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賢者と魔法が下手なポメラニアン  作者: 霧丈來逗
3章 帝国との戦争
56/62

49、シナリオと根回しと



 突然ですが賢者と魔法が下手なポメラニアンのサイドストーリー、小話集を始めました。

 もし興味があれば読んでいただけると嬉しいです。


 そして、今まで本編にあげていたSSなどをそちらに移したいと思います。SSはストーリーはほぼ同じにするつもりですが少し変えるつもりです。


 本編に直接の影響はないのでこちらはこちらでお楽しいただければと思います。




 長々と失礼しました。本編をどうぞ。











 闇竜の国から帰ってきてしばらく後、クレナと恭珠はこれまでと変わらず学園に通っている。帰ってきてすぐのときは発表することが多くなんやかんや忙しかった。発表の内容は国民に向けて国王から闇竜の国との友好を結ぶこと、改めてクレナが王族として学園に入学すること、大きく分けてその二つだ。



 クレナはただ挨拶するだけだと言っていたが、さすがに王族という立場上そういうわけにもいかず任命された闇竜の国の大使とともに歓迎の催しに参加することになる。賢者たちも共にその場にいたようでだいぶ忙しく動き回っており、さすがに大変そうで恭珠も励ますような視線を向けていた。





 セレモニーなどもやるとなるとさすがに一週間では片が付かず、クレナは少し遅れて学園に戻ってきた。ちなみにそれはセレモニーが行われた翌日のことだ。本人曰く、「最近堅苦しいのばっかりでさー、早く学園に来れるように賢者の皆様に手伝ってもらった」そうだ。賢者たちもそのあたりは分かっていたようで、なるべくセレモニーを早くできるように根回しをしてくれたようだった。




 国民に対してのセレモニーでは国王とともにクレナも王女らしくドレスを着て表舞台に立っており、後ろには装飾のついたローブを着ている賢者たちも並んでいる。恭珠自身は参加せず、下でその様子を見ていたのだが目ざとく見つけた賢者達とは目が合いニヤッと笑っていた。それに恭珠は呆れていたのだが…






 まあ、なんやかんやで忙しいがおめでたい事だったため国全体は明るい雰囲気で、皆なんだかんだ楽しんでいた。

 しかし、その幸せも長くは続かない。不穏な動きがあった帝国から正式に宣戦布告が言い渡されたのだ。内容を要約すると

『望んで属国になるか、領土を無理やり奪い取られるか、どちらがいい?』というもの。

 まあ、内容的には一般的なものなのだろう。帝国という名を持つほどの大国なため、当然のように上から目線なのだが…



 それ以上にその宣戦布告状とともに送られてきたものがおかしかった。共に送られてきたものは帝国に潜入させていたスパイの遺体。拷問を受けた末に惨殺されたようで無残な姿だった。

 その遺体を確認したのはキュラスとシャルロッテだったがさすがの二人もそれを見て顔をしかめていた。その様子を見ていた騎士によると恐ろしく冷たい表情をしていたらしい。そのスパイは家族のもとに送られ丁重に葬られたそうだ。そのうえ、キュラスとシャルロッテが直々に赴き、遺品や職務手当を届けた。

 遺族はそれにいたく恐縮していた。







 今までのことはそのくらいにして、現在は戦争に関する会議が行われている。

 出席者は国王、王太子、賢者、宰相、各方面の大臣、騎士団長、副団長、将軍、この国の主要な貴族の当主たちだ。後ろには文官や隊長格の騎士などもいるため相当な人数が集まっている。その中には恭珠もいる。当然事情を知らない貴族たちはこの場にいることに反発していたが、『光の賢者候補』という名前を出して黙らせた。



 しかし、会議とは言うものの現在は大いにあれている。






「帝国からの宣戦布告ですぞ!何とか避ける方法はないのですか?」


「それがあったら苦労していない。確かに帝国は強大ではあるが、戦力としてはわが国もそれに並ぶような力は持っているだろう」


「しかし、被害は甚大ではない。資金や兵士の問題もある。それに戦場になるのは帝国と近い側の領地でしょう?そうやすやすと受け入れられるものではない」





 貴族たちの言葉はそれぞれで、なかなかまとまらない。保身のために言っている者、国や領地を考えていっている者それぞれではある。

 しかし国でトップの地位を持つ三公爵はバカではない。それぞれの分野から意見を言う。





 そんな中、ある貴族の言葉が響いた。


「この国の戦力は騎士団、魔法師団だけではない。賢者様がいらっしゃる。それで対抗できるのではないか?」




 また言い争いになりそうだった瞬間国王が手を掲げる。それでいったんは皆口を閉じる。



「此度の戦争。余は受けるべきだと思っている。宣戦布告を断ったとしても、どうせ難癖をつけて攻め込む算段だろう。ならば堂々と宣戦布告をしているうちに受ける方が得策だと思うが…お主らはどうだ」



 国王がはっきり受けるべきだと発言した。それにより反対していたものは黙り込み、賛成していたものは得意げな笑みを浮かべる。



「陛下、私は陛下に賛成いたします。慢心はいけませんが、この国の軍事力は()()()に勝るとも劣らないと自負しております」



騎士団長が反応を返す。




「陛下…私は陛下の意見に反対は致しません。ですが、少々不安な面もあるのではないでしょうか?私はあくまで内政の側の人間ですが、今の状態では危ういかと…」



 宰相が苦言を呈す。それに対し貴族たちは難色を示す者、同意するように頷く者、ただ黙って行く末を見ている者、それぞれだった。





「そうだな…確かに今の状態では危うい。国の行く末が危ぶまれるな」



 国王が重々しく口を開く。一斉に国王に視線がいき、皆が言葉の続きを待つ。




「今回の戦争、受けようとは思うが余が出撃を()()()のは騎士団と魔法師団だ」


 その一言で貴族たちに一斉にざわめきが走る。その中で魔法師団長が発言をする。





「陛下、よろしいでしょうか?今回の戦争は賢者様方に出撃をご命じなさらないですか?」


「ああ、そうだ。不服か?」




 国王がはっきりと賢者に()()()()()()()と言ったのだ。それにより多くの貴族に衝撃が走る。



「陛下!なぜです?なぜ賢者様方に出撃をご命じにならないのですか!賢者様方はこの国の戦力の要のはずです!」




 その言葉に恭珠がわずかに顔をしかめる。

 それに気づいたのかはわからないが、隣にいた壮年の男性が立ち上がり声を上げていた青年を強引に席に座らせる。



「陛下、賢者様方…愚息が申し訳ありません。よく言い聞かせておきますのでどうか何卒ご容赦を」



 深々と頭を下げる男性と国王に視線が集まり、一気にその場が静まり返り重い空気が漂う。皆一様に国王の次の言葉を待つ。




「伯爵…よい。この場はお主の顔を立てて不問とする。まあ、私の一存で言えるものではないがな」


「別に…よろしいですよ?気にしておりません」



 国王の視線が向けられた賢者たちの中でリザイナが言葉を発する。賢者たちの様子に特に変化はない。ただ、何も言わず座っているというだけだ。だが、それが余計に貴族たちの恐怖を煽っていた。



「ですが、はっきりさせる必要がありそうですね…」



 リザイナが国王に視線を向け、立ち上がる。国王はただ頷く。それを見てリザイナが不敵な笑みを浮かべる。




「どうやら、なにか勘違いをしている方もいらっしゃるようですね。私たちは賢者…この国の頂点に位置する者です。この国で私たちに()()()()()()()()()()。この意味が分かりますね?」



 にこっと笑うリザイナの迫力に押され貴族たちは押し黙る。



「力関係としては国王と同等であり、この国に縛られている者ではない。この国のために何かをする義理はないのですよ。ここまでしているのはすべて個々人の意思です」


「そう言う事。私たちは別に駒じゃない。ましてや兵器でもない。あんた達に忠誠を押しつけられどうこう指図されるいわれはないの」


「私たちが賢者でいるのはあくまで自らの意思…それで、今の地位を築いた」


「別にやりたくなかったら断っていいし、国に縛られなくていい。国王は私たちにそう言った。その事実は覆らない」



 リザイナに続き、シャルロッテ、ナイラ、フィナがそれぞれ話し出す。

 恭珠も口に出すことはなかったがただ頷いている。



「そういうことです。将軍である私ですら、この国に縛られるいわれはない。騎士団の一員として命じられても賢者として断ることができる。兵器でも何でもない、それをゆめゆめ忘れないように…」




最後に一番この件にかかわっているであろうキュラスが念押しする。さすがにここまではっきりと言われてしまえば駒として使う事などできはしない。これ以上そのようなことを口にすれば今度こそ首が飛ぶだろう。そんなことを考えみな押し黙る。






 そこでなんとなく周りを見ていた恭珠は違和感を覚える。

 賢者たちの言葉に何かしら思うことがあったのであろう人物たちは総じてどこか居心地が悪そうで心なしか顔色も悪い。


 しかし、二人だけ例外というべき人物が目に入った。この空気を作り出した元凶である青年とその父親らしき伯爵だ。青年の方はどこか満足そうな笑みを浮かべており伯爵の方はやれやれとでもいうように呆れた様子だった。








 まさか、これでもわからないのか?と恭珠が眉をしかめたとき、ふいに肩をつつかれた。隣に座っているシャルがにやにやとした笑みを浮かべている。そして小さくキュラスのほうを指さす。その様子を訝しみながらおとなしくキュラスの方に目を向けると目が合い薄く微笑まれる。



 そして皆の方に向き直り口を開く。





「伯爵、先ほどのことは不問だ。()()()これからの活躍、期待している」


「はい、もったいないお言葉にございます。愚息ともども精進させていただきます」


 キュラスの言葉に伯爵は深々と礼を返し子息もそれに倣って深々と頭を下げた。

 



 恭珠はなぜこれを見せたかったのか意味が分からず小さく首をかしげていた。










___________________________________














 会議が終わり退出した後に恭珠はすぐシャルロッテに駆け寄る。


「ねえシャル、あれどういう意味だったの?」


「何のこと?」


「だからー、あの伯爵たちのことだよ。なんで私にあれ見せようとしたの?」



 


 伯爵と聞いたシャルはすぐに何を言いたいのかに気づく。



「あのやり取りのこと?」


「それもあるけど、なんであの人たち満足そうなわけ?ふつう咎められたら居心地悪そうにしたり、反省するような態度を見せるじゃん、少なからずね。まさか、懲りてない?」


 


 また一人で考えこもうとする恭珠にシャルロッテが苦笑いを浮かべる。そして少し考えるとどこかに歩き出す。



「シャル?」


「ちょっとついてきて」



 言われるがままにシャルロッテについていくがなかなか止まらずにどんどんどこかに進んでいく。どこを歩いているかすらわからない恭珠は少し不安になりながらも言われるがままに後をついていく。リーチの差も大きいのでついていくのも大変だ。



「ねぇ、いったいどk…」


 声をかけた瞬間にシャルが立ち止まり手で制される。驚いてシャルを見上げるとシーっと口に指をあてるジェスチャーをして手招きをされる。


 

 その様子を不思議に思いながら廊下の角からそっと顔を出し見てみるとキュラスと先ほどの伯爵と子息が話をしていた。話の内容が気になり、あまりよろしくないとわかりながらもシャルと二人で聞き耳を立てる。




「いえいえ、お気になさらず。確かに必要なことでしたし、お力になれたのでしたら」


「ローレンも嫌な役回りをさせた、すまない」


「いえいえ、あれくらいいいですよ。それに俺は九番隊の一員ですよ?闇将軍閣下(直属の上司)直々の頼みを断るなんてできませんから」



 ローレンと呼ばれた青年はにやにや笑いながらキュラスにこたえる。その様子を見て伯爵がローレンをひとにらみして今度はキュラスに頭を下げる。



「愚息が申し訳ありません。このような様子とは…言い聞かせますので」


「いえ、気にすることはありません。優秀な騎士ですよ、ご子息は」




キュラスは穏やかにそういいローレンに視線を移す。




 褒められているにも関わらずローレンは居心地の悪そうな表情だ。伯爵はキュラスの言葉に恐縮していたが迎えを待たせていると言って去っていった。去り際にはもう一度礼をしていたところを見るに真面目な人物なのだろう。



 伯爵を見送った後、ローレンはキュラスと一言二言話してどこかに立ち去って行った。話が終わったようなので盗み聞きをやめて恭珠は改めてシャルロッテに向き直る。





「それで?頭のいい恭珠なら分かったんじゃない?」


 にこにこしているシャルロッテにため息をつきながら恭珠はため息をつく。




「全部掌の上ってことでしょ?キュラスが()()()を用意してあの流れに持ち込んだ。それでまんまと貴族たちにくぎを刺したわけだ」


「うーん、そうだねご名答。でもちょーっと足りないかな?」



 シャルロッテは指で小さくバツを作る。自分がわかっていないことを考えさせて答え合わせする。その行為だけだが自分がいなかった間の差を見せつけられたようで恭珠は少し悔しかった。でもわからないものはしょうがないと対して気を悪くする様子もなくシャルロッテに答えを求める。




「まあ、この先はサクラを用意した本人に聞いたらいいんじゃない?」


 

 私の後ろに視線を向けたシャルロッテにつられて振り返ると予想通りキュラスがいた。予想通りではあったけど気づかないうちに後ろにいたことと盗み聞きがばれていたことに驚く。キュラスは腕を組んてしょうがないとばかりにため息をつく。




「キュラス、いつからそこにいた?」


「サクラを用意したってあたりから。盗み聞きには最初から気づいてたよ。ちなみに私と話してたローレンも気づいてたみたいだけど私がなだめておいた」


「おお、優秀だね。さすがキュラスの部下だ」




 にやにやしているシャルロッテとは対照的にキュラスは面倒くさそうな表情を浮かべている。それでも付き合いが長いこともありシャルロッテの態度には慣れているのですぐに恭珠の答え合わせを始める。




「さっき言ってたようにサクラを用意したのはホント。だけどそれだけじゃ、あちらにメリットどころかデメリットしかない」


「あの言い方じゃあ賢者をただの軍事兵器と思っているととらえられてもおかしくない。そしてあんな場で息子がそんな発言をしたなんて伯爵の名前に傷がつくってことか」


「今度こそご名答。ここまでくればわかるでしょ?」




 シャルロッテがにこにこしながら続きを促す。



「あちら側のメリットとして『()()()()()()()()()』なんて言葉を言ったんだ。賢者の立場を明確にしたうえでその言葉を言い、伯爵の立場を守り、賢者からの信頼も厚いと周りに示す。それで馬鹿なやつ以外はその件に触れないどころか伯爵の評価が上がるってことだ」


「そういう事。でも別に『()()()()()()』なんて言葉なくても良かった。頭のいい人達だからなくても気づいてた」


「なんで?」


「伯爵は優秀でまじめな人だし子息は騎士団に所属してる。そんな人たちがあんな発言するなんてありえないしその前にさせてない。まあ、もしかしたらを消すために言った言葉もあるから勘違いする人はいない」





 恭珠はそれを聞いて顔をしかめる。この国の内政にかかわっていないような自分がわかるはずないことを言われてしまったからだ。まあでもこの二人が何を言いたいのかはわかる。ずっと言われてきたことだ。




「情報は命、その動きに目を光らせとけってことね」


「おお、よくわかってんじゃん」


「何回言われたかわかんないくらいだから嫌でもわかる」




 恭珠は自分が得意ではない分野のことに肩を落とす。


「情報は大事だけど恭珠は腹の探り合いとか根回しとか頑張ったらいいんじゃない?」


「ねえ、私がそれ苦手だってわかってて言ってるよね?」



 何も言わずにキュラスが微笑む。その様子に恭珠は嫌そうな顔をする。忘れてたけどやっぱこいつ鬼だ。



「キュラスは得意だからいいよねー。シャルも情報収集能力高いしさー」


「だからと言って人のこと鬼とか言わない。誰も今すぐ完璧にやれとは言ってないから。ある程度までできるようになれば十分」


「そのある程度のラインが高いから鬼なんだよ!あっ」




 思わず言ってしまい口をふさぐ。目の前のキュラスは相変わらず微笑んでいた。



「あのねー恭珠。顔に出やすいのは今も昔も変わらないんだから心の声ぐらいわかるよ」





 シャルロッテは呆れたように笑う。キュラスが怒っていないのは分かっていたけどなぜか顔が引きつってしまった。
















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