1 僕は中二病でもかわいそうな人でもありませんから
突然だが、僕は世界でも数少ない中学生の魔法使いである。(ここ、笑うところじゃありません)先祖代々魔法使いだったから、魔法使いであることに特別な感情はないが、教室内で何か問題が起こっていないか常に監視している。問題が起これば経験値を稼ぐチャンスだからだ。LVをカンストさせることを目指している。ちなみに父親に聞いた話ではかつて地球上でカンストした人などいないそうだ。異世界ならともかく地球では経験値を稼ぐのが難しい。先生が出席を取っているが、僕の順番はアイウエオ順だからしばらく後である。
僕は中二病とクラスのみんなに思われているが、それについては遺憾である。時々魔法を使って問題を解決するが、魔法を使っても今まで信じてくれた人はいない。魔法使いであることを隠すつもりはないが、言ってもかわいそうな人を見る目で見られるだけだった。だから、中学生になってからは能力は使うが魔法を使ったとは言わない。
とは言っても小学生のころにかなり有名になってしまったので、もうクラスのみんなどころか学校の多くの人に知られている。時々見せる能力に関してはトリックだと思われている。もうそれでいいけどね。僕は幼少の頃に親から学んで能力に目覚め、知り合いに自慢して回ったのだが今となっては後悔している。
今僕は中学一年である。同じ小学校から来ている人が多いから、クラスのみんなが中二病だと噂するので、僕の存在に関しては小学校のころと変わりない立場となった。つまり、ぼっちである。僕に友達と呼べる存在はいない。彼女? 募集中だ。寂しいやつだと思ってくれていい。先生が僕の名を呼んだ。
「畠山英知君。」
「はい。」
僕は、英知という名前で、えっちくんとかエッチな人とか言われたことがある。だからあまり好きな名前ではない。元々の意味はすぐれた知恵という意味だが、そう思ってくれる人は今までいなかった。
過去、ちょっとかわいい顔の女子にえっちくんと言われた日はちょっと落ち込んだ。
おや……?
誰かがいじめられている気配がする。僕は意識を集中する。僕はいじめを受けていないが、昔からいじめを受けている人は時々見かける。
そんな時に僕は能力を使っていじめを止めている。
今回は誰が被害を受けているのかな?
全く、先生がいる中でいじめる奴がいるなんて……。
……???
おかしいな。いじめを受けていた気配はあったのに、今、誰もいじめを受けている様子がない。僕がきょろきょろと周りを見ていると、先生に注意された。
「英知! 落ち着きがないぞ」
また、みんなに笑われた。でも、その時にひとり笑っていない生徒を見つけた。大越加奈子さんだ。ちょっと気が弱い生徒だ。僕は、授業を真面目に受けつつ、加奈子さんに意識を向けるのだった。出席を取っていた最中であることを考えると近くの人が怪しい。前の人や横の人よりも加奈子さんの後ろの席に座っている人である可能性が高いだろう。誰だっけ、あいつ。
そして一時間目が終わると、加奈子さんを呼び出し、人のいないところで話を聞いた。
家庭科室近くの廊下だ。
「加奈子さん。僕の勘違いでなければ、いじめを受けていた気がするんだけど。」
彼女は、少し驚き周りでだれも聞いていないのを確認してから小さい声で言った。
「……うん。実は、後ろの席の大井田君が私に嫌がらせをするようになったの。尖った何かで背中をつついたり、椅子の上に画びょうを置いたのも大井田君だったと思う。自分が気が付いて取ったら面白くなさそうにしてたから」
「わかった。僕はいじめは嫌いなんだ。だから、何とかしてみる。ただし僕の見ている範囲内でないと助けられないから、何かあったら相談しなよ。……じゃあね」
そう言って、僕は教室に戻った。なぜか加奈子さんもついてくる。……って当たり前か。同じ教室だもんな。ボッチだから一人で歩くのに慣れ過ぎて一緒に移動することなんか久しぶりだ。
誰かと一緒に歩くのに慣れていないんだよな。
廊下を歩きながら久々に自分のステータスを確認するため魔法を使った。加奈子さんが聞いていると思うが気にしない。
「ステータスオープン」
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
□氏名 畠山英知
□職業 白魔法使い
□LV 39
□力の強さ 221
□体力 120
□知力 135
□魔力 230
□素早さ 220
□運の良さ 130
□経験値 2233
次のレベルまで
255
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
経験値は、問題を見つけて解決することにより、手に入れることができる。地球にはモンスターがいないので、人間の中にいるモンスターを倒すイメージかな。
ほら、モンスターペアレンツとかモンスタークレーマーとか言われる、あのモンスターだ。
僕は、そんなモンスターを倒す。人間は殺さないが、モンスターの要素のみを取り除くのだ。僕の職業では善行を積むと経験値が入る。他の職業では経験値が入る条件が違うらしい。母親から教えてもらったことだが、世界中にはさまざまな職業を持つ人たちがいるらしい。
闇魔法使いは逆に悪行を行うと経験値が入るのだそうで、僕とは将来敵になりそうである。話を戻そう。
大井田君は、どうして加奈子さんをいじめるのか。その理由を調べる必要がある。まずは、彼のステータスを見てみよう。教室に戻って彼の近くに行った。太田井君が僕の存在に気づくと怪訝な顔をしたが気にせず僕は魔法名を唱える。
「ステータスオープン」
僕は、まだ口に出して言わないと魔法が使えないので、みんなが聞いている前で言った。不思議そうに僕を見る人がいるが、小学校からの知り合いはみんな無視してくれる。僕の行いには慣れているからだ。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
□氏名 大井田 翼
□職業 無職
□LV 無
□力の強さ 42
□体力 31
□知力 13
□魔力 0
□素早さ 12
□運の良さ 20
□経験値 6
次のレベルまで
無
★☆★☆★☆★☆★☆★☆
普通だ。まあ、無職にしては良いほうかもしれない。僕が余裕で勝てる相手ではある。
でも、暴力でなんとかしようというほど単純な話ではない。それでは経験値が入らない。
大井田君が僕に言った。
「『ステータスオープン』って何だよ。ふざけてんのか?」
「ちょっと大井田君のステータスを確認したんだけどね。けっこう普通だね」
「あ゛? なに言ってんの? 馬鹿なの? ステータス確認? ああ、そういえば英知は中二病だったっけ。病気じゃしょうがねえなあ。悪かった。病気がうつると困るから近くではやるなよ」
僕は無言で自分の席に戻った。しばらく様子を見ることにしたのだ。それに次の授業が間もなく始まる。先生が教室に入ってきた。数学の時間である。
さて、普通に学校生活を送っているが、僕は他の人に比べてステータスが高い。だからスポーツも学校の成績も他の人に比べて有利である。
だからと言って、全く勉強しなくても良いというほどではない。だから、学校で一番というほどでもない。勉強してないからな。
授業を受けて覚えたものだけで、テストを受けている。試験勉強とかしたことない。やったほうがよいとわかっていても、まだ間に合うと思っている。
ちなみに今僕には好きな女子がいる。
橘香織さんだ。彼女と話す機会があり、ちょっとだけ話をした。彼女たちが放課後教室で中間テストの勉強会をしていて、彼女たちがわからない問題を僕が説明してあげたのだ。
「それなら僕わかるけど説明しようか?」
「ええ?」
彼女たちは一緒に勉強している人たちに確認するようにしてから橘さんが僕に言った。
「そうね。じゃあ、聞いちゃおうかな。教えて。」
それから、僕が説明すると、彼女たちは説明がわかりやすいと喜んでくれた。僕でよかったらいつでも聞いてねと言って、それから僕は家に帰った。
それから・・・。それっきりだ。その後、彼女が僕に勉強を教えてと言ってきたことは一度もない。
非常に残念だ。それどころか、教室で勉強会をするのもやめてしまったようだ。期末テストの時も教室で勉強する人はいなかった。でも、あの時の橘さん可愛かったな。染めていないのに茶色の髪。ストレートでロングヘア。整った顔立ちなのにかわいらしさのある顔だ。
また、話す機会があったらいいんだけど。ちょっと避けられている気もする。でも、僕が中学に入ってから話をした女子なんて彼女だけなんだよな。それで意識しているうちに好きになってしまったというわけだ。
だがしかし、他の女子に告白なんかされた日には、もうその子と付き合うと思う。
だってぼっちだから。結局、僕の好きというのはその程度なのだ。そういえば、昔、僕は助けた女の子からお嫁さんに立候補しますと言われた事があった。可愛い子だったが、もう何年も会ってないし相手の女の子も僕の事なんて忘れてるだろうな。それにあの子の名前すら覚えてない。
親の引越しで、遠くに行ってしまったんだよな。あれから手紙とか電話のやりとりすらしていない。まあ、昔のことだし……。
さて、どうして僕の家族が魔法を使えるのか。
それは、僕の先祖が異世界で魔法を使えるように修行してきたから……らしい。異世界が本当にあるのかどうか、僕には全くわからないけど、先祖代々魔法が使えるのだからきっとそうなんじゃないかな。
僕の両親や祖父も魔法使いだ。でも、僕と違い人前で魔法を使うことはなかった。だからLVもそんなに高くないし、ステータスもそれなりだ。
でも、僕はせっかくある力を無駄にしたくない。だから、カンストを目指して経験値を稼いでいる。そのためには、人前でも堂々と魔法を使う。たとえ中二病と言われてもだ。幸いまだ中学一年だから、中二病と言われても問題ないはずだ。
先生が教科書通りの説明をしている。この授業なら教科書をそのまま理解すれば問題ないので授業を受けるまでもない。僕はこの授業の時間を加奈子さんを助けるための作戦タイムとして使うことにした。