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賢者と魔法が下手なポメラニアン  作者: 霧丈來逗
2章 キュラスの過去
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45、思い出の店





 アリスことイレーネについていくと普通にありそうな食堂のような場所で足を止めた。


「ここだけど…なんか言いたいことある?」


 三人はやや、不思議そうな顔をしていた。


「いや、別にないんだけど…なんか普通だね」


「不満?」


「ううん、王族?なのにこんな感じの店に来てたの?」


「まあ、色々あってね」



 アリスは何も言わずに中に入る。まだ不思議そうな顔をしていた三人も慌ててついていった。

 店の中はいかにも普通の食堂と言った感じで冒険者だろうか?客もいる。



「いらっしゃいませ~」


「店主はいる?いたら『生意気ないいとこの小娘が来た』って伝えて欲しいんだけど」


「あ~、はい。わかりました」



 店番をしていた若い女性が奥に行ったのを確認してルクことシャルが口を開く。



「ねえ、アリス~。なにその『生意気ないいとこの小娘』って?」


「いや、昔ちょっとね。憶えててくれるといいんだけど、何せしばらくいなかったから」


「いや、それにしてもだよ」


 ローゼこと恭珠が続きを口にしようとしたとき先ほどの女性と強面のおじさんが出てきた。



「う~ん、ホントにお前あの小娘か?色も違ったはずなんだけどな~?」


「私にも立場と言うものがあるの、仕方ないでしょうが。まあ、何年も来なかったのは謝るけどこっちも大変なの。弟から呼び戻されたかと思ったらあっという間に注目の的よ」


「へえ、そりゃ大変だったな。ところで、もう金の使い方は覚えたか?また大金を出されても、おつりは払えねえぜ」


 にやにやしながら言うおじさんにアリスも笑い返す。


「ええ、おかげさまでね。これまでのつけも払いに来たの」



 そこまで言うとおじさんは大声で笑いだす。周りにいた客も驚いてそのおじさんを見ていた。


「でかくなったな、小娘。よし、上の個室に行きな。メニューは任せろ。おい、案内してやってくれ」



 その強面のおじさんはそこまで言うとすぐに奥に戻っていった。


「ええ、どういうこと?説明なし~」



 店番をしていた女性も何も知らないようで奥に戻ったおじさんに少し不満を言っていた。


「ま、仕方ないか。じゃあ、案内しますね」


 女性についていった先には個室があった。そんなに広くなく、また狭くもないいい感じだ。


「では、料理をお持ちするまでおくつろぎください。」





 女性が出て行くと、皆口を開きだす。


「ふ~ん、ここか~。いい感じだね」


「店主さんと知り合いなんだね、アトリス?」


「おや、アリス呼びはやめたの?」




 (((こいつ、わかってて店主のとこスルーしたな?)))


「確かに、私も気になるな~。アトリスって地位高かったじゃん?」


「うん?ルクもやめたの?」


 (((まだ、スルーするか)))


「王族がどうやって来てたのか私も気になるな。教えてくれないか、アトリス」


「なに、ザラも乗ってきたの?」


 (((おい、どこまでスルーすれば気が済むんだ?)))


 仕方ないからにっこり笑って圧をかけてみた…全員で



「なに?そんなに知りたい?別に面白くないからね?」


「うん、いいよ。」


「ただ単に興味があるだけだから」




 ローゼは黙ってうなずく…もちろん笑顔





「はぁ~、仕方ないな~。でも、まあ…」


 コンコン

 ちょうどいいタイミングで扉がノックされる。


「料理食べてからね?」


 言い終わってからは、店主さんが入ってきて料理を並べていく


 私たちはそろって残念そうな、悔しそうな顔をする。



「うん?どうしたんだ小娘。連れがお前に向かって何かぶつけてるが…?」


「気にしなくていいよ。食べてから、説明すればいい話だから」


 少し勝ち誇ったような笑みを浮かべるアリスにみな、視線がきつくなる


「はぁ~、まあいいけどよ。この店で流血沙汰なんて嫌だからな?」


「安心して、その前に店ごと吹き飛ぶし、周りの被害甚大だから」



 なんてことないように言うアリスに店主が半目になる。


「冗談よ。そんなことにはならないし、しないから。分別あるからね?」



 店主は首を振って部屋を出て行った。



「さ、料理が冷めないうちに食べましょ。ここのミートパイはサイコーだよ」



 さらに並べられたのは全部で四種類の料理


 大きなミートパイは湯気を立てていて中身も外からわかるくらいパンパン、魚の蒸し焼きには何かのソースがかけられている。この二つは大皿。

 それぞれの前に野菜がたくさん入っているスープと色とりどり?なサラダが置かれている。 



「たぶん、デザートもあるから。大丈夫だろうけど…」


「うん、気を付ける」


「ねえ、このボトルは?果実酒?」


「みたいだね~。なんかきれい」


 ザラが手に取ったボトルは透き通っている。


「たぶん、そんなに強くないやつだから飲もうか?」


「ローゼは?」


「体これだけど…一応成人してるし、平気でしょ」


 

 そんなこんなで、果実酒をグラスに注ぐ。



「なんか、この四人って久々じゃない?」


「そりゃそうだよ。ローゼはしばらく行方知れずだったんだから」


「そうそう。あれ以来四人では集まれなかったからね~」


「うう…返す言葉もありません」


 三人も本気で言っているわけではなかったのでくすくすと笑う。ローゼも一緒に笑っていた。


「じゃあ、乾杯しようよ。四人で集まれたお祝いに」


「どっかの誰かさんのせいでね。先延ばしになってたから」


「ザラ、そのくらいにしときなさい」


「乾杯ねぇ~。じゃ、ローゼが音頭とってよ」


 ルクがいたずらっぽい笑みを浮かべてローゼに言う。


「え⁉私がやるの~⁉」


「うん、言い出したのはローゼだしね~」


 (ザラとアリスも助けてくれそうにないしな~。ザラは目そらすし、アリスなんてやれって感じの笑み向けてくるもんな~、仕方ない)



「え~、じゃあやるよ?えっと…遅くなったけどまたこうして四人集まれて良かった。これからもよろしくね」


「うん」


「もちろん」


「ああ」


「それじゃ、かんぱ~い」


「「「かんぱ~い」」」


 グラスが当たる軽やかな音が響く。四人は皆笑顔だった。














――――――――――――――――――――



















 料理を食べ終え、皆で紅茶を飲みながら談笑する。そんなときノックが響いた。



 コンコン



「失礼するぜ。」


 入ってきたのはあの強面のおじさん…店主だった。



「あ、店主さん。美味しかったです。ミートパイが特に!」


「ほんとに~。あの肉汁にはびっくりしたよ。それだけじゃなく、魚やスープまですごくおいしかった」


「デザートも口直しになってよかった。ほんと、王城ででてもおかしくない味だったよ」


「ははは、ミートパイはうちの看板商品だからな。デザートはこの小娘に言われたんだよ。」



 予想外の言葉に三人は一斉にアリスの方を向く。


「確かに言いましたけど、子供の頃ですよ?」


 アリスはあまり振り返りたくないようで少し顔をしかめている。口調も敬語だ。



「え~、気になる」


「アリスが言ったんでしょ~?」


「私も興味ある」



 今度は三人からアリスへにやにやした顔が向けられる。



「いや、話しませんよ?そんなこと」



 アリスはそっぽを向くが三人の味方がいた。



「あの時だろ?確かな~小娘が初めて来たときか?」


 店主に待望のまなざしと恨みがましい視線が向けられる。



「急にこいつが店に来たんだ。明らかにいいとこの小娘だと思ったよ。服装とかですぐわかった」


「ああ、あの時は街に来てたんだけど…はぐれちゃって」


 やっとアリスの口調が元に戻った。


「へえ、迷ったの?っていうか、なんでこの店に?」


「いや、何となく」


(おなかすいてていい匂いがしたからなんて、言えないし)



「客足がちょうど途切れた時だったよ。俺しかいなくてな。何だこの小娘は?って思ったよ。でも、俺にはおびえなかったなあ?普通は少しでも怖がるんだが」


「いや、だって、その時宰相の娘よ?お父様に教育は受けてたし、いろんな人にも会ってたからね。見た目はよくても、本当に怖い人もいるからね。見た目ぐらいじゃ動じないよ、あの時は警戒心すごかったけど…」



 その言葉を受けて店主はニヤッと笑う。


「なんだよ、警戒してたのか」


「初対面の人、ていうか心を許せると思うまで警戒心を解くなっていうお父様の教え」


「ほお、そうか」



 満足そうに笑う店主の横で、ルクが首をかしげる。


「ねえ、アリス。マネストさんの事母上って呼んでたよね?」


「ん、ああその事?なんていうかな…」


 アリスは悩むように人差し指で顎をたたきながら上を向く。



「宰相の娘って、なんていうかな…令嬢?って感じなんだよね。まあ、王女がそうじゃないとは言わないけど、養子として王族になった時点でもう、その時とは決別しようと思ったんだよね。お父様って呼び方、明らかにお嬢様じゃない?」


「うん、貴族の令嬢とかってその呼び方だよね」


「でしょ?だからわざと父上、母上って呼んでるの。少しだけだけど、実の両親と、今の両親を一緒にしたくないって気持ちもあるしね~。あ、悪い意味じゃないよ」


「ふ~ん、意外と考えてるんだね。」


「一言よけい」



 アリスは紅茶に口をつける。


「ん?これって…」


「おや、気づいたか?お前さんが気に入ってたろ?」


「うん、よく覚えてたね。懐かしい味だ。」



 アリスは顔をほころばせた。



「さて、じゃあ、生意気ないいとこの小娘に会った時の事から話すか」



 店主はニヤッと笑った。



 

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