再会、そして
ガー。プシュー…。
バス特有の音を立てて扉が開く。俺は飛び降りると目の前にある大学を見上げた。辺りに人影は無く、聞こえるのは蝉の鳴き声だけだ。
開け放たれた門を潜ると、アテも無く歩き始めた。
一号棟、二号棟、三号棟…。何処も人影は無い。
…変だな。警備の人間すら見当たらない。いくら夏休み中とはいえ、真っ昼間に誰もいないなんて事は無いはず…。
俺は道路を挟んで反対側の校舎群へと向かおうとした。道路に差し掛かると、猛スピードで一台の車が走り去っていった。
「あぶねぇなぁ…警察に捕まっちまうぞ…」
…俺はまだ、この異変がどういうものなのかに気が付いていなかった。
--------------------------------------------------------------------------------
『レッドサンフラワーよりロイヤルローズへ。脱出路確保。目標と共に脱出します』
「了解。こちらは敵残存の制圧に当たる。追撃に気を付けて」
『レッドサンフラワー了解』
ノイズを後に残し、通信を終わる。
「敵、か…後二人なら良いのだけれども」
私は周囲を見回すと、校舎の陰に隠れる。…今の所敵影は無い。
「管理棟の方かしら…」
一つ呟くと、大学敷地内の本来ならば職員が詰めている管理棟へ向かった。
辺りにはネコの子一匹も居ない。襲撃があってから全員退去させた為である。護衛目標は敵の妨害に遭い、脱出が遅れてしまった訳だが、先程完了した。
管理棟に差し掛かると、人影があった。
「………!?」
そこに居たのは敵ではなく、皇だった。敵ならばあんな無防備に平場をウロウロしたりはしない。
「あの子……!」
その時、皇のすぐ側の茂みから男が現われた。手には拳銃。敵の一味か。
男は皇に銃を突き付け、何事か喋っている。皇はしばらく硬直していたが、動揺した様子で両手を上に揚げた。
「………!」
私は静かに行動を開始した。皇君には悪いが囮になってもらう。だがのんびりしている暇は無い。
二人に気付かれないように近寄る。物陰から物陰へ。
首尾良く男の背後に回る。
「一、二、さんッ!」
三つ数えて飛び出す。皇が気付いたがお構いなし。男が皇の表情の変化に気を取られ、一瞬反応が遅れる。
「ハアッ!」
背後から男の延髄に強烈な蹴りを入れる。それで十分だった。
沈黙した男から銃を奪うと、皇に向き直る。
「何故ここにいるの」
私は未だに放心状態にある皇君に詰問した。彼が我に返る。
「あ…俺…」
何か言おうとした所に被せて言う。
「いや。…やっぱり良いわ。今私は忙しいの。ここで見たこと聞いたこと全て忘れて直ぐに帰りなさい」
有無を言わせぬ口調で言葉を浴びせる。これ以上彼を巻き込む訳にはいかない。
皇はただならぬ雰囲気を察したのか、肩を落としうなずくと、出入り門へと歩いていった。
私はその後ろ姿を見送りながら無線に手を掛けた。
「ロイヤルローズよりブラックリリィへ。管理棟付近で敵兵一名制圧…」
………!!
皇を見送る視界の端。
別の男の姿があった。手には銃。その銃口は皇に向いていた。
トリガーを引き絞るのがいやに良く見える。
「ダメぇっ!!」
私は駆け出した。
…間に合って……ッ!
パァァン!
焼け付く日差しの中、一発の乾いた銃声が響いた。




