表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者と魔法が下手なポメラニアン  作者: 霧丈來逗
2章 キュラスの過去
55/62

48、重い知らせ





「直接お会いするのはこれが初めてですね…初めまして、現在まで有効かはわかりませんが光の賢者候補ローゼです。現在まで火丸恭珠と名乗っています」



 緊張していたのだろうがよどみなくすらすらと答えていく。それはやはり記憶を取り戻したが故なのだろう。

 国王と宰相は先ほどとは比にならないほど驚いていた。まあ、行方をくらませていた人物が別人のようになって目の前に現れれば誰であれこうなるだろう。




 国王が手で目元を覆い、その手を口元に滑らせる。宰相も目頭を揉み解している。ナイラとフィナも目を見開いて口元を覆っている。


「それは、本当か?…いや、お主らがいうのだから嘘ではないのだろうが…」


「信じられない…それが今の正直な心境ですね」



 さすがにそうだろう。これで信じてもらえるとは思っていなかったので四人が特にうろたえる事はない。



「あの、ローゼ先輩…なんですか?ほんとに?」


「髪色とか、目の色は同じですけど…姿が変わりすぎてて何とも言えないんですけど…」


 

 さすがのナイラとフィナもすぐには受け入れられず懐疑的な立場を示している。



「そうだよー。ひさしぶりだね、ナイラ、フィナ。姿変わってるのとか含めて信じられないとは思うんだけど信じて欲しいなー」


 恭珠も本気で言っているが、さすがにすぐに信じてもらえるとは思っていないようで困ったような笑みを浮かべて首をかしげている。



「じゃあ、こうしましょう!いくつか質問するのでそれに答えてください!本当にローゼ先輩だったら簡単に答えられるものばかりです。どうです?」


「うん!いいよー、私なら簡単に答えられるんでしょ?じゃあ大丈夫だよ」



 恭珠がナイラの提案に頷くとすぐにキュラス、シャルロッテ、リザイナの三人にじとっとした視線が向けられる。




「先輩たちもいいですよね?あ、間違っても不正したりしないでくださいね?」


「するわけないじゃん。そんなことしたら偽物だって言ってるようなものだもん」


「別に変なことをさせるわけじゃないならいいよ」


「私も別にいいよ。陛下も宰相殿もいいですよね?」



 リザイナが一応の意味を込めて国王と宰相に確認をとる。




「もちろんだ」


「私も意義はありません」



 国王はこの状況を少なからず楽しんでいるようで愉快そうにこちらを見ている。宰相もそれがわかっているのだろう、苦笑いを浮かべている。



「んじゃ!一問目いきますよー!現在の賢者達の個人的な関係は?」


「学園の先輩後輩だね。いやー、あの頃は楽しかった!」


「正解でーす!」


 



 一問目からずいぶんとプライベートにかかわるような質問だったので皆思わず苦笑いを浮かべる。




「じゃあ私から二問目、いいですよね?」


 どうやらフィナも乗り気だったようで積極的に参加してきた。


「もちろんいいよー!何でも来い!」


「ローゼ先輩、シャルロッテ先輩、リザイナ先輩、キュラス先輩の中で一番身長が高いのは誰でしょう?」


「ふっふっふ、それはローゼ!私だよ!」


「正解でーす!それに関してキュラス先輩なにか一言」


「半分遊んでるでしょ?まあいいよ。もうちょっとで勝てるから悔しいとは思ってるけど今はもうそんなに気にしてない」


「身長は私が胸を張って勝ってるって言えるところだから、譲る気はないよ?」



 小さい状態のローゼが胸を張っているのでいまいち説得力がなく、思わず笑ってしまう。



「ほらほら、どんどんやっちゃって!」




 シャルロッテにせかされたのでそこからはテンポよく次々と質問を投げかけていく。

 まあ、一つ一つ懐かしさやエピソードがあったのでなかなか盛り上がってはいた。もう娯楽の一種と言ってもいいくらいには楽しんでいただろう。



「じゃあこれで最後にしましょう!」


「長いよ、まあ楽しかったけど」


「じゃあ行きますよー!月がきれいだった夜に、私たちが寸前でふs「ナイラ」…」





 先ほどとは打って変わって真剣な声音でナイラの言葉を遮る。


「それは、他言しないと誓ったはずだよ?ここには関係者しかいないとはいえ、誓いは誓い…守るものだよ?」




 恭珠の言葉にナイラはにやりと笑う。


「それで正解ですよ。最後はある意味試すための問題です。何があったか知っていても、この誓いを覚えていなければ本物とは認められなかったですけどね」




 ナイラは先ほどとは変わらない笑みを浮かべる。

 その様子に恭珠は思わずため息をつく。これ以上言ってもたぶん意味はない。



「まったく…相変わらずだね?ナイラ」


「はい、この程度じゃ人は変わりませんよ」



 恭珠が本物と認められたせいだろう。先ほどより態度が気楽だ。



「ナイラ…わかってるだろうけど…」


「ええ、確かめるためとはいえこの件を口に出したことは謝罪します」



 キュラスの微笑を浮かべながらの確認にもナイラは動じない。



「私だって自分の命が惜しいですからね?口封じなんてされちゃ敵いませんよ」


「だよねー、私たちだってさすがに知り合いの口を封じるのは嫌だからね」


「そんなこと言って…やる時は容赦ないじゃないですか?」


 ナイラはシャルロッテとキュラスを見る。

 視線を向けられた二人はそれぞれ肩をすくめたり、とぼけるように首を傾げたりするだけだ。それでも、どこか空気が重くなる。その空気を打ち破ったのは意外にもフィナだった。



「はい!その辺でストップです!」


 パンっと手をたたきながらフィナが雰囲気を変えるために明るい声で話し出す。




「晴れて恭珠さんが本物のローゼ先輩だと証明されたじゃないですか!数年ぶりに再会できたことですし、まずはそれを喜びましょうよ。それに、この調子じゃ大事な話も進まないですよね?」


「まあ、そうだな…その辺にしてくれるとやりやすい」



 フィナに国王までが賛成したのでさすがに皆同意するように頷く。




「では続きといこう、恭珠…いや、もうローゼだな。賢者候補は今でもまだ有効だ。ここに戻ってきたということは賢者いなる意思がある…ということでいいのだな?」



 恭珠は神妙な面持ちで頷く。



「では、他の賢者達も意義はないな?」



 連れてきた三人はもちろん、フィナとナイラもすぐに同意する。




「本物のローゼ先輩なら何の問題もございません」


「右に同じです。もともと賢者になるはずの人物なんですから、異論はありません」





 賢者たちの様子を見て国王が頷く。



「宰相…お前も異論はないな?」


「賢者様方が同意されている以上、私も異論はございません」



 その場の全員の意思を確認したところで国王が恭珠に向き直る。



「ローゼだったな…お主を正式に光の賢者として認めよう。しかし、就任式を行っていない以上公には賢者として扱うわけにはいかん」


「ええ、それは承知の上です。すんなり賢者と認められるとは最初から思っていません。戻ってきたとはいえ、周りを納得させるためには必要なこともあるのでしょう」



 違いますか?という意味を込めて恭珠は宰相に視線を向ける。



「ええ、その通りです。残念ながらこのことを快く思わない者もいるでしょう…それだけではなく、少々問題がございまして…就任式はしばらく先になりそうなのです」


「問題…ですか」



 申し訳なさそうに言う宰相の予想していなかった言葉に恭珠は首をかしげる。



「戦争よ」



 キュラスが静かに言う。



「このことに関しては私が話すのが適任でしょう。よろしいですか?」



 国王は無言でうなずく。



「キュラス…戦争っていうのは」


「そのままの意味だよ。最近きな臭い動きをしてる国があってね、たぶん近々戦争が始まる」


「それは信用できる情報筋?」


「もちろん。私が最も信頼を置いてるところの一つからもたらされたの。裏も取ってある。ただ…」


「ただ?」



 歯切れの悪くなったキュラスの言葉の続きが気になって、先を促す。



「…つい最近、その情報筋からの連絡が途切れた。最後の報告が、その国がきな臭い動きをしているってことだった」


「連絡が途切れた?気づかれたか、最悪裏切ったってこと?」




 キュラスが頷く。それを見て恭珠が眉を顰める。



「それは…まずくない?裏切ったとしたら、こっちの情報があっちに筒抜けってことじゃん」


「そうだね…でも、裏切ったって線は薄い」




 今までとは違った歯切れの悪い様子に恭珠はいら立ちが募る。



「どういうこと?何があったの」


「恭珠、ふつう裏切るならその前にきな臭い動きがあるなんて報告はしないし、急に連絡を絶つなんてことはしない」




 今度はキュラスに代わってシャルロッテが話す。




「なんでそんなことが言えるの?」


「それが普通。送り込んだのはプロなの。そんなことはしない。恭珠、落ち着いて考えればわかることでしょ?」


「シャル…私にはその情報筋をかばってるようにしか思えないんだけど、違う?」




 恭珠の鋭い言葉に一瞬シャルロッテがたじろぐ。



「その人がどんな人なのか、私にとっては知らない。けど、国民の命がかかってるんだから最悪の線も考えるのが筋じゃないの?」


「先輩…口をはさむようで申し訳ありませんが…かばっているように感じるのは私も同じです。もっと冷静に物事にあたるべきではないでしょうか。国民を守るためにあるのが賢者ではないでしょうか」



 今まで黙っていたナイラが加勢する。隣にいるフィナも同じ意見なようで真剣なまなざしを向けている。




 それでもキュラスもシャルロッテも口を開く様子はなく黙秘を続けている。リザイナはその様子を黙ってみている。






「キュラスシャルロッテ…そろそろ頃合いだ。どちらにせよ話さなければならなかったのだろう」


「…陛下」


「しかし…」



 キュラスとシャルロッテはまだ渋っている。




「この者たちなら、話しても問題なかろう。国の最高機関だ」



 国王の様子にさすがのキュラスとシャルロッテも折れたようだった。一つため息をついて口を開く。





「これから話すことは最高機密。。陛下とシャル、リザイナ、私の四人だけが知っていること。聞いたからには私たちの作戦に加担してもらうことになる。それでもいい?」


「もちろんだよ。まだ賢者じゃないけどさすがにみんなに任せるわけにはいかない」


「私も賢者です。それならば聞く必要もあるでしょう」


「私たちも協力します」



 賢者と恭珠は間髪入れずに返答する。


「キュラス様。どのようなことを実行するにしても内政にかかわる手段は必要でしょう?協力させていただきます」




 それぞれの意思を聞きさらにキュラスは深いため息をつく。


「キュラス、無理だよ。素直に話すしかない」


「シャル…」


「そうだよ。聞くって言った以上は自己責任。今後に影響が出ても恨むは自分だよ」


「リザイナ…」



 仕方ないとばかりにうなづくとキュラスは重い口を開く。





「……。だから私はこのことを話さなかった。理由がわかったでしょ?影響が未知数でなおかつ大きすぎる」




 さすがに先ほど聞いた話のショックが大きすぎるがゆえに口を開けない。



「私たちも最初にキュラスから聞かされた時は信じられなかったよ。でも、さっき言ってたように最悪の事態が考えられる。このことは絶対に漏れちゃいけない」


「私たちが話した意味は分かるよね?賢者として、この情報を知ったものとしてしかるべき行動をして」




 話は聞いていて頷いているのだがやはり皆顔色が悪い。その様子を見て国王が声をかける。




「…今日はこれで終わりだ。詳しいことが入り次第また伝えよう」




 国王は椅子から立ち上がると部屋を後にする。そして少し遅れて宰相がそのあとを追いかけていった。









 



 その日は皆に懐かしき仲間に会えた喜びと重大な秘密を知った責任。両方がのしかかっていた。さすがにこの日ばかりは仕方なかったのだろう。







 キュラスとシャルは二人でバーに飲みに来ていた。



「話しちゃったね。…良かったの?」


「さあ、わからない…ほんとは最後まで明かしたくはなかったけど」


「それは私も同意見。リザイナも誘ったけど断られちゃったしねー」





 シャルは明るい声音で話すがどうにも表情は晴れない。



「まあ、話しちゃったものは仕方ないよ…でも対峙するのはできるだけ私たちだけにしておきたい」


「そうだね…変に気負わせたくはないもん。私たちがやるべき仕事だよ」





 そこでキュラスはカクテルに口をつける。いつも飲んでいるはずなのに、違った味に思える。



「勝てる見込みは…?」


「弱体化してるとは思うけど…正直きつい」


「全員一気に相手するの?」


「いや…たぶんそれはない。多くて一度に四人」


「別行動ってわけ?」



 キュラスが静かにうなずく。シャルはそれを見て顔をしかめる。



「たぶん別々。最悪途中参戦ってところ…」


「本気出したら?」


「周りの被害が尋常じゃないし、私もきつい」


「そうだよねー。でも、やむを得ない…」




 キュラスが足を組みなおす。シャルは深くため息をつき、冷たい低い声で話し出す。



「皮肉なもんだよね。()()()()()()()()()()


「ほんと…まさか五人の賢者達(先輩たち)と事を荒立てる日が来るとは…」




 シャルはグラスをくるくるとまわしながら話を続ける。



「考えたくはないけど…最悪は…」


「それも視野に入れてる」




 答えるキュラスの声も冷たい。



「本気?被害は大きいけど、そっちのが少ない」


「余計に私たちの出番ってわけね」



 キュラスがグラスの中身を一気にあおる。



「死なないでね。私のライバル(キュラス)


「そっちこそね。ライバルさん(シャルロッテ)
















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ