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親バカ魔王と弱勇者見習いの修行旅行譚  作者: #FF9900
第三章:ベディシェル革命戦争
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#20:ベディシェル公都、アズダ

革命戦争のせいなのか、関所の前に列ができているようなことはなく、兵士がいることもなかった。

どうしたものかと少し門の前で待っていると、慌てた様子で関所の遁所から兵士と思しき狐人(Foxier)の男が出てきた。


「あ、すいません。通りますか?」


ずれた帽子を直しながらそう聞いてくる。


「あ、はい。大丈夫ですかね?」

「はいはい。大丈夫ですよ。身分を証明するようなものはありますか?」


その言葉に僕とアルフの冒険者ギルドの登録証を手渡すと、手元の紙と登録証を見比べた後、驚いた様子で顔を上げた。


「SSSランクですか!?」

「ああ。・・・昔少しあってな」

「すごいですね!!握手してもらっても?」

「・・・あ、ああ。構わないが・・・」


狐人らしい長い顔に満面の笑みを浮かべながら少年のように興奮した様子で握手を求める男に少し怯みながらもアルフは右手を差し出した。

握手をして気が済んだのか、少し居住まいをただすといかにも軍人のように敬礼をして話し始めた。


「ベディシェル公国国軍所属のカタス・トートゥアです。これより入国に関しての注意をさせていただきます」


カタスの言ったのは次のようなものだった。

・内戦に巻き込まれる可能性があるため公都周辺より西に行くことは推奨できない。

・革命軍との接触は重罪に問われる可能性がある。

・冒険者は国から内戦参加の要請が下る可能性がある。

・一部の物品は国に持ち込むことができない。


***


「このような感じですね。あとは、単純に通過する場合はその旨と通過する予定の関所を教えていただければその関所に没収品を届けることもできますが・・・」

「特にこの中に対象物はあるのか?」

「そうですね・・・」


そういうと目のまえに並べられた僕たちの荷物をゴソゴソと探り、いくつかの物品を出していく。

そのほとんどが魔導具だ。おそらく革命軍の手に渡ることを危惧しているのだろう。


「これくらいでしょうか?基本的には『用途不明で一般流通のない魔導具』が対象になることが多いんですけど、この中にそうでないものはありますか?」


そういって荷物から取り除かれたのは魔封結晶などが十数点。全てアルフが自作したものだ。


「いや、特にはないな。すべて無効化して破棄してしまおう。厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだからな」


そういうと、一個一個に手を触れて何かをすると、すべて叩き割ってしまった。

すべてに何かしらの魔術が封入されていたはずだが、一つも発動しなかったところを見るに解除方法もあるようだ。


「これで解除できているからな。もし検分したいというならばこの欠片を回収してもらっても構わないが、どうする?」

「あ~・・・いえ。大丈夫です。そこまでおっしゃられるなら大丈夫なのでしょう」


そういうと、手に持っていた書類の一番下に何やら書き込み上の一枚を破り取った。


「はい。こちら国境通行審査完了証明書となります。時々要求されることがあると思いますので大切に保管してください。再発行の際にはもう一度審査を受けていただくことになります」


最後に畳んだ紙を受け取ると、カタスはびしっとこちらに敬礼をした。


「では、よい旅を」

「ああ、ありがとう」


***


カタスに別れを告げ、関所を後にして数日。内戦中の国とは思えないほどいつも通り道中に何度か魔獣の襲撃があるくらいで変わったことのない道を何日か歩いていくと。


「あれが公都だな。随分立派なことだ」


国境を区切るようにそびえたつクレスペーレ山脈を背に立つ街アズダが目の前に見えてきた。

まさに城塞都市というにふさわしい威容は、メイシアなどと比べると大きさこそ劣るが、外から見た堅牢さは背後にそびえる山脈の存在感もあり中々なものだ。

実際に地図上で見ても山脈に半ばめり込むように作られているため、後ろからの侵入はなかなか難しいだろう。

そのうえアルフによれば霊脈の集結点に建造されているようで、相当大規模な魔導具でも戦術的になら使用できるだろうということだった。


「確かにこれだけ恵まれた環境ならば、そうそう負けることはないだろうな」

「アズダが都ってことは、勇者の血統もあそこにいるってことなのかな?行ってみようよ」

「・・・そうだな。もしいるならば会えればいいが」


***


アズダの街に入って真っ先に抱いた印象は、街を歩く人の少なさだ。

まだそれほど多くの街を訪れたわけではないので、比較対象がそれほど多くはないが、それでもかなり少ないように感じた。

それはアルフも同じことを考えたようで、周りを少しいぶかしむように見まわしている。


「・・・人が少ないな」

「人口が少ないってのはおかしいよね?」

「そんなことはないはずだ。小国とはいえこの様子は流石に・・・まぁ、取り敢えず宿をとるとするか」


***


結果として分かったのは、『この街はやたらと物価が高い』ということだった。

当然ただ高い訳ではなく、全体的に高級品が多かったり上級なものが多いといった印象だ。

実際今僕たちがいる宿屋の一室も普通の旅人向けの宿屋という様子ではない。かなり大きめのクローゼットに部屋の隅に置かれた紅茶のセット。ベッドも明らかに細かい手入れを欠かさないようにしているのがわかる。

下級のサービスが一切ないうえに街に人がそれほどの数いない。それがこの街が普通でないということを如実に語っていた。


「・・・どういうことだと思う?」

「・・・さぁな。私にとってもこんな街は初だ。だがまぁ、主に直接聞いてみるのがいいじゃないか?」

「主に・・・?」


その続きの言葉を遮るように、部屋の扉がコンコンとノックされた。


***


アルフたちが公都に到着する少し前。

アズダの中心地に存在するひときわ大きな屋敷の最上階の一室。

ちょっとした広場程度の大きさのその一室にある大きな扉がノックされた。


「開いているぞ。入れ」


窓際の椅子に座り、ワインの入ったグラスを揺らしながら眼下の街を見下ろしていた男が少し不機嫌そうにそう言い放つ。

その体にはあちこちに贅肉が張り付き、その醜悪な見た目を宝石や金糸などが使われたローブで派手に飾るという、なんとも貴族然とした身なりをしていた。

許しを得て部屋に入ってきたのは、杖を突き片眼鏡をかけ真っ黒なローブを羽織ったもはや老人といっても過言ではないような人物。


「何の用だ?トラウディク」


トラウディクと呼ばれた老人は片眼鏡を外しながら大仰に礼をしてから口を開いた。


「クレスペーレの方から、伝令でございますジェロア公王殿下。・・・こちらを」


ジェロアは椅子から立ち上がるとトラウディクが机の上に置いた報告書を取り上げパラパラとめくる。

その視線はやがてある一項に止まる。


「・・・SSSランクだと?これは本当か?」

「今のところは何とも。現在冒険者ギルドに連絡を取っています。しかし、少し前からツィアロス国内にSSSランクの冒険者がいるという報告もありまして」

「ああ、あの与太話か。お前はこいつが本物だと?」

「今のところは何とも。しかし、本当だった場合は問題です。この者が一人でとてつもない戦力になることは間違いありませんから」


その言葉にジェロアは少し顔を顰め、机の上に紙の束を投げ放つ。

まだ左手に持っていたグラスの中身を一息にあおると、それを勢いよく机に置いた。


「邪魔されるわけにはいかん。あと少しなのだからな」

「ええ。その通りです。ですから我々が先に手に入れればいいのです。これを手に入れられればまず間違いなく我々は勝利できるでしょう」

「・・・なるほどな。ハハハ。敵になれば厄介ならば、味方になればいい手駒ということか」

「そういうことですな」


ジェロアは少し逡巡するかのように黙ると、酒を再びグラスへと注ぎ、それをもって椅子に座りなおした。

その重さにきしむ椅子を一切気にせず再びグラスを傾け始める。


「交渉はお前に任せる。殺してしまっても構わん」


ジェロアはそれっきり一切の興味をなくしたように何も言わなくなった。

そんな様子の主には一切触れずにトラウディクは再び大仰に礼をするとその部屋からそそくさと出て行った。

ジェロアはトラウディクが部屋から出て行ってもしばらく窓から外を見ていたが、急に立ち上がると机の上に置き去りにされた報告書を取り上げ、そのまま千々に破り捨てた。


「せいぜいこき使ってくれる。冒険者ごときな」

書き方を少し変えてみました。もしこれで行った方がよかったら順次以前の話も対応させていこうと思います。

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