5、魔法属性
「キュラスさんはいつぐらいに迎えに来るって言ってたんですか?」
「んっとね~朝食を食べ終わった頃って言ってたよ」
フィナさんがパンを食べながら答える。
「緊張します…」
「大丈夫。私たちも最初は緊張したから」
今日、私は賢者の三人に魔法の属性を調べてもらうことになった。
それが伝えられたのは、昨日部屋に帰ってすぐの事で…自分たちが賢者だ、と明かされた後だったのでその事で頭がいっぱいだった。だから正直私も事態が飲み込めてない。大体そんなことに時間使って大丈夫なのかな。
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夜、案内された先の部屋に行くとナイラさんとフィナさんが待っていた。
「「おかえり~」」
送り出した時と何も変わらず暖かく迎えてくれた二人に私はさっき皆さんが賢者だ、と聞いたことを打ち明ける。
「リザイナさんたちから聞きました。お二人はダイヤモンドとローズクオーツの賢者なんですね。今まで知らなくて、こんなことになってすみません」
多分私がキュラスさん達に教えられたことを知っていたのだと思う。二人は特に驚きもせず頷いた。
「うん、そうだよ。ちゃんと自己紹介すると、私の賢者名はナイラ・ダイヤモンド。呼び方は今まで通りで」
「先輩に聞いたんだね...私の賢者名はフィナ・ローズクオーツ。私も呼び方は今まで通りでいいよ」
結果的に自分のことを隠していたことになるからと二人は申し訳なさそうにしていた。私は特に気にしていないし、そもそも私が知らなかったことが原因だから何も悪くないはずなんだけど…
そんな空気を変えるためにも、思い切って二人に気になっていたことを聞く。
「あのー...ずっと気になってたんですけど、お二人は何の獣人なんですか?」
「「ふふ、私たちはね~」」
二人はにこにこしながら顔を見合わせるとシュッと一瞬で動物の姿になった。現れたのは真っ白で目だけが赤いウサギと薄ピンクのペンギン。
「私はウサギだよ」
「私はペンギン」
順番にナイラさんとフィナさんだ。色はそのままなので完全に動物になられても見分けるのには困らない。というか私、本物のペンギンって初めて見たかも。翼をパタパタさせる姿はとてもかわいらしい
「恭珠ちゃんは~?」
二人が動物の姿になってくれたので私もそれに合わせてポメラニアンの姿になる。一気に視点が低くなるから違和感しかない。
「見ての通りポメラニアンです!」
ふふんと胸をはる私に二人は可愛いと言ってくれた。まあ、本当は狼がいいけど…そう言われるのも悪くない。ポメラニアンの姿で満更でもなさそうな顔をする私は周りにどう見えたか分からないけど…犬だし気づかれてないかもしれない。
そのまま動物の姿を詳しく見せてもらったあと元の人型に戻る。やっぱりこれが一番楽。
「それにしても、リザイナさん達の動物の姿も見てみたかったです。耳とか尻尾付きの獣人スタイルにはなってくれたんですけどね。ちょっと残念です」
「あぁ、シャル先輩とリザイナ先輩はいいけど…」
「キュラス先輩はね~。竜ってすごく大きいから城の中だといろいろ壊しちゃうんだよね~」
それ聞いて納得する。確かに姿を見せるためだけに竜になって、城を壊しちゃったらシャレにならない。さすがに申し訳なさすぎるし私も到底弁償なんか出来ない。
それにしても、シャルロッテさんたちを先輩呼びしてるところを見るとみんな仲がいいんだなー。私もそんなふうに呼んでみたい。まあ、無理だけど。
「あ、そういえば恭珠に先輩たちから伝言来てたんだけど、なんか聞いてる?」
何のことかわからなかったので首を振る。
「何も聞いてないですけど…私にですか」
「明日、恭珠の魔力の属性をみるらしいよ『朝、迎えに行くから準備しておいてね』だってさ」
「ええーーー!!」
さすがに急すぎたので本日二回目の叫び声を上げてしまった。でも、もう尻尾と耳は出していない。私も学習するんだよ!というか、そんなに大事なことを…伝言って。
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そんなことが昨日あった。まあ今になってみれば、途中で会議に呼ばれて行ったしタイミングがなかったのかな、なんて思っている。私自身緊張してるのは事実だけど結構楽しみだし。
談笑しているとノックが聞こえた。返事をすると扉が開きシャルロッテさんが入ってきた。
「おはよーう!ほんとはキュラスが来る予定だったんだけど…なんか急用ができたみたいだからで私が代わりに来たよ!」
「そうなんですね」
にしてもシャルロッテさん朝から元気だなー。朝に強いのかな?
「ラス先輩の急用って騎士団ですか?」
「そ、なんか呼ばれたらしい。…恭珠めっちゃ興味あるって顔してるね。あとで連れてってあげるから」
気になっていた騎士団を見に行けるので、私は心の中で大喜びする。昨日剣を持っていたからそうだろうと思っていたけど、やっぱりか…かっこいいな。
何故かシャルロッテさんは苦笑いをしていた。もしかして心の声が漏れてた?
シャルロッテさんはナイラさんとフィナさんに何か話したあと私に手招きをする。話していた内容は気になったけど、大人しくそばに行く。
「これから行くとこはちょっと離れたところにあるんだ。キュラスは竜だから飛んでいけたけど、私は無理だし魔法陣で移動するよ」
魔法陣!その言葉に目を輝かせるとシャルロッテさんはくすくす笑いながら紙を取り出す。そして紙を口元に近づけて小さく何かを唱えた。すると足元に魔法陣が表れ光を放つ。その光が眩しかったので私は思わず目を閉じる。
「もういいよ」
シャルロッテさんの声に目を開くと、もうそこは城ではなかった。どうやらシャルロッテさんが言った通りどこか別の場所に来たようだ。もう全部が急すぎて驚いてる暇がない。
私は事態が理解出来ず、辺りを見回す。あの一瞬で着いたのか…魔法陣恐るべし。それにしても…これはなんだ?
「もう来たんだ。キュラスはまだ来てないよ」
後ろで声がしたので驚いて振り向くと、リザイナさんがいた。
「まだ来てないの?でもそろそろ来るでしょ。リザイナ結界ってもう張った?あと中大丈夫だった?」
「結界の用意はできてる。中も問題なく使える。あとはキュラスが来れば…あ、噂をすれば。来たみたい」
リザイナさんが指さしたほうを見ると一匹の大きな紫の竜が飛んでいた。だんだんとこちらに近づいてくる。あの姿を見ると昨日のフィナさんの言ってることが理解出来た。確かにこれは城が壊れちゃう。
私たちの近くへ来ると竜はいつものキュラスさんの姿になった。昨日と同じく剣を携えている。今日は昨日と違ってポニーテールだ。騎士団の用事があったからかな?
「ごめん、遅くなったね」
「別にそんなに待ってないから大丈夫だよ。準備はもうできてるって」
「さすがリザイナ。シャルも迎えに行ってくれてありがと」
「ふふ、別にいいよ。それと…恭珠」
それまで何となく会話を聞いていたけど、シャルロッテさんがいきなり私の方を向いたから驚いてちょっと身構えてしまった。
「私のことは好きに呼んで?あんまり地位とか身分とか気にしなくていいよ?」
なんでバレたんだろう?確かに、仲良さそうに呼んでるのはいいなーって、羨ましいなーって思ってたけど…
「え、で、でも…」
何となく私が呼んでいいものか分からなくて口ごもってしまう。いや、呼びたい、けどさー…
「別にいいんじゃない?みんな呼んでるし」
キュラスさんが別になんでもない事だとばかりに言う。まあ、本人たちにとって見ればなんでもない事だよね。私はただの一般人だから萎縮しちゃうんだよね。
「でしょー。自己紹介の時も言ったけどほんとにシャルでいいよ?畏れ多い…?とか思われて遠くに感じられるのあんまり好きじゃないし。恭珠が呼びたいならなおさら、ね」
「ということらしいよ。私はこのまま呼ばれてるね。キュラスは…ラスだっけ?」
「約一名しか呼んでないけどね。別になんでもいいよ」
私はなんだか嬉しくなる。呼び方が変わるだけなのにちょっと近くなれた気がした。あと、約一名って多分ナイラさんだ。さっき呼んでたもん。
「じゃあ、これからはそう呼びますね」
三人、特にシャルさんが嬉しそうに頷いた。
「さて…遅れてきた私が言うのもなんだけど早速中に入ろう。いつまでもここにいたら始まらないしね」
そうだねーと呑気にシャルさんが呑気に返事をする。この建物だいぶ大きいよね。闘技場、とか?キョロキョロと周りを見ている私にキュラスさんが苦笑しながら説明してくれる。
「ここは闘技場。年に一回この闘技場で闘技大会が開催されるんだら。この国はもちろん、他国からも力試しに来る人も多い。最後まで勝ち進んで優勝を勝ち取った猛者は国王にひとつ願い事ができるんだ。もちろん、実現可能な願い事だけだけどね。その願い事だけじゃなく、勝ち進めば賞金とかも貰えるからそれ目当てに参加する人は多いよ」
「皆さんは参加されないんですか?」
純粋に気になったのでキュラスさんに聞いてみる。するとキュラスさんは首を振る。
「私たちはさすがに出ないよ。騎士とか魔法師団員は出る人もいるけど…団長レベルは聞いたことないなー…まあ制限はないから出ようと思えば出られる」
でも特に出ようとは思わない、とキュラスさんは笑う。まあ、優勝できそうだけど確かに賢者が堂々とでてたら確実に話題にはなる。でもちょっと不満とかが多そうだからなー。
「賢者はどっちかと言うと優勝者の願いを叶える側」
「ああー…そういう事ですか」
きっと大変なのだろうと思わず苦笑が漏れる。
「わざわざここに来た理由は、ここの中なら相当のことがない限り周りに影響を及ぼさないし安全だから。ましてや私達もいるから、大丈夫でしょっていうね」
私の知らないところで色々考えてくれたことが嬉しいけど少し申し訳なくもなる。だけど、ここで謝るよりはお礼を言うべきだと思い、頭を下げる。
「あの、そこまでしていただいてありがとうございます」
「気にしないでいいよ。私たちで面倒見るって決めたからこのぐらいは当然」
何も気負うことは無いとはっきり言い切ってくれるキュラスさんのおかげで少し気持ちが軽くなる。
それと同時にもう一度はっきりお礼をしようと決めた。ここまでされてるんだから何かしないと私がいたたまれない。
進んでいった先にあったのは壁で囲まれたフィールドだった。その上に観客席がある。どの方向からもよく見える造りになっていて今は人がいないけど、満員になったらさぞ盛り上がりそうだ。私もここで闘技大会みたいなー。誰もいないそのフィールドの真ん中でキュラスさんが水晶のようなものを取り出して台の上に置いた。
あれはなんだ?そんな私の心の声にシャルさんが答えてくれる。
「これは簡単に言えば魔力測定器だね。自分に何の属性があるのかと魔力量を調べる。あの水晶に触れたとき何の色が表れるかと光の強さでわかるの」
キュラスさんの水晶の準備が整い離れていったところでリザイナさんが私を促す。
「恭珠、あの宝石に触れてみて。色と光の強さで判断するからちゃんと見ておいてね」
頷いてから恐る恐る触れてみると水晶の中でいろんな色が渦巻いた。一通り色が渦巻くと水晶が赤と白に光り始める。その光はとても強くて中心にいる私にとってはとてつもなく眩しい。
光の色や強さもわかったし、これ以上触れているとなんだか危ない気がしたので私は手を離す。すると直ぐにその光は水晶に吸い込まれていき、元の闘技場の景色が戻った。
私は直ぐに、離れた位置にいた三人のもとへ行く。私にはあの光と色が何を示すか分からなかったので早く結果を知りたかったのもあるし、なんだか一人で立ってて心細かった。
「炎と光だね、この二つが恭珠の属性だよ」
知りたかったことは直ぐにシャルさんが教えてくれた。炎と光…二属性か。
「属性が分かったことだし、どのくらい魔法が使えるか試してみる?」
キュラスさんが笑いながら私に言う。正直自信皆無なんだけどなー…あと、なんかキュラスさん楽しんでない?
少しの期待…やらない流れにしてくれるんじゃないかという思いを込めた視線をシャルさんとリザイナさんに向けたけどその期待はあっさり裏切られる。
「いいんじゃない。ここなら安全だし」
「そうだね。早いうちにやって知った方がいいよ」
シャルさんもリザイナさんも乗り気だ。これはもうどうしようもない…。不安しか無かったけど三人が乗り気な以上ここはやるしかない。やりたくないけど…
私は渋々頷いた。