#10:迷宮探査依頼
「しかし、ずいぶん無茶をしたものだな」
僕の頬についた傷跡をなぞりながらアルフレイドはそう言った。
「仕方ないじゃん。あの時は僕一人しかいなかったんだから、意地でもやらなくちゃって思ってたんだよ」
「それで死んでは意味ないだろう、ほら、左手を出せ」
ソルアドの牙に貫かれた左手は傷跡は残っているものの、もう動かすことに支障はきたさなくなっていた。
「まぁ、大丈夫そうだな」
そう言って、アルフレイドが傷跡をなぞるように指を動かすと、傷跡が消えていった。
ついでにと、頬の傷跡も消していく。
「ほんとに便利だよね。魔法ってさ」
「あんまり欲しがるな。使えないものは使えないんだ。ないものねだりは身を滅ぼすぞ」
そういいながら、外した包帯を燃やしているのは皮肉というわけではなく、天然なだけなのだろうと思った。
「これからどうするの?取り敢えず修業は終わったわけだけど」
ベッドから降りながらそういうと、アルフレイドは少し渋い顔をしながら、懐から一枚の封筒を取り出して、投げ渡してきた。
「本来なら少し休息期間にしたいが、探す手間も省けたことだし、お前が大丈夫ならそれを受けようと思う」
封筒にはメイシアの街のL・ディミアド家の家紋の封蝋がしてあった。
一度はがしたようなそれをはがして中の紙を取り出す。
「・・・迷宮遺跡処理依頼?」
「端的に言えば、発生した迷宮遺跡を破壊なり封印なりで処理してくれっていう依頼だ。今回は少し北の村からの依頼だな」
読み進めていくと、確かにメイシアから少し北にあるドリオールの村に発生してしまった迷宮遺跡を処理してほしいとのことが書いてある。
それ以外にもある程度迷宮遺跡の情報が載っている。
「『幽霊街』・・・随分不気味な名前だね」
「まぁ、名前なんざ適当につけるものだ。で、どうする?お前次第だ」
僕は封筒に手紙を戻し、アルフレイドに投げ返した。
「僕、迷宮遺跡って行ってみたかったんだよねぇ」
そういうとアルフレイドは少しニヤリとして、封筒に何かを書き、丸めて窓から外に放り投げた。
「じゃあ、受けるってことにしよう」
そういうとほぼ同時に、白い鳩のような鳥が封筒を咥えて飛び立っていくのが見えた。
あらかじめアルフレイドが用意していたドリオールの村までの地図を鞄に詰めると、背負って立ち上がった。
アルフレイドは少し前に準備を終えていたようで、すでに宿屋の入り口付近で待っていた。
「準備は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。行こう」
そういうとアルフレイドの前に立って、歩き始める。しばらくは街道なので大したことはなさそうだ。
「ドリオールはどんなところなんだ?」
「聞いた感じだと、建築物がすごいところらしいね。国内のほかのどの街とも違うんだとか」
「建物・・・か。それはちょっと楽しみだな」
その言葉が少し意外で、横を歩くアルフレイドの顔を見上げる。
「アルフ、建物とか好きだっけ?」
「まぁ、特別好きというわけではないが、私自体職人魔法はからっきしだからな。自分にできないものっていうのは結構興味がある」
確かに、アルフは戦闘魔法を使用しているところはよく見るが、職人魔法を使っているところは見た記憶がなかった。
「職人魔法使えないの?」
「ああ。流石にまったくというわけではないが、ほとんど使えん」
「意外だなぁ。アルフにも得手不得手なんてものがあるんだねぇ」
「心外だな。私にだって苦手なものの一つや二つあるさ。別段完璧なわけじゃないからな」
「朝とか?」
「当然だ」
ドリオールの村には昼過ぎごろに到着した。
依頼書に合った通り、確かにかなり近い距離にあるようだ。
「ていうかこれ本当に村なの・・・?」
そういう理由はこの村の名物でもある建物にある。
基本的に村の建屋といえば木造が多い。あったとしても、表面を少し粘土のようなもので覆う程度のはずだ。
しかし、目の前の村の建物には赤や白、黒などの色とりどりの煉瓦が、贅沢に使われていた。
それだけではなく、硝子や混凝土なども使われていて、都市にあると言われた方がよっぽど納得できるようなものだった。
それが一軒二軒程度ではなく、大量に軒を連ねている。
「ま、まぁ敷地面積の規模は村だな・・・」
さしものアルフもこの光景には驚きを隠せないようで、少し言葉に覇気がない。
依頼主の家は村の中央道路をまっすぐ行ったところにあるらしいので、村に入ってすぐの道をまっすぐ進んでいく。
途中村民とすれ違うことも多々あったが、失礼ながら本当に村なのかという疑問が消えることはなかった。
何せ、着ている服が普通の村で見かけるような、動物の皮を縫い合わせたような安価なものではなく、皮は皮でもなめし皮や、それ以外にも編み込み繊維製の服を着ている人などもちらほらと見られた。
「相当裕福な村なんだね」
「そのようだな・・・しかし、敷地規模以外は村の範疇を明らかに逸脱しているな・・・」
「普通に首都の一部とか言われても疑わないね」
そんな話をしながらまっすぐに道を進むと、目の前にほかの家とは一回り大きく、豪華な家が見えてきた。
「ここが依頼主の?」
「ああ、家だな。しかし、かなりいい建物だな。結構好みだ」
そういうと、扉に近づき扉の呼び鈴を勢い良く揺らした。
ども、#FF9900ですん。
ついにというほどでもないんですが、二章が始まりました。
今回の話は結構衝動的に書くというか、天啓的な何かによって閃いたやつなので、もしかしたらほころびとかあるかもってことなんですが、大目に見てくだせぇ。