#15:昔日の思い出
「鍵がありそうな場所に心当たりはありますか?」
『心当たり・・・うーん、正直この街に長いこと住んでいるせいであまり目立った場所というのも思いつかないものですなぁ・・・』
なおも呻り続ける不死動鎧の横で錠前を調べていたアルフレイドは諦めたように錠前から手を離した。
「だめだ。何でできているかはわからんが、破壊するのは効率が悪い」
アルフレイドですら破壊できない錠前とはどんなものなのかと気になったが、迷宮内なので、その程度いくらでも起こるとアルフレイドに言われて引き下がることにした。
『うーむ、鍵の居場所・・・うーむ、難問ですな・・・』
一方例の不死動鎧はというと、ついにぶつぶつと呟きながら、玄関前を歩き回り始めた。
そのとき・・・
『おお!友よ!何をしているのだ?』
と館の前の往来からこちらを呼ぶくぐもった声が聞こえた。
それにつられて大通りを見ると、一本の腕が人ごみの中から突き出ている。
『おお!友よ!良いところに来た!』
往来をかき分けてやってきたもう一体の赤銅色の不死動鎧に今まで一緒に行動していた青銅色の不死動鎧が駆け寄る。
『おお、どうしたのだ?』
『実はな・・・』
ここまでの経緯を説明しているのか、身振り手振りを交えて話し合っている二体の不死動鎧を遠めに見ながら、考える。
「本当に人間みたいだよね・・・」
「ああ、本来不死動鎧はあそこまで滑らかな動きはできない、その上あれほど円滑な対話ができる個体は相当珍しいな。それがこれほどの数いるというのは驚きだ」
確かに、大通りを行きかう不死動鎧の数はここから見える限りでも相当な数いる。
本来であれば珍しい文化形態を築いている不死動鎧がこれだけいるということ自体がこの迷宮の異常性を証明しているといってもいいだろう。
そんなことを考えていると、向こうから赤銅色のと青銅色のが一緒に歩いてくる。
『話は聞かせてもらった、お困りのようだから私も協力しよう・・・と言いたいのだが』
赤銅色のは目の前まで歩いてくると、そう言って申し訳なさそうに後頭部を掻いた。
『すまないが、先約があってなともに行くことはできなさそうだ。だがおそらく鍵のありそうな場所に心当たりがある』
そこで赤銅色のは自身の左後ろを指さして
『夕暮れの港』
それから僕たちの左後ろを指さして
『露濡れの森』
それから、自分の足元を指さして、
『そして、ここ領主の館。この三か所が怪しい』
「ここ・・・ですか?」
『ああ、というのもこの街で以前から名前のついている地名などその三か所しかないのだ』
それだけ言うと、赤銅色のは申し訳なさそうに手刀を切って往来に消えた。
「夕暮れの港、露濡れの森、領主の館・・・」
そう呟いたときにアルフレイドが突然弾かれたようにどこかに走り始めた。
「ちょっとアルフ!?」
僕の声には一切反応せず屋敷の横手に走りこんでいく。
当然僕と青銅色の不死動鎧も全速力で後を追うと、アルフレイドが屋敷の横手で上を見上げて突っ立っていた。
「どうしたのアルフ、突然走り出して・・・」
そういうと、アルフレイドは頭上にある三階の窓を指さした。
「あそこに何かあるだろう?」
言われてみると確かに何かが窓の欄干で光っているのが見える。
「確かに何かあるけど・・・あれなんだ?」
「ちょっと落としてみるか・・・『悪戯のそよ風』」
魔術によって発生した風に煽られて落下したのは、銀色の鍵だった。
十中八九領主の館の錠前の鍵だろう。
「やはりな・・・」
アルフレイドはそうつぶやくと、どこか懐かしむように周りを見回した。
「どうやら鍵は私の記憶のようだ」
いつもはもうちょっと書くんですがねぇ。
#FF9900です。Twitterのほうに私と同名のアカウントがありますが、私と関係はありません。
嘘ですあります私のです。