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2 僕は友達ができない

 僕は大井田君の動向に注意しつつ、授業を受けている。授業内容は簡単な数学なので、もう理解した。だから、作戦を考えるのに集中するのは難しくない。さて、彼を知り己を知れば百戦殆うからず。相手をよく知る必要がある。まず、大井田君はそれほど人望がない。一人は友達がいるが、普段は友達と遊んでいる様子もない。寂しいやつなのだろう。だから加奈子さんを虐めて自分を意識させている。ならば、大井田君が寂しくなければ、加奈子さんを虐めないかもしれない。


 そうだ。僕が友達になってあげればいいんだ。


 チャイムが鳴った。僕は大井田君の近くに行って言った。


「大井田君、僕と友達になろう」


「ああ? お前馬鹿じゃねえの? なんでお前と友達になんなきゃならねえんだよ」


 大井田君に虫でも見るような目でにらまれた。かなり怒っているようにも見える。これは失敗だったか……。それにしても僕に大きなダメージが入った。なんとなく難しいかとも思っていたのだが、ここまでストレートに言われると辛い。そして教室のみんなの目線が痛い。中二病と思われることには慣れたが、この状況は初めてだ。太田井君が闇魔法使いなら間違いなく経験値が入るだろう。


「……そうか。悪かった。友達は他で探すことにするよ」


 心に傷を負った僕は何とかそれだけ言って自分の席に戻った。その後大井田君は僕の悪口をいくつか言っていたが、もう心を閉ざしたので聞こえない。そういえば、僕には友達がいない。大井田君には少なくとも一人は友達がいる。この違いは大きい。


 僕は精神的にダメージを受けたものの、悪いことをしない限りステータスには悪影響がないから気にならない。


 あれれ? なんか涙が……。


 休憩時間が終わり、三時間目英語の授業が始まろうとしている。今回の作戦は失敗だったが、次の作戦を考える必要がある。涙が止まらない……。先生が僕のことを見ている。なんか言われそうだったが、とりあえず授業を進めることにしたらしい。先生は何も言わなかった。……助かった。これ以上、今注目を集めると精神的に耐えられない。


 涙を流し切り、僕はようやくダメージから回復した。そして加奈子さんの様子を見た。大丈夫そうだ。授業の内容は教科書をさっと読み理解した。もうこの授業も受ける必要はない。理解と記憶に要した時間は3分間だ。中学一年生の英語の授業は難しくない。先生の名前は高梨なんとか。高梨先生と呼んでいるから下の名前は覚えていない。若くて美人であり、生徒にも人気がある。そして優しい。さっきも僕が泣いているのを気遣ってくれたのだと思う。……無視されたんじゃないよね。信じてるよ、高梨先生。


 さて、次の作戦を考える。僕は切り替えが早いのだ。なにしろ経験値を稼ぐという目的がある。白魔法使いというのは人を助けないと経験値が上がらないから厄介だ。闇魔法使いなら人を傷つければ経験値を稼げるから簡単でいい。でも僕は人を傷つけるのは好きではない。だから、大変ではあるが僕は白魔法使いが気に入っている。


 作戦にもどる。……加奈子さんを虐めるのではなく、僕を虐めればいいんじゃないかな。そうだ。それを提案してみよう。僕ならステータスが高いから殴られても少ないダメージで済む。そう考えていたら授業が終わった。高梨先生は僕を見て大丈夫と目で言っているようだ。美人の先生に気遣われて気分が良い。僕は笑顔で大丈夫ですとアイコンタクト。先生も安心したようで優しい笑顔で頷き教室を出て行った。


 僕は今日、三度目であるが大井田君に近づき言った。


「大井田君。虐めるなら僕を虐めなよ」


「……はあ? なんでお前を虐めなきゃなんないんだ? 意味わかんねえ。大丈夫か?」


「だって、虐めないと気が済まないんだろう?」


「言っている意味が分からない。何を言っているんだ?前からおかしいとは思っていたがお前今日は本当におかしいぞ」


 おおぅ……。またダメージを受けた。今日はダメージばかり蓄積して全然経験値が増えない。今日はもうがんばるのやめようかな。とにかく大井田君が何か言っているがもう聞こえない。席に戻ろう。次の授業は……体育だ。着替えて移動しよう。


 それからの時間は、もう頑張る気力もなく時間が過ぎるままに生活をした。気がついたら放課後になっていた。今まで放心状態だったので、僕の名前を呼ぶ声が聞こえるまで何もする気がおきなかった。振りむくとそこには加奈子さんがいた。


「今日の畠山君ちょっと変だったから、心配で。……あれ、私のために言ってくれてたんだよね。大井田君にいろいろ話をしてたのって……。おかげで今日は虐められなかった。ありがとう」


「そ……、それは良かった。なんか、今日は失敗してばかりでちょっと落ち込んでたんだ。そう言ってもらえると助かるよ。こちらこそありがとう」


「あんまり無理しないでね。私は大丈夫だから。それじゃあね」


 そう言って、加奈子さんは走り去って行った。可奈子さんに一応感謝された。少しはステータスに影響するかなと思い、ステータスを確認する。


「ステータスオープン」


 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 □氏名 畠山英知

 □職業 白魔法使い

 □LV 39

 □力の強さ 221

 □体力   120

 □知力   135

 □魔力   230

 □素早さ  220

 □運の良さ 130

 □経験値 2253

 次のレベルまで

 235

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 経験値が20増えていた。一日に少しでも経験値を得られれば苦労した甲斐があったというものだ。加奈子さんは目立たないがクラスでも可愛いほうだと思う。大井田君が虐めるのはひょっとして加奈子さんが好きなのかな。好きな子の気を引こうとして虐めるって……小学生じゃあるまいし。いや、半年前までは小学生だったから変でもないのか?


 ふと視線が気になり、視線を感じる方向を見ると大井田君がいた。僕と加奈子さんが会話していたのを気にしているのだろう。やはり、大井田君が加奈子さんを好きだという説が濃厚だ。僕のことを憎々しく凄く睨んでいるが、美少女からならともかく男に睨まれても嬉しくはない。


「大井田君、僕と友達になる気になったの?」


「お前……大越さんと何を話していたんだ?」


「なんだ、やっぱり大井田君は加奈子さんが好きなのか。そんな気がしてたんだ。でも、虐めはよくないな。そんなんじゃ嫌われる一方だぞ」


 大井田君の顔が真っ赤になった。かなり動揺している。


「お……お前の方こそ大越さんが好きなんじゃないのか? 今日呼び出してたよな」


 あ……そういえば、呼び出したな。あれも当然見られていたわけで、嫌われても仕方がない。誤解を解かないといけない。


「あれは、ほら……、加奈子さんと大井田君が仲良くなれるよう何とかしたいと思って……」


 僕がそう言うと、大井田君は驚いた顔をしている。かなり予想外の回答だったのだろう。

「それは本当か? 大越さんと俺が……いや、じゃあお前は大越さんのことを好きなわけじゃないんだな?」


「ああ、俺は別に好きな人がいるから。加奈子さんは別に……」


「だったら良かった。今日は悪かったな。ちょっとひどい事を言ったような……なんか泣いてなかったっけ?」


「泣いていたつもりはなかったんだけど、涙が止まらなかった。あれはもう気にしないで欲しい。それよりも、加奈子さんには優しくしろよ。今の大井田君は嫌われるぞ。僕もフォローしきれない。僕も立ち会うから彼女に謝らないか?」


 好きな子をつい虐めたくなる心理はわからなくもない。さらに関係ないが美少女に僕が虐められたくなる心理もわからなくもない。ただ、男に女が虐められて喜ぶかというと、それは理解できない。しかし、今までのことを誠意を持って謝れば関係は修復可能なのだと思う。


「ああ……。やっぱり俺、嫌われてるかな」


「めちゃくちゃ嫌がられてるぞ。たぶん今、最低だと思われてる」


「謝ったら許してくれるかな?」


 謝らないと、さらに関係が悪化することだけは間違いない。しかし、加奈子さんが大井田君を好きになるまでには至らない。それには時間をかけて誠意を見せる必要がある。


「謝るのが第一段階。そして、第二段階は彼女と笑顔で会話できるようになるまで優しさを見せる。これは第三者に対しても優しさを見せることが重要。加奈子さん以外の人に辛辣な態度で接するのと見られたら信用されない。そして関係が修復されるまでは告白は厳禁。加奈子さんの笑顔を大井田君が引き出せるまでになったら、第三段階。デートに誘う。それも三回だ。三度目のデートに誘うことができたら最終段階。ついに告白。この順番で少しずつ関係を改善するのが良いと思う」


「ずいぶん具体的だな。……でも、それなら何とかなるかも。いや、ありがとう。では、明日謝ろうと思うが、お前も立ち会ってくれるんだよな。……いや、ちょっと一人でとなると自信がない……」


「任せろ、俺が加奈子さんに大井田君が謝りたいことを説明する。その後、俺も立ち会いしつつ加奈子さんに謝ってもらう」


「ありがとう。じゃあ、明日、よろしく頼む。じゃあな」


 そう言って、大井田君は帰っていった。LVアップしたのを感じたので再度ステータスを確認する。


「ステータスオープン」


 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆

 □氏名 畠山英知

 □職業 白魔法使い

 □LV 42

 □力の強さ 227

 □体力   123

 □知力   138

 □魔力   236

 □素早さ  225

 □運の良さ 133

 □経験値 3236

 次のレベルまで

 47

 ★☆★☆★☆★☆★☆★☆


 なんと、レベルが3つも上がっている。かなり大きい経験値を稼いだ。次のレベルまでわずか47。明日も経験値を稼げる見込みありなので、楽しみだ。


 ガガガ……ガ……ピーイィ……


 突然、意識に干渉する何かを感じた。≪……覚えてる?≫ なんだろう。記憶の奥底からある少女が甦った。まだはっきりと思い出せないが、この少女は僕のお嫁さんに立候補しますと言った子だろうか。その子なら僕と同じぐらいの年齢に成長しているはずだ。≪会いたい……もうすぐ会える≫ 僕の脳に直接語りかけている。間違いない。あの子だ。意識に干渉する魔法はかなりの高等魔法なはずだ。少なくとも僕にはできない。ならば彼女も魔法使いだったに違いない。そういえば、彼女を僕が守った時に確か彼女は誰かと戦っていた。女の子はまだ幼かったにも関わらず、大人を相手にしていた。危ないと思って僕は、助けに入って……その後気を失ったんだ。気がついたら、僕はベンチに横たわっていた。その様子を見ていた彼女が僕に「助けてくれてありがとう。私、あなたのお嫁さんに立候補します」と言ったんだ。


 僕はよくわからずに助けに入ったけど、助けに入らなかったら殺されていたかもしれないと彼女は言った。僕は全然弱かったけど、助けに入った勇気が認められたのだと思う。僕は相手に伝わるかわからないが、僕も(会いたい)と念じた。すると≪うれしい……覚えていたのね。あと、10日ぐらいで会えると思う。待っててね≫ と返事が返ってきた。僕は(わかった。楽しみにしている)と念じた。


 ガ…ピィ……


 意識への干渉が無くなったのを感じた。最後に彼女から受けたメッセージは、あと10日ぐらいで会えるというものだ。僕は、彼女と会うのが待ち遠しいと感じている。僕は友達ができないが、名前も知らない彼女ならいると自分を慰めたのだった。

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