『運命』
ドサッ。
目の前で燈子さんが倒れる。
「………え?」
その先で男が走り去って行くのが見えた。
俺は燈子さんに駆け寄り抱え起こす。手に生暖かいものが触れる。
「……血…!?」
「………ぅ」
燈子さんが弱々しい呻き声を上げると目を開けた。
「……っ。皇君、無事…?」
俺は首をブンブン、と縦に振る。
「………よ、良かっ…た」
呼吸がどんどん弱まっていく。命が、血と共に流れ出していく。俺はようやく冷静さを取り戻すと言った。
「い、今救急車を…」
ガシッ。
携帯を取り出そうとする俺の腕を燈子さんが掴む。とても瀕死の人間とは思えない力だった。
「良いの……ッ。私は、ゴホッ、もう助からない」
「喋っちゃダメだッ!」
しかし彼女は携帯を掛けようとする俺を、更に力強く腕を引っ張り制する。
「………ゴホゴホッ!い…いい?良く…聞いて」
俺は彼女の目を見てうなずく。発されたのは聞き慣れた言葉。
「私の…ことは、忘れなさい。はぁ、はぁ。そうしないと、……ッ、あなたが…不幸に…なる」
「イヤだっ!」
魂の奥底から響く様な声を絞り出す。
「やっと会えたのに、もう別れなきゃならないなんて嫌だっ!」
燈子さんはふっ、と笑うと、
「だ、ダメよ…。約束したもの…それに」
彼女はフゥッ、と息を吐く。
「これが、私の運命」
呼吸が更にちいさくなる。
「そんな運命、ブチ破ってよっ!燈子さんッ!」
再び彼女は笑みを浮かべる。
「名前、覚えてて…くれた…んだ」
「当たり前だっ!忘れるもんかっ!」
彼女がゆっくりと目を閉じる。
「嬉しいな……こんな、終わり方も、悪く、ない」
「お、終わる訳ない!」
「ねえ…とうこ、って呼んで………?」
「と、とうこっ!…死んじゃダメだッ!!」
「…フフ。年下の、彼氏も、悪くないか、な…」
「ありが…とう」
彼女の手から、ちからが、不意に抜けた。
「……とうこ?………とうこぉぉぉお!!!」
…誰も居ない大学内に、俺の叫びが虚しく木霊した。




