#3:黒白誕生
[2019.12.15]改稿を行いました(修正箇所:3)
関門でのひと悶着以外では大した事件もなく、冒険者ギルドまで来ることができた。
木製のスイングドアを押し開いて中に入ると予想外に人はおらず、見た目以上に内部は広く感じた。
構造は正面にカウンターがあり、左には掲示板、右にはいくつかの椅子と机、上に上るための階段があるだけだが、今は椅子に数人が座り話し合っているのみで寂しさを感じる。
それもそのはずで、今は時間的には昼、しかも冬も近いとあってほとんどの冒険者は休んでいるか、冬の蓄えを作ろうと仕事に精を出しているだろう。
取り敢えず、周辺を見回しながらも正面のカウンターに向かう。
時期的なもので冒険者の数が少なくなる時間帯だからなのかカウンターにも一人の影しかおらず、奥の机も大半が空いている。
「初めまして、ご用件はなんでしょうか?」
受付のケットシーの女性は近づいてくる僕たちを見るとにこやかにそう聞いた。
「えっと、登録をお願いしたいんですが大丈夫ですか?」
「わかりました。現役の方の推薦はありますか?そうでない場合は登録試験を受けていただくことになっているんですが」
もちろんこちらには伝手はないので、了承しようとしたとき突然アルフレイドが口を開いた。
「申し訳ないが、試験の内容を教えてもらえるか?要求される技能だけでいい」
「要求される技能ですか?えーっとそうですね。明確に規則があるわけではないですが、戦闘能力、公共性、あとは・・・魔法の利用能力でしょうか」
その言葉を聞いて息を呑んだのは言うまでもないだろう。
何せ僕は魔法が全く使えないのだ。息を呑んだはおそらくアルフレイドも一緒だっただろう。
「魔法・・・か」
「はい、こちらから出させていただく依頼には魔法の使用が必須となるようなものもありますから、そういう依頼を出させていただくために試験の段階で魔法の利用能力等を見させていただくことになっています」
それは非常に妥当な理由だがこの場合は問題だ。
「・・・わかった。じゃあこうしよう」
アルフレイドは少しの間黙っていたが、やがてあきらめたように首を横に振ると、カバンから一枚の板のようなものを取り出した。
「私がこいつを推薦する。これなら問題ないはずだ。ランクに関しても問題はないだろう?」
カウンターの上に投げ出された鈍色のプレートには「アルフレイド・グリアーデ」という名前が刻印されていた。
その横には“SSS”という文字も。
「あ、お持ちなんです・・・はにゃっ!?」
プレートを持ち上げて、見た瞬間見事にケットシーらしい一驚したような声が響いた。
というかプレートを凝視したまま固まってしまっている。
当人のアルフレイドはどうしているかというとその反応には慣れているといわんばかりに腕を組んで続く反応を待っている。
結局女性の石化が解けたのは5ミニュトほど経った後だった。
「え、えっと。確認取れました。し、しかし一つだけ質問よろしいでしょうか・・・?」
先ほどよりもさらに丁寧な言葉遣いになった女性が恐る恐るアルフレイドに質問する。
「記録にはあったんですが・・・最後の依頼の達成日時がないんです・・・依頼を最後に受けたのはいつですか・・・?」
「正確には覚えていないが・・・300年くらい前だろうか?もう少し明確に必要か?」
「さんびゃっ、いえ大丈夫です!登録名簿には名前がありますし、推薦に関しても問題ありません!」
「そうか、よかった。・・・しかしそんなにおびえられるとは・・・」
アルフレイドはというと、何ともやりづらそうな顔をしている。アルフレイドは正直あまり好戦的な性格はしていない。
それだけにここまで相手におびえられるというのも精神的に堪えるのだろう。それとも長いこと慣れきってしまった僕と生活をしていたから、その蹴り戻しみたいなものもあるのだろうか。
ギルドの制度に明るくない僕でもその板に刻まれたSSSの凄さは流石にわかる。
300年という年月のありえなさも。
「い、いえ・・・種族のほうは・・・?」
やはりそこが問題だろう。
今のアルフレイドはいくら何でも300年隠居していたにしては若すぎる。
今のところ、種族単位で人族と友好的でかつ長命な種族はエルフだが、それでも400年が寿命の限界だ。
300年隠居していてそれ以前は冒険者として活動していたというと明らかに年数が合わない。
「エルドだ」
「にゃっ・・・!?」
(・・・!?)
アルフレイドの口から出てきたのは多分本人以外のすべての人が予想していなかっただろう。
『古人族』はかなりの大昔に『神族』と戦争をして敗れ、殆どの人口を失った─滅んだ種族のはずだ。
しかし、この状況においてはその希少さを除けば最も最適な返答でもある。
古人族は極めて高い基礎能力を種族単位で持ち、加えて寿命が極めて長い。ほとんど不死だという。
その種族ならば、SSSという異常なまでの高いランクも、300年隠居してのこの見た目も説明できる。
「な、なるほど・・・」
相変わらず、とんでもない希少性には変わりないが、女性は一応納得してくれたようだ。
「で、では、登録証を発行します。登録証に入れる名前の記入をお願いします。あ、あと推薦者の名前も入れるんですが、そのままでも大丈夫ですか・・・?」
相変わらず、アルフレイドに対してはだいぶ引け腰だが。
(うーん。どうしようか)
アルフレイドが登録証に入れたのは偽名というか偽姓だったようだが、僕はそのまま入れることにした。
「これでお願いします」
「あ、はい。わかりました。それとパーティーについての説明なのですが・・・」
「いや、その説明はいい。私がこいつと組む。それについての手続きも頼む」
相変わらず、アルフレイドが口を開くたびにびくびくしているので若干かわいそうになってくる。
正直本当のことを言ったところでそれは変わらないだろうし、そもそも登録証のSSSの文字の時点でこうなることは大体決まっていたようなものだろう。
「で、では、パーティー名を決めてこの紙に記入をお願いします」
・・・正直ここが一番大変だった。
レキシア・フロアバルドと刻まれた登録証をアーマーのポケットに突っ込みながら隣のアルフレイドの顔を見上げると、心なしかうれしそうな顔をしていた。
「何で黒白なのさ?」
「いいじゃないか。私が黒、お前が白だよ」
「まぁアルフレイドが黒なのはわかるけど、僕別に白くないよ?」
「それは・・・まぁ、そのうちわかるさ」
「ふふ、なにそれ」
久しぶりにした親子らしい会話に少し顔が綻んでしまった。
「ていうか何でエルドなんて嘘ついたの?」
「昔からそう言ってきたからな。私がここに登録したときはまだ戦火が残ってたんだ。魔族は敵っていう風潮もあったしな。流石に魔族とは名乗れなかった」
「なるほど、確かにそうだね」
「・・・それに・・・私自身あんまり魔族という種族が・・・いや、何でもない」
アルフレイドが後ろのギルドを振り返りながら何事か言いかけたみたいだが、僕には何も聞こえなかった。
何せ、僕は手元の依頼書に目を通していたのだ。そのせいだからだろう。ギルドの建物を見上げるアルフレイドの顔が曇っていたことに気づかなかった。
どうもTwitterで名前がしっかり使えない#FF9900です。
それはそれとしてどうやら専門用語の説明が少なすぎるみたいなので、どこかで専門用語の解説ページを作ります。
キャラクターのプロフィールは事情により作れないので、なるだけ覚えてください(殴