晩夏
あれから数週間。あれ程手繰り寄せようとした運命は、手のひらから逃げられたままだった。
「8月31日か…。夏も終わっちまうな…」
俺は焦りを感じていた。このまま、忘れるしか無いってのか。そんなのゴメンだ。
手早く着替えて外に飛び出し、自転車の鍵を外す。
夏も終わりだが、日差しは相変わらず灼熱の様相を呈していた。
俺は肌を焼く日差しの中、ありったけの力を込めながら駅への道程を走り出した。
電車に乗り、人気の無い駅にたどり着く。ホームには人影も無い。俺は肩を落とすが、まだ諦めない。ここで諦めたら、二度と彼女に会えない気がしたから。
駅を出て、大学行きのバスに乗る。この前は気が付かなかったが、一時間に何本かは出ている様だった。
大学に行った所で彼女に会える保障は無い。ましてや名前以外の事を全く知らない相手だ。理にかなっていない。しかし。何故か今なら再会できる気がしていた。
「『運命』か…」
俺は呟くと、窓の外に目を向ける。流れる景色の中、あの山の頂上の城が見えてきた。大学だ。ふと、彼女に初めてあった時の事を思い出す。
『全て忘れなさい』
あの言葉が蘇る。今日会う事が出来れば、その言葉の意味も分かる様な気がしていた。
大学はもう目の前にきていた。
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ザザッ。
無線がノイズを発する。少し遅れて声が聞こえてきた。
『こちらブラックリリィ。敵を見失った』
無線の相手はやや焦りを見せながら話す。
「ロイヤルローズ了解。こちらでも索敵をする。レッドサンフラワー、ガードは?」
ザザッ。再びノイズが入り、声が聞こえる。
『問題ありません。続行します』
「了解。頼むわね。それからブラックリリィ、焦りは禁物よ」
『ブラックリリィ了解…。』
…ヤレヤレ。新米はイマイチ使い辛い。
私はまた溜息を吐くと、行動を開始した。
要人警護任務に就き、数週間。対象はあの大学の学長。その学長を巡って度々小競り合いがあったが、いい加減敵も焦ってきているのだろう。今日は一気に仕掛けてきた。こちらの小隊は私を含め4人。1人負傷し下げさせた所だ。やはり寄せ集めではムリがある…。ましてやこちらの武装は各人に特殊警棒一本のみ。相手は『飛び道具』持ちだ。遠距離から狙撃される恐れは無い様だが…。人数は同数から半数の間と見ている。伏兵の可能性も考えて慎重に行かねば。
校舎の影を縫う様に進む。
ガサッ。
動きを止める。周囲を窺う。
……いた。敵はあらぬ方向を見ている。その隙に背後へと回り込む。警棒は抜かない。呼吸を整える。
5メートル、3メートル。後一足の所で集中力を最大に高める。
…極めるのは近付くのよりも早かった。神速とも言える速さで敵の首に腕を巻き付け、一気に締め落とす。ものの数秒で相手の意識を奪う。
カンッ。敵の落とした拳銃を蹴り飛ばす。
「……フゥッ」
止めていた息を吐き出し、無線に手を掛ける。
「こちらロイヤルローズ。敵兵1制圧。捕縛後隠蔽する」
『ブラックリリィ了解!』
『レッドサンフラワー了解』
二人からの無線を聞くと私は手早く倒した男を縛り上げ、茂みに隠す。
「…よし。後2、3人って所ね…」
私は再び影の様に動き出したのだった。




