#13:第二階層
扉を抜けた先の路地は第一改装と全く同じだと思ったが、少しだけ差異があった。
少しだけ劣化しているのだ。まるで何年も時間がたってしまったかのように。
「ここは多分そういう迷宮なんだろう。同じ町を何度も周る。出発点も終着点も同じだ」
アルフレイドは横の壁をさすりながらそうつぶやいた。アルフレイドの手元からは壁と同じ色の粒が次々零れ落ちている。
明らかに第一階層よりも町の構造物が劣化している。
加えて、地面には第一階層のときにはなかった小さな瓦礫が少なからず落ちている。
少数ではあるが大きめのがれきが落ちていたりもするので、もしかしたら塞がれている道もあるのかもしれない。
そして第一階層との違いはそれだけではなく・・・
『ひゅぉぉおおおお』
路地から大通りに出た僕たちを待ち構えていたかのように、木枯らしのような声を響かせながら地面から青白い枯れ木のような腕が生えてくる。
その手に続くようにこちらも青白いやせ細った半透明の顔や体が這い出てくる。
「亡霊」
「ああ。さっきの階層は骸骨戦士ばかりだったが、この階層は亡霊らしい。これは確かに幽霊街だな」
「死者の町ってのもこの町の様相ならわかるね」
そういいながら前方の亡霊の一団に向かって走っていく。
実体のある骸骨戦士ならまだしも、完全に実体を持たない亡霊相手に物理的な攻撃は一切効かない。
その代わり、聖属性の魔法が有効なので、一階層から引き続き、アルフレイドが攻撃の主体になりそうなのは明白だった。
「『双頭の炎竜』『聖纏』!」
アルフレイドの少し前の地面に描かれた魔法陣から、双頭竜の形をとった炎が勢いよく吹き上がる。
双頭竜が完全に魔法陣から姿を現すと同時に、アルフレイドは聖属性を付与する魔法を双頭竜に向けて使用する。
聖属性が付与され、赤々とした炎が真っ白な炎に変化すると同時に、勢いよく亡霊の群れに突撃した。
双頭竜を構成する白い炎は亡霊に触れるとその体を一瞬で包み、その体を焼いていく。
聖属性の付与された炎なのでどちらかというと浄化や消滅に近いのだが、傍から見ていると完全に焼き殺している感じだ。
僕はというと、一団の中の双頭竜の突撃から逃れたやつを横から突撃して各個撃破していく役割だ。
こちらも白い炎を纏った大剣で片っ端から薙いでいく。第一階層にいた骸骨戦士とは違い、完全に実態を持たない亡霊には物理攻撃は効果がないが、浄化の炎纏のおかげで一撃で浄化できる。
一団のど真ん中に突っ込んだ双頭竜のおかげで数分とかかからずに第二階層の初戦は終わった。
「・・・へぇ、亡霊って魔石だけ残すんだ・・・」
地面に転がった小さな魔石を拾い上げて鞄に放り込む。
「亡霊の唯一の実態部位だからな。消滅した後でないと実体化しないが」
「その場合っていつもはどこにあるの?」
「どこにもない。亡霊は生存中は完全に実態を排しているからな。魔石を魔力に完全変換して全身に回らせる。さしずめ血液だな」
アルフレイドが指を鳴らすと、アルフレイドの足元に転がっていた数個の魔石が一気にアルフレイドの胸の高さまで浮き上がり、全てアルフレイドの右手に吸い込まれた。
「・・・で、死ぬ、というか浄化されると、循環していた魔力は収束結合して魔石になり、こうして実体化する」
そう言うと、手に握っていた魔石を僕の鞄に入るように投げ込んだ。
「おお、ありがと」
「ふん、さぁ行こう。あまり道は変わっていないだろうからな。最短で向かうぞ」
道中で何度か亡霊の団体に会うことはあったが、すべて難なく殲滅して屋敷の前についた、のだが。
「うわぁ・・・なにこれ・・・」
物陰から静かに顔だけ出して屋敷の前の広場を見ると、これまでの一団とは比べ物にならないほどの量の亡霊が何かを探すかのように歩き回っていた。
「これはまずいな・・・流石にこれだけ多いと召喚術でも対処しきれない」
「どうするの?多分次の階層への扉はあの中庭に続く扉で間違いないだろうけど、この状況を見るに・・・」
「ああ、中にもいるな。一体や二体どころじゃない、屋敷全体でかなりの数だ」
アルフレイドが目を閉じたまま、屋敷の窓を指さす。
その窓からは屋敷の中を徘徊する亡霊が数体見えた。
「一掃しても構わないが・・・いや、よくないな。屋敷が損壊したらまずいな」
そうつぶやくと、目を開き刀を抜きながら僕の後ろから、広場の様子を見る。
「・・・仕方ない。レキシア、お前屋敷の中の道順記憶してるな?」
「うん、中庭までだったら、一緒に行ったから」
「ならばよし。強行突破するぞ、一転集中だ」
そういうと、僕の大剣と自分の刀に浄化の炎纏をかけなおす。
「よし、行くぞ!」
その声と同時に広場に向けて駆け出す。
僕はアルフの左側を並走し、一足で飛びつきそうなやつを片っ端から薙いでいく。
そのまま、アルフレイドが蹴り開けた扉を通り抜けて中に走りこむ。しかし・・・
「うわッ!」
僕は地面から伸びてきた青白い腕に足をつかまれ、地面に転倒してしまった。
それを見計らったように通路の陰から亡霊が飛びついてくる。
「シアッ!」
アルフが即座に踵を返して手を伸ばしてくるが、微妙に亡霊のほうが速い。
亡霊の指先が頭に触れた瞬間に亡霊は飛来した刀に貫かれて燃え尽きた。
「行くぞッ!」
それに続いて上から伸びてきた腕が僕を掴み上げる。
僕を抱え上げたアルフレイドは投げた刀には目もくれず、中庭の扉に向けて一目散に走りだした。
そのまま、扉の奥に僕を放り込むと、投げた刀に掌を向けて引き寄せると扉を勢い良く閉じた。
「ふぅ、大丈夫か?大丈夫ならポーションと包帯とってくれ」
アルフレイドはドアを脚で押さえながら、掴んだ刀を鞘に納めた。
飛んできた刀をつかんだ手はつかんだ時に切ったようで、血まみれだった。
「・・・ああ、ちょっと待ッ!?」
そう言いながら鞄に手を突っ込んだところで、急激な寒気に襲われて思わず体を縮こまらせてしまう。
体の震えを抑えながら、カバンの中を探るが、寒気のせいでうまく体が動かない。
「・・・どうした?大丈夫か?」
異変を察したアルフレイドが聞いてくるので、何とか誤魔化そうと無理やり作り笑いを浮かべて振り向くが・・・
「・・・ちょっと待ってろ」
普通にバレた。
アルフレイドは自分のコートを脱ぎながら駆け寄り僕の肩にかける。
「それは悪寒だ。実際に冷えてるわけじゃないが、治すには温める必要があるな」
そういうと、コートにくるまった僕を抱き寄せた。
「え、ちょっ・・・」
「黙ってろ。これが一番早いんだ」
アルフレイドは僕の言葉を遮って、抱き寄せる力を強める。
僕はさらに言葉を重ねようとしたが、急激に寒気が遠のいていくのを感じてそのまま腕に収まっていることにした。
しばらく、聞こえてくる鼓動に意識を集中していると、いつの間にか寒気はなくなっていた。
どうも、#FF9900ですん。
書いてる途中で試算したら、二章結構短くなりそうだったので、急遽プロットを書き直しました。
そのおかげか今回レイスさんの犠牲が増えましたが、まぁいいっすよね。
え?最後甘い?親子のスキンシップです。断固として。