっているのだ。
埋めるのでもいいのだが、洞窟の中の地面は岩石質で埋めるのには向いていない。
「ほい、集めたよ。アルフよろしくね」
「ああ、『発火』」
アルフレイドの魔法によって、積み上げたタイニーラゴンの山を赤々とした炎が包み込んだ。
僕はその、森に住んでいたころは全く見ることのなかった光景になぜか、見惚れてしまった。
「なんていうか、不謹慎かもしれないけど、きれいだなって思うな」
「・・・そうか。命は儚いからこそ美しいということかもしれないな。ま、残されたものにとってはたまったものじゃないが」
「・・・ん?残され?」
「は?」
結局、街に戻ってきたのは昼頃だった。よって・・・
「また、誰もいないね・・・」
「当然だろう。冬前だし、昼頃だ。それほど人はいないだろう」
「まぁ、そうだね」
カウンターの向こうに見覚えのある顔があったので、そこに向かうことにした。
「どうも、戻ってきました」
「あ、ど、どうも。お疲れ様です。お連れ様はいらっしゃらないんですね」
「え?」
そういわれて振り返ると、確かにアルフレイドは忽然と消えていた。
瞬間的に周りを見回すと、依頼の貼られている掲示板の前に立つアルフレイドが見えた。
「あ、あそこにいますね。いつの間に行ったんだか・・・」
とは言ったものの、多分アルフレイドなりの配慮なのだろう。初日にあれだけの衝撃を与えてしまったのだから・・・という。
「あ、ほんとだ。いらっしゃいましたね」
「・・・ちなみに聞くんですけど、今でも?」
「・・・まぁ、ちょっとは。でも思い返してみればそれほど怖い方でもないのかなって思います。困った顔もしていらっしゃいましたし」
そこまで言うと、その女性は居住まいをただすと、初めて会った時と同じ笑になった。
「して、ご用件は何ですか?」
「あ、はい。依頼の報告に来ました。確認してもらえますか?」
「了解しました。えーっと・・・タイニーラゴンの討伐依頼ですね。記録結晶の提示をお願いします」
そういわれて僕は首にかけていた記録結晶とアルフレイドから受け取った記録結晶を手渡した。
記録結晶とは、ギルド登録時に貸与されるもので、ギルドの依頼を報告する際に必要だ。
移動軌跡や討伐した魔獣などが自動で記録される。どういうメカニズムなのかは流石に教えてくれなかったし、アルフレイドも知らないとしらを切っているので、どういう仕組みなのかはよくわからない。
「はい、確認しました。ちなみになんかすごい森の中をうろうろしていたり、するんですが、これは?」
「ああ、アルフが『タイニーラゴンの巣は森の中にあるわけない』なんていうので、洞窟を探していたんです」
皮肉の意味も込めて少しアルフレイドの声に似せて言うと、女性はクスリと笑ってから依頼書にハンコを押した。
「はい、大丈夫です。依頼は完了です。お疲れさまでした」
ハンコの押された依頼書を受け取ると、承認者の欄に『Riana・Tolasty』と書いてあった。
「らい・・・り・・・?」
「リアナです。リアナ・トルアスティといいます」
僕が読み方に困っていると、面白がるような顔とともにそう告げられた。
その顔がアルフレイドが嘘をつくときの顔に似ていて、思わず訝しげな顔になってしまった。
「本当に・・・?」
「本当ですよ。何で嘘つくんですか」
ま、当然の意見だ。
「すいませんね。アルフ、あの人の嘘つくときの顔に似てて」
「へぇ・・・そうなんですか。あれ?一緒に過ごされていたんですか?」
「ええ、母親みたいなものです。血はつながってませんけど」
「は、母親。な、なるほど、それはまた随分と・・・」
リアナさんが微妙な感じで言葉を切るので、僕は首をかしげてしまったが、恐らくアルフレイドの規格外性能の事を言っているのだろうとあたりをつけた。
「・・・あ、そうだ。魔獣から血液を吸い上げるような魔獣ってリストにあったりしますか?」
そういえばと、昨日の夜に見た惨状の犯人を調べるためにそう切り出すと、リアナさんは直前までの微妙な笑顔から急に険しい顔に変わった。
「その魔獣に関してはギルドのほうのリストにはありません。ただ、最近結構報告が多発していて、それ以外にも恐らくそれ関係で行方不明になった方もたくさんいるんです」
「ま、マジですか・・・あれは人も襲うと?」
「現在では正確な調査はできていませんが近いうちに調査隊が編成されることは確定でしょう」
「なるほど・・・」
「そういえば、その魔獣には会っていないんですよね?」
「いえ。あ、正確には姿は見ていませんが、すぐ近くには来たと思います。ただ、逃げてしまいましたが」
「・・・わかりました。できる限りの情報提供をお願いしてもいいでしょうか。それによって調査隊の規模も変わってきますから」
「いや・・・」
「あいつと並みの冒険者を当てるのは危険だ。さらなる被害を生む可能性があるぞ」
僕がその言葉に対して自分はあまり知らないことを伝えようとすると、いつの間にか後ろに出現していたアルフが突然話に入ってきた。
「ご存じなんですか?」
「ご存じではない。だが分かることもある。少しでも情報が必要なのだろう?」
ご存じではないって・・・
僕はその謎の語彙に苦笑いしながら、職員とともに別室に向かうアルフレイドの背中を追った。
「さて」
一通りの聴取を終え、ギルドから宿に戻る途中、商店街の入り口でアルフレイドは突然足を止めた。
もちろん宿へは商店街を通っていくわけではなく、入口の前を通り過ぎるだけなのだが・・・
一抹の不安を覚えた僕は恐る恐る振り返って、アルフレイドの顔を見た。
(ああ、これはあれだな・・・)
「今回の修業を決めた。」
「わかるよ、流石にね。主犯格の討伐でしょ?」
「その通りだ」
「Bランクでも当てちゃいけなかったんじゃないの?」
「英雄になりたいのにBランク云々なんて言っていられないだろう。魔王を倒すのならそのうち通る道だろう。何せあちらは魔境だ」
そういって、アルフレイドは冒険者ギルド、正確にはその方向を見上げた。
僕も大まかな世界地図は暗記したのでその方向に何があるかはわかる。
『魔族領域:魔大陸』
この世界の南方に位置し、魔族が多くいる大陸。
人間にとって至上の脅威である魔族が大量にいるので人間は滅多に近づかない。
それゆえに多くの物語の舞台にされる大陸だが、僕の知識的に言えば、普通の人間が生存できるような生易しい環境ではない。
そして、魔王がいるとすれば、そこだ。
つまりはこの修行の最終目的地だ。
・・・この時点で実は僕が失念していたことがある。とはいえ、失念して当然なのだが。
元魔王候補のアルフレイドが何千年もの間、隠居していてなおかつ一切その間トラブルがなかったことからちょっとはわかりそうなものだった。と後の僕は思ったという。
どもども、この前のapp store事件で3タイトル被害被った#FF9900です。
事件が終息したので、そのあとからはFGOで理性蒸発周回してました。
もうサンタ婦長正式加入分は集め終わりました。
ということで、今回はようやく本題の方向に話を向けることができました。
さて、レキシア君の失念って何でしょうね。(*´艸`)フフ