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あじさいが揺れる

 

 女の耳にあじさいが咲いている、とカタヒラは思った。

 儚く、雨の日にじっと佇む華憐なあじさいではなく、

 女の耳に揺れるそれは、安っぽく太陽の光を浴びて

 きらきらと偽物の輝きを放つ。


 カタヒラの視線に気が付いた女が

 自分の耳に手を触れる。


「気に入っているんです、あじさいみたいでしょ?」


 ええ、とカタヒラは頷き

 ビーズですか?と尋ねた。


「ええ、寒色系のビーズであじさいをイメージして作って下さいって

 オーダーしたんです。

 今、ハンドメイドが流行っていて、スマホのアプリなんかでも

 要望を伝えれば作ってくださるんです。」


 確かに、あじさいのような色ではある。

 ならば、あじさいのようにもう少し儚い色合いのビーズがよかった。

 雨雲に隠れて、少しくすんだあじさいの色。


「・・・似合い、ませんか?」


 あまりじっとカタヒラがピアスばかりみるので

 女の顔が曇った。


 女の顔には少し派手に見えるというところが本音だが

 カタヒラはゆっくり首を振った。

 ふっと女の顔に安堵がにじむ。

 カタヒラは急いで本題へ入った。


「ところで、今回のご相談というのは?」


「はい、私桃井と申します。

 メールでもお話いたしました通り

 少し身の回りで不思議なことが起こっておりまして。」


 以下が桃井の話だ。


 桃井は現在都内の一流企業で受付嬢として勤めている。

 大学卒業後、3年間勤めた仕事を

 あと5か月で寿退社する予定だった。

 仕事もプライベートも順調で順風満帆に日々を過ごしていた。

 が、数週間前高校の同級生と再会したことで生活に変化が生じた。

 数週間前、高校2年生の時に親しくしていた

 堀田絵里と再会した。


「本当に偶然街で再会したんです」


 桃井が入ろうとしたファッションビルから

 出てきたのが堀田絵里であった。


「高校の時より少しふっくらしていたし

 髪も伸びていて、違うかなと思ったんですけど

 勇気を出して声をかけてみたんです」


 堀田絵里のほうも桃井と気づくと

 再会を喜んだという。


「高校の時は毎日のように一緒にいたのに

 大学に入って、あちらも専門学校に進学して

 お互い新しい環境で友達も出来たし、なんだか疎遠になってしまって。

 でも、会えば昔と変わらない。お互いすぐにまた会う約束をしました。」


 何度かカフェでランチやショッピングなどを通して

 お互いの近況を報告しあった。

 桃井はもうすぐ自分が結婚すること

 数か月後には寿退社をすること

 その他職場の愚痴や、家族の事を堀田絵里に聞かせた。


「でも、絵里は私の話を嬉しそうに聞くばかりで

 自分の事を話そうとはしませんでした。」


 桃井の顔が曇り始める。


「なんとなく、なんですけど、

 絵里のお腹がふっくらしてみえて。

 妊娠しているように見えました。」


 堀田絵里の妊娠を気にした桃井は

 それとなく話題をふってみた。


「話し辛い事情があるのかもしれないし、

 私も子供じゃありません。

 相談にのれることは聞いてあげたいと思いました。」


 今、何か月?というと

 安定期に入ったばっかり。と返事が返ってきた。


「妊娠嬉しくないのかなっていうのが正直な感想でした。

 どちらかというと、この先どうしようみたいな

 切羽詰まった感じが、なんとなくですけどありました。」


 桃井は何とか堀田絵里の力になりたいと考えて

 lineや電話で何度かやりとりをした。

 私で力になれることはないか、

 相談があればいつでものると

 メッセージを送ったが、

 堀田絵里からの返事はいつも空返事だった。


 そのうち、桃井の周囲でも奇妙なことが起こり始めた。


「なんとなくなんですけど、誰かにいつも見張られてる気がするんです。

 家に帰っても、誰かいる感じ。

 それから、、、」


 それから毎晩、堀田絵里が夢に出てくるという。


「多分、私が絵里の事を助けたくていつも考えてるから

 夢にまで出てくるんだと思ったんです。

 でも、夢の中の絵里はいつも私を恨めしそうに睨みつけて

 泣いているんです。」


 はじめのうちこそ、辛い思いをしている友人を

 助けたい気持ちの強さの表れだと思ったが

 段々と気味の悪いことが続いた。


「段々、夢の中の絵里の様子が変わってきました。

 寝ている私のそばに近づいてきて、

 顔が」


「顔が般若のように恐ろしい顔に変わっていたんです」


 桃井は毎日この夢を見るという。

 夢を見てしまうので、眠ることに恐怖を感じる日々が続いた。


「そして、夢を見続けていて

 ある事に気が付きました。

 少しふっくらしていた絵里のお腹がぺたんこになっていたんです。」


 桃井は、明朝急いで堀田絵里に電話を掛けた。


「最初は、何度コールしても繋がらなかったんです。

 私の考えすぎだと思いました。

 絵里は今も元気で、お腹の子供も順調に大きくなっていってるって」


 数日がすぎたある日、桃井のスマホが震えた。

 あて先は、堀田絵里からだった。


「仕事中だったけど、先輩に許可をとって急いで出ました。

 絵里だと思って出たんですけど、全然知らない男の人で」


 相手は堀田絵里の兄からだった。

 第一声は、何度も電話をもらっていたのに

 申し訳ありませんという謝罪だった。


「もう私何がなんだかわかりませんでした。

 絵里と絵里のお腹の中の子に何かあったんだと、、、」


 桃井は一口水を飲み、覚悟したように言葉を続けた。


「そしたら、死んだって。絵里が部屋で冷たくなってたっていうんです。

 玄関先で。お腹の中の子も、、、」


 堀田絵里の兄は声を詰まらせながら桃井に伝えた。

 堀田家の人間は、誰も絵里の妊娠を知らなかったこと。

 葬儀などはすべて親族だけで済ませ、

 絵里も絵里の子供も同じお墓に埋葬したこと。


「産まれてこられなくても、堀田家の家族だとおっしゃってました」


 それから、堀田絵里の兄は、子供の父親について

 桃井に尋ねてきた。

 桃井は自分も知らない、聞いても教えてもらえなかったと

 伝えたという。


「電話先で静かに怒っているようでした。

 私もそいつの素性を知っていたら黙っているはずがありません」


 しかしそれからも堀田絵里は桃井の夢に出てきた。

 ある時は泣いていたり、ある時は怒っていたり。

 そして決まって最後は般若のような顔つきに顔が歪むのだそうだ。


「実際におかしなことがおきるようになりました」


 桃井のアパートでおかしなことが起こるようになった。

 蛇口から水が急に流れ出したり、

 家のインターホンが鳴り、モニターを確認しても誰も居なかったり

 ラップ音や誰かの話声が聞こえてきたり。


 困り果てた桃井は、インターネットの検索欄で

「心霊現象 解決」と検索し

 カタヒラに連絡したという流れらしい。


 ここまで、桃井の話を黙って聞いていたカタヒラが

 今度は質問を始めた。


「大体のお話は分かりました。

 こちらからいくつか質問があります。

 まず、堀田絵里さんと出会う前にそういう現象が起きたことは?」


「ありません。」


「最近、誰かに恨まれたり妬まれたりしたことは?」


「さぁ、結婚する報告は何人かにしましたけど

 それで恨まれるようなことは、、、」


「では、心霊スポットや呪いのビデオを見たことは?」


「もちろん、ありません」


「そうですか。わかりました。

 お引き受けいたしましょう」


 カタヒラの返事を聞いて桃井は安堵の息を吐いた。

 しかし、本当に大丈夫だろうかと不安な顔にすぐ戻る。

 桃井は手の中のスマホで検索画面を確認した。

「心霊、不可思議な現象を解決いたします。-カタヒラ」

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