6、それぞれの事情
前半⇒恭珠目線
中半⇒?目線
後半⇒キュラス目線
うん、結果から言おう…
全 然 ダ メ だ っ た !!
それも、三人が苦笑して私を気遣うレベルで!!
「こ、これから練習すれば...何とかなるよ!だよね?リザイナ!」
「う、うん...これから何とかなるって.....ね、キュラス」
「ま、威力があるからコントロールがうまくなれば、何とかなるんじゃない....たぶんだけど」
三人はこう言ってくれているけど…どうかなぁ~。というかこれできるって言ってくれてるの?ちなみにシャルさんとリザイナさんがこんな感じなのは気を遣ってくれてるのもあるけどさっき色々あった。
キュラスさんって本気で怒ると怖いよ…たぶん
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「よし、じゃあ最初にこんな感じで炎を出してみて」
キュラスさんが左手に炎を出す。
「え!?キュラスさんって炎も使えるんですか?確か、属性は闇と風って言ってませんでした?」
「あー、それは…賢者だからって理由かな」
「賢者だから?」
さすがに理解できない。え、賢者になると全知全能になれるとか?そんなわけないよねー…
「キュラス…それじゃさすがに言葉が足りなすぎる」
リザイナさんはちょっと呆れている。
「通常は自分の属性しか使えないんだけど、私たちが持ってる賢者の印であるペンダントを使うと一応全属性使える」
「一応っていうのは…」
「使えなくはないんだけど、反対属性は使いづらい。私は地の賢者だから水とか氷は使いづらい。無駄に魔力を消費する」
「他の属性使う時ってペンダントに魔力通して使うんだよね。自分の属性なら強化してくれるけど、他の属性だと少し余計に魔力使うし、反対属性だともっと余計に使う。だからあんまりやりたくないんだよね」
そっか…そう考えるとキュラスさんが炎属性を使うのが一番効率がいいわけか。シャルさんは氷と水だから絶対ダメだし、リザイナさんも地と樹だから結構ダメ。うわー、大変だー。じゃあ皆さんのためにも早くやらないと。
私も真似して炎をだす。....やったうまくできた!
「うん、いいんじゃない?んじゃこんな感じで何かの形をつくれる?」
キュラスさんは左手の炎を大きくすると炎の鳥を形作る。それはまるで生きているようにキュラスさんの周りを飛びまわる。自分の属性じゃないのによくこんなに使えるなー…っていうか、絶対それ難しいじゃん。コントロール力必須のやつだって…。まあ、やれって言われてるし手本まで見せてくれるし、しょうがない…
三人とも私の様子を見ながらアドバイスしてくれる。私も頑張って動かすけどなかなか形にならない。途中でキュラスさんが何かに気づいたようで「ちょっとごめん」と断って炎の鳥を消し遠くに離れていった。その間もなんとか炎で形を作れるように試行錯誤する。
キュラスさんみたいな鳥を作ってみたい。カッコイイし!
教えて貰いながらやるとコツが掴めてきて鳥の形が作れるようになった。動かそうとするとなかなか上手くいかない。どこか引っかかっているような感覚があったのでちょっとずつ魔力を増やしてみる。
「だ、大丈夫?恭珠もっと鳥小さくできない?」
「ちょっとやばいかもね」
シャルさんとリザイナさんが心配そうに言う。さすがに私も怖くなってきたので魔力を減らそうとするけど…あれ?待って待ってコントロールが、上手くいかない?あれ?どうしよう…。
「む、無理です。なんかコントロールが…あっ!」
私の気が一瞬それた瞬間、炎の鳥はキュラスさん目掛けて飛んで行ってしまった。
「キュラスさ~ん!」
慌てて声をかけるけど、運悪く何かに話しかけているようで気づかない。キュラスさん一人で何もいないところに話してる..え、ちょっと怖い。壊れた?やばい、そんなこと考えてる場合じゃなかった!
「キュラスさーん!よけてー!」
私の叫びもむなしくキュラスさんは炎に巻き込まれた。
キュラスさん大丈夫だろうか…結構本気で心配している私のそばで二人は笑いを必死にこらえている。ん?....嘘でしょ?キュラスさんが炎に巻きこまれたんだよ?笑う要素ある?
なんの音沙汰もないキュラスさんが余計に心配になり、笑っている二人に助けてもらう事にする。なんで笑ってるんだか…
しかし私が声をかける前にぱっと炎が消え、所々がすすが着いているキュラスさんが歩いてきた。それを見ると今度は二人が爆笑し始める。キュラスさん、燃えた!?いやでもすすだからよけてる?
驚きを通り越して唖然とする私をよそに平然とキュラスさんはすすを払う。しっかり着いていそうだがすぐにすすが取れていく。一切焦げてないじゃん。どういうこと?あの上着、実は特殊な造り?
「びっくりした。あ~あ、ところどころ燃えちゃってたし。でも焦げてはないね」
「ごめんなさい、私が上手く出来なかったからこんなことに。ケガしませんでしたか?」
「いや大丈夫。まぁ、驚いたけど…ところで、何でこんなに笑ってるの?」
「なんか、キュラスさんが炎に巻き込まれたところを見て笑い始めて....出てきたらこんな感じになりました。」
いつもより低いトーンで「そう」といったキュラスさんはにこっと笑った。うわ…やばい、目が笑ってない…コワイ……
「シャルロッテ、リザイナ、なぜ魔法を使わなかったの?私が報告を受けているのわかってたよね?」
するとさっきまで笑っていた二人の表情がひきつる。そりゃそうだ。だって怖いもん!本気で怒ってるわけじゃなさそうだけど怖いものは怖い。
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こんなことがあってから訓練して、最初に戻る。時間の関係もあったし色々試した。まあ、今日やってみてよかったかも…
「まぁ、こんなもんね。あとは今後次第で何とかなるでしょ。あ、そうだ。二人とも今日の夜に私の執務室にくる事。いいね?」
「「は、はい」」
ん?もしかしてキュラスさんさっきのやつ根に持ってる?だとしたらこの呼び出しは死刑宣告だ。正直私はかわいそうと思ったけどまあ自業自得って言っちゃえばそれまでだし…。ご武運をお祈りしてます。多分これ今使うべき言葉だよね?
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恭珠達がいなくなったあとの闘技場に黒装束の五人の姿があった。
「いや~あれが賢者候補か~。にしても…下手すぎね?」
「う~ん、まあねえ…」
「ディオとアルが言いたいこともわかるけど…あの三人が言ってたからそうなんじゃない?」
「いやいや、あれでしょ!ミラが人を間違えたんじゃない?」
一人が揶揄うように言うと言われた本人はすぐに心外だと言い返す。
「は!?僕は間違えてないよ!聞いた通りの容姿の子だったもん!」
「いやー、そんなこと言ってるけど。どうだか?」
また揶揄うと直ぐに言い返す。じゃれ合うように口論をしていると辺りを探っていた一人が戻ってきて仲裁に入る。
「まぁまぁ落ち着きなよ。グローリアもそんなに揶揄わないで」
「ちなみにルカはどう思ってんの?」
仲裁をしたルカと呼ばれる一人にアルと呼ばれた一人が問いかける。
「俺は…コントロールはまだまだだけど....たぶんその子だと思うよ」
「それはなんで?」
「あっちに魔法陣の仕掛けがあったから。見に行こう」
魔法陣の仕掛けという単語に全員が反応し、案内に従って見に行く。ルカと呼ばれた一人が示した先には言った通り小さな魔法陣があった。
「たぶん、これシャルロッテが書いたやつだよ。伝言用か。ちょっと待ってねー。えーとこれがこうだからここに魔力を…」
リアと呼ばれた一人が真っ先に近づいて魔法陣を読み解く。その様子を見守りながらミラと呼ばれた一人とルカと呼ばれた一人が小さく相談をする。
「もう一回こっちのことも報告する?」
「そうだね。ちょっと雲行きが怪しくなってきたし」
「念のため魔法陣にしよっか」
「それいいかも」
「じゃあ、これはこうして…」
「おーい、もういいよー」
相談に夢中になって居る二人は気付かない。しょうがないとばかりに魔法陣を読み解いていたリアと呼ばれた一人が軽い電撃を地面に撃つ。
さすがにそれには気づいたようで二人は文句を言う。
「リア、危ない」
「急にびっくりするじゃん」
「気づかなかったからやったの。できたよ」
指をさされながら言われ、自分たちに非があることに気づいた二人は素直に謝る。
改めて全員がそちらを向くとリアと呼ばれた一人が魔力を込める。魔法陣が広がり、文字が浮かび上がる。それに合わせてシャルロッテ、リザイナ、キュラスの声が流れ出す。
「お久しぶりです皆様。今日ご覧になったあの子が賢者候補です」
「やっぱりそうじゃん!」
先程揶揄われたことが気にかかっていたのか、ミラと呼ばれた一人が訴える。
「ミラ、静かに」
しかしすぐにアルと呼ばれた一人に注意されてしまった。申し訳ないとばかりにシュンとなる。
「疑ったかもしれませんがあの子で間違いありませんよ。名前は火丸恭珠です。その子は....」
三人が代わる代わる報告する内容は国家機密と言っていいほど重要な事だ。五人全員が聞き漏らさないように集中する。
「こちらからは以上です。また、よろしくお願いします」
その言葉で報告が終わる。それと同時に気の抜けた五人は考えこんだ。
「色々立て込んでるね…」
「そうだな。面倒だ…」
「悪いことが起きなきゃいいけどさ」
「嫌な予感って当たるもんだよ」
「縁起でもないこと言わないでよ…」
五人はため息をついた。
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城に戻り恭珠と別れた後シャルとリザイナがいるであろう執務室へ向かう。そこには正座した二人がいた。どういうことなの?
「何してんの…」
「「今日のことを反省しています」」
二人が潔く宣言する。なんのことか一瞬わからなかったけど、すぐに思い出す。
「いや、別に怒ってないからいいよ。私の話は別の事。いいから座って」
二人は顔を見合わせると頷いて直ぐにソファーに座り直した。
「先輩たちからの報告の中に気になるものがあった」
「どんなこと?」
リザイナもシャルも真剣な表情だ。まあ、この情報は機密事項だしね。
「この国のことに対しての情報量が多くなってるらしい。それも最近急に」
「スパイが増えたのかもね」
シャルの表情が険しくなる。
「それに皇帝がこのところ、やたらとこの国の情報を欲しがるらしいの」
「「まさか?」」
二人に頷き返す。察しのいい二人にはこれだけで十分だ。
「そうではないことを祈りたいけど…準備をしないといけないかも」
「それも秘密裏に、か」
「スパイも見つけ出さないとね」
「久しぶりに『仕事』、しないとかもね」
私たちは笑みを交わす。
「じゃ、そろそろ帰るわ」
「そうだね、私もそろそろ行かないと」
リザイナとシャルがそう言うので私も一緒に立ち上がる。
「この話は他言無用で」
「部屋にいるときも細心の注意を払わないと」
「もし、いたらどうしたらいい?」
シャルの問いに少し考える。
「ん~…とりあえず『闇の間』へ。そしたら私たちにも知らせて」
「了解」
確認が終わると二人は部屋を出た。それを見送った後、窓辺に行き月を見上げる。雲がないので綺麗に見える。
「他国に賢者にスパイ捜索か…久しぶりに忙しくなりそう」
?の五人ついに登場
いったいどんな人なんでしょう?
あ、あと賢者の正式名称を変更しました