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親バカ魔王と弱勇者見習いの修行旅行譚  作者: #FF9900
第一章:赫龍
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#2:夢へ、約束へ <後編>

この話は旧一話の分割版になります。改稿はしていないので、改めて読む必要はありません。

吹き飛ばしたドラケンパンサーの喉を後ろの木ごと大剣で突き刺す。

「ふう・・・訓練の成果は結構あるのかな・・・」

周りに散乱している数匹分のドラケンパンサーの死骸を見ながらそう呟く。

あの地獄のような訓練をしていなかったら流石にこれほど余裕を持って戦えていないだろう。

因みにアルフレイドはというと。

「下らんな。所詮はこの程度か。いや、魔獣ごときにそれほどの能力を求めるのは逆に酷というものか」

僕の倍以上の数のドラケンパンサーを僕以上の速度で仕留めていた。

試しに足元の死体を一つ持ち上げてみると、ずるりという音を立てて首が滑り落ちた。

滑らかな切断面からは血が滴ることはなく、仄かに肉の焼ける匂いがする。

相変わらずの規格外ぶりに嘆息しながら、素材の剥ぎ取りを始める。

ドラケンパンサーやそれ以外の『魔獣』と呼ばれる生き物たちには総じて『魔核』(EvilCore)と呼ばれる器官が体内に存在する。

役割としては『魔力の生産』だ。

因みに人間も魔力を使うことができるし、それゆえ魔核が存在する。

そのため種族的にはこの死体たちは同類でもあるのだ。

だからと言って殺すのをためらうこのなんてない・・・と思うが。

僕は僕とアルフレイドの周りに散乱していた合計で12体ほどのドラケンパンサーから魔核をはぎ取ると、少し深めの穴を掘って残骸をすべて放り込んで埋めた。

「随分と久しぶりのはずだが、案外手際がいいな」

「物覚えがいいのが僕の取り柄でしょ?」

後ろから僕の手元をのぞき込んでいたアルフレイドにそう答えると、僕は魔核を旅鞄の空いたスペースに詰め込み立ち上がる。

「街まではあとどれくらい?」

「あと一回野宿すれば着くぐらいだ」

アルフレイドはそういうとカタナを腰の鞘に収め、立ち上がった。


戦闘の後森の中で一度野宿し数十キロア程家から離れてきたころ、木がなくなり急に視界が開けた。

森の前に広がる平原の中心には壮大な壁がこの場の主のように座していた。

「あれが・・・」

「メイシアだ・・・が、あれ本当にメイシアか・・・?」

アルフレイドは言葉の途中から顔をしかめ、首を傾げた。

「どういうこと?」

「以前私が見たときよりもはるかに街の規模が大きい。それこそ数倍ほどだろう。外壁の大きさもだいぶ上がっている」

「どういうこと?見たんじゃないの?」

「簡単に確認しただけだ。さすがの私もあの距離で明確な像を得ることはできない」

「戦争とかで増設したりしたのかな」

「・・・世俗に疎すぎるというのも問題だな」

しばらく二人してどうしようかとその場で壁を眺めていたが、結局は言葉もなしに街に向けて歩き出した。

いろいろと予想外はあったが、結局のところ目の前の街がメイシアであろうがなかろうがあまり関係はないのだ。

しばらく歩いていくと、正門の前の行列が見えてきた。

それと同時に門のほうを険しい顔で見ていたアルフレイドが少し安堵したようなため息を漏らして言った。

「大丈夫そうだ。旗は変わってない。私が最後に見た時から所属する国は変わってないようだ」

「ツィアロス王国だっけ。旗は確か・・・」

家の本で見たツィアロスの国旗は確か、細剣(レイピア)に蛇が巻き付いたようなものだった。

僕も目を凝らしてみるが、もちろん遠すぎてそんなものは見えない。

「・・・あんまり魔法を使いすぎると魔力の動きで気取られるよ」

「そんなことはわかっているさ、隠蔽もしている」

一応きちんと対策はしているらしい。

「あの列が街に入るための関門に続いているな。あれに並べばいいのか?」

「多分だけどそうだろうね。でも街の外に列なんて作っても大丈夫なのかな?」

「短いし、周辺には騎士のような奴がちらほら見えるし護衛しているんだろう。でなければ難しいだろうさ。行くぞ」

それだけ言うと、鞄の位置を直しながら街に向けて歩き出した。

「アルフレイドはメイシアの街に来たことは?」

「私は・・・ないな。そもそも、あの家で十分生活できたのだから、街に来る意味などないだろう」

「・・・そうなると、常識とかは・・・?」

「・・・」

その顔は紛れもなくまれにあるアルフレイドが天然的なやらかしをしたという証拠だ。

非常に無表情でいつも通りのように見えるが、目の動きが忙しないし、指先がピクピクしている。

目の前で指摘されてもこの顔をするのだから、非常にわかりやすい。

「・・・まぁ、だいぶ長いこと山奥に住んでたわけだし、仕方ないでしょ。やましいことは何もないし」

「・・・そ、そうだな」

(あ、今こっそりため息はいた)


「身分の提示をお願いします」

あの後、関門での通過審査のとき、案の定問題は起きた。

「あの~・・・後ろが使えているので・・・」

どうやら、関門の通過申請には身分の提示が必要らしい。もちろん口頭で名乗ればいいというわけではないのは流石にわかる。

何せ思いっきり衛士が右手を差し出しているのだ、どう考えても何かしら渡さなければならないのだろう。

隣のアルフレイドも珍しく仏頂面を崩してしかめっ面をしている。

「・・・申し訳ないんですけど、持ってなくて・・・」

「・・・あ、なるほど。・・・その場合でしたら、仮許可証を発行する必要があるので、審査が必要なんですけど付き合っていただけますか?」

疑問形だが、明らかに拒否権はないし、そもそもその対応は当然だろう。というか、救済措置があるだけで僕たちにとってはかなりありがたい。

しかし、衛士が指さす先は明らかに屯所だ。どう考えても警戒されている。

「・・・はい。大丈夫です」

ちょっと情けない気持ちになりながらも頷いた。


「じゃあ少ししたら上のものが来るので、指示に従ってください」

そういって衛士の人は扉から出て行った。

通された部屋は椅子と机があるだけの狭い部屋で、なかなかに狭い。

僕は椅子に座って担当の人が来るのを待っている。

アルフレイドはというとさりげなく扉近くの壁に寄りかかってしまったので、僕に受け答えは任せるということなのだろう。

手持ち無沙汰なんてことはなく、人生で初めてのことで緊張度合いが大変なことになりながら待っているとしばらくして向かい側の扉が開いた。

「どうも、話は聞いているよ。身分提示物がないんだってね」

そういいながら入ってきたのは、レザーアーマーとでもいうような鎧に身を包んだ、女性だった。

「申し訳ないけど、これも規則でね。質問をさせてもらうけど大丈夫かな」

「あ、はい大丈夫です」

女性は僕の返事に満足げにうなづくと、持ってきた革表紙の本を開きながら最初の質問をした。

「これから、嘘偽りを述べる気はある?」


「ん、大丈夫そうだね」

結局本当にいくつかの質問で女性はその言葉を吐いた。

「え、大丈夫なんですか?重要なあれじゃないんですか?」

「あれって何さ。まぁ大丈夫だよ。私人を見る目はあるんだ。私はシルディア・ヴェイド。メイシアの街の衛士長をしているよ。よろしくね」

「あ、はい。よろしくお願いします」

「そちらの方もよろしくね」

「・・・ああ、世話になったな」

「愛想がないなぁ・・・まぁそういう人もいるか。はいじゃあこれ、仮許可証ね。一応言っておくけど、街に入ったら出る前に必ず何かしらの許可証を発行してね」

「はい、大丈夫です。ちなみに冒険者ギルドの場所はどこでしょうか?」

「堅いなぁ。大通りをまっすぐ行くと突き当りがギルド地区だからそこにあるよ。一番大きいところね」

「わかりました。ありがとうございました」

「はいよ。お気をつけて」

にこやかに手を振るシルディアさんに一礼してから、遁所の街側の扉を開けた。

「わぁ・・・!」

「へぇ、なかなかすごいな」

メイシアの街はそんな声が漏れてしまうほど、色鮮やかに僕たちを迎えてくれた。

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