駅にて、のち
駅に付いた。夏休みの時期とはいえ、真昼には人影はまばらだ。たまに営業のサラリーマンが通る位である。
「えぇ~っと、最寄り駅までいくらだっけ」
財布を開けながら料金を確認する。切符を買うと丁度やってきた列車に飛び乗る。
…車内もまばらだった。日陰の席に陣取ると目を閉じ目的の駅まで瞑想に入った。
…キキィィー…
到着を告げるアナウンスと共に列車が軋む。
「到着、っと」
俺は跳ね起きるとホームに降り立った。
………時が止まる。
目の前に、昨日の『あの人』が立っていた。あちらも気付いたのか、硬直し俺の事を凝視していた。
―――刹那、目を逸らす。車両に足を向け――
ガシッ。
腕を掴まれた。と同時に声。
「待って!……下さい…」
間抜けな引き止め方だな、と思った。だが無闇に振り払うのは得策では無い様に思えた。
「…何か用ですか」
「あ。いやその…」
イライラする。こっちは早く帰りたいのに…。
「用が無いなら離してもらえます?」
「好きですッ…!!」
思考が止まった。
…何言ってるの、この子…。スキデス。すきです。好きです…?
「はぁっ?」
ようやく意味を理解してから、疑問の言葉を口にする。
「あなた…何言ってるの?」
ガタンガタン…ガタンガタン…。
列車は走り出してしまった様だった。