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親バカ魔王と弱勇者見習いの修行旅行譚  作者: #FF9900
第二章:幽霊街
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#17-L:最終階層

目の前を塞いでいた光が消えると、第四層の様相が目に飛び込んできた。

「なんだこれ・・・」

第四層には()()()()()()

正確には、何もないわけではない。

あるのは、大量の瓦礫の山だった。かつて建造物であったであろう物は何一つ残っていない。

ただ一つ。あの屋敷を除いては。

「どういうこと・・・?」

「あり得るのは、さらに時間が進んだ可能性だ。この迷宮ではおそらく階層ごとに街の構造は同じだが、街の劣化度合いが変わっていくのだろう。つまりは、劣化が進み、建造物が完璧になくなった可能性だ」

アルフレイドそういってから、足元の瓦礫の破片を一つ掴み上げる。

「もう一つの可能性は・・・」

アルフレイドが持ち上げた破片の表面には幾重にもひびが入っていて、それは劣化したというより・・・

「ここが最終階層という可能性だな」

その言葉にこたえるように、激しい地響きが起こる。

思わず、地面にしゃがみこんで周りを見回していると、立ったままのアルフレイドが屋敷のほうを指さした。

「どうやら後者のようだ」

その指先を追うように屋敷に視線を向けた僕の目に飛び込んできたのは、地面から生えてくる巨大な()だった。

いや、ただの骨ではない。五本の様々な長さの骨が太い一本の骨につながっているその構造は・・・

「あれは・・・でかいな」

地面から生えてきたのは巨大な骨の腕だった。

それに続くようにして、反対側からもう一本同じものが生えてくる。

腕が二本、といえば続くものは・・・

「あれは、『古ぼけた(Elder)(in)(the)(Graveyard)』か」

古ぼけた(Elder)(in)(the)(Graveyard)とアルフレイドが呼んだ魔獣は、すでに地中から頭を出し、両手で地面を押すことで体を地中から引き抜こうとしている。

もう数分もしないうちに地中から完全に姿を現すだろう。

しかし、その僕の予想には反して古ぼけた墓の主は上半身がすべて地上に出た時点で地中から体を引き抜くのを止めた。

「止まった・・・?」

「ああ、止まったな。・・・なるほど、そういうことか」

アルフレイドは何かに気づいたように、頷いた。

「ここは迷宮内だ。位置関係からしてあいつは迷宮(Hearts)(of)心臓(Dungeon)の守護役なのだろう」

そういわれてみると、屋敷が古ぼけた墓の主の肋骨に囲まれるようになっている。

「つまりはあの中に迷宮の心臓があると・・・?」

「ああ、だが・・・まぁ、あれを倒してしまうのが一番速い・・・」

アルフレイドのその声は、古ぼけた墓の主の行動によって遮られた。

古ぼけた墓の主は握った右手を地面に叩きつけた。それを合図とするかのように、墓の主の目の前の地面が急激に隆起し始める。

きれいな四角柱が何本も地面から突き出し、何かを形成していく。

ほんの短い時間で、墓の主の目の前には巨大な彫刻刀のようなものが出来上がっていた。

それを右手でつかみ取ると、大上段から地面に向かって振り下ろした。

すさまじい衝撃が、直撃点から周りに広がる。

しかもそれだけではない。直撃点から少しの範囲に次々と骸骨戦士が生まれている。

「だめだ、状況が変わった。あれは簡単には倒せない」

珍しく焦ったような様子でアルフレイドが刀を引き抜く。

瞳は困惑するかのように揺れ、刀の先端も心中の動揺を表すかのようにゆらゆらと揺らめいている。

『ヒュオオオオオオオオオオオ!!!』

墓の主が空に向かって盛大な叫び声をあげると同時に、周囲のすべての骸骨戦士が一斉にこちらを向いた。

「ヤバいッ!どうするの!!」

背中から大剣を抜いて、構えながら指示を求める。

特に情報を求めなくてもわかる、あれは僕には荷が重すぎる。

しかし、アルフレイドは墓の主が右手に握っている彫刻刀を見つめたまま微動だにしない。

「アルフ!アルフ!!アル、クソッ!!」

意を決して、僕は右手に持った大剣を全力でアルフレイドに向かって振り下ろす。

直前まで彫刻刀に釘付けだったアルフレイドだったが、完全に死角から振り下ろされた大剣をあろうことか開いていた左手で受け止めた。

「ちょっ!?」

「大丈夫だ、心配するな」

そう呟くアルフレイドの顔は真剣なものだった。

「ありがとう、目が覚めた。・・・よし、私があれの相手をする。お前はあいつの足元にある屋敷に入り込んで迷宮の心臓を破壊しろ」

「この大軍勢を切り抜けろって?」

「援護はするさ。あの屋敷までだがな。『(Step)(of)速駆け(Squall)』『天秤(Gravity)右舷(Polarize)』!行け!」

二種類の魔法によって一気に体が軽くなり、背中を急激に押される。

その流れに逆らわないように、ただ足を動かす。ものすごい速度で景色が後方に流れていく。

途中何体も骸骨戦士が前方をふさごうとしたが例外なく吹き飛ばされていた。墓の主からの攻撃はアルフレイドがうまく誘導してくれているのか、一発も来ることはなかった。

目の前の屋敷がある程度大きくなったところで、右手に握ったままの大剣を地面に突き刺し勢いを殺し始める。両足も動かすのをやめて踏ん張る。

僕は砂塵を巻き上げながら、とんでもないスピードで地面を滑って行った。

いつまで経っても勢いが消えないので、屋敷に激突するかと思ったが、意外にも屋敷の玄関扉から数メルアの場所で勢いは殺しきれたようだ。

アルフレイドからかけてもらった風の速駆けと天秤の右舷はまだ切れていないので、歩くにも慎重にならなくてはならないかと思ったとき、背後から音もなく魔力の矢が僕の背中に突き刺さった。

振り返る間もなく、一瞬だけ体に強い重力がかかったが、すぐに元に戻った。

おそらく今のはアルフレイドの『告発(Douvt)』だろう。相変わらずのタイミングと精度に呆れの溜息を吐いてから、大剣の柄を握りなおした。

(取り敢えず、僕の役目はなるだけ速く目の前の屋敷の中にあるという迷宮の心臓を破壊することだ。)

目の前の屋敷の玄関扉を勢いよく蹴破ると、その奥には黒々とした縦穴が口を開けていた。

「この下か。いやー怖いな・・・よっしゃッ!」

掛け声で無理やり勇気を出すと、穴に飛び込んだ。

思いの外浅い穴だったようで、すぐにそこにたどり着いた。

しかし、それでも、照明もない建物の中に口を開けていた縦穴だったからか、暗すぎて何も見えない。

「まぁ、なんとなく分かってたけどね。これかな」

腰のポーチの中から魔封結晶を一つ取り出す。暗くてはっきりとは見えないが、指先に伝わる凹凸から、これが目的の魔封結晶だとあたりをつけて空中に放り、剣でまっすぐに切り裂く。

すると、大剣が一瞬で真っ白い炎に包まれ周囲の闇を遠ざけた。いつまでもアルフレイドに頼りっぱなしでなんとなく情けないが、そんなことよりもアルフレイドを助ける方が先だと走り始める。


***


目の前に出現した骸骨戦士のうち一体に横薙ぎに大剣を叩き付け、勢いを殺さずに大上段からその後ろの二体目をぶった斬る。

最後の一体は反動を使って飛びあがり足で頭を踏み砕いて、転倒させる。迷宮の心臓を破壊してしまえばこの辺の奴は消滅するはずだから、と考え最低限だけ倒しここまで走ってきたが、それでもかなりの数を倒している。

流石に被弾なしとはいかず、腕や足には幾筋も朱線が引かれている。それでも重傷は負わずにここまで走ってこれた。

とてつもなく長い洞窟に流石に息が切れてきたころ、目の前に赤い光が見えた。

(着いたか!?)

すぐに開けた場所が目に飛び込んでくる。その広間の中央にあるのは、脈動する心臓のような赤色の石像。

僕が入ってきた入り口以外に横穴はないようだし、道中に分かれ道もなかった、状況的にこれが迷宮の心臓で間違いないのだろう。

どれくらい時間がかかったかは分からないが、取り敢えず速い方がいいと、迷宮の心臓の前で一息吐くと、大剣を逆手で構えて心臓に突き立てた。

バシィッ!!

稲妻のような音を立てて大剣の切っ先の進入を見えない壁が妨害する。

大剣の柄頭に左手も添えると、力の限り押し込む。

少しずつだが、切っ先が沈み込んでいく。さらに力を込めて大剣を押し込んでいく。

だんだんと沈み込んでいく切っ先があと少しで心臓に突き刺さるという直前で、背後で土を踏む音が聞こえた。

振り返ることはできないが、おそらく途中で倒さなかった骸骨戦士が追い付いてきたのだろう。

まだ、切っ先は心臓まで少し隙間がある。

「クッソ・・・ざけんな・・・ふざけんな!邪魔をすんじゃねぇええ!!!」

体の奥から上がってきた激情に任せて大剣を押し込む。その叫びに免じてくれたわけではないだろうが、切っ先が数十ミリアさらに沈み込み、心臓に切っ先をうずめた。

パキン

そのあっけない音とともに膨大な光が心臓から漏れ出し、僕の視界を真っ白に塗りつぶした。

#17のレキシア視点です。

どうも、#FF9900です。FF、9900作も作ったらやばいでしょ。

今回はなんと複数視点です。ボス戦ですが二人が同じところで戦わないので、思い切って複数視点にしました。

予約投稿使ってうまいこと同時に投稿したはずなので、楽しんでください。

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