追憶
…その後、駆け付けた燈子の仲間に俺は保護された。俺は彼女の亡骸を抱き締めながら泣き続けていた。
保護された先で聞かされる。彼女が『CROW』という組織に属していたという事。その組織は闘いの無い世界を作ろうとしている事。
その話を聞き、俺の心は既にどうするか決めていた。
責任者の男に問われる。またも聞き慣れた言葉があった。
『全てを忘れろ』
しかしその後に続く言葉があった。
『もしくは、平穏の為に闘うか』
是非も無かった。俺は今までの全てをかなぐり捨て、訓練の日々に没入する事になった。まるで哀しみを癒すように。
………閉じていた瞼を開く。目の前には墓石。紛れも無くそこには、
『桐山 燈子』
と彫られていた。
…ふと、腕時計に目をやる。もう夕方だ。
「また来るよ」
踵を返し、帰路に付く。
夏の終わりを告げる様に、ひぐらしが合唱を始めていた。
―――俺は、それを聞きたくなくて。持っていた音楽プレーヤーを再生する。軽快なリズムを刻む曲が流れ始める。
…忘れないから。
確かそんな曲名だった。
そうだ。俺は忘れない。哀しみからも逃げない。
生きていく事こそが、彼女、燈子の為になると思ったから。
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ガチャッ。
「ただいま~」
皇が事務所へ戻ってきた。それを月野が出迎える。
「あ。おかえりなさーい!」
「うおを!裏葉ちゃ~ん!愛する俺の帰りを待っててくれたんだね!!さぁ!お帰りのキオゴフッ!?」
すかさず繰り出されたボディブロウに皇はもんどりうって倒れる。
「ナ…ナイスブロウ……GJ…」
皇は親指を立てると白目を剥いた。そこへ…
ガチャッ。ドスッ!
「フギャッ!」
戻ってきた布津が倒れていた皇を踏んづける。
「……?…皇か。こんな所で寝るな。通行の邪魔だ」
「お、おういえ」
皇は転がってから立ち上がると、腹を押さえながら椅子に座る。布津はそれを見ると、
「トイレか?行けよ」
皇は冷や汗を浮かべる。
「いや、違うんだ。これはその、愛の鞭というか。ね、裏葉ちゃん?」
月野はジト目で皇を睨む。
「いえ、何でも無いです」
皇は視線を反らす。
「………?」
布津は困惑した様子だったが、やがて興味を無くしたのか、ソファに転がった。そこへ月野が声を掛ける。
「布津さん、用事は終わったんですか??」
「あぁ。あっさりとな」
「はい。了解です~。それじゃ、私は帰りますね。失礼しました~」
「バイバ~イ」
皇が手を振る。月野はニコリとすると、出入り口へと消えていった。
「…Zzz…」
いつの間にか布津が眠りこけていた。ご丁寧にアイマスクまで付けて。皇は苦笑いすると、暮れゆく夕日を遮る様に、カーテンを閉めた。
…外ではまだ、ひぐらしの大合唱が続いていた。
8月31日。今年の夏も、もう終わる。




