#14:動鎧たちの町
「・・・ねぇ、アルフ」
「ん?なんだ?」
「悪寒治してくれたのはいいんだけどさ、温めるなら、魔法でもいいよね?ていうか浄化魔法とかでいいよね?」
「ンフッ!?・・・ああ、いやまぁ・・・そう、だな?」
アルフレイドは口元についた水を拭いながら、そう返した。
明らかに目が泳いでいるし、どもっている。
「・・・昔同じ症状にかかった時にあの方法で治してもらったからな・・・その所為だ」
「・・・ふーん。まぁいいんじゃない?親子だし」
そういうと、ポーションをカバンから一瓶出して包帯と一緒に渡す。
「ああ、ありがとう」
アルフレイドはポーションを右手の手のひらにかけ、血が止まったのを確認すると傷を覆うように包帯を巻いた。
今回一番多く持ち込んだ低級ポーションでは、手のひらの裂傷程度であっても止血くらいしかできない。
もちろん中級ポーションや上級ポーション、万能薬に至るまで持ち込んではいるが、数が少ないのでなるだけ低い等級から使うことにした。
因みにそれぞれ全てアルフレイド謹製である。アルフレイド印である。
加えて万能薬は本職であっても簡単には作れない類の回復薬で、当然だが、出先で作るというのは規格外も甚だしい。
改めて第3層の様子を見ると、やはり第2層よりも少し劣化が進んでいた。
道には第2層よりも比較的大きい瓦礫がたくさん転がり、壁が崩れている家も散見される。
「結構ぼろくなってきたね」
「ああ、最終層まで町の形が残るかどうか・・・っと」
通るのは三度目になる路地から顔だけ出して大通りを見ると、この層の敵が見えた。
「不死動鎧だな」
アルフレイドの言葉通り、大通りにはガシャガシャと音を立てながら歩く鎧が何人分もいた。
それは紛れもなく不死動鎧と呼ばれる不死骸系の魔獣なのだが・・・
「なんかおかしくない・・・?」
「・・・ああ、不死骸にしては動きが滑らかだな・・・それに・・・」
僕とアルフレイドが視線を向ける先には一軒の屋台があった。
第一階層や第二階層ではだれもいなかったその屋台の奥には、一体の不死動鎧がいて・・・
「捌いてるな・・・」
「捌いてるね・・・上手くない・・・?」
屋台の奥の不死動鎧は明らかに魚を捌いていた。鱗を取り、包丁を魚の腹に充てると迷いなく手を動かしていく。
あっという間に三枚おろしを終わらせると、すぐさま次の魚の捌きに取り掛かっていた。
僕でもさすがにあそこまでの速度で魚を捌くことはできない。
「なんていうか・・・人間らしい・・・?」
「ああ、ちょっと異常な光景だな・・・」
第三階層には、不死動鎧たちの街とでもいえるような光景が広がっていた。
「とりあえず、どうしようか・・・」
「倒してしまうのは簡単だが・・・何かしら弊害もありそうだな。それにこの量を相手にするのは流石に・・・面倒だ」
確かに、大通りには第二階層で一番最初に遭遇した亡霊の一団よりも多い量の不死動鎧がいるようだ。
そのうえ、この階層のテーマが『不死動鎧の街』ならば、この階層全体にわたってこの密度で不死動鎧がいることになるだろう。
それすべてを相手にするのは流石に無理だということだろう。
「取り敢えず、路地裏にはあまりいなさそうだな。取り敢えず屋敷までは見つからないように行くことに・・・」
『何かお困りですか?』
アルフレイドの声を遮るように、背後から響いた声に僕とアルフレイドが勢いよく振り向くと。
一体の不死動鎧が鎧の喉あてを右手でさすりながら、こちらを見下ろしていた。
「クッ!」
とっさに腰の刀に伸びたアルフレイドの右手をすんでのところで押さえてささやく。
「待って、何とかなるかもしれない」
その言葉に対するアルフレイドの返事を聞かずに、立ち上がり不死動鎧の目─性格には面の隙間だが─をまっすぐ見据える。
そこに敵対の意思はないように思えた。
「実はこの街には初めて来まして。迷ってしまったんですよ」
もしもの時はすぐに剣を抜けるように不死動鎧の一挙手一投足に注目していると・・・
「なるほど!そうでしたか。確かにこの街は中々に入り組んでいますからなぁ。どこに行きたいのですか?案内いたしましょう」
・・・どうやらこの不死動鎧は見た目とは裏腹に気さくな性格らしい。
「つまりあなたもこの街がどういう場所なのかわからないんですか?」
「ええ、申し訳ありませんが、私も私の知り合いにもここがどういう場所なのか知っている者はいません」
相変わらずバイザーで顔色が見えないが、声に若干の申し訳なさを載せて、不死動鎧は答えた。
先の予想通り、この街には不死動鎧が住人として多数住んでいるらしい。
そして、先ほどからすれ違う不死動鎧も会釈してくれる個体がいるくらいで、こちらを見て襲ってくるような個体はいなかった。
因みに屋台で売っていた魚の串焼きのようなものは普通においしかった。
「結構町の劣化が激しいように思えますけど・・・支障とかはないんですか?」
「支障はあまりないですね。ここは天候が変わったりしませんし、突発的に何か異常が起きるようなことはほぼないので。それに直そうと思っても我々では流石に、ね?」
そういいながら、右手を持ち上げる。
確かに鎧の指の部分は太く出来上がっているので、何かを作ったり修繕したりなどの細かい作業は苦手そうだと思った。
「さて、着きました。ここが『領主の館』です」
そういって不死動鎧が指さしたのは、何度もこの迷宮に入ってから何度も訪れている屋敷だった。
不死動鎧の間では『領主の館』と呼ばれているようだ。
しかし今までと違うのは・・・
「鍵かかってるな」
玄関には立派な錠前がかかっていて、しかも鍵穴が3つあるのだ。
これだけ立派な街でなおかつこれだけ住人がいるのだからそのうちの誰かがここに住んでいて、その人がつけたものかと思ったが、
「いえ、ここにはだれも住んでいません。というか住めないんです。窓とか壁は脆そうですけど、硬いですし。玄関はその錠前で硬く閉ざされていますから」
と、案内してくれた不死動鎧は鎧の喉当てをさすりながら言った。
つまりは、この錠前は迷宮生成時に設置されたもので、次の階層に向かうためにはその三つの鍵を探してこなければならないということだろう。
僕はやっと迷宮らしい絡繰りが登場したと内心ワクワクし、アルフレイドは面倒くさい仕掛けが来たと嫌そうな顔をしていたが、ひとまず僕たちは案内してくれた不死動鎧とともに鍵の捜索に移った。
最近私の名前を正確に読める人がどれだけいるのか気になっている#FF9900です。
第三階層はダンジョンとかでよくありそうなお使いクエスト風にしてみました。
ただまぁ、難しいので一話で一層とはいきませんでしたけど、まぁどうせ終盤も近い訳ですからね。