プロローグ
コンコン。ガチャッ。
「お邪魔しま~す」
いつもの部屋。いつもの通りに伝令を持って行く。目の前のソファには金髪の男が寝転んでいた。男は自分に気付くと身体を起こす。
「…月野か。さっさと伝令を寄越せ」
この横柄な態度の男は布津 純能介という。私の所属…というかほぼ命令伝達役なのだが、便宜上所属している小隊のリーダー格である。
「すいませ~ん。寝てる所を起こして機嫌悪くさせちゃって。月野 裏葉伝令をお持ち致しました!」
ややへりくだった言い方で返す。彼の性格はこんなものだ。大体読めている。この格好つけ。
伝令の入った封筒を渡しながら、先程からある違和感に気付く。
「あれ…?皇さんは?」
皇 武、布津の相方である青年の姿が見えなかった。辺りを見回すが、人影すらない。その時伝令に目を通していた布津が口を開く。
「奴は…過去に対面しに行った」
私は何の事か分からず首を傾げる。布津は苦笑いを浮かべると言った。
「墓参りだ」
「親御さんか何かですか…?」
布津は肩をすくめる。
「さあな…。毎年この時期になると、独りきりで出かけて行くがな」
「ふうん…」
「こいつは俺一人で処理する。月野」
布津がジャケットを羽織りながら言う。この暑い中良く着込めるものだ。
「はい?」
「悪いが留守を頼む。奴が戻ってきたら俺は私用で出ていると伝えてくれ」
…彼なりの優しさだろう。任務、とは一言も口にしなかった。
「分かりました。なるべく早く戻ってきて下さいね?私も仕事あるんですから」
再び苦笑いを浮かべると、布津は軋むドアを開け出て行った。
私はソファに腰掛けると、手帳を開く。…外では晩夏の中、蝉達がやかましく鳴いていた…。
…とある墓地。皇の姿があった。一つの墓石の前に立っている。
花を供えると、ありありと思い出される日々。
「あれからもう随分経っちまったな。なかなか来られなくて、ごめん」
皇は佇み、記憶に没入した。