#18:『約束を果たそう』『感謝を』
ドサッ
「イデッ」
背中に走る鈍い痛みに思わず言葉が口から飛び出る。
それに続いて、すぐ横に何かが柔らかく着地する音が聞こえた。
強い光に細めを開け周りを見ようとすると、頬を何かにつつかれた。
すこしずつ明瞭になっていく視界に最初に移ったのはしゃがみ込んで僕の顔を覗き込むアルフレイドの顔だった。
「ここは・・・?」
「一番最初だ。戻ってきたんだ」
その声に周りをゆっくりと見回すと、確かにその内装は何度も見たあの領主の館ではなかった。
上体を起こすとアルフレイドは僕の頭をガシガシと乱暴に撫でた。
「よくやってくれた。感謝するよ、ありがとう」
なんとなく気恥ずかしくなって、頭の上の手をつかむ。
その時にやっと気づいた。
「アルフ・・・この怪我・・・」
よく見ると、アルフレイドの服は幾筋にも切り裂かれその隙間からは朱線が見えている。
かなりひどい出血がある場所もあるようだ。
その事実を認識したとき僕は過去一番の驚愕に襲われた。それほどに僕の中でアルフレイドという人は、最強の代名詞だった。
「ああ、これか。まぁ気にするな。ちょっと無茶な戦い方をしただけだ」
そう言うアルフレイドの顔には傷による苦痛はなく、ただ晴れやかな笑顔だけがあった。
それを見て思わず嘆息する。相変わらずアルフレイドはアルフレイドだった。
立ち上がろうと腕に力を込めた瞬間、鈍い痛みが体中に走り、思わずそのままの体勢で止まってしまう。
「ふふ、私の心配をしている場合じゃなさそうだな。それ」
それを見たアルフレイドが僕の脇に腕を回すと持ち上げてくれる。
「で、この後はどうするの?報告に行くの?」
「いや、その前に少しだけな。いいか?」
その言葉に声もなく頷く。なんとなくそんな感じがしていた。
アルフレイドの手を借りながら、屋敷の中を移動していく。
たどり着いた場所は、迷宮に入るときに通った中庭の扉だった。
「ここ?」
アルフレイドはその言葉に何も言わずに頷く。
そして、両開きの扉の中心に手をかけて一気に押し開く。
その先にあった中庭の様子はあらかた予想通りだった。
ほとんどの地面を占めている雑草と、手入れもされずに全ての葉が落ちてしまった木が一本。そこで茶でもしていたのだろうか、椅子と机が草にまとわれた状態で錆びついていた。
その庭にあった予想外のものは、中心にある石製の碑だった。
大きさは僕の腰くらいまでしかない。
それらしい岩を持ってきて表面を磨いただけの石碑の表面には文字が彫り込まれていた。
曰く、『R.I.P Tilel=grialoss』
要するに、それは墓だというのだ。しかも知らぬ誰かというわけではない、アルフレイドと同じ姓だ。
「私の姉だ。ずっと面倒を見てくれていたが、私よりもだいぶ前にこちらに渡っていた」
アルフレイドは墓を見つめながら説明してくれる。表情は見えない。
視線を墓に戻したときにさらにあることに気づいた。花が一株、墓の前で風に揺れている。
「ダフリアン・・・なんで・・・」
一株に黄色い小さな花がたくさん咲くその花はしかし、初冬にあそこまできれいに咲いているものではない。
そもそも生息域すら違う。ここに生えているのはおかしい。そのうえ弔いの花としては標準的ではない。
そんな不思議を通り越して異常な咲き方をしている花を心の片隅で警戒する僕とは裏腹にアルフレイドは墓に歩み寄っていく。
地面の上で揺れる花に指先が触れた瞬間に何かに気づいたかのように、顔を上げる。
「そんな・・・そうか・・・姉さんが・・・最後まで・・・最後までッ、私のことなんて・・・!」
その言葉は徐々に震えていく。やがて、すすり泣くような音が僕の耳に届く。
しかし、その音はすぐに止んだ。
アルフレイドは顔を上げると両手を胸の前で何かを掬うように重ねる。
その手のひらに様々な色の光の粒が広がっていく。
アルフレイドはつっかえたり時折考えるように言葉を止めながらも何かを唱えていく。
光の粒たちはその詠唱が進んでいくにつれて形を作っていく。
詠唱が終わったときアルフレイドの手の中には完全に花が開いたジプソフィラの花が一株出現していた。
アルフレイドはそれをダフリアンの横の地面にやさしく突き刺す。
「ありがとう、姉さんのおかげで私はここにいられる。私はこれからあの子のために生きていく」
その言葉をどう受け取ったのか。いつの間にか暗くなっていた空から白い粒がゆっくりと降りてくる。
「雪だ・・・」
雪の中の墓と二株の花が揺れるさまは神秘的で、そこだけ違う空間のようだった。
これで二章は終わりになります。
#FF9900でした。まだ続きます。




