第2話 班長
「グラサンアフロ……グラサンアフロ、と。――あ、居た。あれかな」
イナバが言うには、モリモト二等兵はアフロでいつもグラサンを着けているとのこと。
ちょうどそんな感じの風貌の男がトキタニの視界に入った。
……もっともモリモトの場合は、アフロと言うより髪を切っていないだけのようにも見えるが。
「すみません。モリモト二等兵でいらっしゃいますか?」
「んー。そうだよ。僕がモリモト」
その間抜けた返事からか、どこかだるそうに感じてしまう。
「自分は今日初めて入隊しました、トキタニです。伍長に待機班に配属されました。――たしかモリモト二等兵は待機班の班長でしたよね?」
「んー? 多分そう。そういえば君のこと、伍長に言われた気がするし」
見た目だけじゃ無かった。この人、ダメな人だ。
「それでは、モリモト二等兵は自分の班長でもある、ということで大丈夫ですか?」
「んもー。イナバのことはイナバさんって呼んでたのに僕だけ二等兵付けは嫌だなー。モリモトでいいよ」
げっ! 聞かれてたのか……。
こんな個性爆発な見た目してんのに全然気づかなかった……。
「……盗み聞きは良くないですよ」
「ち、違うよ! たまたま聞こえてきただけだって! ほ、ほら! 君のことだって今さっきまで知らなかったんだしー!」
「……どーだか」
「おーい……」
そんな感じで適当なコミュニケーションを取った二人は、どちらからともなく歩き出した。
どれだけ歩いただろうか。
もうすっかり暗くなった戦場を、無防備にもたいまつ一つで進んでいた。
ちょくちょく見かけていた兵士達も、ここしばらくは一人も見ていない。
本当に味方の陣地なのか、それすらもトキタニには分からなかった。
それでも、この男について行くしかないんだよなぁ……。
そう、帰り道も知らないトキタニは、隣を歩くモリモトに頼るしか無い。
……さっきの盗み聞きのせいで、はっきりいって信頼度はゼロだが。
モリモトから話してくれる様子がないため、いい加減尋ねることにした。
「あのー自分達、今どこに向かってるんですか?」
……。
…………。
………………。
返事はない。ただの屍のようだ。
と思ったら急に動き出し、
「んー?」
とか言いながら、耳のイヤホンを外しやがった。
こ、こいつ! さっきから何も言わないと思ったら音楽聴いてやがった!
しかも高そうなワイヤレスだし、おかげ様で全然気づかなかったわ!!
てかよく戦場で音楽なんて聴いてられるよな! 神経太すぎだろ!
……数時間前、イナバと怒鳴り合ったのが馬鹿みたいだ。
「えーと、自分達は今どこに向かってるんですかー? って聞いたんですけど」
「どこって、そりゃ待機班のキャンプだよ?」
いや言われてないんだけど……。
「……遠いですね。――もう結構歩きましたよ」
「まあ、一番端っこだからなぁ」
「一番端なんですね……」
まあ、待機班って言うくらいだから、端っこに送られるのも仕方ないと思うが。
……俺、もうちょい近いとこが良かったなぁ、伍長さん。
いや、やれと言われたことはやりますけどね?
「ちなみに、待機班って何人くらいいるんですか?」
「えーと、君を入れて十……いや六人だな」
どんな計算ミスだよ。
だが朗報だ。モリモトを除いて他に四人いるというのはありがたい。
何かあった時に頼るのはモリモトではあってはならない。決して。
「他に聞きたいことあったら今聞いちゃってよ。キャンプまでそろそろだし」
珍しくモリモトから話しかけてきた。
だが悪いな。細かいことはあんた以外の人に聞くって決めたんだ!
だからあんたに聞くことはもう無いんだぜ!
でも無視は気まずいから、どうでもいいことを聞くことにした。
「どうしてグラサン着けてるんですか?」
「ん? んーどうして、か。――ああそうだ、君は僕を探しているとき、どうやって探してた?」
「え――それはまあそのグラサンと、あとそのアフロ気味の髪の毛……ですけど」
「そう! そういうことだよ」
「は?」
そこでモリモトは右足を軸にしてくるりと一回転、そしてキランと歯を光らせながら左手をトキタニに向けながら指を鳴らし、こう一言。
「君に会うためだよ!」
「…………チッ」
「あああああ! 今舌打ちしたああああ!」
……たいまつの火でその髪燃えろ!
キリが良かったから字数少ないけど載せちゃいました! いやぁ甘えたなぁ! 自分甘やかすの大好き!