#21:招待と、違和感
アルフは細く息を吐きながらドアをゆっくりと開ける。
「何の用だ」
そういうアルフの先には黒のテールコートを着こなし、白髪の混じる髪を後ろに流したいかにも執事然とした男が立っていた。
その後ろには甲冑こそ着込んでいないものの、軍服と思しき服と長剣で武装した兵士らしき人影も数人見える。
「私はベディシェル家執事筆頭、ダルテ・オフィキムと申します。アルフレイド・グリアーデ様で間違いありませんでしょうか?」
「ああ。しかし、筆頭執事とはな。随分大物が出張ってきたものだ」
「あなた様のSSSには遠く及びませんよ」
表面上は大人しく見える掛け合いだったが、僕はどこか張り詰めた空気を感じていた。
二人はしばらく何も言わずに互いを見つめあっていたが、やがてダルテがふっと短く息を吐くと口を開いた。
「失礼しました。わが主、ジェロア・ベディシェル様がお話があると。今回の内戦への参加要請についてです」
「あいにくと今私はこいつの旅の付き添いだ。おかしな話かもしれないが、私の一存でそれについて決めることはできない。こいつを連れていくが構わないな?」
アルフが後ろに立つ僕を背中越しに指さしてそう言う。その言葉は先ほどまでよりも幾分か高圧的だった。
ダルテはその声音にも怯むことなく、懐から一枚の封書を取り出すと、それをアルフに手渡した。
「それについては問題ありません。こちら邸宅までの地図と招待状でございます。門番に見せていただければ大丈夫です」
「いつ行けばいい」
「すぐにでも・・・と申したいところではありますが、こちらにも準備がありますし、長旅でお疲れでしょうから明日の昼時などはどうでしょうか」
「そう思うならすぐ来るなという話ではあるがな・・・まぁいい。では明日の昼頃に行くことにする」
「よろしくお願いいたします」
ダルテはそういいながら仰々しく会釈するとそのまま連れてきた兵士とともにあっという間に宿を去っていった。
窓の向こうで街道の向こうに消える馬車を見届けると、アルフは深くため息をついてベッドに勢いよく腰を落とした。
それから右手に握ったままだった招待状を面白くなさそうに一瞥するとそのままベッドの横にある机に放り投げた。
なおもよくわからないままの僕は机の上に放られた招待状を拾い上げひっくり返してみる。
封蝋には鳥が何やら玉のようなものをつかんでいる様子が刻まれている。
(そういえば確かに関所にもこのマークの旗があった気がする・・・)
つまるところの話、国の代表からの招待を受けたということだ。
対象はアルフだけだったが話の流れ的にまたもや強引な流れで僕は話の中にねじ込まれてしまったのだろう。
特に開けることはせずに机の上に戻すと、アルフに正面に腰掛けるように合図される。
言われたとおりに正面に座るといつになく真面目な顔のアルフが正面から顔を覗き込んでくる。
「どう思う」
「どうって?」
「この招待だ。相手はどういう意図だと思う?」
それについては僕も考えていたものだ。
ダルテは明確に『内戦参加の要請』と言っていた。十中八九それで間違いないだろう。
「いや、普通に『内戦に出ろ』ってことだと思うんだけど・・・」
「ああ。そりゃそうだろうさ。問題はその先だ。『お前は受けるか?』」
「それは・・・」
その質問に思わず言葉が詰まった。
困っている相手を放っておくことはできない。したくない。
本当に困っているならまんざらでもないのだが、本当に困っているだろうか?
困っていないのならなぜアルフの力を欲するのだろうか?
どこか裏があるような気がしてならなくて、僕はただ冷や汗を流しながら黙りこくることしかできなかった。
「・・・まぁ、意地悪な質問だったか」
アルフはそう言うと一度僕の頭をなでて部屋から出てどこかへ行こうとする。
その時、僕の口は一人でに開いて、言葉を紡いだ。
「・・・街の人はどこに行ったの?」
その言葉は決して頭の中に思い描いていたものではなかったが、確かに僕が感じていた違和感の一つだった。
街の人は確かにいる。人通りが少ないといってもゼロではないのだから。
しかし、僕の目にはどうしてもそれが正常であるような気がしなかった。ほかの街とは違う。“街の特徴”で済ませてはいけないような、そんな差異がある気がしたのだ。
「あ、えっと・・・街の人っていうのは・・・うわっぷ!」
傍から聞けば意味不明な言葉を取り繕おうと言葉を続けようとする僕を半ば無視するように、アルフは早足に戻ってくると僕の頭を先ほどよりも強い力で撫でまわした。
ひとしきり撫で終わると、しゃがんで僕の顔を覗き込むと、満面の笑みで言い放った。
「そうだな。“街の人がどこに行ったか”探してみようか」
さあバシバシ書いていきましょう。
いい感じに時間が取れているのでこの調子でさっさと三章を終わらせられるように急ピッチで書いていきますよ。