#8:赫龍討伐作戦
その日、僕たちはギルドの前の広場にいた。
数日前に遂に赫龍ソルアド討伐作戦の詳細が伝えられた。
どうやら僕たち以外にも数パーティーが参加するらしく、僕たちが集まった後にもちょこちょこと集まっている人が見える。
「あんまり大規模には動けないっぽい?」
「そうだな。あんまり目立ちたくはないからな」
あらかじめ言われていたことなので分かっていたことではあるが、少し不自由になるということでアルフレイドの顔は若干険しい。
「まぁ、僕の修行だからさ。援護は任せたよ」
「確かにな。私があまりでしゃばるわけのは違うか」
そういう話をしていると時間になったらしくギルドの中から数人のギルド職員が移動式の黒板を持って出てきた。
「お集まりありがとうございます!本日は2パーティーの連帯行動となりますので、あらかじめ組む相手を確認しておいてください!」
そう叫ぶ職員の横の黒板には参加するパーティーが2つ1組になって書かれていた。
「私たちの相手はどこだ?」
「ええーっと?『覇の迅雷』・・・ってところらしいね」
「覇の迅雷か。随分大それた名前だが・・・」
「悪かったな。俺だってちょっと派手すぎるのは自覚してるさ」
相手の名前を読み上げていると、後ろから野太い声がかけられた。
振り返ると、120ミリアほどの体躯の男性が歩いてくるのが見えた。
その後ろには男女のペアがついてくる。
「ドワーフか」
「なんだお前は種族を気にするタイプなのか?」
「いや、そういうわけじゃないが、久しぶりに見たと思ってな」
「そうか?その辺にいくらでもいると思うがなぁ」
アルフレイドの言う通り、極度に小さい体躯と、それに見合わない見た目、極めつけには背中に斜めに下がっている大型のハンマーはその膂力を示していた。
そして、それらがさす種族はドワーフしかいないだろう。
「どうも、覇の迅雷の皆さまですか?」
「ああ、そうだな。俺は覇の迅雷リーダー、ドゥリス・ディモールってんだ。よろしくな」
「あ、どうも。レキシア・フロアバルドです」
差し出された手を握り返しながら僕が名前を言うと、ドゥリスさんは少しいぶかしげな顔をした。
「フロアバルド?・・・なんか聞いたことあるな。お前さん親は?」
「親ですか・・・?アルフですけど」
「苗字違うんだろ?本来の親だよ」
「あー・・・ちょっとすいませんわからないですね。アルフ曰く、僕は幼いころに捨てられてたみたいなので・・・」
そういうと、ドゥリスさんはアルフレイドに視線を向けた。
「お前さんは・・・アルフレイドって言ったか」
「ああ、よく知ってるな」
その言葉を聞いて、ドゥリスさんは面白そうに笑った。
「なんだあんた自分がどれほど、話題に上ってるか知らないのか?」
「そ、そんなにか?」
「ああ、そりゃそうだろう。SSSランクだぞ?俺たちにしちゃあ雲上のお人だ。ま、俺は態度を変えるつもりはないがな」
「そ、そうか・・・態度についてはそのままでいい。堅苦しいのは好まない」
「あんたのしゃべり方は十分堅苦しい気がするがな」
「おい、私たちの紹介はまだか?あんまり待たせないでほしいんだが」
ドゥリスさんの後ろに立っていた女性がそう口をはさんできた。
「ああ、すまないな。というかお前らが自分でやればいいだろうが」
「お前が話しているからできないんだ。そこをどけ」
どうやら女性のほうはドゥリスさんに負けず劣らず男らしいようだ。それに対して奥の大きな男性は無口なのか何も言わない。
半ば押しのけるような感じでドゥリスさんの前に出てきた女性は右手の濃緑色の手袋を外すと僕に手を差し出してきた。
思わず握り返すと、女性は満足げな顔をして口を開いた。
「テリア・モルティス、エルフの弓使いだ。よろしく頼む。で、そこの無口なやつ。お前も自己紹介くらいしたらどうだ?」
そう言ってテリアさんは僕の手を握ったまま首だけ回して視線を奥の男性に向ける。
「・・・グリーク・ドルビスだ。よろしく頼む」
「すまないな。あいつはうちの盾役で人族だ。無口なだけだから気にしないでくれ」
テリアさんは苦笑しながらもそう注釈を入れてくれる。
もしかしたら、この人はそんなに厳しい性格でもないのかもしれないと思った。
「しかし、伝説のSSSランク様と同じチームとは。今回は無事に帰ってこれそうだ」
「悪いが、私たちの目的はこいつの修行だ。私が全部終わらしてしまうようなことはしないぞ」
「修行?この坊主のか?・・・ああ、そういえば息子だったな」
ドゥリスさんが少し見上げるように僕の顔を見る。
「ああ。もし嫌なら・・・」
「なるほどな。まぁ修行ならしょうがねぇ。自分の息子が強くなるのは親としてはうれしいもんだ」
険しい顔から出た意外な言葉に僕だけでなくアルフレイドも少し言葉に詰まった。
「・・・子供いるんですか?」
「ああ、一人だけな。俺とは違って鍛冶の道に進んだがな。それでも少し有名になると嬉しいもんだ」
数時間後、僕たち黒白/覇の迅雷の連隊は調査で赫龍ソルアドがいるとされた森の中にいた。
「もう一度確認するぞ、討伐目標は赫龍ソルアド。推定ではあるが、この森の中に住処を作っている」
大まかな森の地図を広げながら、ドゥリスさんが確認を始める。
もうすでにギルドからの情報提供と作戦確認は済ませており、各隊が目標の森の中に散開している状況だ。
ギルドのほうからは『発見した場合は他の隊に支援を要請してもいいし、その隊だけで討伐してもいい』という風に言われている。
基本的には手柄は倒した人のものになるので、基本的には一連隊だけで討伐することになるだろう。
要するに今回は単純に見つけて討伐すればいいというわけではなく、ほかの隊よりも早く見つけて討伐しなければならない。
今のところ覇の迅雷は僕の修行に協力してくれるそうなので、この一連隊で討伐する分には問題ないが、ほかの連隊がどういう反応をするかはわからないので、僕たちもなるだけほかの隊との共同戦線は張りたくない。
「レキシア、お前はどこにいると思う?」
「あくまで予想だけど、洞窟なんじゃないかな。森の中にただいるというのは考えづらいし、住処という点でも洞窟がいいと思う」
地図を見ながらそう言うと、アルフレイドは満足そうにうなづいて、口笛を空に向けて一吹きした。
アルフレイドの突然の行動に僕たちが首をかしげていると、一羽の小鳥が空中に差し出したアルフレイドの手にとまった。
「あたりだな。他の隊はまだ見つけていないみたいだが、それらしき洞窟があるようだ」
「お前・・・それ、使役術か?」
手でさえずっている小鳥を信じられないような目で見ながら、テリアさんが聞く。
「ああ、簡易的だがな。この辺にたくさんいるやつをまとめて使役した。少し前からこれで他の隊の動向確認と周辺の探索をしていた」
「・・・なんというか・・・本当に規格外だな」
そういうテリアさんの眼差しはもはや驚愕を通り越して、呆れかえったようなものになっている。
とはいえ、僕もその気持ちはわからないでもない。何せ使役術を使う人を魔術師とは別に使役術師と呼ぶくらい、使役術には特殊性があるのだ。
それを片手間で、しかも尋常ではない規模で行っているのだ。そりゃもはや呆れかえるレベルだろう。
空を見上げると少し遠くの空に小鳥の大群が見えた。下手をすればあの辺まで使役しているんじゃないだろうか。
「・・・あれも?」
「ん?・・・ああ、あれもだな」
試しに聞いてみたが案の定だった。やはりとんでもない規格外さだ。
「お前の母親、とんでもないな・・・」
テリアさんがこっそり耳打ちしてきたが、全くの同感だ。
#FF9900ですん。
そろそろ一章終わりそうっすね。今までの作品がそんなに長続きしなかったので自分でも意外です。
実は最終話までのプロットはできてるんですけど、これホントに終わるんですかね・・・
自分でも疑問です。