#12:かつての我が家
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「落ち着いた?」
「・・・ああ・・・すまない・・・」
アルフレイドは小さく呟くとゆっくりではあるが、壁に手を当てて立ち上がる。
「不意打ちは慣れないな・・・身構えてれば大丈夫なんだが・・・」
明らかに憔悴したアルフレイドの様子にここが彼女にとってどんな場所なのか疑問が湧いてくるが、今のアルフレイドにそれを聞く勇気は僕にはなかった。
もちろん、僕には全く見覚えはない。
しばらくふらふらと落ち着かない足取りだったが、細く溜息を吐いて気合を入れるように頬を叩いて振り向いた。
「ここでいつまでも止まっているわけには行かないからな。早いところ脱出しよう」
少し引き攣った顔のままアルフレイドはそう言った。
「・・・うん」
何か言うべきだったのかもしれないが、その時の僕はアルフレイドにはあり得ないような弱々しい姿に何も言えなかった。
「『幽霊街』とは、よく言ったものだな」
目の前に転がるいくつもの人骨を前にアルフレイドがそうつぶやく。
あれから周辺を探索していたが、出てくるのは骸骨戦士だけだった。
流石に魔獣が出てくる時に意気消沈などしていられないのか、アルフレイドは戦闘時はいつもの雰囲気に戻っていたが、戦闘以外の探索のときは壁に掘られた文字をなぞって溜息を吐いているようなことがかなり多くあった。
「何か分かった?」
「・・・ん?あ、ああ、恐らくだが・・・行先はあそこだろう」
アルフレイドが指した先にはひときわ豪奢な屋敷がそびえていた。
確かに街全体のランドマークとしては最適だし、それ以外で次階への階段がありそうな場所がない。
「じゃあ、あそこに向かおう。大丈夫?」
「あ、ああ。大丈夫だ。こんなに早くとは、な」
吐息交じりでそう呟くと、そびえる屋敷を強く睨みつけるように見上げた。
「さっさと行ってしまおう。こんなところは早く抜けたい」
「前方から三体だ!二体は私が持つ!『浄化の炎纏』!」
その言葉と同時に僕とアルフレイドの剣が青白い炎を纏う。
当然だが、霊的な魔獣に対して物理攻撃は効果がない。そこで使用されるのが霊撃能力のある魔術だ。
基本的には光魔術や聖魔術に多いのだが、『浄化の炎纏』は火聖複合の魔術で、物体に聖属性を付与した炎を纏わせることで攻撃に聖属性を載せる魔術だ。
剣を握りなおすと前方の骸骨戦士を見やる。ゆらゆらと不安定に揺れながら歩いてくる骸骨戦士は傍目に見るととても弱そうに見えるが、侮ってはいけない。
その証拠に僕が自分の剣の間合いに踏み込んだ瞬間、バネに弾かれたように骸骨戦士の手に握られていた剣が豪速で迫る。
直前の動きと外見からは想像できないほど、正確かつ力強い踏み込みによって繰り出される突きは油断していれば確実に避けられないものだが、生憎と僕はその程度の突きならば何度も見ているし、喰らっている。
剣の鎬を叩き上げ、返す刀でがら空きの胴体を水平に薙ぎながら横を走り抜ける。
確認しないが、後ろでは恐らく骸骨戦士が断末魔も上げる暇なく青白い炎によって一瞬で燃え尽きたことだろう。
隣を見るとアルフレイドも一刀で二体を仕留めると、僕の横を並走するように再び走り始めた。
そんなわけで、僕とアルフレイドは道中の骸骨戦士を最小限の動きで大量に撃破しながら、屋敷に向かった。
「あ、ちょっとぉ!?」
バン!!
疾走してきた勢いそのままに、アルフレイドがドアに蹴りをかまして中に飛び込む。
その勢いのまま中に踏み込んだアルフレイドの背中を追って建物の中に踏み込む。
内部は、入り口になっていた屋敷よりも豪華でどこかの貴族の屋敷のようだった。
「・・・変わらんな」
アルフレイドはそう呟くと、勢いよく振り返って左側を指差した。
「お前はあっち側の半分を探索してくれ。私は反対側を探索する」
アルフレイドはそういうと、有無を言わさずに歩きだす。
僕はその背中を後ろから何も言わずに見守るしかできなかった。
ここに来るまでの連戦が嘘のように、屋敷の中では一体も魔獣が出現しなかった。
そのおかげで屋敷の探索はかなりスムーズに進んだ。もっとも、ほとんどの部屋にかぎがかかっていて、空いている部屋にも大したものは何もなかったので、収穫はないのだが。
玄関の前の大広間でアルフレイドを待っていると、アルフレイドが階段を下りてきた。
「どうだった?」
「ああ、ほとんどはダメだな。鍵がかかっているか、何もないかだ」
「てことはここは違うってこと?」
そういうと、アルフレイドは少し考えこむように黙ると口を開いた。
「いや、一つだけ心当たりがある」
そういって踵を返すアルフレイドを階段の下から呼び止める。
「アルフレイド!・・・ここはどこなの?知ってるんでしょ?」
「・・・」
その声を聞いてかアルフレイドは階段の中腹で足を止める。
「・・・ここは、私の家だ。魔大陸のな。正確にはその幻影だろうが」
「何でそんなものが・・・?」
「私が知るわけないだろう。・・・いやまぁ、知らないな」
少しの苦笑とともにアルフレイドが振り返る。
「まだ、調べていない場所があるんだ。おそらくそこだろう」
アルフレイドが足を止めたのは、僕たちがこの迷宮遺跡に足を踏み入れた時に通った、中庭に続く扉の前だった。
「ここ以外の場所には大したものはなかった。入ってきたときに通ったのもここだから階下に続く扉はおそらくここだろう。
そういって、アルフレイドが押し開いた扉の向こうには、最初に入った時と同じ、少し奥まった路地だった。
どもども、#FF9900です。
少し久しぶりですけれども元気です。
書きたいシーンが結構あるのでどんどん書いていきたいと思います。