#11:郷愁と、恐怖と、後悔と。
僕たちを出迎えたのはヴィクシア・ドリオールさんという、この村の村長の人だった。
名前に貴族であることを表す節がないことを疑問に思ったが、聞くところによると、どうやらドリオール家は貴族というわけではなく、単純に開拓村時代のリーダーの家系がずっと村長を務めているということらしい。
アルフレイド曰く、「珍しいことではあるが、唯一というわけではない。領地を今以上に欲しがらない貴族もいるからな」らしい。
そして今は、ヴィクシアさんに連れられた、屋敷の中の談合室で向かい合わせの椅子に座っている。
ヴィクシアさん曰く談合室らしいが、楕円形の机に備えられた7つの椅子や、移動式の黒板などを見るにどちらかというと会議室といった印象を受ける部屋だ。
「さて、さっそくで悪いが本題に入らせてもらう」
そういうとアルフレイドは懐から、紙を取り出した。
依頼の受注確認書と同時に渡されたという、全権委託書だ。
普通の依頼では必要ないが、ギルドを通さない依頼、特に貴族からの依頼ではよく使われる・・・らしい。
もちろんアルフレイド情報である。「私も何回か受け取ったな。面倒なものだと思っていたが」と言っていた。
「ええ、伺っております。受注いただいてありがとうございます」
「気にしないでくれ。少し気になることもある」
そういうと、全権委任状をヴィクシアさんに手渡す。
「取り敢えず大体のことはわかっているから説明は大丈夫だ。で、問題の迷宮遺跡ってのはあれか?」
そういって親指で指す窓の先にはこの屋敷よりも一段豪華な屋敷がそびえていた。
しかし、少し変なところは、明らかに人が住んでいるような状態でないことだ。
壁にはかなりひび割れ、ところどころ崩れてしまっている。その上には壁を這うように蔦がとぐろを巻いている。
要するに廃墟なのだ。いくら豪奢な屋敷とはいえ、ああなってしまうともはや哀愁や不気味さを振りまいているだけだ。
「ええ、あの建物がいつの間にか迷宮化してしまっていて。村の近くというならまだしも、村の中にできてしまった迷宮遺跡なんて危なくて仕方がないので、処理していただこうということになりまして」
「あの屋敷はずいぶんと豪奢なようだが、どんな奴が住んでいたんだ?」
「随分と昔になりますが、わが村の建築全般を監督してくださっていたティルエル・フェムトという女性の屋敷でした。この村のほとんどの建物や整備された道路は大半がその方によって作られたものです」
「ティルエル・フェムト・・・なるほど、意外に好みの建築様式だったので、会ってみたかったのだが、そいつは?」
「相当昔に亡くなってしまったといわれています」
「そうか、残念だな」
そうつぶやくアルフレイドは本当に残念そうで、これまでアルフレイドのそんな顔を見てきたことがなかった僕は少し驚いてしまった。
「まぁ、それはもういい。迷宮化ということだが、内部が迷宮になっているわけではないのだろう?」
「ええ。内部が迷宮化しているわけではなく、内部に迷宮遺跡内部への入り口があるようです」
「処理ということだが、封印か破壊、どちらがより好ましい?」
「あの屋敷自体は私共にも重要なものですから、破壊してしまうのはあまり好ましくないのですが・・・」
「屋敷自体は元からあったものだからな。おそらく大丈夫だろう、まぁその辺は後々検討する」
「ええ、お願いします」
数分後、僕たちは件の洋館の玄関の扉の前にいた。
「緊張しているのか?レキシア?」
「そりゃもちろん。でもワクワクしてもいるよ。一つの夢でもあったからね」
「じゃあ開けるぞ。まずは中の探索をしてしまおう」
そういうとアルフレイドは両開きの扉を勢いよく開け放った。
中は随分と寂れた感じになってしまっている。もともとはかなり高価であっただろうカーペットには穴が開き、埃が覆いかぶさり、草の根が上を這っている。
壁には幾本ものヒビが入り、瓦礫が床に散乱している。
それでも昔はそこそこの栄華を誇っていたのだろうという雰囲気はまだ残っていた。
飾られている装飾品やカーペットの模様、壁の絵画など、どれをとってもかなり価値の高そうなものであり、趣味の良さが見て取れる。
外見の豪奢さ通りの内装で、部屋もかなりの数あったので探索に時間がかかってしまったが、結局大した手掛かりはなかった。
アルフレイドのほうもそれは同じのようで、結局は最後に中庭への扉を残すのみとなった。
「おそらくこれが迷宮遺跡への扉だな。ほかの扉と違って結構強い魔力波動を感じる」
「中庭は探索できないみたいだね。全部変質しちゃってるんでしょ?」
「ああ、中庭に続く扉は1階2階すべての扉が変質してしまっているようだ。何か入られては困るようなものがあるのか・・・」
そういいながらアルフレイドは中庭への扉に手をかける。
「準備はいいか?内部の情報はあまりない。今回は私もそこそこ協力することにする」
「もちろん。頼りにしてるよ」
そういうと、アルフレイドは引き締まった面持ちで扉を押し開いた。
差し込んできた強い光に目を背ける。落ち着いたころに見えてきたのは、紫色の空と灰色の町だった。
「ここは・・・」
現在位置を確認するために周囲を見回してみるが、見知ったものは何もない。
そこで、アルフレイドの異変に気付いた。
大きく目を見開いて唇をわなわなと震わせているその様はまるで何かに怯えているかのようだ。
「・・・な・・・なぜ・・・ここが・・・」
そうほとんど声になっていない声で呟くと、そのまま一歩二歩と後ろによろめいた。
その倒れこみそうな背中を急いで支えると、僕に寄り掛かるような形でアルフレイドは地面にへたり込んでしまった。
初めて見るアルフレイドの様子に訳も分からない僕に縋りつくようにアルフレイドが手をまわしてくる。
僕の背中を弱々しく引き寄せるその手は震えていた。
オレンジ色の#FF9900です。
急ピッチで二章を書き進めているんですが、これいけますかねぇ?
アルフさんにもトラウマの一つや二つくらいあるんですよ。