#5:巨大な脅威
アルフレイドが作っていたのは魔封水晶と呼ばれるものだった。
魔法を内部に発動寸前で保存し、割ることで保存された魔法を発動するといったもので、魔力供給がない状態でも魔法を発動できる。
本来であれば、魔力が尽きてしまった時の非常手段として使用されるものだが・・・
「今回みたいな群生の魔獣の討伐には魔法が必須といってもいいからな。おまえにも必要だろう」
そういってアルフは大小色とりどりな水晶を渡してきた。
焚火の明かりに透かして見ると、水晶の表面にはびっしりと小さな文字が彫り込まれていて、一種の芸術品のようだった。
「すごいね・・・こんなものが作れるんだ・・・」
「昔に覚えた。当時は久しぶりに習得するのに時間のかかったものだったな」
「なんか・・・割っちゃうのもったいないね」
「あんまり出し惜しみはするな、お前の命綱でもあるのだから。それぐらいならまた作ってやる」
そういうと、水晶に文字を刻むのに使っていた枝を焚火に放り込んでからその場で横になった。
「じゃあ見張り頼んだ。2オウルくらいしたら交代だ」
「分かったよ。ありがとう」
答えてすぐにアルフレイドの方から寝息が聞こえてきた。
その姿からはとても世界最高レベルの冒険者という感じはしない。危険が迫れば即座に飛び起きるのだろうが。
(みんなこうなのかな・・・)
足元に並べた薪を焚火の中に放り込みながら空を見上げようとしたとき。
(ッ!?)
視られている
周辺を見回してみるが、こちらを見ている人影も魔獣も見えない。
「・・・どう思う」
すでに起き上がっていたアルフレイドがカタナを持ち上げながら聞いてくる。
「多分、人じゃない。けど、場所まではわからない」
「そこまで分かれば上出来だ。こいつは相当隠れるのがうまいみたいだしな。ッ!」
そう言い終わるが早いかアルフレイドは弾かれたようにカタナを森に向けて一薙ぎした。
僕たちが野営していた場所は森の中で少しだけ開けた場所で、一番近くの木までだとしてもアルフレイドのカタナは届くはずもないのだが、その斬撃は数本の木の樹皮に浅い傷をつけた。
それを見て相手は怖気づいたのか気配はゆっくりと消えていった。
「チッ、遮られたか」
そのとんでもない斬撃を放った本人は舌打ちをしてからカタナを鞘に納めた。
「今のは・・・?」
「わからん。気配が薄すぎて全貌が把握できなかった。随分隠密にたけた魔獣みたいだな」
「追ってみる?」
「野放しにすると危ないかもしれないな。ちょっと様子を見てみるか」
そういうとカタナを腰に差しながら立ち上がった。
それを見て僕も近くの地面に刺していた大剣を背中に納めてアルフレイドの背中を追った。
「なに・・・?これ・・・」
「これはちょっと予想外だな・・・さっきの奴か・・・?」
数分後、気配が消えたという方向に少し進んでみたが、それらしき影は見つけられなかった。
そもそもそんなに期待していなかったのだが、その代わりに見つけたものは・・・
「死体・・・?」
「しかも血が抜かれているなんてのは普通じゃないな」
木と木の間に転がる数体のドラケンパンサーの死体。
しかもそのすべてから血が完全に抜かれている。
十中八九さっきの奴の仕業だろう。
「しかし、こんなことをする奴に覚えなんてないな・・・」
アルフレイドにも覚えがないらしい、当然僕にも覚えがない。
「これだいぶまずいよね・・・?」
「まずいな。見た感じまともな戦闘をした後もない。こいつ相当強いな」
「どうする・・・?いったん戻って報告を・・・」
「いや、このまま依頼は達成してしまおう。この近辺にやつの気配はない。しばらくは接敵するような距離には来ないだろう」
アルフレイドはそう断言すると、踵を返してきた道を戻っていく。
あの自信はおそらくお得意の規格外索敵から来るのだろうから、この場で食い下がっても仕方ないのだろう。
アルフレイドと僕はそのまま、昨夜の野営地には戻らずそのまま目的の洞窟に向かった。
「『夜目効』・・・よし、いいだろう」
夜目効は洞窟探索には必須の魔法で、要するに暗視の効果を付与する魔法だ。
必須ゆえに非常に簡単だが、相変わらず僕には使えないので、こうしてアルフレイドにかけてもらう必要がある。
「なかなか厳しいね。魔法が一切使えないのは、さ」
「そういうな、お前が悪いわけではないさ。あんまり自分を責めるとこれから先やっていけないぞ。責めるんなら私を責めろ」
「そういうわけにはいかないかな。一応恩人なわけだしね」
「・・・そう思ってくれるなら助かるな」
「なに?そんなこと言うなんて珍しいじゃん」
「私だって一応は人並みの母親だと思っているのだ」
ふざけているような会話をしながら僕たちは洞窟の中に足を踏み入れた。
内部はかなり暗いようだったが、アルフレイドの暗視魔法は問題なくかかっていて、奥の方までよく見渡せる。
広さも僕はもちろん、アルフレイドの身長の数倍もあるほど広い洞窟だったので戦闘する分にも問題はなさそうだ。
鍾乳洞だったようで天井には岩でできたつららが大量に生えている。
(あれ落としたらかなり痛そうだなぁ)
と、痛みを想像して顔をしかめていると、前方から数匹のタイニーラゴンが飛んできた。
相手は明らかにこちらを認識しているので、奇襲は無理だろうと判断して大剣を背中から抜くと、ほぼ同時にカタナを抜刀したアルフレイドが何かを思いついたかのような顔をした。
「そうだ、私が渡したあれ、使ってみるといい」
「ああ・・・これ?」
アルフレイドに言われて僕がポケットから取り出したのは昨晩アルフレイドが作っていた“僕の手妻”こと魔封結晶だ。
アルフレイドは僕の手にある魔封結晶を一瞥して頷くと一歩後ろに下がった。
僕は魔封結晶を握りなおし、前から迫ってくるタイニーラゴンの一匹に狙いを定めると、全力で振りかぶって投擲した。
武器の扱いと同じく、アルフレイドからの訓練の中には投擲もあったので、寸分違わずタイニーラゴンの前の地面に着地した。
着地の衝撃で決勝にひびが入ったとほぼ同時に、光と音が弾けた。
僕が投げた魔封結晶に封じてあった魔法は『爆炎』だった。
その名前に違わず、魔封結晶から一気に解放された爆炎は僕の背の三倍以上ある洞窟の天井近くまで一気に広がった。
もちろん、一直線に突っ込んできていた数匹のタイニーラゴンはもれなく爆炎に飲み込まれた。
「・・・アルフレイド・・・これ強すぎない?」
「私もちょっとやりすぎたかもしれないと今思った。まぁ、今から調整する暇なんてないからな、それ以外もあるしうまく使え」
少し責める意味合いも込めた僕の言葉はアルフレイドの“丸投げ宣言”で受け流された。
基本的にこんな感じなので、案の定という感じではあるが。
因みに、爆炎にきれいに飲み込まれたタイニーラゴンはというと、どうやら吹き飛んでしまったようで、煙がなくなった後にも見つけることはできなかった。
このことからも相当な爆炎であったことは想像に難くないだろう。
どうも、最近本職がおろそかな#FF9900です。
え?何が本職なのかって?
・・・。ま、そういうことです。
中々初依頼が終わりませんけど多分次回で終わります。